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第四話 怪しまれる着ぐるみ、助けてくれるミリネッタ

「ふーん、本当に武器だったんだ。最初は魚が武器とか何の冗談かと思ったけど……」

「あははは……」


 森で出会った異世界最初の住民であるエルフのミリネッタさん。

 まだ多少警戒心はあるものの最初よりは心を開いてくれている様子。道中、俺に関して色々と聞かれており、その中で俺が使っていた【サケセイバー】を見せてほしいと頼まれた。


 やっぱりこの世界ではこういう武器はないようで。

 最初に受け取った時は、匂いを嗅いでいた。

 生臭くないと確認を終え、今は軽く振っている。


「ありがとう。これ、返すわ。……で? あなた熊じゃなかったの?」


 ミリネッタさんから【サケセイバー】を返還されたが、また新たな疑問が増えたようで。

 そう、俺は着ぐるみを変えたのだ。

 現在身に着けている着ぐるみは【猫ソルジャー】という。猫と言っているが、デザインは完全に虎。まあ虎もネコ科の動物だし猫だよねって。初期装備である【熊ファイター】に比べて身体能力は格段に上がり、固有スキルは手足の爪で攻撃するものばかり。

 

「森でも言いましたけど、これはあくまで防具なので」

「脱げないのに防具は変えられるの?」

「え、あ、はい」


 ご、ごもっとまな意見で……。


「防具が変えられるなら、もっと人らしいものはないの?」

「いや、それがないんですよね」


 着ぐるみ士が装備できる着ぐるみに人はない。これまで手に入れたものは、獣や空想の生き物ばかり。着ぐるみ士のコンセプトは、可愛らしい獣がシュールな武器とスキルで戦うというもの。

 スキルは全てが全てがネタではないにしろ、見ていてえ? と思うスキルがほとんどだ。


「やっぱり動物がこうやって二足歩行で、喋るのは怪しいですか?」

「怪しい。二足歩行はそこまでじゃないけど、そうやって流暢に喋るのは見たことないわ」

「獣人とかはいないんですか」

「獣人は、人に獣の耳や尻尾が生えてる種族でしょ?」


 どうやらこの世界の獣人は人型の獣ではないらしい。

 そうなると、ミリネッタさんの反応も納得がいく。

 もし、人型の獣が居たのなら出会った時に、あんな反応はしなかっただろう。


「だ、大丈夫でしょうか……」


 街が見えてきた。

 道中でも不安だったが、こうして街が見えてくると更に不安になり心臓の鼓動が高鳴る。ん? 今の俺に心臓ってあるのか? いや、今はそんなことはいい。

 ミリネッタさんは説得に協力してくれると言っていたが……信じてもらえるだろうか。


「できるだけ協力するけど、正直に言って不安要素しかないわね」


 緊張のあまり無口のままどんどん街に近づいていく。

 そして、ついに。


「止まれ!!」


 街の出入り口へと辿り着いた。

 俺達が向かっていた街の名前はカロティア。海から近い街ということで運河と繋がっており、新鮮な魚介が名産となっている。

 

「ミリネッタ。後ろのでかい……猫? はなんだ。まさか魔物を使役したのか?」

「違うわ。彼は魔物じゃない。こんな珍妙な姿をしているけど、人間らしいわ」


 ミリネッタの言葉に、門兵の男がなにを言っているんだ? と槍を構えたまま首を傾げる。その間に、もう一人の門兵がどこかへと消えていく。

 まさか、増援!? やっぱりこの姿だと魔物認定なのか……。


「ともかく、それ以上近づくんじゃない。今、警備隊長を呼んでいる。それまで大人しくしていてもらおう!!」

「……まあ、こうなるわよね」

「すみません……」


 待たされること数分。

 数人の兵と共に、赤髪の女性がこちらに向かってきた。明らかに恰好が他の兵と違うし、先頭を歩いている。おそらく彼女が警備隊長なんだろう。


「兵士の報告を受け、冗談だと思っていたが……ミリネッタ。お前は、いったい何を連れてきたんだ?」

「正直、私にもわからない」

「はあ……」


 どうやら彼女は、ミリネッタさんの知り合いらしい。

 疲れたようなため息を漏らした後、赤髪の女性は俺のことを睨む。凛とした顔立ちに、ポニーテールが風で美しく靡く。鋼鉄の鎧に身を包み、マントを羽織っている姿は戦う女性という感じでかっこいいと思ってしまう。


「ミリネッタ。そいつは喋れるのか?」

「ええ」

「そうか。私の名は、イーナ・ブロッセ! この街カロティアの警備隊長をしている! 名を聞こう!!」

「み、湊です」

「ふむ、湊か。声から察するに雄のようだな。カロティアに入りたいようだが、街を守る警備隊長として、おいそれと通すわけにはいかない。ミリネッタは信用しているようだが、それだけでは不十分。安全を確認するため、色々と聞かせてもらうぞ。いいか?」


