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第三話 着ぐるみ王都に入る、ギルドへ向かおう

「―――というわけで、彼はまったくと言っての無害。それどころかこの王都で人気者になる素質を持っている。それに、天使様が一緒に旅をしている。これは彼が特別な存在だという証拠さ」

「なるほど。確かに、見た目は可愛い……おほん。それに天使様もよく懐いてらっしゃるようで」

「懐いているわけじゃないんです! 湊くんは友として接しているだけなんです!」

「友達の頭の上に乗るってどうかと思うけど……」

「天使の常識はわたし達とは違うってこと」

「あれ? 今度はカワエルちゃんが仲間外れにされた感!?」


 カロティアのギルドマスターシーマさんの計らいで、姉であるロメリアさんが王都に入る際に協力をしてくれている。

 予想をしていたが、思っていた以上に警戒されていて、それはもうカロティアの比じゃないほどの兵士達が武器を構えて待っていた。しかし、すぐロメリアさんが弁解してくれたおかげで事なきを得た。


 どうやらロメリアさんは、学園の教師をしているだけではなく、薬を作っているようで王都だけではなく世界中で有名なんだそうだ。

 昔は世界中を弟と旅をしながら、色々学んでいたそうだが。今は、王都に拠点を置いて腰を落ち着かせているとのこと。教師をしているのも、その一環なのだとか。


「では、こちらが通行証となります。もし紛失した場合は、再発行に料金が発生しますのでお気を付けを」

「わかりました」


 今回は、ロメリアさんの説得とカワエルの天使としての力というか存在のおかげでスムーズに取り調べが終わった。

 王都では、女神ピリスを崇める女神教の総本山があるらしく、時々天使が舞い降りては祝福を送っていくそうだ。女神本人は来ないのか? とカワエルに聞いたのだが。


「ピリス様は、あまり外には出ない神様なので」


 とのこと。

 確かに、地球でも動くのがめんどーとか。寝転がりながら本を読むのが至高とか。完全にぐーたらな思考だった。

 まあ、代わりにピリスの右腕であるアマエットが舞い降りるそうだ。

 

「では、くれぐれも問題を起こさないようにお願いします」


 これでようやく王都を歩ける。

 兵士達に見送られ、俺達は一度王都内を見渡す。


「おー、中から見ると、その広さが改めてわかるな。王城も、見続けていたら首が痛くなりそうだ」

「湊くんって首が痛くなるんですか?」

「……そういえば痛くならないかも」

「カワエルをずっと頭に乗っけてても平気そうにしてるもんね」


 そもそも着ぐるみだしな。生身の肉体じゃないんだ。でも、普通に温かさは感じるんだよな。ただ単純に頑丈なだけか。


「さて、君達。改めて、ようこそ王都フィアーナへ」


 王都フィアーナは、大きく分けて三つの区画に分かれている。まず、俺達が居る一般区画。ここには、多くの一般市民や旅人達などが居て、手ごろな値段の店が並んでいる。

 そして、次は貴族区画。貴族達が各々の屋敷を建てて住んでおり、料理やインテリアなども一般と比べて値段が一気に跳ね上がっている。

 最後に、王族区画。

 と言っても、王城は天空にあるので、その区画の地上には王城へ向かうための転移陣とそれを守るための強固な建物があるだけ。

 区画別に壁があり、入るためには色々と手続きをしなくてはならない。

 特に王族区画の許可は簡単には下りない。

 

「さっそくだが、どうしたい? 君達」

「俺はとりあえずメリスと一緒に冒険者ギルドに向かいます」


 これから一緒に旅をするんだ。稼ぐためにも、強くなるためにも、登録は必要だろう。

 なにより、メリスの意思でもある。


「カワエルちゃんもお供します!」

「エルフちゃんは?」

「私は」

「あ、聞いておいてなんだけど。ちょーっとあたしに付き合ってくれないかな?」

「……良いですけど」


 なんだろう? 同じエルフとしてなにか特別な用事でもあるんだろうか。


「それじゃ、冒険者ギルドの場所だけど」


 ロメリアさんに冒険者ギルドの場所を教えてもらい、一度別れる。

 

