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元カノの双子の妹に告白されたけど、実はその子が元カノだった

作者: 墨江夢

 クリスマスイブ。世間ではカップルたちが最も熱くなると言われているこの夜、俺・福井勇(ふくいゆう)は恋人と別れた。

 彼女……麗奈(れいな)とは文化祭から付き合い始めたわけだから、交際期間はおよそ3ヶ月間。俺たちは俗に言う3ヶ月の壁を乗り越えることが出来なかったのだ。

 

 別れた理由も、本当にくだらないものだった。

 クリスマスケーキとして、俺はチーズケーキを用意した。だけど麗奈はチーズが苦手だったのだ。

 苦手なものを出されたからって、そんなに激怒するものか? 破局にまで発展する事案か?

 しかし麗奈が怒った原因は、別のところにあった。


「私、前にチーズが嫌いって言ったのに。何で覚えてないの?」


「言ったことを何で覚えていないの?」。それ、この前家庭教師にも言われたわ。

 何でって聞かれても、忘れてしまったものは仕方ないだろう。ていうか、本当に聞いたのかさえ定かじゃないし。

 

 俺は麗奈のことが好きだ。だけど彼女の全てを知っているわけじゃない。

 同様に麗奈も俺の全てを知っているわけじゃなくて。だから――相手の無知を糾弾するのは、お門違いな気がする。


 麗奈が昔言ったことを覚えていなかった。たったそれだけの諍いが、気づけば別れ話にまで発展してしまう。

 百年の恋も一気に冷めた感じがしたね。まだ3ヶ月しか経っていないんだけど。

 

 その程度で瓦解する愛ならば、最初からあってないようなものだったのだろう。

 永遠なんてものはない。すなわち永遠の愛も存在しないんだから。でも


 頭の中ではわかっているものの、初めての恋人だったということもあり、俺は未だに麗奈のことが忘れられずにいた。


 年が明けて、あっという間に月日は過ぎ去り、気づけばバレンタインデーがやってきていた。

 麗奈と別れてからというもの恋愛とは無縁だった俺に、チョコを手に入れる術はない。

 厳密に言えば2つ貰ったけど、母親と祖母からのお情けチョコを対象外だろう。というか、家族チョコをカウントするような惨めな男にはなりたくない。

 

 放課後。

 今年は本命チョコ、貰える筈だったのになぁ。そう思いながら、帰路に立っていると、


「あっ、あの!」


 駅の改札を抜ける直前に、突然呼び止められた。

 足を止めて、声を掛けられた方を向き、そして……俺は心底驚く。


 そこには麗奈と瓜二つの容姿をしていながら、麗奈と正反対のお淑やかさを醸し出す少女が立っていたのだ。


「……麗奈?」


 俺は思わず、未練タラタラの元カノの名前を漏らす。

 しかし初めましてのこの少女が麗奈のことを知っているわけもなく、なので俺は「何でもないです。すみません」と即座に発言を撤回した。


 だけど少女から返ってきたのは、予想外の反応だった。


「麗奈じゃありません。麗奈は私のお姉ちゃんです」

「……お姉ちゃん?」

「はい。私と麗奈お姉ちゃんは、双子の姉妹なんです」


 双子の姉妹って……麗奈と付き合っていた間も、妹がいるなんて話聞いたことなかったぞ? 


 少女の名前は椎奈(しいな)と言って、隣町の女子校に通っているらしい。

 俺のことは、付き合っていた当時麗奈からよく話を聞いていたそうだ。……あいつ、要らんこと妹に話していないよな?


