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転生猫は、第二の生を謳歌したい。  作者: 禄星命


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第三十七話

 彼女は目を見開き、硬直する。……それもそのはず。娘を救うのが現代医療ではなく、根拠もない(かそけ)き糸とは夢にも思うまい。その証拠に暫く俯く彼女だったが、やがて一言、消え入るような声を放つ。


「……お願い」


 彼女は床に座り込むと、俺の手をとった。


◇◇◇


 そうして俺は、その日のうちに二階堂と対面する。会場は、彼女の私室だった。小ぢんまりとした部屋には畳や鴨居が張られており、小鳥遊(たかなし)家と似た趣きがある。その一方で、窓際には海外製のランプや羽根ペンが飾られており、なんとも今風な空間になっていた。


 新たな景色に釣られていると、二階堂はテーブルに2人前のティーセットを並べる。彼女は紅茶とクッキー、俺にはミルクと猫用ケーキだった。最後に姿勢を整えると、彼女は薄く微笑む。


「今日は来てくれてありがとう。これ、口に合うか分からないけど……良かったら」

「俺の方こそ。急な要請にもかかわらず、応えてくれて助かった。逸品、有り難く頂こう」


 あの後俺は、琴音母の計らいにより、二階堂に電話をかけていた。「琴音を救う、手助けをしてほしい」。そう訴えたところ、彼女は1時間も経たぬうちに来訪。そしてケージ完備の送迎車と共に、俺は彼女の家に運ばれたのだった。


『……やはり二階堂も堪えているのか』


 相変わらず表情の変化に乏しい彼女だが、以前よりも僅かに翳りが窺える。そんな少女に、今から俺は尋問を始めるのだ。せめて控えめに口を開けるも、彼女は遮るように頭を下げる。


「……ごめんなさい。傍にいたのに、助けてあげられなかった」

「……避けられぬ事故はある。それより、あの夜何が起こったのか聞かせてもらえるか」

「――あの夜、私たちは」


 二階堂は、震える声でゆっくりと話す。思い出したくもないトラウマとの対面に集中するように、目を伏せながら。


 そうして辿られた記憶は、以下の内容だった。


◇◇◇


 事件が起きたのは、花火が全て打ち上げられ、まさに帰路に着こうとしていた時。しかして、見物客でごった返す河道を河川敷から眺め、4人で雑談をしていた時だった。


「はあ……はやくみんな帰ってくんねーかなあ。さっきから虫があちこちで飛んでてきもちわりぃ」

「なら来年は、凛太郎だけ留守番にするかい?」

「なっ――や、やだ! 来年もその次も、藤香(とうか)と花火見るんだ! ……あ」

「うん。私も、凛太郎くんと一緒に観られたら嬉しい。来年は、違う味のりんご飴食べようね」

「! ……お、おう。ぜったい覚えとくから、藤香も忘れるなよ」


 取り留めのない会話。それが一段落した直後、琴音は驚きの声と共に暗闇を指差したという。


「ねえねえ、あれ見て!」


 河に寄り添うように形成された、柳が生い茂る小さな森。その中心では、薄っすらと明かりが灯っていた。目を凝らすと、鳥居の輪郭が浮かび上がる。


「……なあ、あんなとこに神社なんかあった?」

「いや、無かったはずだよ。……調べたいところだけどネットは繋がらないし、不用意に近付かないほうがいい」


 兄弟が眉をひそめるも、琴音は構わず前進。その様は、さながら()()()()ようだったという。止むを得ず3人も追随したのだが、何故か琴音は姿をくらまし、鳥居も消失。


「アイツ、どこ行ったんだ……?」

「……凛太郎、手を。藤香さんは僕の後ろに。もう少し探して、見つからなければ警察を呼ぼう」

「うん」


 身を寄せ合い警戒し、慎重に歩を進める。しかし数分後、琴音は何食わぬ顔で現れたという。「ごめんね、やっぱり何にもなかった」と、頬を掻きながら。


◇◇◇


 狐につままれたような、不可思議な出来事。だがおかげで、河道はだいぶ空いていた。2列に並び、小石を鳴らしながら無言で歩く。あまりに気まずい状態だったため、「道の端に吊られた灯籠が無ければ、警察に声をかけられていたかもしれない」と、藤香は語った。


 とはいえ、年少者は無遠慮。あるいは、敢えて買って出てくれたのだろうか。沈黙を追い払うが如く、小鳥遊弟は不満を漏らす。


「まったく、こんな時間にメーワクかけんなよな。なんかあったらオレらが怒られるんだぞ」

「ごめん……。でも、どうしても気になっちゃって」

「オレよりガキじゃねぇか。で、どうだったんだ」

「……うん。それがね――」


 一歩目の段差に下駄を置き、琴音が重い口を開こうとした直後。まるで、狐が口封じを計ったかのように――彼女は足を滑らせ、河川敷の階段から転落した。


「その後、私たちは救急車を呼んで解散した。……あの日以来、誠さんにも凛太郎くんにも会ってない。琴音が目を覚ますまで、思い出は作らないって決めたから」


 確固たる信念を帯びた声。視線を向けると、二階堂は、これが最後の台詞だと言わんばかりに息を吐ききった。

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