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第十一話 剣撃杯を終えて、着ぐるみは夜空を見上げる

「……あっ」

「お? やっと起きたようだね、弟子よ」

「だ、大丈夫ですか? ミリネッタさん!」


 剣撃杯を終え、俺達は闘技場内にある診療所でミリネッタさんが起きるのを待っていた。

 時間にして三時間。

 防御結界があったとはいえ、相当なダメージを負っていた。それに加えて精神的にも疲労していたようで、起きた時のミリネッタさんの表情は、どこかスッキリしたような感じだった。


「もう、なに心配してるの?」

「いや、だって」

「別に謝る必要はないわ。だって、あなたは私のために本気で戦ってくれたんでしょ?」


 まだ完全に回復していないようで、震えながらも身を起こす。

 

「そう、ですけど」

「戦いに身を投じていれば、いずれ死ぬほどの怪我を負うことがある。今回は、そうはならなかったけどね」

「そうだね。今回のは、いい経験になっただろう。今回の湊の攻撃。あれがもし刃が潰れておらず、防御結界がなかったら……真っ二つだっただろうね!」

「おいおい。物騒なことを言うなよ、ロメリア」

「そうですよー! 想像したら背筋がぶるっと来てしまったじゃないですかー!!」


 今でもぶるっと体を震わせているカワエルを、ロメリアさんは子供のように笑いながら謝っていた。


「……師匠の言う通り。今回のいい経験になったわ」

「まあ、ロメリアの言い方はともかくとして。決勝戦は手に汗握る戦いだったぜ。ミリネッタ。お前はまだまだ強くなる! 俺はそう感じたぜ」

「ありがとう」

「ティナもね! 湊お兄ちゃんとミリネッタお姉ちゃんの戦いすっごいって思った!」

「ありがとう、ティナちゃん」

 

 それからは、アーレンさんとティナちゃんは一足先に帰っていった。

 残った俺、カワエル、メリス、ロメリアさんは、ミリネッタさんが気絶している間のことを話した。

 

「へえ、これが優勝トロフィーなのね。結構かっこいいじゃない」


 今回、剣撃杯で優勝した俺は主催者からトロフィーを受け取った。剣と剣がぶつかり合ったようなエンブレムがついた黄金のトロフィー。

 なんだか手渡してきたのは、かなりゴージャスな雰囲気の女性だった。

 後に、ロメリアさんに聞いたところ。


「まさかこの国の女王様だったなんて……」

「金ぴかの鎧を身に纏っていましたね」

「金色の剣もあった」

「彼女の名は、シェリスティ。女王でありながら、戦いを好み、闘技場内の行事は全て彼女が指揮っているんだ。まあそれだけじゃなく、兵士達の訓練にも率先して参加していて、その強さは冒険者で言うところのAランク」


 恰好や雰囲気だけじゃない。

 実力もロメリアさんが認めるほど。

 それにしても、なんだったんだろうか……優勝トロフィーを渡してきた時に、彼女が俺に言った言葉。


「次会った時が楽しみね」


 まるで、次も会うみたいな。

 でも、あの目……完全にロックオンされたかのように鋭かった。なんだか飢えた獣に狙われたかのような、そんな感じ。


「戦う女王様、ね。会ってみたかったわー」


 と言いながらミリネッタさんは、ベッドに再び倒れる。


「まあ、近いうちに会えるだろう。なんだったらあたしが紹介してやろうか?」

「え? なんで師匠が」

「なんでもなにも。シェリスティとは昔一緒に旅をした仲間だからね」


 まさか、女王と旅をしていたなんて。いや、昔だからその時は王女か? まあ、ともかく王族を連れていたとは……。


「それ、絶対大事になったんじゃ」

「あの頃からシェリスティはお転婆だったかねぇ。いやぁ、懐かしい。あの頃は、一緒にシーマを弄っていたなぁ」


 シーマさん……姉だけじゃなく、王族からも……そりゃあ、あれだけめんどくさがりな性格にもなるはずだ。いや、元からってのもあるだろうけど。

 

「色々あったが、その経験も今に生かせているというわけだ」

「あれ? じゃあ、シェリスティさんはロメリアさんのライバル?」

「あー、そうとも言うね。でもまあ、お互いにこの王都に腰を落ち着かせて自由にやっている。あたしは、教師をしつつ薬剤師。シェリスティは女王として国のために。会おうと思えば会えるだろうが、あえて会っていないんだ」

「どうして?」


 メリスが問いかけると、ロメリアさんは静かに立ち上がり。


「なんでだろうねー」


 などとはぐらかしながら部屋から出て行った。


「行っちゃいましたね」

「凄く気になる……」

「まあ、ロメリアさんと女王様の関係は後にして……お疲れさまでした、ミリネッタさん」

「ええ、お疲れ様。優勝はできなかったけど、まああなたが優勝したからよかったとしましょう」


 そうは言っているが、やっぱり悔しそうだ。

 

「これ、どこに飾りましょうか?」

「玄関先に飾ろう」

「え?」

「そうですね! 台座なんかを作って!」

「中央辺りにどーんと」

「いやあの、さすがにそれは恥ずかしいんだけど……」


 確かに、いいトロフィーだけど。さすがにあの豪華な屋敷の玄関に飾るのはちょっと……。想像しただけで気恥ずかしくなってしまう。

 せめて、自分の部屋にこっそりとだな……。


「それじゃあ、肖像画とかも一緒に飾っちゃいましょうか?」

「採用」

「ならカワエルちゃんにお任せです! 本職顔負けの絵画を描いてみせましょう!」

 

 いや、本当にマジで……勘弁してほしいです。

 その後、大分回復したミリネッタさんだったが、まだ足元がふらついていたので俺がおぶって帰ることになった。


「あ、外は夜になってたのね」

 

 外に出ると、外はすっかり太陽が沈んでいた。


「まあ、私としては夜になっていたほうがよかったけど」

「なんで?」

「さすがに恥ずかしいっていうか……」


 あー、うん。確かに、子供ならともかく。ミリネッタさんのような大人が可愛らしい着ぐるみに背負われているのは……。

 

「ですが、夜とはいえ人は居ますよ?」

「な、なるべく人がいないところを通って」

「了解です」


 明日は、どんなことがあるだろう。

 そんなことを考えながら、俺達は帰路につくのだった。

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