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第五話 話をする着ぐるみ、メリスを狙う者

「あ、見てください湊くん! メイド姿のぬいぐるみです!」

「兎ね」


 考える時間が必要ということで、俺は屋敷を歩きながらだが思考していた。

 その途中、ここまで会わなかった動くぬいぐるみ達を次々に目撃する。

 例えば、今出会ったのはメイド服を来た兎のぬいぐるみ。

 大きさは一メートルちょっとぐらいだろうか。

 今は屋敷を掃除している最中らしく、雑巾で窓をきゅきゅっと拭いている。


「あれ、自分も濡れたりしないのかしら?」

「どうなんでしょうね。濡れているようには見えませんが……あっ、見てください。次は猫です」


 やはりというかなんというか。

 メイドが多い。

 兎だったり猫だったり。まあ、結構広い屋敷だからな。使用人も多かったのだろう。


「あ、頭下げてきた」


 喋れないしぬいぐるみだが、メイドはメイド。

 掃除中でも、俺達を見かけるなり丁寧にお辞儀をしてくる。


(……この先、メリスの護衛となれば脅威が向こうからやってくることになる。魔王軍の残党がどれほどの実力があるかはわからないけど、世界を征服するために同族を殺すほどの奴らだ。何をしてくるかわからない)

「……ねえ」

(それに、メリスの護衛になるってことは旅を続けられなくなるかもしれない。もしメリスが一緒に旅をしてくれると言っても)

「ねえったら」

「え? あ、はい。なんですか? ミリネッタさん」


 考え事をしていた俺にミリネッタさんは力強く肩に振れ呼びかけてくる。

 

「ん」

 

 そしてそのまま視線を俺の背後に向ける。

 なんだ? ……あー、なるほど。


「わー、行列ですねー」


 いつの間にか、俺の後ろを小さなぬいぐるみ達が一列となって付いてきていた。

 おそらく中に入っている魂は、子供の魂なのだろうが……でも、年齢的には俺より上なんだろうな。なにせメリスと一緒に四百五十年も住んでいるんだから。

 

「懐かれちゃったようね」

「湊くんは、子供に大人気ですからね! カワエルちゃんは嫉妬するほどに!」


 振り返り、そのまましゃがみ込むとわらわらと群がってくる。

 カロティアで見慣れた光景。

 姿がぬいぐるみなだけで。

 

「もしメリスを狙っている奴らが襲ってきたら、この子達も……」

「巻き込まれる、でしょうね」


 それにこの子達はすでに肉体を失っている。

 一度殺されているのに、また殺されることになればどれだけの恐怖があるか。


「……ちょっとメリスのところに行ってくる」

「それじゃあ、私達は待ってるわ」

「カワエルちゃんは、メイドさん達のお手伝いをしてきます! あ、そこの犬のメイドさーん! 高いところならお任せあれー!!」


 俺は、メリスの部屋へと向かった。

 多くのぬいぐるみ達と共に。

 一人で悩んでいるより、本人と話しながらの方がいい。それに護衛になるなら、彼女のことを持って知っておきたい。

 

「メリス? 入っていいか」

「……どうぞ」


 部屋に入ると、最初に出会った時と同じく絵本を抱きかかえていた。

 

「隣いいか?」

「うん」


 俺はメリスの横に座り込む。ついて来たぬいぐるみ達は、部屋中を駆け回っていたり、大人しく座っていた李、俺の頭に上っていたりと元気いっぱいだ。

 そんなファンシーな空間の中で、俺はメリスに話しかける。


「メリスは、動物が好き、なのか?」

「好き。それにぬいぐるみも」

「だから、こんなにいっぱい動物のぬいぐるみが」


 相手が魔人族だろうと、凄い力を持っていようと関係ない。

 俺は、メリスがどんな子なのか知りたい。

 

「……この子達は、メリスの友達、なのか?」


 と、俺の足元でばたばたと暴れているぬいぐるみ達を見て問いかける。


「この子達は、お父様が治めていた領内の子供達。たまたま屋敷に遊びに来ていたの。そこへ魔王軍が襲い掛かってきて……」


 殺された、ということか。


「私のせいで殺された。だから全員助けたかったけど、昔のわたしは未熟だったから」


 ぎゅっと絵本を強く抱き締めながら自分の未熟さを嘆くメリス。

 

「それに、助けたって言ったけど。この子達も、屋敷の使用人達も、本当はぬいぐるみに縛り付けられたわたしをよく思ってないかもしれない。だって、わたしの我儘で皆を」

「……そんなことはないと思うぞ」

「どうして、そう言い切れるの?」

「だって、もしメリスのことをよく思っていないんだったら、こうやって傍に居ると思うか?」


 メリスが悲しそうにしているのが気になったのか、ぬいぐるみ達が傍に近寄ってきている。表情は変わらないが、なんとなく心配しているというのは理解できる。


「それに、メリスは魂を見ることができるんだろ?」

「……でも、怖くて一度も見てない」


 もし、実際に魂を見て自分のことを恨んでいるとわかったら、と思っているのだろう。

 

「じゃあ、見てみよう」

「で、でも」

「ほら」


 結構強引だが、俺はメリスに皆の魂を見るように勧める。

 しばらく不安そうにぬいぐるみ達を見詰めていたメリスだったが、俺が手を握ると決心をしたように眼帯を外す。

 そして。


「どうだ?」

「……誰も、恨んでない」


 改めて知ったメリスの表情は、安堵するように柔らかくなった。

 最初会った時から、どこか無理をしているというか、重荷を背負っているような感じがしていた。それが今、少し軽くなったに違いない。



・・・・



「かははは!! マジで、この辺りに居るみたいだなぁ」


 森の中で、一人の魔族が顔を手で覆いながら笑っている。

 それは心の底からの喜び。

 しばらく笑っていた魔族は、あー、と息を吸い込み覆っていた手を顔から外す。


 額から生えた一本の黒い角。

 よく焦げた小麦色の肌。

 フード付きのローブを纏い、シャツもズボンも肌にぴったりと吸い付くほど薄く、鍛え上げられた筋肉がはっきりとわかる。


「てっきりもう死んだとばかり思っていたが、俺同様生きながらえていたとはなぁ」


 金色の瞳をギラつかせながら、歩み出す。


「さぁて、魔王様復活までに戦力を増強させておかねぇといけねぇからな」

「だが、油断はするな」


 まるで闇から生み出されたかのように魔族の背後に出てくる赤い二つの光。


「あぁ? 油断するわけねぇだろ。例え相手がガキだろうとな」

「ふん、どうだか」

「んなことより、そっちはどうなんだよ」

「無論、己の責務は全うしている。全ては魔王様復活のために……」


 その言葉を最後に赤い二つの光は消えていく。

 一人残った魔族は、ちっと舌打ちをし再び歩み出す。


「あーあ、さっさと暴れてぇなぁ。誰でも良いから派手に戦いてぇ気分だぜ。もうかくれんぼは飽き飽きしてきたからな……」


 魔王が勇者と相打ちに合い、世界は平和となった。

 しかし、全ての魔王軍が倒されたわけではない。

 今も世界のどこかで、秘密裏に動いている。

 

「そうだなぁ。あのガキが、この数百年で強くなってれば……俺的には嬉しいんだけどなぁ。今、会いに行くぜぇ、メリスちゃんよぉ!!」

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