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第六話 話題の着ぐるみ、はじめての依頼

「美味しいですね、この肉料理」

「そうね。……悪いわね、奢ってもらちゃって」

「良いんですよ、これぐらい」


 冒険者登録をして、少し落ち着いたところで、俺はミリネッタさんと共に腹ごしらえをしている。

 ここまでの案内やイーナさん達への説明など色々世話になったので、奢りで。

 こっちの世界の通貨をどうやら最初から持っていたようで、大助かりだった。というか、完全に【フリーダム・ファンタジー・オンライン】の通貨と同じだった。

 

 やっぱりこっちの世界を媒体として作ったのだろうか。ちなみに通貨はレムと言うのだが、銅貨一枚で十レム。銀貨一枚で百レム。金貨一枚で千レム。紙幣一枚で一万レムとなっている。地球のように消費税のようなものはないので、計算も楽。正直、俺はこっちの方がいい。日本に居た頃は、一円とか五円とか気が付けば細かい小銭が増えて財布がすぐパンパンに膨らんでしまう。

 その度に、貯金したり、寄付していた。

 しかし、こういうファンタジー世界で紙幣というのは珍しい。大抵が銅貨、銀貨、金貨というイメージがあったからな。とはいえ、油断はできない。楽と言っても、日本と比べればの話だ。


 日本円のように、数が多くない分何枚も出さなければならない時だってある。

 例えば、五十レムのものを買う場合、銅貨を五枚出す。これが日本だった場合は、五十円玉を出せば簡単に済む。

 細かい計算がないだけで、油断すれば銅貨や銀貨でいっぱいになるだろう。


(ま、俺は収納魔法があるから。その心配はないんだけど)

「ねえ、見てよあれ。可愛いよねぇ」

「よくあんな手でフォークとナイフを持てるよな」


 金に関しては問題はない。

 もしなかったら持っているグラットベアーの素材を換金しようかと思っていた。この世界では依頼を受けるにも受注料を払わなければならない。

 そして、依頼を失敗した場合は受注料は戻ってこないし、冒険者としての信頼も落ちる。それが続くと、この冒険者に任せて大丈夫か? と受ける依頼も少なくなっていくのだ。


「というかあれ、食べてるのか? 口が動いていないんだが」

「顔がふっくらしてるからわからないだけじゃない?」

「……やっぱり目立ってるわね」

「ですねー」


 そろそろ視線にも慣れてきた。

 特に絡んでくる気配もないので、大助かり。

 

「あ、あのぉ」


 と思っていたら、話しかけられてしまった。無視したらしたで、問題が起きそうなので一度ナイフとフォークを置いてから向きを変える。

 そこには、声からわかっていたが若い女性冒険者一人が居た。

 

「はい、なんでしょうか?」

「そ、それって本物、ですか?」


 女性冒険者が指さすのは、肉球だった。

 あー、なるほど。


「触って確かめてみますか?」

「い、良いんですか!?」

「どうぞ」


 減るものじゃないので、左手を差し出す。もちろん肉球が上になるようにして。

 女性冒険者は、緊張した様子でそっと人差し指で……突いた。

 

「や、柔らかい……!」


 驚きの柔らかさだったのだろう。途端に両手で念入りにその感触を堪能していた。


「あ、あのあたしも触っても良いですか?」

「私も……」


 それを皮きりに、女性冒険者達が次々に近づいてくる。

 

「こ、これって何かの防具なんですか? ど、どこで手に入れたんですか?」

「いや、それは」

「し、尻尾も触ったりしていいですか?」

「い、良いですけど」

「じゃあ、あたしは耳を」

「ど、どうぞ」


 ゲームの時も、こんな感じだったが、あれはゲームだって割り切っていたからそこまで恥ずかしくなかったが……これが現実なんだと思うと、恥ずかしさが込み上げてくる。

 

「悪い。俺も、いいか?」

「じゃあ、僕も」


 あ、ついには男性冒険者さん達も。こ、これが着ぐるみの魔力……! 


「大人気でよかったわねぇ」

「あ、あははは」


 暴力沙汰にならないだけマシだけど、これはこれで大変だ……。



・・・・



「依頼内容は、村近くに出没するゴブリンの討伐。数は確認しただけで、十体っと」

「それぐらいなら早く終わりそうね。東側の村って言うと、あそこかしらね」


 ギルドで色々とあった後、俺はさっそく依頼を受注した。

 登録したばかりなので、受けられる依頼のランクはFだけ。その中から選んだのは緊急と書かれた討伐依頼だ。

 緊急と書かれている依頼は、普通のものと違い時間が限られており、その分報酬も高め。

 どうやら、村の近くでゴブリンの集団を見つけたようで、このままだと村を襲われるかもしれない。何かが起きる前に討伐をしてくれ、とのことだ。


「知っているんですか?」

「ええ。冒険者になり立ての頃にね。私の時は、ゴブリン三体だったけど。その時は緊急じゃなくて、普通の依頼だったわ」


 俺が依頼を受けると言ったら、ミリネッタさんも付き合ってくれると言ってくれた。

 まだ俺に色々と聞きたいことがあるとのことで。

 俺としては、まだこの辺りの地理を把握していないので、知っている彼女が協力してくれるのはありがたいことだ。


 依頼の流れは、まず依頼書と依頼料をギルドへ持っていき、それを申請。ギルド側が内容を確認してランクを決める。

 冒険者が依頼を受注、その後内容によっては依頼者の下へ行き詳しい話を聞いてから、討伐または採取をする。討伐、採取を終えたら依頼者からのサインを貰い、それをギルドへ届ける。そして、最後に予めギルドに提出していた報酬をゲット、という流れになる。


 もしこれがパーティーで受ける場合は、達成報酬は分配となる。なので、より多くの報酬を手に入れたい場合は、ソロで受けるのが良いのだが、ソロじゃ達成できないような依頼もある。

 パーティーで受けるとしたら、ちゃんと後に揉めないように慎重に相談するのが規則となっている。

 というか、冒険者は基本パーティーで挑む時は相談して色々決めるのだ。

 ま、相談せずに揉め事を起こす輩も居るようだが。


「それにしても、あなたの実力だとゴブリン十体は簡単すぎるかもね。なにせグラットベアーを一人で倒しちゃうんだから」

「そうかもしれませんが、村の人達は困っていますからね。難易度は関係ないですよ」

「……そうね」


 それに規則は規則。

 仮令たとえもっと上のランクの魔物を倒せたとしても、冒険者の一人になった以上、それに従わないとな。


「村のことも気になるけど」

「ん?」

「あなたの姿を見て、村の人達がどういう反応をするのかも個人的には気になるわね」


 くすっと悪戯っぽい笑みを浮かべて、俺を見るミリネッタさん。


「いきなり襲われなければいいですけど……」

「その時は、私がなんとか説得してあげるわよ」

「お、お願いします」


 この恰好だと今後もそういうことが起こることだろう。というか、ミリネッタさんはそのことを見越してついてきてくれた、のか?

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