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第八話 焦らず確実に、盾を構える着ぐるみ

「おーい、弟子ー。そこのすり鉢取ってくれ」

「はーい」

「あ、ついでに追加の薬草も」

「はーい」

「その後は」

「……あの師匠」

「なんだい?」


 ロメリアの弟子となったミリネッタは、今日も自宅に呼ばれていた。

 しかし、今度は外ではなく家の中。

 ロメリアは、Aランク冒険者であり、教師であり、薬剤師でもある。今日は、自宅にあるとある一室で注文された薬剤を作っていた。

 彼女が作るものはどれも一級品だが、一人でやっているため生産量も少ない。

 だが、それでも注文は絶えないのだ。

 

 ミリネッタは、その手伝いをしていた。

 弟子として、師匠の指示に従って。

 

「私、薬剤師の弟子になったわけじゃないんですけど」

 

 ミリネッタは、双剣使いとしてロメリアの弟子になった。

 そのため今やっていることに疑問を感じている。

 強くなるために、弟子になったというのに、自宅に招かれてからというものずっと雑用のようなことをやっているだけ。

 もちろん、師弟関係において、師匠の身の回りの世話をするのは理解している。

 それでも、思っていたのと違いミリネッタはつい疑問をぶつけてしまった。


「ふむ。確かに、君を弟子にしたのは双剣使いとして、だ」


 ロメリアは、持っていたすり鉢をテーブルに置き、ミリネッタと向き合う。


「だが、あたしは君のためを思ってやっている」

「私のため?」

「そうだ。確かに、強くなるためには修行あるのみ! 実践あるのみ! ていうのが普通だが。今、君に必要なのは余裕だ」


 その言葉に、ミリネッタは何か思うことがあり、目を見開く。

 

「気づいていないとでも思っていたかい? 君は、今焦っている。その理由は……仲間の存在、かな?」


 更に追撃の言葉を突き付けられ、ミリネッタは目を瞑り深く息を漏らす。


「そう、ですね。その理由であってます」

「まあ、わからなくもない。あの三人、めちゃくちゃだからね。纏う空気、というか存在感? まだ実際に強さを見ていないけど。強いことは確かだ」

 

 ミリネッタは最初冒険に憧れていた。

 だからこそ故郷を出て冒険者となった。

 しかし、外の世界を知れば知るほど、自分の実力が不足している。もっと強くならなければ、この先の冒険は厳しいと。

 そんな時に、現れたのが湊だった。


「最初、湊を見た時……その存在感に圧倒された。熊なのにちょっと可愛らしいし、喋るし、魚を武器にしているし。グラットベアーを簡単に倒しちゃうしで」

「言葉にすると、本当に彼は異質だね」


 ですよね、と苦笑いをする。


「でも接していくうちに、年相応の男の子っていうか子供っぽいところもあって目が離せないっていうか」

「ついお姉さんしてしまうってことかな?」

「そうですね。まあ今となってはカワエルがその位置になってますけど」


 くすっと微笑むミリネッタにロメリアは腕を組んだまま言葉を投げる。


「……でも、そんな子達の強さを見て焦ってしまっている。だろ?」


 普段は子供っぽい一面を見せるが、いざ戦いとなれば圧倒的な存在感を見せる。

 ミリネッタも昔よりも強くはなった。

 が、それでも湊達と比べれば天と地の差だろう。


「仲間だから。一緒に居て楽しいから……だから、余計に思っちゃうんです。私だけ普通だなぁって」

「彼らならそんなことを気にしないとは思うが」

「ええ、私もそう思います。でも、やっぱり考えちゃうんですよ。もっと強くなりたい。仲間として隣に立ちたいって」


 ミリネッタの気持ちを本人の口から直接聞いたロメリアは、笑みを浮かべながら近づいていく。


「わかるよ、その気持ち」

「え?」

「今はAランク冒険者だが、昔のあたしは天才の弟と比べて色々焦っていた時期があったんだ」

「シーマさんと?」


 今のロメリアからは考えられない。そう思いながらミリネッタは耳を傾ける。


「弟は、やる気がないのに才能に溢れていてね。対して、あたしは努力しても背中が少し見えるぐらい。当時のあたしは、日常生活で姉としてふるまっている中で相当焦っていた」

