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第十四話

 そして俺達は散策の果て、見知らぬ土地に到着する。周囲の様子はというと、広い公園や一軒家が軒を並べる住宅街。幼子がはしゃぐ声が耳を楽しませる中、琴音は大きく伸びをする。


「ん〜っ……着いたー!」

「ご苦労だった。それにしても、意外と距離があったな」

「でも、楽しかったでしょ?」

「ああ。柄にもなくはしゃいでしまうくらいにはな」


 そんな住宅街から少し離れた場に建つ、レンガ造りの一軒家に目を向ける。白くか細い門、扉まで続くタイルの道。そして敷地を彩る花壇に、点々と配置された小動物のオブジェ。――いかにも少女が好みそうな外観だ。


 門は既に開いており、進むと“Open”の札が掛けられていた。琴音は一度手をグッと握ると、早速ドアノブをひねる。


「お邪魔しまーす……って、あれ?」


 だが店内には人っ子一人おらず、時を刻む音だけが響き渡っていた。仄暗い内部を見渡すと、カウンターやテーブル一式、そして巨大な猫のぬいぐるみが設置されているのが確認出来る。


『……前情報が無ければ、ファンシーなホーンテッドハウスかと困惑していただろうな』


 どうやら琴音も困惑しているようで、不安げにスマホを取り出す。


「うーん、日付間違えちゃったかな……」

「いつにしたんだ?」

「……今日の午後2時から」


 琴音とともに、スマホ内の契約書を確認する。スマホのカレンダーを見る限り、確かに今日この時間で間違いなさそうだった。


「店側がスケジュールを把握していないのか?」

「かも……。どうしよ、もう少し待ってみたほうがいいかな?」


 揃って首を傾げていると、突然コツコツと足音が聞こえる。


「いらっしゃいませ。“ネコの隠れ家”へようこそ〜」

「わっ!?」

「遅れちゃってごめんなさい、今電気つけますね〜」


 おっとりとした返事とともに現れたのは、エプロンを着けた若い女性。フリル満載のヘッドドレスも相まって、さながらドールのようだ。女性は笑顔を向けるが、琴音は緊張に声を強張らせる。


「えっと――予約してた新城です! 今日はよろしくお願いします!」

「ふふっ、こちらこそよろしくお願いします。では、早速ですがお部屋にご案内いたしますね〜」


 一体これから何が始まるというのか。“店長”の名札を着けた彼女は、俺の顔を見るや否や、フッと口角を上げる。


『腹に一物抱えていそうな目をしている……。油断禁物だな』


◇◇◇


 先導されるがまま、店の奥へ進む。その果てにある扉を抜けると、琴音は瞳を輝かせた。


「わあっ……! これ、全部猫用なんですか!?」

「ええ。どれも二つとない一点物ですので、きっと他の方と差をつけられますよ~」

「……もしかして全部、店長さんが作ったんですか?」

「ふふっ。はい」


 琴音が驚きに足を止めるのも無理はない。壁一面を埋め尽くすのは、手の込んだ衣装の数々だった。セットと思しき帽子や靴は、俺でも手の届く高さの棚に、一つ一つ丁寧に収納されている。


 琴音と並んで目を見張っていると、店長は嬉しそうに手を合わせて微笑む。


「時間制限はございません。ネコちゃんとご一緒に、心ゆくまでご堪能ください〜」

「はい!」


 それだけ言うと、店長は扉の近くの椅子に腰掛けた。対して琴音はキャリーケージの鍵を開けると、ハイテンションをぶつけてくる。


「ね、ね! どれにしよっか! 片っ端から全部試してみる!?」

「まずは落ち着け。冷静さを欠いては選択を誤る」

「ハッ、確かに……! えへへっ、ありがとヨスガ。ついテンション上がっちゃった」

「いや、それは構わんのだが――」


 視線を逸らすと、首を傾げながら見守る店長が目に映る。


「……琴音」

「! あ、え――っと……、あんまり居心地が良かったら、つい家でのクセがデチャッタナー!」


 咄嗟に棒読みで言い訳をする琴音。泳ぐ彼女の目は俺を映すが、店長も俺を見ているため、迂闊に反応も出来ず。まさに三すくみのような状態に陥った。


 しかし「このまま琴音が墓穴を掘るよりは」と、手近な鈴をチリチリと鳴らす。


「ナー」

「ん? ヨスガ、それが良いの?」

「ニャー」

「……ふふっ。はいはーい、今取るからちょっと待っててねー」


 すっかり肩の力が抜けた様子の琴音は、鈴のついた靴に手を伸ばす。人語から猫語に切り替えた意図が伝わらない場合を危惧していたが、存外理解が早く助かった。

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