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第五話 エルフと共にギルドへ、冒険者登録をする着ぐるみ

「何度も言うようだが、問題が起きればすぐに警備の兵達が向かう。その時は、私の名が刻まれた仮通行証を見せるように」

「わかりました」

「では、私はこれで失礼する。ミリネッタも、そいつのことを気にかけてくれ」

「な、なんで私が……」


 申し訳ありません、ミリネッタさん……。

 イースさんが去っていき、俺とミリネッタさんは街の中へと入る。駐屯所から入ると、人気がない。どうやら人が二人並んで歩けるほどの狭い道のようで、奥の方に門と繋がる大通りが見える。


「さ、行きましょう」

「き、緊張してきた……」

「門の前から色んな人に見られていたから、今頃少しずつ広まっている頃かもね」


 緊張が走る中、俺はミリネッタさんと共に大通りへと向かう。

 

「うおっ!? な、なんだこいつ!?」


 出てすぐ二十代ぐらいの男性と遭遇する。

 一般人のようで、俺のことを不思議そうに見上げている。


「ほら、行くわよ」


 俺も思わず立ち止まってしまったが、ミリネッタさんに手を引かれその場から動き出す。

 

「え? 猫? てかでか!?」

「虎じゃない?」

「大きいけど、ちょっと可愛いかも……」


 ゲームでは慣れていたが、やっぱりこう現実だと思うと……それも、こんな奇妙な恰好をしているのは俺だけ。

 地球では奇妙な恰好をしていようとも着ぐるみ士というジョブだと皆わかっていたから、そこまで騒がれなかった。まあ、この恰好で奇妙なスキルで活躍したら別の意味で騒がれるけど。


「お母さん見て見て! おっきな猫さん!!」

「そ、そうね……」


 うーむ、子供には人気、か。女性にも少なからずそこまで警戒されてはいない様子。

 

「それで、ミリネッタさんはこれからギルドへ向かうんですよね?」

「ええ。依頼の薬草を届けなくちゃならないからね」


 と、薬草が詰まった鞄を軽く叩く。

 俺もついでにギルドに行って冒険者登録でもしようか……この姿だとやれることは少ないだろうし。こんな珍妙な姿で活躍できるとしたら冒険者以外だと、孤児院とかで子供の相手、とか? それかどこかの店の宣伝とか。

 ん? それって地球で着ぐるみを着ている人達がやっていることと変わらないんじゃ。


「じゃあ、俺も一緒に行っていいですか?」

「いいわよ。冒険者登録するのよね?」

「はい。冒険者だったら、俺の恰好もあまり気にならないかなと」

「冒険者でも、気にするんじゃない?」

「……ですよね」


 変なのに絡まれなければいいが。異世界ものの定番と言えば、街に辿り着く、ギルドへ向かう、登録または変なのに絡まれる、て言う流れをよく見る。

 はっきり言って、俺の姿で絡まれない方がおかしい。

 とりあえず、ここは絡まれた場合、どう対処するかを考えなければ。


「ねえ、湊」

「……」

「湊ってば!!」

「は、はい!?」

「何を考えていたか予想はつくけど、もう着いたわよ? ギルド」

「え?」


 顔を上げると、そこには冒険者ギルドと書かれた看板が飾られた大きな建物があった。そこからは武器、防具を装備した者達が出入りしている。

 

「は、早くないですか?」


 まだ街に入って五分ほどしか経っていない気がする。


「当たり前よ。私達が入ってきた北門は、ギルドに一番近いんだから」


 そう、だったのか……騒ぎが起こらず早々に到着したのは喜ばしいこと。だが、まだ何も思いついていない。

 このまま入るのは無謀。いや、一応ミリネッタさんも俺の考えていることを察してくれているみたいだし、いざとなればまた協力してくれる、よな? 情けないが、彼女と会ってからずっと頼りっぱなしだ。まあ、なにをしても初めては誰かに頼るのが当たり前。

 始めから一人で全部ができる天才はごく一部。【フリーダム・ファンタジー・オンライン】を始めた時も、めちゃくちゃ自由度が高いからプレイヤー達で集まって色々教え合っていたっけなぁ。


「……行きましょう」

「ええ」


 こうなったら俺も男だ。いつまでもうじうじしてはいられない。これまでゲームで培ってきた経験と、漫画やアニメの知識で切り抜けて見せる。

 いざ、ギルドへ!


