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第三話 教会内の魔人、着ぐるみと王族

「これほど広い教会だと掃除をするのも大変ですよねぇ」

「は、はい。隅々まで掃除をすると時間がかかってしまいます」

「今も、天使様が降臨なされる前により一層綺麗にしようと頑張っているところで」

「ふむふむ。では、カワエルちゃんもお手伝いしましょう!」


 シスター達の声を聞いて、カワエルがいつもの調子で手伝おうとする。どこから出したのか、天使の羽の絵が刻まれたエプロンを装着し、あらゆる掃除道具を装備していた。

 

「そ、そんな!」

「天使様に掃除をさせるなど!」


 天使を迎えるためにと頑張っているのに、その天使に手伝いをさせるなど! とシスター達が一斉に慌てふためく。

 ちなみにエルメーナさんは、なぜかカワエルのことを拝んでいた。

 

「構いません! さあ、カワエルちゃんは一番やりにくい上の方を担当します! 皆さんは下の方をお願いします! では、いざ! 出撃!!!」

「か、カワエル様ー!?」

「カワエルちゃんと呼んでくださーい!!!」


 やはり、同じ天界に住まう天使と出会えるというだけあって、いつも以上にテンションが高い。

 

「あわわ! ど、どうしましょう!?」

「ああなったカワエルは簡単には止まりません。彼女も、同じ天使を迎えるためにって張り切っているようなので」


 どうしたらいいかわからないと、慌てているシスター達に俺は言う。

 その言葉を聞いたエルメーナさんは、落ち着きを取り戻しシスター達に指示を出す。


「皆さん。カワエルちゃんに続いてください! 指示通りに下の方を全力で綺麗に!!」


 エルメーナさんの指示を聞き、シスター達は声を揃え返事をし、教会の清掃を再開する。

 

「えっと、私達はどうする?」

「清掃中なら、外で待っていた方がいいと思う」

「俺もそう思う。エルメーナさん。それじゃあ俺達は」

「はい。ではまた。……ところで」


 ずっとカワエルに押されっぱなしだったエルメーナさんは、やっと落ち着けた。

 そこで、俺に視線を向けてくる。


「もしや、あなたが冒険者湊様、ですか?」

「はい。そうですが」

「や、やっぱり! 動物の姿をしているってお聞きしていたので、もしやと思いましたが」


 前回の剣撃杯で、俺のことはより一層王都中に広まった。

 なので教会のシスターが知っているのも頷ける。


「っと、いつまでもこの姿だと失礼ですね。メリス、ちょっと下ろしてくれ」

「うん」


 俺はメリスから離れて【ドロボーマウス】から【ホースナイトG】へと切り替える。

 そして、そのまま頭を下げた。


「初めまして。俺は、冒険者をやっている木田湊です。気軽に湊って呼んでください」

「う、馬の騎士?」


 ちなみに黄金の鎧だが、本物の黄金ではない。

 そこのところは普通に着ぐるみっぽさを出さなくてもいいのに……と思ってたり。そのため日差しが反射して相手の目を攻撃することもない。


「かっこいいよね」

 

 なぜか自慢げに鼻を鳴らすメリス。


「た、確かにちょっと丸っこいですが……かっこいいと思います」

「あなたはよくわかってる。わたしはメリス。よろしく」

「は、はい。よろしくお願いいたします、メリス様」


 聖職者に様づけで呼ばれる魔人か。メリスは、特に教会に入ることを嫌がってはいなかったけど……やっぱり上位種だからさほど影響はないのだろうか?


「最後は私ね。ミリネッタよ。見ての通りエルフ族で、冒険者をやっているわ」

「確か、ロメリア様のお弟子さん、でしたよね」

「あら? 知っていたのね」

「はい。ロメリア様が聞き及んでおります。とても優秀なお弟子さんだと」

「あはは……優秀、かぁ」


 優秀と言われミリネッタさんはなんだか複雑そうに笑う。

 おそらく優秀と言われ嬉しいが、思うところもあり素直に喜べないと言ったところか。


「それに、剣撃杯では湊様と壮絶な戦いを繰り広げたとか」

「壮絶かどうかはわからないけど、いい試合をしたとは思ってるわ。結局勝てなかったけど……」

「あ、申し訳ありません!」

「い、いいのよ。悔しくないって言えば噓になるけど。もっと強くなりたいって思うことができるいい試合だったって思ってるから」


 その後、軽い挨拶を済ませてから、俺達は教会から出て行く。

 すると、とんでもない人と遭遇してしまう。


「あら? あなた達、もう来ていたのね」


 俺のものとは違って本物の黄金の鎧を身に纏った赤髪の高貴な女性が王都民を中から姿を現した。

 

「シェリスティ様!?」


 なんと女王が護衛もつけずに姿を現したのだ。

 いや、女王だけじゃない。

 その横に見覚えのある少女の姿が。


「あ、レティー」


 そう。前に迷子だった男装をした少女レティ―が居た。

 今回は、男装をしておらず可愛らしいドレスに身を包み、髪の毛も束ねておらず、頭にはティアラを被っている。


「えへへ。こっちの姿で会うのははじめましてだね。それじゃあ、改めて……レティシア。それが私の本当の名前だよ」

「もしかしてとは思っていたけど、本当に王族だったとは」

「王族だったんだー。ところで、湊。また新しい姿だね。お馬さん?」

「ほほう? 黄金の鎧とは。私に対抗しているのかしら?」


 やば……そう見えてしまうのか。


「あ、いえそんなことは」

「冗談よ。そう萎縮しないで」


 あはは、冗談でしたか。なんだか本気だったような気がしたんだけど。


「そういえば、確かあなた達の仲間に天使様が居たはずよね」

「カワエルなら、教会で掃除をしてますよ」

「……噂通り、とても変わった天使様のようね。じゃあ、中に入るのは後にしましょう。レティシア。そういうわけだからしばらく自由にしていていいわよ」


 え? それってまさか。

 

「娘のことをよろしく頼むわ」


 ですよねー。そうだと思いましたよ。まあそれほどに俺達の実力を信用してのことなんだろうけど。そうじゃなくちゃ、王女を、自分の娘を冒険者に預けるわけがない。

 こ、これは責任重大だ。


「よろしくね、メリスちゃん」

「うん。よろしくレティシア」


 まあ、なんとかなるか。

 仲良さそうに手を繋ぎ合うメリスとレティシアを見てそう思うのだった。

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