「……」

「だが、焦りは人を盲目にする。努力し過ぎたあたしは体を壊してしまってね。その時、弟に言われたんだ。馬鹿じゃないの? てね」

「ば、馬鹿?」


 衝撃の言葉にミリネッタは何度も瞬きをする。ロメリアは、その時のことを思い出し笑みを浮かべる。


「ひどいだろ? 怪我人相手に容赦なく馬鹿って。けど、その言葉を聞いて時……本当にあたしは馬鹿だったって身に染みたのさ。焦って、体を壊して、心配をかけてしまった。あたしは、弱かった。力とかじゃない。心が、弱かったんだって」

「心……」

「そこからは、もう馬鹿みたいに体を酷使しなくなった。そのおかげもあって心に余裕ができて、どんどん強くなって。今では、誰もが認める冒険者ってわけだ」


 ぽんぽんっと右肩を何度も叩く。


「だから、焦るな。焦って体を酷使した結果。取り返しのつかないことになったらどうする?」

「……そう、ですね」

「師匠としてのアドバイスだ。よーく、心に刻んでおくように」



・・・・



「さあ、どこからでもきてください!!」


 どうも、湊です。

 お昼前のこの時。

 俺は、第二戦技場にてアーレンさんと軽い模擬戦というか、スパーリングみたいなことをしようとしています。

 

 きっかけは、アーレンさんが鎧を纏った時、どんな戦いをするのか。

 そこから色々あって、実際に力を見せてやるとなり、現在に至る。

 アーレンさんは、Bランク冒険者であり、色々と目立つため他の冒険者達も注目している。


「それはいいが……お前、それ盾か?」

「はい! 今回は、アーレンさんの戦いを見るということなので、俺は完全に受け身になろうかと」


 鎧を纏った状態のアーレンさんが、俺が両手に装備しているものを見て眉を潜めている。

 基本的に着ぐるみ士の武器は特殊系統だが、掴む武器で統一されている。

 なので、グローブみたいな手に取りつけるものはない。

 

 そういうわけで、俺が現在装備しているのは手で掴むタイプの盾。

 それを両手に装備している。

 武器名は【シールドン】だ。大きさは、そこまででもなく。軽量タイプの円盤盾だ。


「そういうことか。なら、思いっきりいかせてもらうぞ」

「ドン! ときてください!」

「パパー! がんばれー!!」

「ふっ、娘も応援してくれているんだ。張り切っていくぜ!!」


 来る。赤い鎧を纏っているということは、属性は火。アーレンさんは、魔法を飛ばすというのが苦手らしく、大体が纏わせて発動するスキルらしい。

 

「まずは」


 ドン! と音が響くほど力強く地面を蹴り、一気に距離を詰めてくる。そのままの勢いで右拳に炎を纏わせた。


「《紅蓮拳》!!」

「うおっ!?」


 ただ炎を纏った右ストレートだというのに、ものすごい衝撃だ。

 盾で防ぐも、衝撃を完全に殺すことができず、そのまま体が押されてしまう。

 

「良い盾だな。俺の《紅蓮拳》をまともに食らって傷一つつかないなんて」

「硬いだけじゃないんです。実は面白い機能があるんですが、まあそれは後でということで」

「気になる言い方を……まあいい。次行くぜ!」


 最初は一発だったが、次は両手に炎を纏わせ連撃。


「《紅蓮双連撃》!!」


 戦いではないということを理解してくれているアーレンさんは、盾だけに何度も攻撃を与え続ける。

 俺も、衝撃に押されながらも攻撃を受け続けていた。

 

「こいつで!!」


 ずっと続くかと思っていた連続攻撃は一度止み、アーレンさんは跳躍。

 そのまま体全体に炎を纏わせた。

 

「こいつを受け切れるか!」

「受けきってみせます!!」


 ぐっと【シールドン】を平行に構え、アーレンさんの攻撃を待つ。


「《火皇蹴落撃》!!!」


 右足を向け落下してくるその姿は火の鳥。

 距離があると言うのに熱気が凄い。

 

「うおおおおっ!?」


 押し潰されるかと思うほどの圧力。

 だが……。


「―――やるな、湊」


 俺は受けきった。

 地面がかなり砕け、へこんでいるが俺は受けきった。【シールドン】を蹴り、一回転してから地面に着地したアーレンさんは、ぐっと親指を立てる。


「良い根性だ! ますます気に入ったぞ、お前!!」


 俺としても、かっこいいスキルを見れてものすごく満足しています。

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