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転生猫は、第二の生を謳歌したい。  作者: 禄星命


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第四十話

 爽やかな声に振り返ると、微笑む小鳥遊(たかなし)兄がいた。薄手のロングカーディガンを羽織る彼は、レジャーシートを避けるようにしゃがみ込む。


「奇遇ですね。貴女も現場検証ですか?」

「うん。誠さんも?」

「ええ。――あれからずっと、あの日の夜が忘れられなくて」


 事情を知らぬ者が聞けば、「歯の浮くような台詞で少女を口説く不審者がいる」と、思わずスマホを構えてしまうかもしれない。傍観者がいないのが幸いだ。


『とはいえ、今後も現れないとも限らん。……いざという時には、間に割って入るか』


 俺にもあんな青い時があったのだろうか。思い出しがてら諦観の眼差しを向けていると、帽子を被った小鳥遊弟が、慌てた様子で二人の間に飛び込む。


「お、オレもいるぜ! ――ほら見ろ! 今日はスプレーもってきた! これでいつ虫が来てもやっつけられるぜ!」

「おはよう。凛太郎くんも来てくれたんだね。……それ、借りてもいい?」

「お、おう! もちろん!」


 二階堂は膝で立つと、彼の指先に触れながら、スプレー缶を受け取る。黄色いボディで警告を促す、正体不明の物体。興味がそそられ覗き込むと、“虫よけスプレー アウトドアにこれ一本!”と書かれているのが見えた。


「これは……防衛用だな」


 大方取り違えたのだろう。しかし二階堂は缶を数回振り、俺に離れるよう目配せする。


「ありがとう、凛太郎くん。早速みんなで使おう」

「! へへっ……」


 何となしに眺めていると、小鳥遊弟と目が合う。彼はばつが悪そうに顔を伏せるが、その横顔からは多幸感が溢れていた。


◇◇◇


 そうして3人はスプレーを浴び、柳の群生地に飛び込む。当然俺も同行したのだが、本当に――ごくありふれた柳の森だった。先程とは異なり、方向感覚を失うこともなければ、希死念慮に襲われることもない。


『あれは幻覚だったのか?』


 だが、「そうだ」と片付けることを脳が拒否する。琴音の言動及び、彼女を襲った不可解な事件に説明がつかないからだ。悶々としながら石をひっくり返していると、ふと二階堂らの雑談が耳に入る。


「それにしても、少し以外。凛太郎くんが「ここに来たい」って言ったなんて。てっきり、誠さんが提案したのかと思った」

「いや、ちがっ、これは――プールも無くてヒマだったから! 別にアイツが心配だとかじゃないからな!」

「ふふ。たまには素直になってもいいんだよ?」

「だ、だから違うって!」


 意識してもらいたい少年と、それを知ってか知らずか翻弄する少女。さながら平和の象徴のようで、何とも微笑ましい。聞き耳を立てながら手を動かしていると、小鳥遊兄に声をかけられる。


「ヨスガくん。そっちの様子はどうかな?」

「ニャン。ニャニャーア」

「ふふっ――……うん、やっぱり分からないね」

「ニャ?」

「深い理由はないよ。藤香(とうか)さんや新城さんが、君と会話しているように見えてね。だから僕も試してみたかったんだ」


 視線を感じることは度々あったが、案の定推測されていたらしい。しかしどうやらそこに下心はないようで、彼はただ残念そうに肩を落としている。


『だが助かった。これで、小鳥遊家にいる迷い猫は候補から外れる』


 思わぬ収穫に小さな前進を感じていると、小鳥遊弟が足を伸ばして座り込む。


「も……もうムリ。兄ちゃん、オレもう休みたい……!」

「そうだね。大体見て回ったことだし、一度引き上げよう。よければ藤香(とうか)さんも一緒にどうかな?」

「うん。ヨスガも良い?」

「無論だ。だが、辺りにそれらしいカフェは無かったぞ」


 小鳥遊兄弟が傍らにいる中、あえて疑問を言葉にする。すると二階堂は、ケージを開きながら答えた。


「そう、近くに喫茶店はない。だから誠さんの――小鳥遊家にお邪魔する。ヨスガはまだ迷い猫(あの子)に会ってないから、これもきっと良い機会になる」

「そうだな。とはいえ、今は非常事態。会うのは落ち着いてからでも良いか?」

「……うん。あなたがそう言うのなら」


 俺がケージに入ると、二階堂は感情の乗らぬ顔でファスナーを閉めた。

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