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第九話 着ぐるみを見詰める者、勝ちは譲らない

 剣撃杯が佳境に差し掛かる中、特別室にて剣だけで戦う雄姿達を高揚した表情で見詰める女性が居た。

 黄金に輝く鎧を身に纏い椅子にどっかりと腰掛けている。

 傍らには、黄金の鞘に納められた長剣。

 

「はあ……やっぱりいいわねぇ。戦う者達のこの気迫……! スキルを使えないがゆえに、磨き上げてきた技術と知識を駆使し、肉体を動かす!」


 高ぶった声を上げながら、深紅の長い髪の毛を揺らす。


「いつ見ても、気分が高揚するわ! ……それにしても」


 くすっと笑みを浮かべとある絵を手にする。

 描かれていたのは全体的に丸い体系の二足歩行の虎―――そう湊だ。かなり上手く描かれているが、まだところどころ未熟なところが見受けられる。

 しかし、一生懸命描かれているということが伝わる絵だ。


「まさか、噂の動物系冒険者くんが参加してくれているだなんて」


 つーっと湊の絵を指先でなぞると、部屋のドアをノックする音が響く。


「クルスです」

「入って来なさい」

「失礼します」


 部屋に入って来たのは、クルスだった。

 女性は椅子から立ち上がり、踵を返す。

 

「残念だったわね」

「申し訳ありません。ご期待に沿えず……」


 クルスは、その場に膝をつき首を垂れる。


「構わないわ。あなたが未熟だからこそ、この剣撃杯に参加させたのだから。それで? 強くなるために何をすべきなのか……わかったのかしら?」

「はい。強くなるためには……鍛錬あるのみ!!」

「ええ。確かに、鍛錬は必要よ。けど、あなたに足りないのは実践。圧倒的に経験が足りないの」

「な、なるほど」

「強くなりたいのなら、鍛錬に加え実践を積むこと。いいわね?」

「はっ!!」


 よろしい、と言い再び椅子に腰を下ろす。


「クルス、こっちに」

「畏まりました」


 女性はクルスを呼び、傍らに立たせる。


「しっかり見ていきなさい。そして、己の糧にするのよ。この決勝戦……激しくなるわ」



・・・・



「お待たせしました! これより剣撃杯決勝戦を開始します!!」


 審判の宣言に、闘技場内は今まで以上に湧く。

 空気は揺れ、戦う俺達の感情を高ぶらせる。

 いよいよ剣撃杯は決勝戦。

 予想外の参加となった俺だったが、ここまで勝ち残った。そして、俺と戦う相手は……。


「ランダムだから、途中で当たるかと思ったけど、運よく決勝戦まで残ったわね」

「はい。あんな約束をして準決勝とかで当たったらどうしようかと思いましたよ」


 もちろんミリネッタさんだ。

 豪快な戦いをしていた俺に対して、ミリネッタさんは華麗な戦いで相手を翻弄させ勝ち残ってきた。

 

「両選手! 準備はよろしいですか?」


 審判も決勝戦ということもあり、より声を張り上げている。

 そんな審判の問いに、俺達は。


『はい!!!』


 頷くのではなく、声を張り上げ答えた。

 刹那。

 先ほどまでうるさいほどに湧いていた闘技場が静寂に包まれる。そんな中、俺達は無言のまま武器を構える。

 

 ミリネッタさんは、その素早い身のこなしと手数の多さで勝負する。

 対して、俺は大剣による力押し。

 一撃を当てれば確実にダメージを与えられる。

 

 なら、俺がやることは。


「それでは、剣撃杯決勝戦! 湊選手対ミリネッタ選手!! 試合」


 相手の動きを予想して、確実に攻撃を当てる!


「開始!!!」


 刹那。

 俺は飛び出す。


「……」


 ミリネッタさんは動かない。静かに、じっと俺のことを待っている。

 カウンター狙いか? だが、俺は止まらない。


「ふん!」


 まずは小手調べに斜めからの一撃。

 

「甘いわ!」


 しかし、俺の攻撃を読んでいたようで、すでに俺の左横に居た。

 がら空きの横っ腹に攻撃をせんと二本の短剣を振るうが。


「おおお!!」

「ちょっ!?」


 無理矢理軌道を途中で変え、横薙ぎに振るい反撃をする。


「いっ、たぁ……!」


 なんとか二本の短剣を重ね防御するもかなりの衝撃だったようで、十数メートルほど吹き飛ばされる。

 涙目になりながらも、すぐに動き出す。


「逃がしませんよ!」

「もう……! 図体の割に素早いんだから!!」


 それからしばらく防戦一方となったミリネッタさんだったが、俺が再び横薙ぎに振るった瞬間、跳躍し俺の頭上をとる。

 

「上!」


 と思ったが。


「―――下よ」


 それはミリネッタさんによる素早い動きでできた残像だった。

 まんまと騙された俺は、ミリネッタさんから一撃を貰う。


「ふう……やっと一撃」

「やられましたよ」


 油断をしていたわけじゃない。むしろ本気でやっていた。なのに一撃を入れられたということは……それだけミリネッタさんの実力が上がってきているということ。

 やっぱりゲームで戦ってきた俺と違って、命の危険を冒してまで戦ってきた彼女は成長が早い。

 ゲームの感覚を忘れる、とまではいかないけど。

 俺も、この世界での戦いに慣れないといけないな。


「うおおお! 初めて一撃を入れたぞ!」

「すげえ! これ、勝てるんじゃねぇか!」

「頑張ってー! ミリネッタさーん!!」


 そう。この剣撃杯で俺は初めて一撃を貰った。

 そんな俺に、ただ一人一撃を入れたミリネッタさんに、観客達は大いに応援をしている。

 

「まだまだ行くわよ、湊。勝ちにいかせてもらうわ!」

「いえ、譲りません! この勝負、俺が勝ちます!!」


 この剣撃杯で……俺も成長してみせる!

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