「いやぁ、本当に大きなところですね」

「わたしが住んでいた街より大きいかも」


 さすが王都と言ったところか。道の広さも、カロティアと比べても歴然。普通に馬車が通ってもスペースが余っている。

 日本で言うところの東京みたいなところだからな。

 なんだか着ている服とかも都会っぽいというか。


「え? な、なんで熊が」

「というか頭の上に居るのって天使様、だよな?」


 うんうん。この反応も懐かしいというか。王都には、しばらく滞在するつもりだけど。どれくらいで慣れてくれるだろうか。

 カロティアよりも圧倒的に広いからなぁ……。

 

「どもー! 天界から舞い降りし天使カワエルちゃんですよー! 王都の皆さん! 可愛いカワエルちゃんのことをちゃんと覚えてくださいねー!!」


 まるで選挙でもしているかのように道行く人達に声をかけるカワエル。

 

「ちなみに、カワエルちゃんを乗っけている熊は湊くんと言います! 熊ですが、とても優しい人なので怖がらなくても良いんですよー!」

「熊なのか? 人なのか?」

「え? え? どっちなの?」

 

 ついでに、俺のことも紹介してくれているようだ。

 俺も、無害アピールのために手を振っておこう。

 あ、女の子が振り返してくれた。


「こういう時、天使の底抜けの明るさは役に立つ」

「ふふん。もっと褒めてくれても良いんですよ!!」


 ここからでは見えないが、絶対ドヤ顔をしているだろう。


「お? あれじゃないか。ロメリアさんがおすすめしていた店」


 冒険者ギルドの場所だけではなく、観光のためにおすすめの店などを何件か教えてくれた。

 そのうちのひとつが、十字路の曲がり角にあった。

 どうやら定食屋らしく、品揃えも豊富なうえに値段も格安らしい。


「では、お昼はあそこで食べることにしましょう」

「じゃあ、早く登録を済ませないとな」

「うん」


 昼にまた来ようと決め、俺達は冒険者ギルドへと向かう。

 

「―――ここか」

「まるで屋敷みたいなご豪華さがありますね」


 街並みを堪能しながら移動すること十数分。

 到着した冒険者ギルドは、さすが王都にあるだけあって、入口からして大きい。最初一般区画にある屋敷かと思うほどの外観をしていた。

 

「うお!? な、なんで熊が」

「あ、でもちょっと可愛いかも」


 冒険者なので、下手をすれば攻撃をしてくる可能性がある。カロティアの時は、幾分か顔が利くミリネッタさんが傍に居たからよかったが、この王都においてはミリネッタさんも含め俺達は無名。

 まあ、カワエルの天使パワーでどうにかなるかもしれないけど。


「えっと、登録受付はっと」


 中もかなり広く、受付を探すのも大変だ。

 とはいえ、受付のカウンターはどこも似たようなものなのか。すぐに発見できた。さっそく登録しようと歩き出す。


「熊さんだー!!」


 が、女の子が勢いよく飛びついてきてしまった。

 まだ五歳ぐらいだろうか? それぐらい小さな女の子だ。獣耳が頭から生えており、黒い髪の毛と黒いひょろっとした尻尾。

 くりっとした琥珀色の目で、俺のことを見上げてくる。


「おや? 迷子ですかね?」

「さすがに冒険者、じゃないと思うけど」


 でも異世界だからなぁ……いや、しかしどう見ても子供だし。


「やあ、熊さんだよー」


 とりあえず挨拶をしてみた。


「ティナだよ!」

「ティナちゃんかぁ。いい名前だねぇ。俺は、湊って言うんだ」

「そして、天使のカワエルちゃんです!」

「メリス。ねえ、ティナはどうして冒険者ギルドに居るの?」

「えっとね、パパがお仕事の報告するから待ってるの!」


 お、やっぱりそういう感じだったか。さすがに、この姿で冒険者ってことはないよな。うん、なんだか安心した。

 てことは、いずれはお父さんが探しに。


「ティナあああああ!!」


 あ、来ましたね。

 騒がしいギルド内に響き渡るどでかい声。冒険者達をかき分け、近づいて来たのは……茶髪の男だった。

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