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第二話 王都へ到着する着ぐるみ、ハーフエルフの姉

「おー、随分と大きな橋だな」

「ここの川は、あそこにあるピレツ山脈から海の方へと流れているみたいね」


 そろそろ王都へ到着しようとしていたので、俺達は人力車を収納し四人で歩いていた。

 そこで、川の上に設置された大きな橋に差し掛かる。

 ミリネッタさんの説明に、右方向へ視線を向けると割と険しい山脈が見えた。


「それで、この橋を超えると王都ももうすぐってわけ」

「お? 向こうから馬車が」

「やはり早々に下りておいて正解でしたね」


 おそらく王都から来た馬車だろう。二頭の馬に引かせながら、俺達のところへ近づいてくる。


「うお!? く、熊? え? エルフ? て、天使?」


 通りすがる業者の男は、俺達の姿を見てかなり驚いていた。


「あははは、なんだか久しぶりな気がするな、あの反応」


 カロティアを出て二週間になろうとしているが、その間に小さな村なんかはあったけど、寝泊りできる移動式の屋敷があるので、ちょっと買い物するだけで滞在はしなかった。

 それに、俺は入ってないからな。

 村に入ったのはミリネッタさんとメリスだけ。俺とカワエルは無用な混乱を避けるために留守番をすることにしたのだ。


「そりゃあ、あなたの見た目はこの世界でも目立つからね」

「それに加えて天使も一緒。驚かれて当然」

「ふふん! カワエルちゃんは驚かれるのには慣れています! それに、驚かれるのは最初だけ! すぐーに! カワエルちゃんの可愛さと凄さで王都の人達を魅了させてあげますとも!!」


 カロティアも結構大きなところだったが、これから向かうのは大陸の首都。つまり一番大きなところだ。いったいどんなところなのか……。


「そんなことより、いつまで湊の頭の上に居るの?」


 と、俺の右手を握り締めながら歩いているメリスが言う。

 なんでだか、カワエルは俺の頭の上が気に入っているようでへばりついたり、座っていたりする。着ぐるみによっては乗ることはできないが、頭が大きい着ぐるみだったら乗ってることが多い。

 特にこういう天気のいい日とか。

 今、装備しているのは【熊ファイター】で、頭は大きく丸っこい。カワエルぐらいの小ささなら普通に乗れる。


「カワエルちゃんは天使ですから。やはり空に近いところが落ち着くんです」

「……馬鹿は高いところが好き」

「馬鹿じゃないですー!」

「まあ、高いところが落ち着くっていうのはわからなくもないわ。私も故郷ではよく木の上で風を感じていたから」


 なるほど。だから人力車の屋根に座っていたんだな。


「わたしにはよくわからない。湊は?」

「うーん、俺は普通かな」


 地球に居た頃は、小さい頃からゲームやアニメなんかにはどっぷりだったけど、たまーに展望台とかそういう高いところで風を感じながら景色を眺めていた。

 やっぱ籠りっぱなしだと息が詰まるからな。

 気晴らしに行くことがあった。


「そうです! 王都に到着したら、しばらく滞在する予定ですよね?」

「ん? ああ、そうだな」

「なら、皆で行って見ませんか? ピレツ山脈に!!」

「いや」

「なぜ!?」

「疲れる」

「ファイトです!!」

「無理」

「天空に近づきましょう!」

「わたし、地上の方が好きだから」


 そんな今となっていつもの二人の口論を聞きながら進んでいくと、橋をあっという間に渡り終えてしまった。

 そこからしばらく進みと、綺麗に舗装された街道が現れた。

 そして、奥に見えるのが。


「あれが、王都」

「想像以上に大きなところね。ここからでも、それがわかるわ」


 ついに視界に王都を捉えた。

 まだ距離があるというのに、その大きさがわかる。それに王城が……浮いている。


「あれ、どうやって浮いてるのかしら」

「【浮遊鉱石】を使ってるんじゃないですか?」


 カワエルが言うには、大気中のマナに触れたり、魔力を込めることで浮く不思議な鉱石らしい。抑えていないといつまでも浮き続けるため、大きさによって錘をつけたりしてちょっとお洒落なインテリアにするようなのだ。

