最終話
時に笑い、時に衝突し――やがて、桜が咲く季節となった。月日の流れは恐ろしく速く、カレンダーを捲る役目をしばしば忘れてしまう。
『あれからもう、一年経ったのか』
眼前に在るのは、全ての始まりとなった公園。芽吹いて間もないたんぽぽ、陽の浴びが浅い若葉。制服姿の彼女も伴い、まるで当時に戻ったかのような錯覚さえ起きる。
『……懐かしいな』
目を閉じ回顧していると、傍らの琴音は穏やかな笑みをこぼす。
「ねえヨスガ、ここで暴れてたの覚えてる?」
「心外な。俺はその時、“とんだ出歯亀娘と遭遇してしまった”と頭を抱えていたのだ」
「ひどい!」
時間があるため、園内を歩き始める。そのスピードは感覚で言うと、5分もかからない距離を、30分かけるような遅さだ。
「……色々あったな」
「うん。……ヨスガと出会ってバイトして、猫モにエントリーしたら、藤香と友達になれた。レイちゃんのキーホルダーをくれた時は嬉しかったな」
「代わりに渡したのは、俺の盗撮キーホルダーだったか」
「言い方!!」
ちなみにエマのキーホルダーも製作されており、今や琴音の机は猫で溢れている。どうやらクラスメイトに好評らしく、日々新作を迫られているようだった。
『そういえば、あのかしましい3人もバッグに着けていたな』
学校に行けないだけに、他者との交流が垣間見えるのは喜ばしい。ひとり脳内で脱線していると、琴音は振り返りを先導する。
「そうそう、その後に藤香と遊ぶ約束したんだよね。でも道の途中で、小鳥遊さんにぶつかって気絶して……。ふふっ、あの時はびっくりしたな。まさか漫画みたいなハプニングが起きるなんて思わなかったよ」
「こっちの台詞だ。幸いにも怪我は無かったが、事と次第によっては親を巻き込んでたぞ」
「あははっ、たしかに!」
追想は止まず。道中の自販機で水を買い、茂みの傍のベンチに腰を落とす。しかし水は存外ぬるく、琴音は「入れたばかりなのかな」と笑った。
「それでもその後、一緒に花火大会に行くくらいに仲良くなれた。……そして、ヨスガの家族も何だかんだ全員見つかって」
「ああ。物語で言えば、無事“ハッピーエンド”に出来た訳だ」
すると琴音は、ペットボトルを握り不安げな表情を見せる。
「……ねえ、今ヨスガは幸せ?」
「無論だ。これ以上の幸福は、願えば罰当たりになると思うほどにな」
「えへへ……なら良かった。これでもし「いや、まるで不幸だ」なんて言われたら、ショックで動けなくなるとこだったよ」
「俺はそこまで冷酷ではない」
園内の歩み残しも、あと僅かになっており。どうせならと、最後に思い切って本心を問う。
「……琴音はどうなんだ? 今のお前は幸せか?」
「もちろん。前世のときと同じくらい幸せだよ」
「ふっ……そうか。ならば――これからも宜しく頼むぞ、琴音」
「うん!」
面映さに踵を返し、散歩を再開する。目的地はない。しかし、琴音の父と新たな猫を迎える花を買うため歩を進める。
『あてどないが、無意義な歩みではない。――まるで、人生のようではないか』
琴音に寄り添いながら、分かれ道のどちらを選ぶか話し合う。
俺の第二の人生――もとい、第二の猫生は始まったばかりだ。




