とある騎士の姫
空高い場所に、浮遊している大地がありました。散りばめられた氷の欠片に囲まれ、その中で人々は暮らしを営んでいます。
大地の大体中心部には大きなお城と、また取り囲む城下町。
城にいる姫様は、今日も優雅に紅茶を嗜みます。
「私が民を護るのよ!」
そう言って、いずれ姫様は厳しい修行を乗り越え、騎士の団長にもなったのです。
大地にある国からの襲来や、異界からの襲来をも仲間を払いのけ、この物語は後世にも伝えられていったのでした。
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「ほー、これがお前がよく持ち歩いてる「騎士姫物語」なのか! …なるほどね」
若干わざとらしく頷いては騎士姫物語の感想をペラペラ言う。
見た目的には男子高校生だが、警察官の制服を見に纏い、正式な勲章も胸のポケットに忍ばせているようだ。名前を白銀一鉄という。
背中には本物の日本刀。
「うん! 昔から好きなんだーえへへー」
座っているベンチに足を浮かせ、嬉しそうに脚をバタバタさせる緑髪の、低身長の女の子。また釣り合わないように同じく制服をまとう。
高層ビル並びモノレールが行き交う春の季節、車道脇に植えられている何本もの桜の樹が花びらを散らす。
いつも通りの大都市の風景。そう思っていた矢先、太陽が大きな何かに遮られ一帯が影となった。
何かを目を丸くし指さしてぴょんぴょん跳ねる、朝日奈南美は大きな船が飛んでいると、せんべいの食べカスを頬につけたままはしゃぐ。
「飛行船だよ! ねーねー!」
「ああ…魔法科学校があると噂の『アズール』だな。どうせ、俺には無縁だろう」
地上に強風を巻き起こしながら空を切る。またたくまにも過ぎ去り、アズールはビルの背後へ姿を消す。
過ぎ去ったのを確認した一鉄はハンカチで南美の顔にある食べカスを拭きながら「さて昼休みも終わる。一回戻るぞ」と、若干疲れ気味で言った。
警察庁へ戻る道中、一鉄は話題を切り出す。
「なあ南美、騎士姫物語っておとぎばなし、信じてるのか?」
「きっとすごい騎士さんだったんだよー!」
「そっか。いいと思うぞ!」
彼の脳裏には絵本ではない、小説版の「騎士姫物語」の事がこびりついている。著者と知り合いであり、筆談を聴いた故に複雑な心境でもあった。作者曰く小説版の方が正史に近いらしい。
疲れも相まってモヤモヤが晴れないまま、職務の再開時間は狭まっている。