 とはいえ、数はそこまで多くないし、まだ研究が続いている。


「城が浮くほどの大きさって……」

「世界に二つとない、でしょうね」


 空中に浮く城か。これは世界からも注目されているだろうな。

 

「でも、あれ出入りとかかなりめんどくさくないか?」

「浮遊魔法を使ったり、カワエルみたいに飛べるならともかくね」

「転移陣があるのだよ」

「誰ですか?」


 俺達が会話をしていると、見知らぬ女性が話しかけてきた。日差しに照らされ美しく輝く銀色の長い髪の毛、眠たそうに見える垂れた赤い目。

 赤い毛糸のセーターに、黒いショートパンツ。その上に大きめの白衣を纏っている。

 研究員とかかな? 護衛もなしに、一人で何をしているんだろうか。


「おっとと、これは失礼した。あたしの名前はロメリア・エルモット。王都で学園の教師をしてる者だ」

「エルモット……まさか、シーマさんのお姉さんですか?」

「おや? 弟を知っているのか? いかにも。あたしは、シーマの姉だ」


 まさかこんな街道でばったり会うことになるとは。

 けど、これでやっと手紙を渡せる。


「あの、これを。シーマさんからです」


 と、俺は手紙を手渡す。


「手紙? ふむ……」


 俺から手紙を受け取ったロメリアさんは、しばらく手紙を見詰めた後、徐に開く。

 そして。


「なるほど」


 手紙を読み終わったロメリアさんは、にやっと笑みを浮かべながら俺達のことを見詰める。


「珍しい存在だとは思っていたが、まさか冒険者だったとはね。それも我が弟が認めた、ね。なあ、湊くん」

「え? あ、はい。湊です」


 まさか、手紙の内容って俺のことを書かれていたのか?


「君のその姿だと、街に入るだけで大変だろう。弟はそのことを気にして、あたしに協力を求めている。カロティアを救ってくれた恩人だから、とね」

「でもそれって、街に入る前にロメリアさんと会わないと成立しないんじゃ」

「まあ、大抵授業がない時は、外に出てることが多いからね。弟はそれを予測していたんだろう」


 なるほど。さすが姉弟だ。


「それにしても……ふむふむ」


 手紙を白衣のポケットに突っ込んだ後、俺達のことをじろじろと観察してくる。

 

「君の存在もそうだが、かなり珍しい集まりだ。エルフに、天使。それと君は……魔人だね」

「むっ」

「おっと、そう怖い顔をしないでくれ。あたしは君のことをどうこうしようとは思っていない。魔界にも平穏を望んでいる者達が居るのはわかっているからね。それに、友人に魔人族が居るんだ」


 こうも簡単に気づかれるとは思っていなかった。

 でも、なるほど。魔人族の友人が居るのか。

 だから、すぐわかったのか? いや、それだけじゃないような気がする。この人は、シーマさんの姉でハーフエルフだ。

 こうして話しているだけでも、普通じゃないと感じる。


「心配することはない。魔人族を知らない者達にとっては、君は魔力が高いだけの少女にしか見えない。他の三人ほど特徴という特徴がないからね」

「むう……そう言われると、仲間外れな気がする」


 確かに、エルフだと長い耳。天使だと翼や頭の上の輪っか。俺だと……存在そのもの。対して、メリスは黒いドレスに眼帯をしているが、これだけで魔人族だと気づくことはまずないだろう。

 魔族みたいに、角が生えているわけじゃないからな。


「まあ、ここで立ち話もなんだから。一緒に王都へ行こうじゃないか。確実に怪しまれるかもしれないが、弟の頼みだ。あたしが協力すると誓おう」

「よ、よろしくお願いします」


 ありがとう、シーマさん。あなたのおかげで、第一関門は突破できそうです。

 ロメリアさんも、優しそうな人でよかった。

 街中は、どんな風になっているのか……今から楽しみだ。

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