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第十三話

 体感にして10分後。琴音に頼まれ目を閉じた俺は、ジワジワと恐怖に蝕まれていた。


『琴音……貴様、何処へ向かっているんだ』


 耳を破壊せんとする轟音が、吹き荒れる風とともにキャリーケージを襲った。間髪入れず聞こえてきたのは、大勢の人間が鳴らす、軍靴が如く足音。自身の預かり知らぬところで何が行われているのか。物言わぬ琴音も相まって、無駄に想像力がかき立てられる。


『いかん、生前のトラウマが――』


 不意にフラッシュバックするは、己が死ぬまでの数日間。しかし琴音は俺の胸中をよそに、迷うことなく突き進む。


 だが暫くして彼女は何処かに立ち止まると、キャリーケージを持ち上げた。そして隣に座ったような気配を感じさせ、一等活気のある声を出す。

 

「――よし、到着! ヨスガ、目開けていいよ」


 琴音の声に背中を押され、恐る恐る目蓋を持ち上げる。


「な――何だあれは……!」


 キャリーケージの柵の先。その向こうには、人を何百人と呑み込めそうな金属の大蛇がいた。


 鉛色の天井から降る光が照らすは、人工物で整えられた閉鎖的空間。縦長に掘られた洞窟の中、逃げ場など皆無に等しく。


「――!」


 光を放つ鉄の大蛇を見据え警戒態勢をとるが、反して琴音は無邪気に笑う。


「あははっ、サプライズ成功! どう? びっくりした?」

「! ……ああ。これは――いや、これもエレベーターなのか?」

「ううん。これは“電車”っていって、一度に沢山の人を遠い場所に運ぶものなんだ」

「……そうなのか」


 どうやら大蛇でもなければ、兵器でもないらしい。羞恥に耳を伏せ(うな)垂れていると、おずおずと顔を覗き込まれる。


「……もしかして、怖かった? っ――ごめん。いきなりこんなの見せられたら、何かと思うよね」


 顔を上げると、俺以上に頭を下げる琴音の姿があった。稚児の如くしょげる彼女に、フッと笑みがこぼれる。


「……いや、平気だ。琴音は俺の為を思って案内してくれたんだろう? 感謝こそすれ、怒りはしない」

「――。何ていうか……ヨスガって、すごい紳士的だよね」

「そうだろう。何せ生前は伯爵の地位にいたのだ。エスコートだって出来るぞ?」

「ふふっ……! でもその割には、結構ワガママで頑固なとこあるよね?」

「何だと!?」


 再び乗客が集まり始めたため、会話を切り上げ電車に乗り、目的地へ移動する。琴音が圧死しないか気掛かりであったが、内部は存外広く、杞憂に終わった。


『しかし、よく琴音の母は外出許可を出したな。……まだ陽は落ちていないが、万が一の事態に備え周囲を警戒しておかねば』


 俺が生きていた時代では、男であろうと常に複数人で移動するのが当たり前だった。そうでもしなければ、野盗の格好の的となる。――野生動物同様に、死と隣り合わせの日々だった。


 だが日本の民は、無防備に居眠りをし、財布や金品を堂々と持ち歩く。幸いにも琴音はどちらもしていないが、果たしてどれだけの警戒心を持ち合わせているのか。


『いざとなれば、この爪と牙で――』


 スマホをせっせと操作する琴音を一瞥し、耳を尖らせた。

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