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第十六話

 それから一週間後。俺達は、いよいよ猫モコンテスト当日を迎える。開催地である公園内には多くの出店が立ち並び、ちょっとした祭りのようだ。


◇◇◇


 目の下に隈を作る琴音は、ソワソワと小動物のように待ち合い室を往復する。


「うう、緊張してきた……」

「出場するのは俺だというのに」

「私だって無関係じゃないもん! というか逆に、何でヨスガはそんな冷静なの?」

「生前、散々場数を踏んできたからな。もっとも、俺の場合はコンテストなどという生易しいものではないが」

「あははっ。猫が人生経験語ってるの、すごい変な感じ」

「それに関しては、いい加減慣れてくれ」


 取り留めのない会話に、琴音が笑ったその時。――無粋な来客が、ノックもせずに会話を切る。


「おい。お前が新城琴音か?」

「えっ? あ、はい……そうですけど、あなたは?」

「単刀直入に言う。このコンテスト、辞退しろ」

「ええっ!?」


 現れたのは、鋭い目つきで琴音を見上げる、齢10程の少年だった。黒髪は耳が見えるまで短く整え、身に着けているものはすべからく、新品のような輝きを放っている。だが半袖シャツに短パンという格好により、折角の横柄な態度も迫力に欠けていた。


 ――しかし琴音は、幼稚な脅しに良いリアクションを返す。


「……な、何でですか?」

「教えるつもりはない。いいか、これはけいこくだ。万が一優勝なんかしてみろ。そのときは……そのときは……お前なんかにはとーてい思いつかないくらいの恐怖が、お前をおそうからな」


 拷問の想像を誘発させようとしているのか。だが、所詮は子供。戦争のせの字も知らぬ口振りに、冷ややかな目をもって(たしな)める。


「……ふん。生意気な目ぇしやがって」


 すると少年は、敵意を露わにしながらも、足早に去っていった。大人の対応としては、追及はせず話題を切り替えるべき出来事。だがあまりの不可解さに、思わず本心が漏れる。


「……何だったんだ」

「さ、さあ……」


 出場者の身内か、はたまた部外者の乱入か。危険性は感じられなかったものの、念のため彼の特徴を頭の片隅に入れておくことにした。


◇◇◇


 波乱の予兆こそあれど、猫モのタイムスケジュールに乱れはなく。総勢15名の熾烈な闘いの火蓋は、大勢の観客を前に切って落とされた。


◇◇◇


 着替えた俺は、舞台裏で先駆者達の様子を探る。傍らには、ワンピースで戦闘準備を済ませた琴音がいた。どうやら皆好敵手のようで、頭上からは締まりのない声が聞こえてくる。


「あああ……みんなかわいい……!」

「鼻の下が伸びてるぞ」

「えっ!?」


 進行役が出場者――もとい猫の名を読み上げ、その後アピールポイントを各自披露する。覚えた芸で人の目を集め、あざとい声で魅了するのが王道のパターンのようだ。


 傾向を捉え、対策を練り続け。そうこうしている間に、俺の前の猫がステージに向かった。出番まであと3分。衣装の緩みを確認していると、琴音は俺の両肩に手をのせる。


「……ヨスガ、頑張って!」

「任せておけ」


 舞台は野外。じんわりと汗が滲む気温の中、猫耳を着けた男は声高らかに音頭を取る。


「続きまして、エントリーナンバー7番。ノルウェージャンフォレストキャット、ヨスガくんのご登場です!」


 合図とともに、レイピアを咥える。そして俺は――託された全ての期待に応えるべく、マントをはためかせた。

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