第八話 仲間だからこそ、轟かせる着ぐるみ
「はあ!」
(明らかに剣筋がぶれている……やっぱりまだ衝撃が残っているようだな。なら)
俺の攻撃をなんとか防ぎ切り、反撃をしてくるクルス。
だが、明らかに動きが鈍くなっている。
俺は、その隙を逃さず、斜めに振り下ろされた剣へと大剣をぶつける。
「ぐあっ!?」
まだ先ほどの衝撃が消えていなかったクルスは、俺の攻撃に耐えられず剣を手放してしまう。
「もらった!!」
「しま」
なんとか回避しようとするも間に合わない。
振り下ろされた大剣をまともにくらい腕輪の色は黄か赤へと変わった。初戦の選手と違い気絶はしなかったもののクルスは、その場に膝をつき激しく呼吸をしていた。
「そこまで! 勝者湊選手!!」
「うおー!!」
「いい試合だったぞー!!」
「かー! いけると思ったんだけどなぁ……」
試合が終わり、救護班がクルスへと近づいていく。
「だ、大丈夫です。少し痺れているだけなので」
ふらつく足取りでなんとか立ち上がり、クルスは俺を見詰める。
「悔しいですが、俺の負けです。こうして実際に戦って見て理解しました。やはり見た目では相手は判断できないと」
「あははは。俺の場合は、まあ……」
仕方ないことだ。この見た目で、あれだけ戦えるなんて誰が思うか。いやまあ【熊ファイター】や【猫ソルジャー】よりは幾分か戦えるとは思える見た目をしているけど。
やっぱり【熱血熊ファイター】したほうがよかったか……いやでも、あれは攻撃力特化の着ぐるみだからもしその攻撃力で大剣を人間に当てれば……いくら防御結界があるとはいえもしもってこともある。
そう考えるとバランスタイプの【猫ソルジャーNK2】が一番だろう。
「俺もまだまだ修行が足りなかった。……湊さん。今度はスキルありで戦ってくれますか? 正直に言って悔しいですから」
「もちろん。その時は、覚悟してくれ」
「ははは。もちろんです」
彼はもっと強くなる。
ちゃんと悔しいと思いを受け入れ、それを糧に強くなろうという意思に換えている。次はどうなるか俺も楽しみだ。
その後、俺は控室へと向かう。
「どうやら勝ったみたいね。まあ、あなたなら余裕だったんでしょうけど」
途中、ミリネッタさんと遭遇する。どうやら次の試合らしい。
「ここまで来たからには、優勝をします」
「あら? それって私に勝つってことかしら」
「もちろんです。仲間だからって遠慮はしません」
そう言うとミリネッタさんは小さく笑みを浮かべて、俺の背中を叩く。
「ええ、それでいいわ。逆に遠慮されて負けたら、私一生根に持つと思うわ」
「あはは。それは怖いですね……」
「さて、あなたと戦えるように勝ってきましょうか」
気合いを入れなおしたミリネッタさん。
俺は彼女のことを見送った後、控室へ向かうのだった。
・・・・
「凄い凄い! また勝っちゃったよ! 湊お兄ちゃん!」
「ああ。クルスも結構な手練れだが、湊は別格だ。つーか、なんであんな見た目で機敏に動けるんだよ」
「ははは。確かに、言われるとそうだ。見た目は結構寸胴というか、どっしりしている感じだからね」
湊が去った後も会場は盛り上がっている。
次の試合まで待てない! 次だ! と観客達は叫び続けていた。
そんな中、冷静に分析しているロメリア達。
「なあ、お前達はどうしてかわかるか?」
と、アーレンはカワエルやメリスに問いかける。
「そーですねー」
売店で買ってきたアイスクリームを舐めながらカワエルは、少し思考した後。
「湊くんだからです!」
簡潔に、それでいて湊の実力を知っている者達なら納得してしまうように言った。
その証拠に、アーレンはあー、と納得したように声を漏らす。
「うん。なんでかって言われたら、湊だから。でもあえて、付け加えるなら湊が特別な存在だから」
「特別な存在? まあ、確かにそうだけど」
誰から見ても、湊は普通とは違う存在だ。
ロメリア達も、それは理解している。
「どういう意味だ?」
「……秘密」
「な、なんだよ。そう言われると気になるだろ? なあ、ティナ」
「気になるー! メリスお姉ちゃん教えてー!」
「ふふ。ティナの頼みでもだめ」
「えー!!」
「まあまあ。おそらく彼にとってとても重要なことなんだろう。もっと仲良くなれたら教えてもらえるはずさ。だろ?」
ティナを宥めながらロメリアが、メリスに言う。
「そういうこと。でも、結構すぐに教えらるかも」
「ほんと?」
「間違いないです! 湊くんは、すでにティナちゃんとは仲良しこよしですからね!」
「おや? どうやら、次の試合は我が弟子のようだ」
会話をしていると、次の試合のためにミリネッタが姿を現した。
ロメリアは、彼女の顔を見て笑みを浮かべる。
「随分と気合いの入った表情だね」
「なにかあったんでしょうか?」
「なにかあったんだろうね。まあ、大体予想はつくけど」
盛り上がる会場の中、ミリネッタは柄にもなく胸の前で拳を握り締め気合いを入れていた。
それを見たロメリアは、にやっと笑みを浮かべた。」




