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第九話 屋敷を引く着ぐるみ、新たな仲間達

「……」


 ローランさんとアリスさんが健やかに眠れるように願っているメリスを目にしながら、俺は今後のことを考える。

 俺はメリスの護衛になった。

 今後は、メリスの力を目当てに襲ってくる魔王軍と戦うことになるだろう。いや、もしかしたらヴァーノがやられたことにより倒した俺のことも……。


「それにしても、まさか屋敷が馬車になるなんて思わなかったわ。これ、どうなってるのかしら?」

「外観はぱっと見ただの馬車ですけど……」


 今後は、この馬車を引いて旅をすることになるだろう。

 今のうちに色々と知っておかなくては。

 

「お? 意外と軽い」

「え? 本当?」


 俺が引くことになるだろうと、手すりを持ち少し進んでみると、意外と軽かった。

 もっと重いものだと思っていたので少し拍子抜けだ。

 ミリネッタさんも試しに引こうとするが。


「んー!! ……全然軽くないんだけど」

「結論! 湊くんの力が強過ぎるだけってことですね!」


 やはり、並大抵の人では動かすことすらできないようだ。ローランさん達は、いったい誰に馬車を引かせるつもりだったのだろう。

 さすがに馬でもこれはきついんじゃないだろうか。

 

「一応馬車引きの人が座るところもあるんですね」

「てことは、これを馬とかに引かせるつもりだったのかしら?」


 通常の馬車は馬に引かせる。だが、この形……馬車というよりもあれだ。人力車だ。馬が引くのではなく、人が引く車。

 俺が知っている奴は、一人か二人を乗せるのがやっとだが、これはそれ以上。

 なにせ屋敷がそのまま圧縮されているのだから。中には、人……というよりも多くのぬいぐるみ達が居る。見た目こそ五、六人が乗れるような感じだけどな。


「ん? 待ってください。これ、検問とか通る時どうするんですか?」


 カワエルの言葉に、俺とミリネッタさんはあっと声を漏らす。

 そうだ。

 街に入る時とか馬車の中身を当然調べるだろう。もしそんなことになったら、確実にこれがやばいものだと知られてしまう。さすがの異世界でも、これほど凄いものはそうはないだろう。

 なんとしても手に入れようとする者達が出てくる可能性は高い。


「俺の収納魔法でどうにかならないかな」

「さ、さすがにこのサイズは入らないんじゃないの?」


 いや、収納魔法が【フリーダム・ファンタジー・オンライン】で使っていたアイテムボックスのままだったとしたら。


「あっ」

「……普通に収納できましたね」

「うん、まあでもこれで解決、じゃない?」


 なんか普通に収納できた。俺は、再度馬車……いや人力車? を取り出す。隠しているようで心苦しいが、仕方ない。

 とりあえず、街に入る時には途中で収納してから入ることにしよう。


「皆。お待たせ」

「もういいのか?」


 色々と検証しているうちに、メリスが祈りを終えこっちに近づいてきていた。

 どこかスッキリしたような表情だ。

 

「もう大丈夫。それにこれから旅に出るんだから、いつまでもくよくよなんてしてられない」

「あんまり無理はしないこと。少しずつで良いんだからな」

「うん。無理はしない。お父様とお母様の分まで強く生きていかなくちゃいけないから」


 もう出会った頃のメリスじゃない。

 あの時は、どこか暗い表情をしていたけど。今は、前を向いて強く生きようと言う意思を感じられる。


「それじゃ、さっそく旅に出よう」

「どこへ行くの?」

「俺達は元々王都を目指していたんだ。だから、王都へ向けて再出発ってことになる」


 思わぬ寄り道をしてしまったが、これも旅の楽しみ。

 それに旅仲間も増えたし、とんでもないものまで手に入ったからな。いや本当に……屋敷を動かしながら旅をするって、言葉にするとなんじゃそりゃって思うよ。

 

「あ、でも出発する前に、まだこの中を調べてなかったな」

「後、中に居る使用人達とかにもちゃんと説明しないとね」

「いやぁ、一気に旅仲間が増えちゃいましたねー!」


 本当だよ。まだカロティアを出て数日なのに。

 三人から一気に十人以上になるなんて。

 一気に大所帯の旅になったな。


「そういうことなら、早く入ろ。わたしも、この屋敷に魔力を補給しておきたいし」

「そうだな。それじゃ、お邪魔します」

「違うよ、湊」

「え?」


 中に入ろうとするも、メリスが俺の言ったことに対して首を横に振る。


「今日から、この屋敷はわたし達の家。だからただいま、だよ」

「……」


 家、か。もう地球にある実家には戻れない。だからいつかはこっちの世界で自分の家を持とうとは思っていたけど。

 まさかこんなにも早く手に入るなんて。それも動かせて、めちゃくちゃ広い。ぬいぐるみの使用人達と子供達も住んでいる。


「わかった。それじゃやり直しだ。……ただいま」

「おかえりなさい」


 今日から、ここが俺の帰る家。

 そう思うとなんだか幸せな気持ちが湧き上がってくる。


「おお、なんだか小さくなった気分だな」

「空間が歪んでるから。でも、不安定。早いところ魔力を補給して、調整しないといけない」

「あ、あのー」


 ん? カワエルの声が外から。

 ミリネッタさんは入っているようだけど……まさか入れないのか?


「すみませーん! なんか入れないんですけどー!! カワエルちゃん一人で寂しいんですけどー!!」

「まさかメリス……」


 この屋敷は、今やメリスの力で自由にできる。

 当然、玄関を塞ぎ屋敷に入れなくすることだって……。今、カワエルは外で一人騒いでいるんだろう。おそらく涙目で。


「湊くーん!! その性悪女を説得してくださいよー!!」

「メリス。あんまりカワエルを虐めないでやってくれ。これから一緒に旅をする仲間なんだから。な?」

「……わかった」


 俺の説得を聞いて手をかざし魔力を流し込む。すると、玄関の扉は開いてカワエルが飛び込んできた。


「もー!! なんでそうやってカワエルちゃんに意地悪をするんですかー! ついこの間仲良しになったんじゃないんですかー!!」


 当然のことだが、ぷりぷりとメリスに怒りを露わにする。

 だが、メリスは静かに笑みを浮かべるだけで反論をしない。それが逆に不気味に思ったのか、カワエルはぴぃ! と小さく悲鳴を上げ、俺の後ろに隠れる。


「そ、そんな無言攻撃なんて無意味ですよ!!」


 いや、めちゃくちゃ効いているじゃないか。


「これは、本当の意味で仲良しになるのは時間がかかりそうね」

「そうですね」

「皆、あの天使に突撃」

「ぴゃー!? なにをするんですかー!?」


 いつの間にか玄関先に来ていたぬいぐるみ達がカワエルに襲い掛かった。

 カワエルは、捕まらないように逃げ回っており、メリスは楽しそうにぬいぐるみ達へ指示を送っている。

 これはこれで仲がいいように見えるけど、この先どうなるのか。楽しみのひとつって思えば微笑ましい光景に見えるな。

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