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第九話 一緒に、着ぐるみは旅立つ

「……」

「一人で何をしているの?」


 ギルドでの大騒ぎもお開きになった。

 だが、俺はまだ宿には帰らず、噴水広場のベンチに腰掛け、一人夜空に輝く満月を見ていた。

 するとそこへ、ミリネッタさんとカワエルがやって来た。


「ミリネッタさん、大丈夫ですか?」


 今日は相当酒を飲んでいた。今も、若干目がとろんとしており肌も赤く蒸気している。な、なんだかエロスを感じる。

 月明りに照らされているのもあって余計に。


「大丈夫よ。ちゃんと泥酔にならないように抑えたから」

「それに、カワエルちゃんが介抱していますから問題ありません! それで? 先ほどミリネッタさんも聞きましたが、何をしているんですか? 湊くん」


 何をしている、か。

 俺が宿にも帰らず一人で考え事をしていたのは、当然旅立ちのことだ。

 カロティアで十分なほどに冒険者として経験を積み、成長できたと思っている。だから、遅くとも数日中にはカロティアを旅立とうと思っている。


 そのことを二人に話すと。


「ふぅん。じゃあ、準備しないとね」

「え? じゅ、準備って……」


 ミリネッタさんの口から出てきた言葉に俺はまさかと顔を向ける。


「当然旅立ちの準備よ。私も一緒に行くわ」

「い、良いんですか?」

「なにを今更。あなたにも言ったでしょ? 元々冒険に憧れて故郷を出たって。ここで冒険者をやっていたのも経験を積むため」


 正直に言って嬉しかった。彼女が一緒に来てくれるのは心強い。


「じゃあ、カワエルちゃんも一緒に行きまーす!!」

「えええ!?」

「なぜ驚くのですか! カワエルちゃんが一緒じゃいやだって言うんですか!?」

「いや、嬉しいけど」

「なら良いじゃないですか。カワエルちゃんの可愛さと凄さを世界に広めるためいざ冒険へ!! それにお二人と一緒なら絶対楽しい旅になると確信していますから」


 ミリネッタさんだけじゃなく、カワエルまで一緒に来てくれるなんて。

 や、やばい。嬉しさで体が震えてきた。

 体をぶるぶるしていると、ミリネッタさんがくすっと微笑む。


「というか、あなたの目が一緒に来てほしいって言ってるわよ?」

「え? そ、そんな目をしてましたか?」


 着ぐるみでもそういう目をできるのか? 


「ですね。寂しそうな小動物のような目をしていました」


 なんてことだ。俺は思っていた以上に、一人での旅が寂しいと思っていたようだ。いや、せっかく仲良くなった人達と別れるのが、か。

 

「それにあなた。その恰好で一人旅なんかしたら、どうなるかわかるでしょ?」

「うぅ……」

「仕方ないから、私達がちゃんとフォローしてあげるわ。ね? カワエル」

「もちろんですとも!」


 あははは、凄く頼もしいや。自分一人でなんとかしないとって思っていたけど、やっぱり信頼する仲間が居るとそれだけで安心感が違う。

 

「そういうわけだから、ほら今日は帰りましょう」

「行きますよ」


 月明りを背に二人が手を差し伸べてくる。

 俺は、自然と二人の手を握り締めベンチから離れる。


「それで? どこへ行くかは決めてるの?」

「そうですね、やっぱり王都とかに行ってみたいかなって」

「王都といえば大陸一番の街! そこへ可愛い天使が降臨すれば話題沸騰間違いなしです!!」

「天使より湊が話題沸騰するんじゃないの?」



・・・・



「うぅ……本当に行っちゃうの?」

「ごめんな、イルちゃん。きっとまた来るから」


 あれからあっという間に数日が経ち、旅立ちの日がやってきた。

 数日の間に、旅の準備を進めながら、仲良くなった人達に挨拶をした。皆、口を揃えて寂しいと言ってくれた時は、思わず涙が流れそうになった。

 まあ、着ぐるみだから流れなかったんだけど。


 そして今。

 王都へ向かう南門にて、俺達の旅立ちを見送ろうと多くの人達が集まっている。

 イルちゃんを筆頭に涙を流す子供達を全力で宥めながら、後ろに居るマークさんやネアさんを見る。


「また来るんだぞお前達。美味い料理を作って待ってるからな」

「私達の宿は、いつでも歓迎するわ。ほら、イルもちゃんとお兄ちゃん達にさようならを」


 ネアさんに頭を撫でられながらイルちゃんは、涙を拭い笑顔を作る。


「ばいばい、お兄ちゃん達。また来てね。絶対だよ!」

「ああ、絶対だ」

「その時は必ずイルちゃんのところに泊まるわ」

「元気に成長してくださいね、イルちゃん」


 宿屋の三人と挨拶を交わすと、次にレッジさん、マルカスさん、シレーヌさんの三人が話しかけてきた。


「お三方の活躍、ギルドの受付としても、個人的にも楽しみにしております。お三方ならきっと世界に名を轟かす冒険者になると……信じておりますから」

「いやぁ、もっとあんたらと話したかったんだけどなぁ。まあ、冒険者は自由。仕方ねぇってことで。でもまあ個人的には楽しかったぜ」


 二人は挨拶をするが、レッジさんはだんまりだった。

 だが。


「俺も旅に出る」

「え? それって」

「勘違いするな。お前達とじゃない。しばらくここで新人共の育成をする。旅立つのはその後だ」


 そう言って右手を差し出してくる。


「俺はお前を必ず超える。いや、いずれはSランクの冒険者に」


 Sランク……世界に四人しかいないって言う冒険者の頂点。


「次会った時は、確実に強くなってる。だから、また会おう。湊」

「……はい! 俺も強くなります。また会いましょう、レッジさん!」

「ああ!!」


 がし! と熱い握手を交わす。

 再会の約束をして。

 

「ああ、それと」


 そろそろ旅立とうと考えていたところ、シレーヌさんが何やら仰々しい紋章が押印された一通の手紙を手渡された。


「ギルドマスターから王都へ向かうならこれを届けてくれと。旅立ちの直前に申し訳ないのですが……」

「ええ、まあ手紙を届けるぐらいなら」

「それで、誰に届けるの?」

「ギルドマスターの姉であるエレトーラ様です」


 どうやらシーマさんの姉は王都で魔法の先生をやっているようなのだ。いったい何の手紙なのかは教えてもらっていないようだけど、内容を知らなくても支障はない。

 

「では、皆さん!! お世話になりました!!」


 いつまでも門の前で集まっているのも迷惑がかかるので、俺達は挨拶も一通りに旅立つ。

 手を振っていると、イーナさんが静かに笑みを浮かべながら手を振っていた。


「居ないと思ったら」


 クールなイーナさんに俺は盛大に手を振る。

 

「んー!! なんだか旅立ちって改めて思うと気分が高騰するわね」

「ふんふふーん、次はどんな楽しいことが待っているのでしょうかねぇ」

「さあ、どんなことが待っているんだろうな」

 

 どこまでも澄み切った青空の下。

 俺達は、王都へ向けて旅立つ。

 未知なるものを求めて……。

そんなこんなで第一部完結です。次回からは第二部の始まりです。


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