第六話 少し時は戻り、頑張る着ぐるみ
少し時は戻り、選手控室にて。
初戦を終えた選手達が、次の戦いに向けて各々準備をしている。ミリネッタも初戦のことを思い出しながら、精神統一をしている。
(初戦は、なんとか勝ったけど……次はどうなるか。やっぱり体格の差。それにスキルが使えないから目の見えて苦戦してたわね)
なんとか攻撃を回避しながら戦い、勝利をおさめた。
対戦相手のトロスからもなかなかいい戦いっぷりだったと絶賛されたが、ミリネッタ自身はまだまだ課題が残っていると思っていた。
「ミリネッタさん。今、良いですか?」
「クルス? ええ、構わないわ」
クルスに話しかけられ、ミリネッタは目を開ける。
「まずはお互い初戦突破できてよかったですね。ミリネッタさんの相手がトロスさんだと聞いた時は、どうなるかと思いましたよ」
「やっぱり彼、有名なのね」
「はい。昔は、相当荒い戦いをしていたようで。今では紳士的な性格をしていますけど」
へえ、意外ね……とミリネッタは相槌を打つ。
「あ、それでですね。ずっと言おうかどうか迷っていたんですが」
「ん?」
「今回の大会。ロメリアさんが参加するようなんです」
「へ? し、師匠が?」
そんなこと聞いていないとミリネッタは驚く。
今回は、修行ということで参加させられた。
まさかサプライズ? しかし、そうなると次の対戦相手がロメリアになるかもしれない。
「ええ。控室へ向かう前にロメリアさんの姿を見て、彼女の口から参加すると」
「……」
Aランク冒険者の参加。
この場にいないということは、別の控室に居ると言うことになる。ミリネッタは、真実かどうか確かめようと立ち上がるも、思い止まる。
(……あの師匠のことだから驚かせようとしているのかも)
そういうことだったら、その時まで待ってみよう。
と、再び腰を下ろした刹那。
「湊選手! 湊選手は居ますか!?」
とても知っている名前が控室に響き渡った。
(うん。ちょっと待って。落ち着こう……今、あの女の人湊って言ったのかしら。いやいや、さすがにないでしょ)
ロメリアが参加するという衝撃を受け入れた瞬間のことだ。
全力で応援すると言って確かに観客席へと向かったはずの湊が参加する。そんなことがあるはずがない。
「あの、なにかの間違いではないですか?」
と、クルスが女性に話しかける。
「いえ、間違いはありませんが」
「すみません。それを見せてもらっても良いですか?」
「はい。どうぞ」
ミリネッタは困惑している中、女性が持っている名簿を見せてもらうように言う。
「……なるほど。ありがとうございます」
名簿を見てミリネッタは察した。
ロメリアは確かにサプライズをしようとしていた。だが、ミリネッタが予想していたのとは違う。
そう。
剣撃杯に参加するのは……湊だった。
「たぶん観客席の方に居ると思うわ」
「観客席に? わ、わかりました。それでは失礼します!」
慌てて走り去っていく女性の後ろ姿を見詰めながらミリネッタは思った。
おそらくこのことは湊自身知ってはいないだろうと。
「ま、まさかロメリアさんだけじゃなく湊さんまで参加してるなんて」
「違うわクルス」
「え?」
「ロメリア師匠は参加していない」
「……てことは、あの時ロメリアさんが書いていたのって」
クルスも察したようで、苦笑していた。
(湊……お互い大変ね)
・・・・
どうも湊です。
今日は、旅仲間であるミリネッタさんのことを全力で応援しようと息巻いていたんですが……ロメリアさんのサプライズにより自分も参加することになってしまいました。
最初は、どうしたものかと困り果てていたのですが、俺自身も出てみたかった節があったので今こうして戦いの場に立っています。
それで対戦相手というか、闘技場内全体が盛り上がっています。
王都でも俺のことは広まっている。
可愛らしい動物の姿をしているのに、Aランク冒険者やBランク冒険者から一目置かれている強者だと。
最初は、俺も参加するんじゃないかと盛り上がっていたようで、後になって参加しないと知り結構残念がられていたようです。
しかし、ロメリアさんの策謀により御覧の通り。
会場は大いに盛り上がっています。
もしかして、ロメリアさんはこうなることを予想して?
「……」
チラッとロメリアさんの方へ視線をやると、静かに親指を立てていた。
これも、ミリネッタさんのため、なんだろう。
うん、そう思おう。
「それでは、剣撃杯初戦最後の戦いを始めます!」
これが初戦最後の戦い。
ちなみに俺は、着ぐるみを【猫ソルジャーNK2】にし、武器は大検を使うことにした。なんだかこの姿で普通の武器を握るのって初めてかもしれない。
ゲームの頃から、ずっと魚とかかつお節とか。変な武器ばっかり使っていたからな……。
なんだか新鮮だ。
「両選手。準備は良いですね?」
審判の言葉に俺達は頷く。
「では、試合開始!!!」
戦いが始まったと同時に、対戦相手が突っ込んでくる。
俺は、初撃を回避し左から容赦なく剣を振り下ろす。
「がっ!?」
いつもの調子で振り下ろしたのだが……一撃でダメージ判定がわかる腕輪の色が青から赤に変わった。
「……はっ!?」
審判も何が起こったのかわからず硬直していたが、我に返り動かなくなった青年を安否を確認する。
「勝者! 湊選手!!」
よ、よかった。気絶していただけのようだ。やるなら全力でって思ったけど、結構軽いんだな大剣って。いや、それで俺のステータスが高いってことなんだろうけど。
もし防御結界がなく、刃が潰されていなかったらと思うと……。
「と、とりあえず初戦突破だ!!」
会場が湧く中、俺は剣を持っていない左手を突き上げた。




