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第五話 双剣使いの戦い、人形師と着ぐるみ

「やる前に、ひとつ聞いていいですか?」

「なにかな?」


 ミリネッタは、二本の短剣を構えたまま静かに問いかける。

 その間、ロメリアはくるくると短剣を回している。


「あなたのランクは?」

「……Aだよ」


 わかっていたことだが、やはりシーマの姉であるロメリアもAランクだった。

 言葉にされ、改めて実力の違いを叩きつけられた。

 カロティアに居た頃も戦ったことがない、Aランク冒険者。しかも、同じ武器の使い手。ミリネッタは、より一層気を引き締める。

 急に弟子にする、と言われて戸惑ってはいたが、ミリネッタ自身も強くなりたいとは思っていた。

 むしろ願ったり叶ったり。

 

「それじゃ、始めよう」

「はい」


 再び静寂に包まれる。

 風が吹く音、草木が揺れる音。

 二人が対峙し、数秒が経った。

 このままずっとにらみ合いが続くのだろうか? と思った刹那。


「ほいっと」


 無造作にロメリアが短剣を一本だけミリネッタ目掛けて投げる。

 けん制? なにかがあると思い、短剣を弾くのではなく回避する。


「―――え?」

「びっくりしたかな?」


 本来ならば、そのまま短剣は背後にあった木に突き刺さったはずだ。しかし、急にぴたりと止まる。

 いつの間にか背後に移動していたロメリアが受け止めていたのだ。

 そして、そのまま首筋に突き付けた。


(一瞬で? 転移魔法? 違う。私の使う《幻影瞬歩》とも違う。本当に急に背後へ現れた。まるで時でも飛んだかのように)


 ミリネッタの使う《幻影瞬歩》は、自分の幻影を作り相手を幻惑したうえで、相手の近くに近づくスキルだ。しかし、ロメリアにはそんな素振りはなかった。

 急に、ロメリアの気配が近くに現れたのだ。


「い、今のは?」

「《瞬転剣》っていうスキルさ。原理は簡単。投げたこの短剣の位置に任意で移動するのさ」

「まさか、そのスキルを私に覚えろと?」

「いや、ただ単純にこういうこともできるよと教えただけさ。言葉でAランクと言っただけじゃ不十分だと思ってね」


 確かに、言葉にするのは簡単だ。

 ミリネッタはロメリアがAランクと言っただけで信じた。

 が、こうしてとんでもないスキルを見せ付けられ、改めて彼女がAランクに相応しい実力者なのだと実感できた。


「さあて、ここからだ。まずは、君の実力を見せてもらおうか」

「……行きます」


 一度、距離を取ることなく本気で仕留めんという鋭い目つきで短剣を振るう。


「いい感じだね。けど、まだまだ―――おや?」

「《幻影瞬歩》」

「おっとと。危ない危ない」


 幻影に一瞬だけ気を取られたところへ右斜め下から切り裂こうとするも、簡単に止められてしまった。


「まだ!」

「お?」


 そこで動きを止めず、足払い。

 思いっきり背中から倒れたロメリアへ串刺しにしようと短剣を振り下ろす。


「な!? げ、幻影?」

「うむ。君もさっき使った《幻影瞬歩》だ」


 ミリネッタが刺したのは、ロメリアの幻影だった。

 本物は、いつの間にか木に背を預けており、手を振っている。


「でも、いつから」

「君が足払いをする時だよ」

「でも、あの感触は」


 足払いをした時の感触は、幻影なんかじゃなかった。それに、自分が使っているスキルで形成される幻影とはレベルが違う。

 あれではまるで。


「君のはまだまだ未熟。もっと極めれば実体と見間違えるほどの幻影を作り出せることができるのさ」

「……はあ。完敗。勝てる気がしないわ」


 実力差はあるとは思っていたが、想像以上だったためミリネッタは素直に降参する。短剣を手放し、両手を上げる。


「その清々しさいいね。それに、弟子にするには十分な実力を見せてくれた」

「本当に弟子にするんですか?」

「おや? 強くなりたくないのかな?」

「……よろしく、お願いします」

「うんうん。みっちり鍛えてあげよう!」



・・・・



「ほう。お嬢ちゃんか。冒険者になりたいというのは」

「よろしく」


 冒険者登録のために実力試験で合格しなくちゃならないということで、今はギルド内にある第一戦技場へと訪れていた。

 そして、今メリスと対峙しているのは大柄の男。全身を銀色の鎧で固めており、身長は二メートルを優に超えているだろう。対峙しているメリスと比べると何もかもが違い過ぎる。


