第五十四話
小鳥遊兄弟や妻子が見守る中、俺はさっさと口火を切る。
「では1つ目。何故俺が、自ら不利な勝負を申し込んだか分かるか?」
「勝って、願いを聞いてほしかったからだと思う。琴音の身体や、まだ見つかってない子供のこと。色々解決してほしいんでしょ?」
「ああ、そうだ。……そこまで学習しておきながら、実行を止めなかったんだな」
「うん。振り回されてるヨスガが面白かったから」
一度目を伏せ、深呼吸する。
「……2つ目。何故俺が、小鳥遊兄弟が居る場で問答しているか分かるか?」
「ベット数を増やすためだと思う。あの二人がお人好しなのは、昔から知ってる。きっと貴方も、その性質を利用したんでしょ?」
「ああ、そうだ。……そこまで理解しておきながら、彼らの心を踏みにじったんだな」
「うん。疑うことを知らない二人が面白かったから」
彼らは今、どんな表情をしているのだろうか。その相貌を窺うことは出来ないが、一回の浅い呼吸が想像を容易にさせる。
『……次で決める』
目下注視すべきは、眼前の女神。背後の動きを感取しながら、尻尾を僅かに持ち上げる。
「――では、最後の問いだ。貴様は女神だが、器は人間そのものらしい。だのに何故、貴様を警戒しているか分かるか?」
「前世で私を崇拝してたからだと思う。いくら私に酷いことされても、簡単に私を捨てられない人はたくさん見てきた。だから貴方は、いつ“試練”が飛んでくるか身構えてるんでしょ?」
「……」
「どうしたの? 早く合ってるか教え」
「撃て!!」
スティエラの足もとから伸びた、5本の蔓。ロープと紛うほど隆々としたそれは、彼女の手足と首に絡みつき――瞬く間に任務を遂行した。
「……。これ、どういうつもり?」
「さしずめ、“神への謀反”といったところだ」
「私を騙したの?」
「いや、契約通りだ。最後の問いは不正解だったからな」
不服を露わにするスティエラ。その視線は小鳥遊兄弟に向かったが、彼らは揃って手にした札で目を遮っている。
「……そう。そっちがその気なら」
「!」
スティエラは目蓋を閉じ、ガックリと脱力の姿勢をとる。すると一匹の猫が壺の中から飛び出し、彼女の膝目掛けて跳躍した。
……しかし。
「な――……どうして、力が使えないの?」
スティエラは突如、息を吹き返したかのように目を見開く。恐らく、猫が膝の上で毛づくろいを開始したからだろう。
「意趣返しだ。やられっぱなしでは気分が悪いからな」
「そん、な――。……貴方たち、私に何をしたの!?」
声を荒らげるスティエラ。しかして俺は、神を愚弄した背徳感に満たされていた。
形勢逆転。しかし、油断は禁物。唇を噛む彼女に、淡々と勝負の続きを話す。
「そういえば、先の問いに答えていなかったな。……俺が貴様を警戒していたのは、決して崇拝していたからでも、ましてや試練を待ち望んでいたからでもない」
「……これの発動に影響がないか、危惧していただけということ?」
「そうだ。ちなみに今の貴様には、“神霊封じ”が施されている。その椅子から離れれば解除されるが、少女の肉体では蔓を割くのは難しいだろうな」
「くっ……」
出たとこ勝負である以上、威勢を緩めることは許されない。故に俺は、瞬きも惜しんで彼女の動向を見据える。小鳥遊兄弟も同様のことを考えているのか、衣類の擦れすら聞こえてこない。
『……頼む』
心臓が早鐘を打って煩い。「本当にこれで全てが終わるのか」と責め立てるように、脳を拍動でぐらぐらと揺さぶられる。
『頼む……!』
俺が冷や汗をかいている一方で、スティエラは誰を睨むことなく身をよじり、手首を回し。更には腕に力を込めたりと、独り格闘を繰り広げる。
◇◇◇
――そして、数分が経過した頃。彼女は目蓋を閉じ、小さく笑う。
「……うん、私の負け。依代も使えないし、蔓の破壊も出来ないみたい」
「! ならば――」
「いいよ。貴方の願い、叶えてあげる」
……ついに。ついに俺は今日この場で、神の悪戯に終止符を打った。猫に姿を変えられ、神の力を浴びた状況下にもかかわらず。転生先の人間と手を組み、見事勝どきを上げたのだ。
『っ……!』
湧き上がる喜びを噛みしめていると、レイが背中にのしかかる。
「すごいすごい! パパ、ヒーローみたいニャ!」
「フッ、そんな大それたものではない。それに、真の功労者は小鳥遊兄弟だ」
魔法さながらの存在感を放つ、5本の蔓。その正体は、祖先から受け継がれし“術”。……ということにしておいてくれと、小鳥遊兄は微笑んでいた。