 ここは素直に従おう。

 もし、それで入れなくても野宿をすればいいだけ。


「わかりました」

「うむ。では、ついて来い」

「私もついて行っていいかしら?」

「構わないが、いいのか? お前は依頼達成の報告があるんじゃないか?」

「別にいいわよ。それに少なからず、私は信用させる情報を持っているから。一応ね」

「……わかった」


 こうして、俺はイーナさんの後ろをついて行き、駐屯所へと訪れる。

 

「入れ」

「……あれ?」

「ちょっと、なにしてるの」


 ちょっと狭いかなぁっと思っていたが、つっかえてしまった。

 ぐい、ぐいっと何とか中へ入ろうとするもなかなか……こうなったら、少し小さめの着ぐるみに。


「しょうがないわね。ほら、押すわよ……! イーナもそっちから引っ張って!」

「しょうがない……」


 と思っていたら後ろからミリネッタさんが押してくれ、前からはイーナさんが引いてくれた。

 そのおかげで、ぽん! とコミカルな音が鳴りそうな感じで駐屯所の中へ入ることができた。


「す、すみません。ご迷惑をかけてしまって……」

「相変わらず図体のわりに腰が低いわね、あなた」

「あはは」


 用意された椅子に腰かけ、イーナさんと向かい合う。

 そこから色々と聞かれ十数分。

 徐々に危険はないと思われ始めた頃、イーナさんがじっと俺の手を見詰めているのに気づく。


「と、ところでそれは防具だと言っていたが」

「はい」

「少し触ってみてもいいか?」

「え?」

「あくまで確認のためだ。危険性がないかどうかを確認するだけ」


 そういうことなら、と俺は頷く。

 

「……」


 最初は普通に体を触っていたが、すぐ手についている肉球へと移る。

 両手でぷにぷにと感触を確かめるように触る。

 そうしている内に、キリッとした表情が崩れていき。


「おぉ……」


 ふんわかした表情になった。どうやら肉球が気になっていたようだ。ちなみにこの着ぐるみは、無駄に肉球のぷにぷに感を再現している。

 ゲームの時も、よく触られていたっけ……。


「あ、あの隊長?」


 イーナさんの変化に気づいた兵士の一人が声をかけると、ハッと我に返って静かに離れる。

 こほんっ、と一度咳払いをし、俺の情報をまとめた紙を確認し始めた。

 

「一通り聞いた結果。とりあえずは安全と言ったところか。だが、完全に、ではない。一応、通行証を発行するが、あくまで仮のものだ」


 そう言って、イーナさんは懐から一枚のカードを取り出し、俺に渡す。

 

「仮、ですか」

「ああ。そいつには、私の名前が入っている。何かがあれば私が責任を取るという証拠だ。お前のことは即刻領主様へ報告する」

「りょ、領主様……」


 なんだか思っていた以上に大事になるんじゃ。場合によっては、珍しい生き物として捕獲され、牢屋にってことも。

 

「そんなに怖がるな。ここの領主ジルバ様は、優しく、親しみやすいお人だ。珍しいものが大好きだから、お前のことも悪いようにはしないだろう」

「ほ、本当ですか?」

「まあ、どうなるかは私もわからないのだがな。後に、呼び出しがあるだろう。その時は抵抗しないように」

「は、はい。わかりました」


 とはいえ、悪い雰囲気を感じたらちょっとは抵抗するかもだが。俺だって監禁とか、殺害とかそういうのは嫌だからな。


「ところで、グラットベアーを単独討伐したと言っていたが」

「本当よ。私が襲われていたところを助けてくれたの」

「あ、これ証拠品です」

 

 俺は、回収したグラットベアーの素材をテーブルの上に提出した。いきなり出てきて皆驚いたが、すぐに素材に目がいく。


「これは、確かにグラットベアーの爪……まさか近くの森に出現するとは」


 グラットベアーの爪は、他の爪と違い爪先が黄土色に染まっているのだ。どうやらイースさんの言い分だとこの辺りの森で遭遇するのは珍しいみたいだけど。


「了解だ。珍妙な恰好だから、かなり疑ったが実力は本物みたいだな。ミリネッタもお前のことは少なからず信用しているようだし」

「別に信用しているわけじゃないわ。ただ恩を返しているだけ……」

「そうかそうか。まあ、とりあえずこれで取り調べは終わりだ。一応言っておくが、お前は目立つ。問題が起こったらすぐわかるからな」


 それはもう重々承知しています……この姿で目立たないっていう方がおかしいと思いますから。


「色々長くなったが、ようこそカロティアへ」


 ふう、どうやら最初の関門は突破できたようだ。

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