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第八話 護衛な着ぐるみ、いつまでも

「てぇなぁ……」


 吹き飛ばされたヴァーノは、口から血を流しながら起き上がる。

 本気で殴ったつもりだったが、あの程度か。

 まだ中間の性能とはいえ【熱血熊ファイター】は攻撃特化の着ぐるみ。その一撃を受けても、倒しきれないってことは、やはりスキルを利用するしかないな。


「嘘……あのヴァーノに傷を」

「あれぐらいカワエルちゃんでもできますし!」

「はいはい」


 メリスからヴァーノのことは少し聞いていた。

 魔王軍の幹部で、体の硬さには自信があったようだ。だから、今装備できる一番攻撃力の高い【熱血熊ファイター】にしたのだが……。


「ここからは本気の本気だ」


 俺は固有スキル《熱血熊熊タイム》を発動する。こいつを発動すると、一分半ほど能力が二倍になる。ただしリキャストタイムは十分なので連続して使うことはできない。

 けど、関係ない。

 その一分半で倒しきる!


「うおおお! 湊くんが凄く燃え上がっています!!」

「こ、ここまで熱が……!」

「いくぞ!」


 だん! と地面を蹴っただけで軽いクレーターができる。

 俺はよろよろと起き上がっているヴァーノへ再び近づく。


「この! そう何度もやられるかよ!!」


 しかし、ヴァーノも先ほどの一撃で油断が消え、迎撃せんと魔力を高める。


「《着グループ》!」

「なっ!? 分身しただと!?」


 目の前で三人に分身し、ヴァーノは驚愕。

 一瞬動きが止まったところへ、左右から分身体が思いっきり蹴り上げる。


「ごはっ!?」

「まだまだ!!」

「げはっ!?」


 そこへ追撃のアッパーカットを腹部へ叩きつける。天空へと吹き飛ばされたヴァーノは血反吐を跳び散らかしながらも地上に居る俺目掛けて攻撃をせんと構えていた。


「ざ、けんな! この俺が! あんな人形に!! 《デストロイカノン》!!」

「《ロケット着ぐるみ》」


 分身体達を踏み台に、俺は思いっきり跳躍する。

 炎を纏い天高く敵へ飛んでいき様は、まさに炎の弾丸。ヴァーノから放たれた魔力砲撃を頭で貫いていく。


「馬鹿、なああああっ!!!」


 俺の頭突きで弾き飛ばされたヴァーノは、そのまま屋敷の前へ落ちていく。

 

「なん、なんだよ、あいつは……この俺が……魔王軍幹部の……ヴァーノが……!」


 地上に着地した俺は、あれだけの攻撃を受けてもまだ生きているヴァーノを見て、さすがに硬いなと感心していた。


「魔王軍幹部って言ってますけど、その魔王軍もすでに壊滅状態じゃないですか」


 自分に起こっていることを受け入れないでいるヴァーノにカワエルが言う。


「まだ俺達は、負けてねぇ……くそ天使が……!」

「そういうのを負け惜しみと言うんです!」

「だと!」


 食い掛らんとする勢いだったが、俺が三人の前に立ち盾となる。

 そして、腰を落とし両手を包むように構える。


「ヴァーノ。お前は……負けたんだ」

「―――かははは……まさかてめぇみてぇなふざけた奴に殺されることになるとはな」


 ヴァーノは観念したかのように笑みを浮かべる。

 

「だが! 他の魔王軍にもうメリスのことはバレてんだ! ここで俺を殺したところで、また」

「その時は」

「あ?」

「護衛として俺が倒す」

「私もね」

「カワエルちゃんもです!」


 そして、俺は《着ぐるみ破》を解き放ち、ヴァーノを撃退した。



・・・・



「まさかヴァーノを倒すだなんて。湊くん、君は僕の想像を超える猛者だったみたいだね」

「でも、これで安心してメリスを任せられるわ」


 ヴァーノを倒した後、俺達は再びローランさんとアリスさんのところへ訪れていた。

 

「はい。俺は、護衛としてメリスを護って見せます」

「娘をよろしくお願いします」

「……それじゃあ、私達も最後に親らしいことをしないとね。あなた」


 最後。その言葉に、俺達はざわつく。

 

「お母様。それはどういう」

「メリス。そこの戸棚に鍵が入っている。取ってみてくれないか」


 ローランさんの言葉通り、近くにあった戸棚のひとつを開けるとそこには青い宝石がはめ込まれた一本の鍵が入っていた。

 アリスさんが、それに魔力を流し込むと。


「床から」

「なんでしょう、これ」


 突然床から鍵穴がついた板が出てきた。台座のように見えるが。


「メリスは知っていると思うけど、僕は作るっていう行為が好きでね。昔から色んなものを作ったり、改造したりしていたんだ」

「私もつい楽しくなっちゃって、色々と手助けをしてたの」

「その結晶が……この屋敷なんだ」


 え? この屋敷を二人で作ったってことなのか? いや、相手は魔人族。常識では考えられないようなことをしてもおかしくはないけど。


「さあ、メリス。その鍵を鍵穴に」

「う、うん」


 アリスさんに進められるがままメリスは手に持っていた鍵を鍵穴に差し込み……捻る。

 すると、激しい振動が屋敷を襲う。

 い、いったいなにが起こるって言うんだ? しばらく振動は続き、一分ほどで収まる。

 

「……特に、変わった様子は」

「ない、わよね」


 この部屋からはその変化は感じられない。

 

「ふふ。外に出てみればわかるわ」

「外に?」


 俺達は言われるがままに外へと向かう。

 途中にある窓から外を見ても何ら変わった様子はない。どういうことなんだ? と疑問を浮かべながら玄関から外に出ると。


「ん?」


 こんなところに階段なんてあったか?

