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転生猫は、第二の生を謳歌したい。  作者: 禄星命


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第三十二話

「ニャ?」

「……もう一度訊く。お前は俺の言葉が分かるか?」

「……ンー」


 初めてまともに見た、彼女の金の瞳。しかしその瞳はキーホルダーとは異なり、悲しみの色をまとっていた。動揺に言葉を失っていると、彼女は静かに耳を伏せる。


『この反応はどちらだ? ……分からん、分からんが――』


 今の俺の行為は、自白を強いる暴君そのものだ。静まり返る空間も、そう同調している気がした。ズキズキと痛み始める胸に、壁からゆっくり手を離す。


「……すまなかったな」

「ンー」


 レイは身体を縮こまらせながらも返事をし、二階堂の背後に駆けていった。


「ヨスガ……」


 心が自戒に支配される中、琴音の同情する声が(ほの)かに聞こえた。




 その後の部屋の空気は、琴音のテンションによりどうにか維持された。元々家では快活な彼女だが、常に笑顔というのは未知の領域らしい。「メイク直してくるね」と誤魔化し、時折席を外していた。


 一方俺は、これ以上失態を繰り返さぬようキャットタワーの上から見守っていた。良くも悪くも、気まぐれな猫仕草にしか見えないからだ。そんな浅慮(せんりょ)を察知したのかしていないのか、二階堂達は約束通り夕方に帰宅した。



「ん〜……! 今日だけで一週間分くらい勉強したって感じ」

「それは何より。だが……俺が余計なことをしたせいで、皆に迷惑をかけてしまった」

「ううん、大丈夫だよ。あの後LINNEが来たんだけど、二階堂さんもレイちゃんも怒ってないって」

「本当か?」

「うんうん。むしろレイちゃんは、引っ掻いたことを気にしてる感じだって。……それより、()()()はどうだった?」

「判別がつかなかった。普通の猫のようにも見えれば、こちらの意思を読んでいるようにも見えた」

「そっか……」


 琴音はまるで、自分事のように肩を落とす。その真ん前で俺は、「そう――意思疎通が困難である以上、明確な“判断材料”が必要になった」と独り言ちる。


『生前に(ゆかり)があるものが最善だろうが、この国に存在するだろうか。いや――仮に存在するとしても、琴音に金銭を負担させたくない』


 うつむき首を曲げ、いかにも“熟考中”の素振りを見せる。すると時々シャッター音が降り、その度に集中力を削がれた。しかし負けることなく思考を巡らせていると、はたと名案を思いつく。


「――琴音」

「ん?」

「明日も二階堂を呼べるか? ひとつ、試したいことがある」

「! 任せて!」


 併せて実行に必要なものを伝えると、琴音は驚きつつも笑顔で頷いた。




 琴音は直向(ひたむ)きだ。そして恐ろしいほどに純真で、周囲の人間に無自覚の愛想を与える。加えて俺の我儘を叶えようと奔走するその姿勢には、生前の愛読書に登場する、さる英雄が重なった。



「今日もよろしくお願いします!」

「うん。昨日より少し難しい問題出すけど、しっかりついて来てね」

「はーい!」


 そうして、昨日と同じ一日が始まった。変わったことがあるとすれば、レイが二階堂の背に隠れているくらいだろう。彼女は姿勢を正すと、琴音のノートをパラパラとめくり指をさす。


「まずは英語から。これ読める?」

「どれどれ? はいれ……ひれ……分かった! ヒレカツ!」

Hire cats(ハイヤーキャッツ)。“ハイヤー”って聞いたことない?」

「な、ないかな……」


 悲しきかな、生活環境の違いはふとした瞬間に現れる。だが「せめて猫だけは読んでくれ」。そんな呆れを飲み込みつつ、琴音を見上げる。


「ん? どしたのヨスガ」

「いや、進捗状況を確認したくてな。全て夏季休暇中に詰められそうか?」

「ふっふっふ……全部は無理だけど、結構いい感じなのだよ。これもみんな、二階堂さんのおかげだね」

「ううん。こと――新城さんが、投げ出さずに取り組んでいるから」


 驚いた。傍から聞いていると成長は感じられないが、彼女らにしか分からない変化があるようだ。素直に感心していると、琴音は両手にこぶしを作る。


「私も頑張る。だから――ヨスガも頑張って!」

「……!」


 「タイミングは今だ」と言わんばかりに強く頷く彼女。それは二の足を踏んでいた俺にとって、願ってもない好機だった。


『失敗は許されない。――今日で白黒つけてみせる』


 目を合わせぬように、威圧的にならぬように。名も知らぬ赤子に接するように、優しく語りかける。


「レイ。そのままでいいから聞いてくれ」

「……ニャ?」

「昨日は無礼を働いてすまない。俺はお前のことを、ただの猫とは思えなくてな。()()――二度目の生を受けた存在だと勝手に断定し、確認を押しつけてしまった」

「……」

「しかし無礼が許されたとて、一方的に問い続けるのはナンセンスだ。故に俺は、最後に賭けに出ることにした。――レイ、これを見てくれないか」


 レイは数秒顔だけを覗かせると、そろそろと二階堂の横に座り込む。俺もおもむろに歩み寄ると、背に忍ばせていた丸めた紙を、彼女の前に置いた。

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