第四話 戦いの始まり、着ぐるみは先頭に立つ
「なんだ、こりゃあ」
「これまた随分と荒らされてるねぇ」
西側の調査へ赴いたレッジ達が目にしたのは、鉱山へ行くまでの森林地帯が荒らされた光景だった。
木々は斬られ、砕かれ、地面は抉れている。
「グドウの奴、随分と暴れたようだな」
西側にグドウが居ることを知っていたレッジ達は、周囲を見渡す。
「まったく、八つ当たりも良いところだ。自然は大事にしてくれないと」
通り道を塞いでいる木を退かしながら進む。
レッジを先頭にし、他は四方を警戒。
グドウはすでに魔物を生み出す杖を所持しているという情報を得ているため、一層警戒は強まる。
「そ、それにしてもレッジさんとマルカスさん二人が一緒って戦力的に大丈夫なんでしょうか?」
「どういう意味だ?」
「あ、いえ。他の隊へどちらかが居た方が良いんじゃないかと」
Eランクの少年冒険者が言うと、マルカスがそれに答える。
「俺もそう思ったけどな。戦力的には問題ないって判断したから、俺はこっちに配置されたんだよこれが」
南側はギルドマスターであるシーマが居るため問題はない。普段は人前に出ず、やる気のない感じだが、実力は誰もが認めている。
そうでなければ、多くの冒険者が居るギルドの長など務まるはずがないのだ。
「東側は、すでに杖を回収されたから比較的安全だろう。ま、そうじゃなくともあっちにはミリネッタとカワエルが居る」
「確かに、ミリネッタさんはかなりの実力者ですが……」
不安要素はカワエルにあるようだ。確かに、カワエルはこれまで雑用系の依頼ばかりをしているイメージしか冒険者達に与えていない。
例え天使という上位生物とはいえ、実力がわからない以上不安にもなる。
「あの天使だって相当なものだ。心配することはねぇよ」
「最後に北側だが、あっちは本当に心配することはないって。なあ? レッジ」
「……そうだな。あいつなら問題はねぇだろ。恰好からは考えられないほど、強いからな」
レッジ達の言葉に少し不安が和らぐ冒険者達。
「ん? こいつは」
そろそろ鉱山へ辿り着こうとしていた時だった。
地面に大量の血液が飛び散っているのを発見した。そこから少し進んでところに、無残な姿で倒れた野生動物の死骸が。
「おい」
「ああ、わかってるって」
肌がピリピリとするほどの気配を感じ取ったレッジとマルカスは、武器を構える。他の冒険者達も、それに釣られ警戒心を高める。
「おい!! 居るんだろ!! グドウ!! さっさと出てこい!!」
レッジが叫びが響き渡る。
すると。
「魔物!?」
「ゴブリンにウルフ……それにホブゴブリンも!?」
「ど、どこから湧いて出てきたんだ!?」
レッジ達を囲むように魔物達が姿を現す。
数は軽く数えても、二十体以上は居るだろう。突然ぞろぞろと現れた魔物達に、冒険者達は動揺する。
「ばーか。んなもの決まってるだろ」
「だな。どこかに隠れてるグドウが、例の杖で生み出した。いや転移させたんだろう」
魔物達は出てきたが、グドウの姿はどこにもない。
グドウの性格を考えると、こそこそしないと思っていたため舌打ちをするレッジ。
「出てこねぇってんなら、こっちから赴いてやるよ!!」
「援護は任せなってね!!」
・・・・
「ここまでは、何事もなし、か」
そろそろ俺とミリネッタさんが出会った森へ辿り着こうとしていた。やはりというかなんというか、見晴らしが良いので周囲警戒は楽だった。
それに、ここまでで魔物とは遭遇せず。
「東ほどではないにしろ、魔物と一体も遭遇しないのはおかしいんじゃないか?」
と、ハルトが言う。
「そうかな? そういう時だってあると思うけど」
「私もそう思う。魔物だっていつでもどこでも現れるってわけじゃないんだし」
その意見に対して同じ隊の冒険者達が答える。確かに、そういうこともあるだろう。俺の時だって、カロティアに向かう道中で一体も魔物とは遭遇しなかった。
とはいえ、ハルトの考えも完全には否定できない。
今は状況が状況なだけに警戒するに越したことはない。
「ともかく、この先の森を徹底的に調査しよう。そこは、前にグラットベアーが出現した森だから、何か見つかるかもしれない」
「あっ、それわかる! 湊くんが一人で倒したってやつだよね!」
「最初聞いた時はマジかよって思ったけど、魔石鑑定で嘘じゃないってわかったからなぁ」
俺がグラットベアーを倒したことは、普通に広まっている。
そのこともあってか、こんな恰好をしていても普通に受け入れてくれる冒険者達は多かった。
それにしても、やっぱり凄いよなギルドで使われている魔道具って。
普通に考えて、石の中から記憶を取り出し、他人が見ることができるって……。
「それに、ミリネッタさんと出会ったところでもあるんだろ?」
ハルトの問いかけに俺はああと短く答える。
「本当偶然だったけど、あの時の出会いが有ったから、皆と仲良くできたって思ってるんだ」
「どういう意味だ?」
「いや、ほら。普通に考えて初対面が俺の恰好を見たら普通は驚くだろ?」
「ま、まあ俺もそうだったし。皆も、な?」
うんうんと頷く冒険者達。
そう、あの時ミリネッタさんと知り合っていなかったら俺はもしかしたら街にすら入れなかったかもしれない。
「でも、ミリネッタさんがフォローしてくれたおかげで俺はこうして皆に受け入れられてる」
「それだけミリネッタさんの存在が湊にとっては大きいってことなんだな」
「カロティアで冒険者をすることになった後も、色々教えてもらったからな」
最初の出会いこそあれだったけど、今となってはこう……優しいお姉さん? みたいな。俺、一人っ子だったからなぁ。
姉が居るってこんな感じなんだろうか、ってちょっと妄想してたりも。
「そういうことなら、ミリネッタさんだって同じだと思うけど」
「だよね。ミリネッタさん、湊くんと出会ってから本当に変わったもん」
「俺なんてこの前、依頼のことでアドバイスを貰ったぜ!」
「私だって、色々相談に乗ってもらったわ!」
ミリネッタさんも、大分前に進んでいるみたいでよかった。他の冒険者達とも仲良くできているみたいだし。
だからこそ、旅立ちのことを考えると寂しさが込み上げてくる。
一緒に旅をできれば嬉しいけど、俺の都合で付き合わせるのもな……。
「―――ん?」
「どうしたんだ? 急に止まって」
目的地である森が見えた。
後はこのまま森に入って調査をするだけ、と思っていたのだが嫌な気配を感じ取り足を止める。
ハルト達も、俺の様子が変だと気づき森がある方角を見詰める。
「な!?」
「あ、あれって!」
「まさか魔物!?」
そう。これから向かう森の中から……魔物の大群が出てきていた。
真っすぐ、俺達の居る方へと。
突然現れたって感じがした。いくら森が草木で視界が悪いとはいえ、あれほどの魔物が完全に見えないってことはないはずだ。
ということはやはり。
「皆! 武器を構えるんだ!!」
俺は【ダブルサケセイバー】を構える。
「湊。まさかあの森に」
長剣を鞘から抜きながらハルトが隣に並ぶ。
「ああ、おそらく例の杖が……ある」
となると杖の所持者もどこかに居るはずだ。
まずは魔物の数を確実に減らす。
調査はそれからだ。
「いくぞ!!」
俺は、我先にと魔物達へと向かっていった。