「うわ、今日の試験官はトロスかよ」

「お嬢ちゃんも運がねぇぜ」


 どうやらあの試験官は、有名らしい。


「カワエルお姉ちゃん。メリスお姉ちゃん強いの?」

「カワエルちゃんで良いですよ。そうですねぇ……実際に見た方がわかると思いますよ」

「てぃ、ティナ。座るならパパの膝にだな」

「ご心配なく! 娘さんは、カワエルちゃんが責任をもってお世話します!」

「いや、だが!」


 カロティアと同じく王都の戦技場も観客席がある。

 今そこには俺達の他にも多くの冒険者達が座っている。ちなみに、楽しそうにカワエルの膝に座っているのをどうしようかと悩んでいる男の名前はアーレン・ウェルス。

 二十八歳で、Bランクの冒険者で、一子の父。ティナちゃんは、今年で六歳になったそうだ。


「あ、始まりますよ」

「がんばれー!!」

「あー! 応援するティナも可愛い!!」


 そうこうしている内に、試験が始まるようだ。

 色々と言われていたようだが、メリスの意思は変わらず。試験官もついに折れてしまった。


「お嬢ちゃん。こっちも試験官として責務を全うしないといけないんでね。覚悟をしてもらうよ!」


 と、大振りのハンマーを構える。


「おいおい、やべぇぞ」

「メリスちゃーん! 逃げてー!!」


 誰もがメリスのことを心配している。が、そんな心配など必要ないとばかりにメリスは、両手の指から魔力の糸を生み出す。

 そして、目の前に魔力の陣を展開する。


「ん? 君は召喚士なのか?」

「ちょっと違う」


 そう。あれは召喚陣ではない。魔力によって形成された陣。メリスは、その魔力を使い戦技場の土で人形を作ろうとしているのだ。


「熊の人形?」

「あれって、一緒に居た熊だよな?」


 まさか、俺のことを作るとは。

 

「なんであろうと、所詮は土! 我がハンマーで打ち砕いてくれる!! おおお!!!」


 土人形へとハンマーを豪快に振り下ろすトロス。

 誰もが容易に砕かれると声を漏らす。

 

「なに!?」


 しかし、土人形は片腕でハンマーを受け止める。その光景にトロスはもちろんのこと観客席の冒険者達も驚く。


「ただの土人形じゃない。魔力でこねて、固めた特別性。そう簡単には壊れない」


 くいっと糸を動かすと、ハンマーを弾く。

 跳ね退けられたせいで、バランスを崩したトロス。

 そこへ、土人形は追撃とばかりに右腕を振るう。


「ぐおおっ!?」


 金属を殴る鈍い音を響かせ、トロスは吹き飛ぶ。

 壁に激突し、動かなくなってしまった。

 

「い、一撃……」

「ちょっと、鎧へこんでるんだけど!?」

「どんな攻撃力してるんだ? あの土人形」

 

 あれ? 試験官が気絶したってことは、判定はどうなるんだろうか。相手側も、こうなるとは予想していなかったようだし。

 ……でもまあ、不合格ではないよな。

 

「これは誰が見ても、合格間違いなしです!」

「すごいすごい!!」

「あのお嬢ちゃん。何者なんだ? いや、お前らって言った方がいいか?」


 目立たない、というのは難しい。

 これは仕方のないことだが、とりあえず今はこっちに手を振っているメリスに手を振り返そう。

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