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第八話 一日の終わり、宿に泊まる着ぐるみ

「冒険者割引なんてあるんですね」

「ええ。全部じゃないけど、冒険者だったらカードを見せることで割引をしてくれる宿はあるの」


 冒険者として、初めての依頼をこなし、カロティアに戻ってくる時には太陽はすっかり沈んでいた。

 それと言うのも、依頼を出した村で足止めをくらっていたからだ。

 ゴブリンだけではなく、それよりも危険なホブゴブリンをも討伐した。村人達は、俺達に感謝して村の名産で作った料理を振舞ってくれたのだ。

 

 もちろん好意を無下にはできず、ありがたくご相伴に預かった。

 その後は、ギルドへまっすぐ向かい、依頼者である村長のサインが入った依頼書を提出。ホブゴブリンのことも報告した。

 

「それにしても驚きました。まさかあんな魔道具があったなんて」

「私も最初見た時は驚いたわ。でも、あの魔道具のおかげで偽報告とかも防止できているそうよ」


 俺は、泊る宿の一室でギルドでのことをミリネッタさんと共に思い出す。

 それは、魔法の力を宿す道具―――魔道具のことだ。

 俺が驚いた魔道具は、魔石から記憶を可視化するというもの。地球で言う映像機のようなものだ。この魔道具がなかった時は、よく倒しても居ないのに倒したと素材を提出し報酬を手に入れていた者達が多かった。

 しかし、今はそれはない。

 魔石には、魔物達の記憶が刻まれており、それを魔道具を使って本当か嘘かを見抜いているようだ。


「記憶を可視化させるなんて。作った人は天才ですね」

「あの魔道具の他にも色んなものを作っているそうよ。その人のおかげで暮らしもかなり豊かになっていて、皆大喜びだわ」

「どんな人なんですか?」

「それが、謎なのよ。自称天才魔法使いらしいけど」

「自称天才魔法使い、ですか」

 

 地球でもそういうのは居たな。素性は明かさないが、天才的な能力がある人間とか。

 異世界にも居るんだ、そういう人。

 

「会ってみたいですね。どんな人なんでしょう……」

「そのうち会えるわよ、冒険をしていれば。それじゃ、私はそろそろ寝るわ。あなたもあまり夜更かしはしないことね」


 すでに夕食と入浴を済ませているので、後は寝るだけ。

 その前の他愛のない会話だったのだ。

 俺が泊まるのは、ミリネッタさんも泊っているところ。夫婦で宿を経営しており、時々娘さんも手伝いをしている。

 大きくないが、雰囲気は良く親しみやすい宿だと有名だ。夕食も家庭的で、心が安らぎ、娘さんの愛らしい笑顔は、ついこっちも笑顔になってしまう。ミリネッタさんも、そういうところが気に入っているようでカロティアに来てからはずっと泊っているようなのだ。


「おやすみなさい、ミリネッタさん」

「ええ、おやすみ」


 もちろんミリネッタさんとは部屋は別々。

 彼女の向かいの部屋に俺は泊っている。


「……一日が終わるか」


 窓から俺は街の景色を眺めながら、ここまでのことを思い出す。

 異世界に転生して、半日程度の時間だったが、結構濃かったなぁ。始めは、この奇妙な姿を受け入れてくれるか心配だったが、意外とあっさり皆受け入れてくれた。

 魔物との戦闘も心配なくこなせた。

 ミリネッタさんも最初は距離があったけど、根は優しく、面倒見のいいようで大分助けられたな。

 

「明日は、どんなことがあるんだろうか」



・・・・



「あら? おはようございます、湊さん」

「はい。おはようございます。ネアさん」


 年甲斐もなくわくわくして、随分と早く起きてしまった。

 部屋から出て、食堂へと向かうとすでに店主の奥さんであるネアさんが朝食の準備をしていた。

 茶色のセミロングヘアーが良く似合う人で、元々この宿は両親と経営していたらしく、夫であり現店主であるマークさんは冒険者として泊りに来た時に出会い、恋に落ち、今に至るそうだ。

 両親は、現在宿経営をマークさん達に任せているそうだが、時々手伝いに来ている。


「昨晩はよく眠れましたか?」

「はい、それはもうぐっすりと」

「それはよかったです。あ、すみませんね。まだ準備中なので、朝食はもうしばらくお待ちください」

「いえいえ、ゆっくりで良いですよ」


 俺が早く起き過ぎただけなのだ。

 窓の席に腰を下ろし、俺は何気なく街の景色を眺める。まだ太陽が昇ったばかり。人はそこまで多くなく、ちらほらと見かける程度。

 

「待っている間に、温かいコーヒーをどうぞ」

「あ、これはどうも」

「熱いのでやけどに気を付けてくださいね」


 気を使わせてしまったようで、ネアさんが温かいコーヒーを淹れてくれた。

 あぁ、笑顔が眩しい。

 マークさんもこの笑顔にやられたというのろけ話をしていたっけ。で、その笑顔が娘さんであるイルちゃんに継承されたと。


「……ふう」


 やっぱり朝はコーヒーに限りますなぁ。地球に居た頃は、暑い日だろうと温かいコーヒーを飲んでいた。こっちで飲めるか不安だったが、安心したよ……。


「お? 湊くんじゃないか。随分と早いな」

「あ、マークさん。おはようございます」

「ああ、おはよう」

 

 コーヒーを嗜みつつ朝の街並みを眺めていると、店主のマークさんが姿を現す。元冒険者ということもあり、筋肉隆々で、服の上からでもわかるほどだ。

 左目に大きな傷があり、宿の経営をしている者とは思えない風貌だが、見た目など当てにならない。

 本当に優しい人だ。


「昨日は娘と遊んでくれてありがとうな。あんなにはしゃぐ娘を見るのは始めだった」

「ふふ。最初は、警戒しちゃったけど接してみれば普通の好青年って感じでしたからね」

「街で噂になっていたのは知っていたが、まさかうちの宿に泊まりに来るとは思わなかったよな」

「あははは……俺、そんなに噂されているんですか?」

「そりゃあもう。なにせ、目立つからな」

「ええ、とっても目立ちますもの」


 ですよねー。この姿で目立たないっていうのが難しい。一応、ギルドで関わってきた人達には防具で、時々別のに変わるかもしれない、ということは伝えてあるが……。

 正直、あまり変えない方がいいだろうか。

 でも、俺としてはゲームと何が違うのかを確かめたいところもあるしなぁ。


「今日もギルドで依頼を受けるのか?」

「はい。でも、それは後にします。今日は最初に街の探索をしようかと思ってまして」

「そういえば昨日到着したばかりだったな」

「ミリネッタさんと一緒にですか?」

「一応、そういうことになってます」


 受け入れられ始めているとはいえ、まだ一人で行動するとなれば何が起こるかわからない。

 問題を起こしてイーナさんに迷惑をかけるわけにもいかない。

 だから、俺はできるだけ安全策をとるのだ。それに、街のことに詳しいミリネッタさんが案内してくれるんだ。変なところには行かないだろう……。


「でも大丈夫でしょうか?」

「ああ、確かに」

「なにが、ですか?」


 何やら苦笑いをしている夫婦。気になった俺はカップを持ったまま首を傾げる。


「実は、ミリネッタちゃんはな」

「朝がとーっても弱いんです」

「……マジっすか」


 俺のミリネッタさんのイメージはずっと頼れるお姉さんみたいな感じだった。なるほど……朝が弱いのか。昨日は、仕方ないわね……私に任せなさいと言っていたが。

 だ、大丈夫だろうか。さすがに昼前に起きるよな?

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