「だけど最近お姉ちゃんから勇さんの話を聞かなくなって、どうかしたのかなーって思っていたら、クリスマスの日に別れたって聞いて……」

「別れた途端に俺の話をしなくなるとか。まぁ、世のカップルなんて大体そんな感じか」


 しかし敢えて俺の話題を避けているのなら、少し寂しい気もする。

 別れたからといって、俺と麗奈の思い出がなくなるわけじゃないというのに。


「それで、椎奈ちゃんはどうして俺を呼び止めたの? 何か用があるんじゃないの?」


 でなければ、下校中にわざわざ途中下車して、改札前で待ち伏せている必要はないだろう。


「はい、用があります。それはもう、第一志望校の入学試験並みに重要な用事です」

「おっ、おう。それはめちゃくちゃ重要だな」


 自らハードルを上げた後で、椎奈ちゃんは「はい」と俺に小包みを手渡してきた。


「これをどうぞ」


 今日が2月14日だということを考慮すれば、その小包みの中身を当てることなど造作もない。

 しかし間違っていたら凄く恥ずかしいので、一応確認しておくことにした。


「これは……チョコレート?」

「はい。……勘違いして欲しくないのですが、それ、お姉ちゃんに「渡してくれ」って頼まれたものじゃないですよ。私があげたいと思って渡した、正真正銘の本命チョコですよ?」


 マジか! てっきりチョコを貰えないことを見越した麗奈が、俺にお情けチョコを用意してくれたものだと思っていたわ! 自分じゃ渡したくないから、妹を使って!

 つまりは、はい、普通に勘違いしていました。


「お姉ちゃんの惚気話を聞きながら、ずっと思っていたんです。あのわがままで飽き性なお姉ちゃんがこんなに惚れ込むなんて、きっと素敵な人なんだろうなぁって。お姉ちゃんから勇さんの話を聞く度に、その思いは強くなっていって……いつしか勇さんと会ってみたい。出来ることなら、こっ、恋人同士になりたいって思うようになりました」


 どんなに願っても、恋人同士になるなんて無理な話だ。椎奈ちゃんの中では、俺は麗奈と付き合っているのだから。

 だけど、俺たちが破局したと知ったら? 現在俺に恋人がいないと知ったとしたら?

 もう手遅れだと思っていた片思いに、チャンスが訪れた。恋する乙女ならば、この機を逃すわけがない。


 耳まで真っ赤になるくらいの恥ずかしさを抑えながら、椎奈ちゃんは俺に告白してきた。


 麗奈の場合、ここで俺の胸ぐらを掴んで「私と付き合いなさいよ。イエス以外の返事は受け付けないから」と半ば脅しをかけてくる。だけどお淑やかな椎奈ちゃんは違う。

 決して俺に触れることはなく、しかし一歩だけ俺に近付いて、上目遣いを向けてきた。


「私じゃ……私じゃお姉ちゃんの代わりになりませんか?」


 正直に言おう。俺の心は、だいぶぐらついていた。


 考えても見て欲しい。

 双子なだけあって、容姿はそっくりだ。二人並んだら、きっと元カレの俺でも見分けがつかないだろう。

 性格は、この子の方がいくらかお淑やかかな。

 圧倒的に好印象なのは、俺に好意をぶつけてくれていること。あいつは素直じゃなかったから。

 誕生日やクリスマスくらいしか、「好き」って言われた覚えがないぞ。


 つまり目の前の椎奈ちゃんという女の子は、麗奈の欠点を克服した存在なのだ。


「悪いけど、君じゃ代わりにならない」

「そんな……」

「勘違いしないで欲しい。お姉さんの代わりになれないんじゃなくて、なる必要がないんだ。彼女の妹だからじゃなく、君個人を好きになりたい」

「よっ、よろしくお願いします」


 もしかするとこれは、麗奈を忘れる良い機会なのかもしれない。そんなことを考えながら、俺はこの日再び彼女持ちになった。





 椎奈ちゃんとの交際は、恐ろしいくらい順調だった。

 同じ高校ではないので一緒に学校まで行くことは出来ないけれど、途中までなら二人で登下校が出来る。


 麗奈とは教室までずっと一緒だったから、それこそ電車の中で喧嘩した日なんかはめちゃくちゃ気まずかった。

 椎奈ちゃんとは途中で別れるので、一日中ギクシャクする心配もない(そもそも彼女の性格上、俺と喧嘩になるとは思えないが)。

 今考えると、このくらいの距離感が丁度良いのかもしれない。


 交際を始めて、最初の金曜日。

「さようなら」をする前に、椎奈ちゃんは俺を呼び止めた。


「勇くん。明日って、空いてます? もし予定が何もなかったら、私とデートしてくれませんか?」


 あー、もう! クッソ可愛いな!

