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第一話 野営する着ぐるみ、声に導かれて

「なんかごめんなさい。言い訳に聞こえるかもだけど、この森なんだか変なのよ。なんかこう、どこかに導いているっていうか」

「つまり、俺達は迷ったのではなく、迷わされたということですか?」

「そ、そう! そういうこと!」

「あはは、そんなに必死にならなくても大丈夫ですよ。こういう経験も冒険って感じで結構楽しんでますから」

「それ、フォローしてるつもり?」


 あれからしばらく進んだが、結局森からは出られず。

 カワエルが空から見て進んだりもしたのだが、なぜか脱出できず。

 そこから導き出した答えは、何者かが俺達を森から出さないようにしているのではないか、というものだった。


 日も暮れたので早めに野宿の準備をし、今は夕食を済ませ今後について会議中。

 カワエルはいつ早く眠ってしまっているが。

 それはもう気持ちよさそうに眠っている。


「もちろんですよ。とりあえず、ミリネッタさんも休んでていいですよ。見張りは俺がしておきますから」


 と、俺は責任を感じているミリネッタさんに俺の分身体へ導こうとする。

 今俺が着ているのは【スリープ羊】なのだ。

 そこから《着グループ》で分身し、その内の一人はカワエルが使っており、抱き枕にしている。


「こいつを抱いて寝るとそれはもう熟睡! 朝もスッキリですよ!」

「もう知ってるわよ。でもよく魔力供給が続くわね」


 着ぐるみ士は、意外と魔力……MPが多いジョブなのだ。

 その全てが特殊なので、多めに設定されている。

 なので、ピリスは俺が最後にしようしていたキャラクターのステータスをそのまま再現したのだろう。まあでも、ゲームではこんなに長時間分身を残したことなどなかったので、自分でもびっくりしているのだが。

 そもそも【スリープ羊】の効果も相まってさほど魔力を消費しないで済むのだろう。


「なにかあったらすぐ知らせますから」

「……わかったわ。それじゃあ、悪いけど先に休むわね。おやすみ」

「はい、おやすみなさい」


 ミリネッタさんは、欠伸をしながらもう一人の分身を抱き寄せ眠りについた。俺は、そのままそっと毛布を掛け、焚き火の傍に戻る。


(……誰かが、俺達を、か)


 ミリネッタさんの言葉を思い出しながら、俺はこの森のことを考える。

 もしこれが誰かの意思によるものだったとしたら、いったい何の目的で? まさか迷い人を食べようとしている魔物? だとしたらこのまま進めば魔物が襲ってくるかもしれない。

 だとしたら、警戒を強めないと。

 

『―――て』


 ん? なんだ頭に声が。


『―――やくここに』


 周囲を見渡すが、誰も居ない。

 ミリネッタさんやカワエルの声とも違う。


『森の奥に、屋敷があるから』

「屋敷?」


 カワエルは空から見たけど、何もないと言っていた。

 この声の主は何者なんだ? 魔物? いやでも幼い女の子のような声に聞こえる。


「森の奥、か」


 その後、脳裏に響いていた声は聞こえず朝を迎えた。



・・・・



「屋敷?」

「はい。ミリネッタさんが眠った後に、俺の頭に声が響いたんです。森の奥に屋敷があると」

「えー? でも、カワエルちゃんが空から見た時は、そんなものありませんでしたよ?」


 朝食後の温かいコーヒーを嗜みながら俺は、昨日の夜にあったことを二人に話した。

 カワエルは、ホットミルクが入ったコップを両手で包みながらむっとした表情になる。おそらく自分は嘘をついていないということを現しているのだろう。


「罠、ていう可能性が高いわね。もしその声の主が、私達を迷わせている張本人だったとしたら……」


 そう。そのまま声の導くままにこの森にあるであろう屋敷へ辿り着いたとして、その後は?

 もしこれが罠だったとしたら確実に敵が俺達を待ち伏せている。

 警戒はもちろんするが。


「だとしても、何もできないまま森を迷うよりは」

「ですよね! もし罠だったとしても正面がぶち破れば良いだけですよ!!」

「カワエルって結構脳筋なところあるわよね……」

「そうですか?」


 話し合いは終わり、俺達は屋敷に向かうことにした。

 

「ところで森の奥ってことだけど」

「ああ、それならなんとなくわかる、気がします」


 あの声を聞いた後、俺はなぜか存在しないはずの屋敷の位置がわかるようになっていた。

 それまでは何も感じなかったのにだ。

 この感覚が本物なのか疑問なところだが、今は信じるしかない。

 幸い、ここまで魔物が襲ってくる気配はないので、スムーズに進めた。


「……なんだか霧が出てきたわね」


 大分進み、それなりに道も拓けてきた。

 何かが変わってきているのは明白。

 霧も出てきて、下手をすればさらに迷ってしまう恐れがある。


「ふふん。そういうことなら、大丈夫です。カワエルちゃんは湊くんにがっちりしがみついていますから!!」


 どや! と俺の頭の上にしがみつきながら叫ぶカワエル。

 カロティアに居た時もそうだったが、若干馬鹿っぽいんだよなこの子。


「ま、カワエルの位置はこの際突っ込まないとして。霧で迷わない方法としてはありね」


 そう言ってミリネッタさんは俺の右手を掴んでくる。

 現在俺が着ているのは【熱血熊ファイター】なのだが【猫ソルジャーNK2】か【ワンダフルマジシャン】か迷っていたのだ。

 まあ色んな着ぐるみの熟練度を上げたいし、性能も試したいということで。

 

「ミリネッタさん。カワエルちゃんが湊くんの頭の上に居るのには訳があるんです」

「どんなわけなの?」

「カワエルちゃんの頭の上にある光輪はこれでもかというほど輝きます! それによりカワエルちゃん達を中心に輝きフィールドができ」

「でき?」

「目立ちます!!」

「……いや、目立っちゃだめでしょ。敵に狙われるわよ」


 ミリネッタさんの言うことはもっともだ。

 とはいえ、こう霧のせいで周囲が見えづらくなっているので、カワエルが輝くことで進みやすくなっているという点においてはまあ……。


「……どうやら目的地に到着したみたいだな」


 これから敵の罠に飛び込むかもしれないというのに、緊張感のない会話をしながら進んでいた俺達。

 感覚のままに来たが、どうやら間違ってはいなかったようで、だんだん霧が晴れてきた。

 そして、俺達の視界に映ったのは。


「大きい、わね」

「はい。もしかしたらジルバさんの屋敷よりも大きいかも」

「ええ!? こ、こんなに大きな屋敷があったなら絶対見えてましたよ! あ、わかりました! 何かしらの阻害結界は張られていたということですね!!」


 頭に響いた声の通り、屋敷があった。

 それもとても大きな。

 森の中に建てるものじゃないと思えるほどに。


「あれ? 玄関の前に誰か……立って、る?」


 屋敷の大きさに圧倒されている中、玄関の扉前に何者かが立っているのを発見する。

 だが、それはあまりにも小さく、それでいて。


「ぬ、ぬいぐるみ?」


 可愛い存在だった。よくある熊のぬいぐるみが玄関前に立っていたのだ。

 

「湊くんのお仲間さんですか?」

「ち、違うと思うけど……」


 しかし、完全に二足歩行で立っている。扉に寄りかかっているようにも見えないし、糸のようなものも見えない。

 あれは完全に立っている。な、なんなんだあれは。

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