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第四話 娘想いの父と着ぐるみ、ハーフエルフからエルフへ

「ティナあああああ!! どこだあああああ!! パパはここだぞおおおおおっ!!!」

「うわぁ、なんか凄い叫んでますよ」

「カワエルより声大きい」


 おそらく、というか絶対父親だ。

 一子の父親にしては、どこか若くだがダンディな雰囲気がある。二十代後半ぐらいだろうか? どこかカーボーイっぽい恰好をしており、腰には赤、青、黄、緑の小さな玉がはまったベルトが見える。

 

「あ、パパだ!」


 やっぱりそうだったか。

 さて、変な誤解をされる前にティナちゃんを。


「そこの熊!!」

「あっ」


 遅かったようだ。男は、明らかに敵意のあるギラついた目で俺を睨んでいる。


「パパ―! 熊さん!!」

「ど、ども。熊の湊です」


 ここは、無害アピールでまず警戒心を解かなければ。いや、ここは冒険者ギルド。俺が冒険者だという証を見せれば。


「ティナ。離れるんだ! そいつは可愛い見た目をしているが、熊だ!! 食べられちゃうぞ!!」

「そうなの?」


 と、可愛らしく首を傾げながら聞いてくる。


「食べないよー」

「本当に大丈夫なのか? あの熊」

「でも、無害そうだし」

「というか街に入ってきている時点で大丈夫だってことだろ?」


 とりあえず、俺は敵ではないことを証明しなければ。


「俺は、冒険者の湊です。ランクはD。カロティアから来ました」


 そう言いながら、ギルドカードを周囲に見えるよう取り出す。

 

「ま、マジか」

「熊が冒険者?」

「偽物じゃねぇのか?」


 うん、疑われるのは仕方ない。

 

「そいつが本物って言うなら、受付で調べればはっきりする」


 ティナの父親が、受付を指差す。

 俺は、ティナちゃんを父親に預け、受付へ向かった。


「確認してください」

「は、はい。承りました」


 まだ多少びくびくしている受付のお姉さんは、俺から受け取ったギルドカードを魔道具に置く。すると、反応があり大量の文字が浮き上がる。

 

「た、確かにこれは本物のようです。え? これはカロティアのギルドマスターの押印?」

「嘘でしょ。カロティアのギルドマスターって言ったら」

「ロメリアさんの弟のシーマさんだよな?」

「Aランクの冒険者に認められてるってことなのか? あの熊」


 押印? いつの間にそんなものを。


「えっと、信じてもらえましたか?」

 

 予想外だったが、Aランクの冒険者。それもギルドマスターから認められているとなれば、こんな恰好をしていても信じてもらえるだろう。


「ひとまずはな。が! ティナは渡さん!!」

「親馬鹿」

「親馬鹿ですね」


 親馬鹿だ、完全に。

 でもまあ、可愛い娘をこんな怪しい熊に近づけさせたくないっていうのはわからなくもない。


「それで、用事を済ませたいのですが」

「あ、はい」

「この子の冒険者登録をしたいのですが」

「よろしく」


 自分のギルドカードを受け取った後、俺はメリスの冒険者登録をしようとする。俺ほどではないが、冒険者達は驚いている。

 見た目は、完全に十代前半ぐらいの子供だからな。

 それにずっと熊と手を繋いでいて、人見知りな雰囲気を出していたし。


「登録はよろしいのですが、カロティアと違い、こちらでは実力試験がありまして」


 うーむ。さすが王都のギルド。他のところとは違って試験で実力を測らないと登録できないようだ。

 

「大丈夫。それなりに強いから」

「……では、あちらの第一戦技場へお入りください。そこで、試験官がお待ちしております」

「わかった。じゃあ、行こう」


 まったく動揺した様子もなく、試験会場へと向かっていくメリスを見て冒険者達は心配そうに、それでいて実は強いんじゃないのか? という期待の眼差しを向けていた。

 そのせいか、結構な人数がメリスの後を追ってくる。

 

「ティナも行くー!」

「あ、ティナああ!! パパを置いて行かないでくれー!!」

「お姉ちゃん、強いの?」


 メリスの隣で、猫耳をぴこぴこと動かしながら問いかけてくるティナ。

 対してメリスは、小さく笑みを浮かべる。


「強い。それと、後で良いものを見せてあげる。楽しみにしてて」

「わー! なんだろ! なんだろ!!」


 さて、実力試験か。どうなることか……。



・・・・



「それで、私に用事って……」

「実は、弟子を募集していてね」

「え? で、弟子?」


 街を移動しながら、ロメリアは語る。

 それなりに長生きをして、教師としても、薬師としても楽しくやってきた。そこで、次に何をしようかと考え、思いついたのが。


「あたしが、これまで培ってきたものを弟子に伝授しよう! そう考えたのさ」

「でも、なんで私に?」


 まさかエルフだからという理由ではないだろう、とロメリアを見るミリネッタ。


「君がエルフだからさ!」

「……」


 もの凄く単純な理由だった。


「とまあ、これは理由のひとつに過ぎない」

「じゃあ、他の理由って言うのは?」

「君、双剣使いなんだろ?」

「そう、ですけど」

「あたしもそうなんだ」


 と、白衣に隠れていた二本の短剣を見せる。

 それを見て、ミリネッタは意外という表情になる。


「意外だったかな?」

「はい。てっきりシーマさんと同じで魔法使いだと」

「あたしもそれなりに有名な冒険者のつもりだったのだが。やはり隠居生活が長いせいで、現役バリバリの弟ばかりが目立ってしまっているようだ」


 ロメリアは、シーマと共に世界中を冒険者として旅をしていた。

 だが、それなりに実力と知識をつけ王都で隠居生活。

 シーマも、王都で本を読みながら過ごしたいと思っていたのだが、姉であるロメリアとの賭けに負けてしまい、仕方なくカロティアでギルドマスターの任に就いている。


「いえ、私がただ世間知らずなだけで」

「ははは。別に君を責めているわけじゃない。それに、有名じゃない方があたしにとっては都合がいいからね」


 そんなことを会話していると、とある家の前に到着する。

 多くの花々に囲まれた小さな家。

 ミリネッタには、どこか懐かしい雰囲気を感じ、ほう……と声を漏らす。


「あたしの家だ。正確には、あたしと弟の家だけどね。裏手には、少し広めの庭がある。そこでやろうじゃないか」

「え? ま、待ってください。私はまだ弟子になるとは」

「まあまあ。とりあえず実力を見るだけだから。ほら、こっちこっち」


 一見、のんびりしていそうな雰囲気があるが、まったくの逆。

 これ、と決めたら即行動。

 押しもかなり強く、ミリネッタは眉を潜めながらロメリアの後を追っていく。


「うむ。では、やろうか? ほら、構えた構えた」


 家の裏手に辿り着くと、動くには十分な広さの空間があり、ロメリアはそこで二本の短剣を手にする。

 ミリネッタは、しょうがない……と、同じく二本の短剣を手に持ち構えた。

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