 何が可愛いって? 付き合い始めるなり俺のことをくん付けで呼び出すあたりとか、奥手なくせに恋人同士になって数日でデートに誘ってくる積極性とか。


 週末の予定なら、クリスマスの日以降ずっと空いている。

 休日は麗奈の為の時間だったけど、その考えは改めないとな。これからは、休日は椎奈ちゃんの為の時間だ。


「椎奈ちゃんとデート出来るんなら、仮に用事があったとしても空けるよ。俺にとって椎奈ちゃん以上に大事なものなんてないし、椎奈ちゃんより優先すべきものだってない」

「私が一番大事だなんて……いきなりそんなこと言われなら、恥ずかしいです」


 椎奈ちゃんは真っ赤になった顔を、両手で覆う。

 この感じ、新鮮だな。麗奈と付き合っていた頃は、彼女を最優先にしないと凄え怒られたからな。

「彼女が一番じゃないって、どういうこと?」って。


 赤面した顔を覆い隠していた椎奈ちゃんだったが、チラッと目だけ露わにする。


「恥ずかしいですけど、それ以上に嬉しいです。幸せです」


 ……ヤバい、どうしよう。今すぐ椎奈ちゃんをギュッてしたい。


「それじゃあ、また明日」と挨拶をして、俺は椎奈ちゃんと別れる。


 一人帰路に立ちながら、俺は考える。

 麗奈と上手くいかなかった要因はいくつかあるけれど、一番は互いに素直になれなかったことだろう。

 だからすれ違いが起きたわけだし、喧嘩だってしょっちゅうだった。

 ちょっとした軋轢が積み重なり、そうしてあのクリスマスの日に繋がった。


 でも、椎奈ちゃんとならいつまでも上手くやっていける気がする。

 彼女は素直に「好き」と言ってくれるから、俺もそれに応えられる。

 喧嘩もしない、不満もない。仲睦まじい二人でいられる。


「今幸せですか?」と問われれば、勿論「イエス」と答えるだろう。

 では、「今満足していますか?」と問われたら? ……椎奈ちゃんと付き合えている現状に不満なんてこれっぽっちもない筈なのに、「イエス」と即答出来なかった。

 

 心のどこかで、物足りなさを感じている? 麗奈を求めてしまっている?

