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第七話 子供の相手をしよう、感動する着ぐるみ

「まさかギルド内にこんな施設があるなんて」

「さすが王都の冒険者ギルド、と言ったところですね。はーい! 幼き子達!! 天使のカワエルちゃんですよー!!」


 王都へ訪れて二日目の朝。

 俺はさっそくギルド側から提示された依頼をカワエル、メリスと共に受けた。珍しく指定ランクがない依頼ということで、冒険者になったばかりのメリスでも受けることができた。

 その内容とは。


「天使さんだ!」

「でっかい猫さんも居る!」


 子供の相手。

 親が共働き、またはシングル。働いている間に子供の世話ができない。そんな時のために用意された施設がギルド内にある。

 もちろん託児所もあるが、それでも手が回らない。そこで、ギルドに小さいながらも預り所を作り、冒険者達に依頼として子供達の相手をさせようと。


 もちろん依頼なので報酬は出るし、貢献度も稼げる。

 さっきも言ったが、ランクが設けられていないので、メリスのように冒険者に登録したばかりの初心者におすすめの依頼だ。


 ただし、相手は子供。それも乳児も居る。

 短気な者や、子供嫌いな者には無理な依頼だ。依頼を受ける場合は、当然ギルド側が受けても大丈夫かどうかを判断する。

 ちなみに、受ける冒険者がいない場合はギルドの職員が相手をすることになる。


「よーし、皆! 今日もいい子にして遊ぶぞー!」


 そして、ここのリーダーがティナちゃんだ。

 どうやらティナちゃんは、父親のアーレンさんが、依頼をしている間ずっとここに居るんだそうだ。

 元々アーレンさんは、各地を転々としている冒険者で、ティナちゃんと一緒に旅をしている。

 奥さんも冒険者だったようだけど……。


「それじゃあ、わたしから良いものを見せてあげる。約束だったから」


 そういえば、ティナちゃんと約束をしていたんだったな。

 けど、メリスで良いものと言えば。


「さあ、皆。出てきて」


 召喚陣が展開すると、そこから屋敷に居るはずの意思あるぬいぐるみ達が現れた。


「わっ!? ぬいぐるみさんがいっぱい出てきた!?」

「しかも動いてる!?」

「なんでなんで!?」

「わたしのスキル」

「おおお!!」

「スキルすごい!!」


 さすがに魂が入っている意志あるぬいぐるみだとは説明しなかった。というか、小さな子達にそんなことを説明しても、理解してくれるかどうか。

 ぬいぐるみ達も、ずっと屋敷の中ってわけにもいかないからな。せっかく自由の身になれたんだ。

 

「待て待てー!!」

「ぬいぐるみさん。だっこさせて!」


 子供達も大喜びのようだ、もちろんぬいぐるみ達も。

 さて、そうなると俺は。


「新たな着ぐるみを公開する時が来たようだな」

「なんと!? いったいどんな着ぐるみなんですか?!」


 女の子を抱えたまま低空飛行をしていたカワエルが、こちらに振り向く。

 メリスも興味があるようで、じっと注目していた。

 

「こいつは今までの着ぐるみと比べてインパクトが凄いぞ。驚くなかれ!」


 ゲームでもなかなか人気のあった着ぐるみのひとつだ。


「見よ!!」

「……青い、球体?」

「ぼよんぼよんしてる」

「これぞ【ぼよよんスライム】だ!!」

「スライムって液状の魔物じゃないんですか?」

「俺の世界だとこういうのも居るんだよ」


 俺が装備したのは少し触れただけでぼよんぼよんと弾む青いスライム。可愛らしい顔も付いており、初期顔がドヤっているのだ。

 

「なるほど。ちなみに、強いんですか?」

「いや、全然」

「え?」


 そう。この着ぐるみは、ゲームなんかではよくある戦闘力が低いネタ中のネタ装備の一種。ステータスは、初期装備にも劣るのだ。

 

「つんつーん」

「わー、すごく弾むよこれ!」


 説明している間も、子供達は俺のことを突いてくる。うーん、この弾む感覚。懐かしいなぁ。最初の頃は、よくこれを装備して色々と遊んでいたものだが。

 どんどん新しい着ぐるみを手に入れて、極めんとするようになってからはすっかりご無沙汰だった。

 

「おーい! ティナ! パパが帰って来た……ま、魔物!?」

「え? いや、俺は」


 このまま子供達と遊ぼうとして近づいったところで、アーレンさんが入って来た。

 

「ティナ! 皆! 離れるんだ! く! だがなぜ魔物が!!」

「あのだから」

「《鎧装》!!」


 説明しようとするも、それよりも早くアーレンさんがスキルを発動する。

 その瞬間。

 アーレンさんの体が紅の炎に包まれ、全身に鎧を纏った。


「へ、変身した!?」


 地球で毎週のように見ていた特撮ヒーローを思い出し、俺は感動する。しかし、すぐこのままでは襲われると思い着ぐるみを変えた。


「ま、待ってください! 俺です! 湊です!!」

「湊? ……なるほど、そういうことか。姿を変えられるとは聞いていたが、まさか魔物にもなれるとは」


 なんとか誤解が解けたようで、アーレンさんは鎧を解除する。


「悪かった。てっきり子供達が魔物に襲われているかと思って」

「いえいえ。そんな」


 うーん、やっぱりああいうのは他の着ぐるみと違って危ういな。若干調子に乗っていたかもしれない。今後はこういうこともあると肝に銘じておかないと。

 話は変わるが、さっきのアーレンさんの姿に子供達は驚いていなかったな。

 

「もしかして、アーレンさんもここの子供達と遊んでいたり?」

「ん? ああ、そうだな。時々だが、遊んでる」

「その時にさっきの変身も?」

「変身? いやさっきのは《鎧装》って言って魔力で構成された鎧を纏っているだけだ。別に変身しているわけじゃない」


 おっと。ついに地球のノリで言ってしまった。しかしながら、それだけ俺は感動している。やっぱりああいうのは、いくつになってもかっこいいと思ってしまうんだ。

 

「な、なるほど。いやぁ、でもかっこよかったです! さっきの《鎧装》ってやつ!」

「おお! わかってくれるのか! いやぁ、やっぱりわかる奴にわかるもんだな!!」

「さっきのは赤かったですけど。まさかまだあったり?」

「おうとも! 色別に属性が違うんだが、他にも青、黄、緑の三色の鎧があるんだ!」


 やはりそうだったか。アーレンさんのベルトにはめ込まれた四色の玉。

 もしかしてと思っていたけど、フォームチェンジまであるとは。

 子持ちのヒーローか……良いと思います。


「ねー、さっきのぼよんぼよんはー?」

「っと、悪いなお前達。邪魔したようで」

「大丈夫ですよ」


 と言いながら俺は再び【ぼよよんスライム】に切り替える。


「ほら、ティナ。パパと一緒に買い物に」

「あははは!! ぼよんぼよーん!!」

「ははは。凄いだろ、ティナちゃんっ!」


 ……あっ。アーレンさんが、ものすごい形相でこっちを睨んでる。


「本当に親馬鹿」

「娘を取られた気分なんでしょうねー」


 基本的には良い人なんだろうけどな……。

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