「それじゃ、行くわよみん―――きゃっ!?」


 あ、いきなりトラブル発生。

 入った途端に、出ていこうとしていた女性冒険者にぶつかってしまった。そのさいに、ぼよんっとどこかコミカルな効果音が鳴り、女性冒険者は尻餅をついてしまう。


「お、おい。大丈夫か?」

「ええ、大丈夫よ。でも、いったいなにに……な、に、に……」


 仲間であろう剣士風の男性冒険者に助け起こされながら女性冒険者は、俺を見る。

 硬直、沈黙、凝視。

 女性冒険者は、思考停止したかのように動かなくなってしまった。は!? こうしてはいられない。誤解をされないようにしないと。それとぶつかったことを謝らなければ。


「すみません! 怪我などはありませんか?」

「え、あ、うん。大丈、夫だけど」

「よかった……あ、こんな恰好をしていますが、魔物とかではありません。それにちゃんと北門で通行の手続きをしてきました。これ、証拠の通行証です」


 そう言って、俺はイーナさんから貰った仮通行証を見せる。

 冒険者達は、イーナさんの名前を見ると驚き、マジか、噓でしょ? とこそこそ話し合い始めた。


「ほら、いつまでも出入り口の前で突っ立ってないで行きましょ」

「あ、はい。それでは、失礼します」

「は、はい」


 まだ緊張が抜けていないようだ。前からくる人に気づけないとは。


「な、なんだあの恰好」

「魔物? にしてはなんか威圧感がないっていうか」

「いや、魔物だとしたらもっと騒がれるだろ。なんかの装備、とかじゃね?」

「新しい種族じゃないの? なんか可愛い」


 当然だが、ギルド内でも目立ってしまう。俺はミリネッタさんの後ろを歩き、受付へと向かう。どうやら受付は、登録、受注報告、素材鑑定、この三つに分けられているようだ。

 

「あなたは、冒険者登録よね? じゃあ、あっちよ。私は、その隣の受付だから。……一人で大丈夫?」

「なんとか、頑張ります」


 ミリネッタさんに心配される中、俺は登録の受付カウンターへと向かう。

 どの受付も分類毎に、三人配置されており、俺は空いているところへ。

 

「あの冒険者登録をしたいのですが」

「あ、はい。ようこそ冒険者ギルド……へ?」


 なにか書類の整頓をしていた受付嬢さんは、俺の声をかけられ振り返る。

 が、俺を見て硬直する。

 

「……こほん。ようこそ冒険者ギルドへ。冒険者登録ですね。私は、受付のシレーヌと申します」


 さすがプロ。一瞬、謎の存在に思考が停止したようだが、すぐ切り替えた。

 同じく登録の受付をしている人達も、彼女と同じく一瞬驚いたようだが、今は仕事をしている。どうやら、ここは冒険者登録だけではなく、依頼の登録もできるようだ。

 俺の隣で、五十代ぐらいの男性が一枚の用紙と金を提出している。


「では、こちらの登録書にお名前、年齢、性別をお書きしてください」

「わかりました」


 俺は、シレーヌさんが差し出したペンを握り、言われた項目へ記入をする。

 お? なんだペン先が淡い光を。

 これは魔力か? ゲームにもこういうのがあったっけなぁ。

 言われた項目全てに記入した俺は、ペンと共にシレーヌさんに用紙を差し出す。


「確認します。お名前、湊様。年齢十八歳、性別男性。はい、こちらで登録します。間違いはありませんか?」

「大丈夫です」

「わかりました。少々お待ちください」


 俺からの確認を終えたシレーヌさんは、受け取った用紙をなぜか綺麗に折り畳む。

 え? と思っていると、折り畳んだ用紙へペンと同じく魔力の輝きを放つハンコを押した。


「おお」


 それにより一枚のカードへ変化した。

 

「お待たせしました。こちらが湊様のギルドカードになります。登録は無料となりますが、カードを紛失し、再発行する場合は料金が発生しますのでお気を付けください」

「わかりました」

「そちらは全国どこの冒険者ギルドでも使用が可能で、身分を証明する時にも役立ちます」

「通行証とは違うんですか?」

「はい。あくまで身分を証明するものですので、通行証とは別となっています」


 どうやら、ギルドカードを見せることですぐ身分を証明でき、面倒な手続きをパスできるらしい。

 異世界ものの定番だと、ギルドカード一枚で二つを両立できるのだが。

 その後、冒険者の心得やランクをどう上げるかなどを説明された。


「―――以上です。何か質問はありますか?」

「いえ、特には」

「では、最後に……冒険者湊様。あなたのご活躍、期待しております」

「期待に応えられるよう頑張ります!」

「ふふ。頑張ってくださいね」


 これで、俺も冒険者。特にトラブルもなく登録は終わった。

 さて、この後は。


「どうしよう、これ」


 気づいていた。

 登録している間もずっと気になっていた。当然と言えば当然なのだが、振り返ると俺のことを物珍しそうに見ている冒険者達でいっぱいだった。

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