 外に出ると、小さな階段の上にいた。

 しかも光ってる。これは魔力でできているのか? 


「み、湊!」


 珍しくミリネッタさんが驚いたように声を出す。どうしたんだと振り返ると……驚いた原因がすぐにわかった。

 

「う、嘘ぉ……」

「わー、わー! わー!! これは凄いですよ!!!」

 

 本来なら大きな屋敷が視界に入るはずだった。

 しかし、俺の視界に入ったのは……なぜか馬車だった。それもあの屋敷を象っており、王族とかがよく乗っているような。

 ま、まさか、そんなことが。いや、だとしたらなんてものを作ってるんだあの二人!


「屋敷が、馬車に?」

「その通りだよ」


 俺達が驚いていると、部屋から出てはいけないはずの二人が姿を現す。

 

「ふ、二人とも外に出たら」

「ええ。維持されていた魂は徐々に四散していくでしょうね」


 アリスさんの言う通り、二人の体が徐々に四散していくのが見える。そう、二人はメリスが作った空間の中で、なんとか存在を維持していたのだ。 

 それが外に出たら。


「お父様、お母様。これは」

「僕達からのプレゼントだ。元々家族や使用人達なんかで、屋敷ごと旅行に行こうかなって思ってこつこつと作っていたんだ」


 いや、こつこつってレベルじゃないですよ。屋敷丸ごとって……やっぱり考えていることがとんでもなさすぎる。

 これって地球で言うキャンピングカーみたいなものだよな。あれよりは確実にこっちのほうが凄いけど。だって屋敷を丸ごとだぞ? こんなこと魔法みたいな超常の力がない限り不可能だ。いや、あったとしてもやろうと思っても簡単にはできることじゃない。


「ただ、これは定期的に魔力を補給しないといけないし、空間魔法で色々と調整しないといけないから」


 まあ、これだけ凄いものだからな。

 点検とかも定期的にやらないとだめなんだろう。


「でも、メリスならできる。僕達は、そう思っているんだ」

「で、でも最後だなんて。あ、あの部屋に居ればまだ。それに」


 メリスの言わんとしたことを先読みし、二人は首を横に振る。


「私達も、できることならあなたとずっと一緒に居たい。でも、あなたが成長してほしいとも思ってる」

「僕達はこのまま一緒に居たらつい甘やかしてしまって、成長できないと思うんだ」

「……」


 使用人達のように魂をぬいぐるみに閉じ込めれば、会話ができないだけで一緒には居られる。けど、二人もメリスも、そんなのは堪えられないはずだ。

 

「確かに湊くんが護衛になってくれる。でも」

「メリス自身も強くなりたい。そう思っているのよね?」

「……うん」


 護られてばかりは嫌だ。

 自分も自分の身を護れるぐらいに強くなりたい。その気持ちを二人は感じ取っていて、あえて心を鬼にしている。

 いつまでも親が一緒では子は育たない、と。


「だから、ここでお別れだ」

「お父様……」

「大丈夫よ。あなたは自分が思っているより強い子だわ。だって、私達の子供なんですから」

「お母様……」


 涙を流す我が子を抱くように二人は光り輝く。

 そんな感動的な光景の中で、俺はあることに気づく。

 そういえば、馬車を引っ張る馬がいない。

 屋敷内にも馬らしき動物はいなかった。まさか森の中で野生の馬を? いやまさかそんな……不謹慎ながらも真剣に考えていると、アリスさんと目が合う。

 すると、両手を胸の前に持ってきて笑顔でがんば! と動かす。

 

(アリスさん……意外と鬼畜なことを)


 しかしまあ、移動できる屋敷っていうのはかなり面白いし、今の俺だったら馬車を引くことぐらい余裕でこなせる。

 なので、俺は任せてください! と言わんばかりに力強く頷く。


「それじゃあ、皆さん。娘のことよろしくお願いします」

「メリス。立派な淑女になるのよ」

「うん。湊にふさわしい大人の女性になる」


 あれ? そういう話なの? 


「心配しないで、メリス。私達はいつでもあなたを見守っているわ」

「僕達の分まで、幸せになるんだぞ」


 その言葉を最後に、二人は四散する。

 しかし、四散したはずの光が鍵にはめ込まれた宝石に吸い込まれているように見える。

 メリスは、その鍵を両手でぎゅっと握り締め空を仰ぐ。


「さようなら……お父様、お母様。どうか安らかにお眠りください」

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