 ……そんなバカなことがあるか。

 俺が好きなのは、椎奈ちゃんだだ一人だというのに。





 翌日。椎奈ちゃんとの初デートの日がやってきた。

 準備に時間がかかり、家を出るのが遅くなってしまったようで、椎奈ちゃんは一本遅い電車に乗ってきた。


「お待たせしました、勇くん!」


 一足先に駅に到着していた俺に、手を振りながら駆け寄ってくる椎奈ちゃん。彼女の姿を見て、俺は驚きを隠せなかった。


 椎奈ちゃんが着てきた服は……麗奈が初デートで着てきた服とまったく一緒だったのだ。


「椎奈ちゃん、その服……」

「これですか? 私、おしゃれとかあんまり詳しくないんで、お姉ちゃんの服を借りたんです」


 だからって、どうしてピンポイントでその服を着てきちゃうかな。

 しかしこう見ると、本当に麗奈と瓜二つだった。


「似合ってませんか?」

「いいや、凄く似合ってるよ」

「本当ですか!? 良かった!」


 褒められて気分が高揚したのか、椎奈ちゃんは「えいっ!」と俺の腕にしがみついてくる。


「まずは、どこに行きます?」

「映画なんてどうだ? 昨日公開したばかりの恋愛映画のチケット、とっておいたんだよ」


 カップルシートで2時間以上たっぷり映画を楽しんだ後、俺たちは少し早めの昼食をとった。

 ランチに選んだのは、オシャレなイタリアンレストラン。

 互いに好みのスパゲッティを頼んで、一口ずつ交換したりした。「あーん」という、人前で行なうにはなかなかハードルの高い行為をしながら。


 椎奈ちゃんがトイレに立ったところで、偶然にもクラスメイトの女子と出会した。

 彼女は麗奈の仲の良い女子で、「友達の彼氏」だった俺とも多少なりとは交流があった。


「あれ? こんなところで何しているの、福井くん?」


 チラッと、彼女は俺たちのテーブルを一瞥する。


「一人でご飯……じゃないよね? もしかして、麗奈と復縁した?」

「そんなわけないだろ。今は別の子と付き合っているんだよ。……お前も知っているんじゃないのか? 麗奈の妹の、椎奈ちゃんだよ」

「妹の……椎奈ちゃん?」


 何を言っているのかわからないと言わんばかりに、彼女は小首を傾げる。 

 どうやら椎奈ちゃんのことを知らなかったみたいだ。


「もしかして、知らなかったのか?」

「そりゃあ、知るわけがないよ。だって麗奈に妹なんていないもの」


 ……何だって?


「それは……お前の勘違いじゃないのか?」

「ううん。だって麗奈、前に「私は一人っ子だから、姉や妹に憧れるのよねー」って言っていたもん」


 恐らくそれは、何気ない会話の一コマで。麗奈が椎奈ちゃんの存在を隠して「自分は一人っ子だ」と嘘をつくメリットは感じられない。

 でも、実際に一人っ子だと嘘をついているわけで。


 ……いいや、逆だ。

 嘘なのは、「椎奈ちゃんという双子の妹がいる」という方だ。


「妹じゃないんだとしたら、椎奈ちゃんって、一体誰なんだよ?」

「麗奈に瓜二つで、麗奈ことをよく知っていて、その上狙ったように彼女とは正反対の性格を演じている。そんなことが出来る人間なんて、一人しか思いつかないけど?」


 考えるまでもない。そう、麗奈自身だ。


「どうしてそんな嘘をついたのか、もう答えはわかっているんだよね?」

「……あぁ。なんたって俺は、麗奈の元カレだからな」





 昼食後、俺は彼女の正体に気付いていない風を装い、椎奈ちゃんとのデートを楽しんだ。

 たとえそれが麗奈の作り出した虚構の存在だったとしても、俺の中では椎奈ちゃんは紛れもなく一人の女の子だ。

 けじめをつけなくてはならない。


 日暮ギリギリまで遊び倒して、俺たちはようやく朝合流した駅に帰ってきた。

 

「……椎奈ちゃん、お別れだ」

「そうですね! また月曜日、お会いしましょう!」

「そういう意味じゃなくて! ……椎奈ちゃん、別れよう」


 ここまでくれば、流石に別れよう=破局だと察しがついたようだ。


「いきなり別れ話なんて……今日のデート、つまらなかったですか?」

「いいや、楽しかったぞ。でも、満足は出来なかった。どうして満足出来ないんだろうって考えた時……気付いたんだ。俺はもっとわがままで、横暴で、素直になれないような女の子が好きなんだって。だからお淑やかな君とはどうしても……」

「チッ」

「今舌打ちしたか?」

「していませんよ?」


 嘘つけ。丸聞こえだったっつーの。

 でも、ようやく本性を曝け出してくれたな。

 横暴で素直じゃなくて、俺の大好きな、麗奈という女の子が。


「だから別れよう、椎奈ちゃん。そしてもう一度付き合ってくれ、麗奈」


 正体を明かされて、麗奈はハァと溜め息を吐く。


「何よ、それ。私がどんな思いで「椎奈」を演じていたと思ってるのよ」

「俺のこと大好きって思いだろ?」

「調子に乗るな、バカ」


 そうそう、その感じ。ようやく麗奈が戻ってきたな。


「それで、どうする? 復縁する?」

「……勇がそこまで言うなら、復縁してあげても良いよ」


 成る程。「喜んで!」らしい。

 素直じゃない麗奈の返事を、俺も曲解して受け取ったのだった。

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