プロローグ
「また功績を上げたようだな、湊くん。さすが、俺が認めた男だ。そうそう。君が捕らえた男は、情報を聞き出せないか引き続き尋問をしている。とはいえ、あの様子だと……」
魔物を生み出した杖を持っていた男を捉えてから二日後。
俺は、ジルバさんに呼び出され、領主邸へと再びやってきていた。
用件は、予想通り例の男についてだった。
結局、男からはこれと言って有意義な情報は手に入れることができないでいる。イーナさん達が、まだ尋問を続けているようだが、あまり期待はできないようだ。
「杖の方は? シーマさんが解析をしたんですよね?」
「ああ。もちろんだ。俺が直接持って行って解析をしてもらった」
領主が直接って……それだけ仲がいいってことなんだろうか?
「で、その結果だが……あの杖は、どうやらちょっとした転移ができるようなんだ」
「転移ってことは、魔物はどこからか運ばれてきたってことですか?」
「おそらくな」
そういうことなら、この辺りで見ない魔物が出現したのも頷ける。
「それにしても厄介なものだ。転移はそう簡単に使えるものじゃない。だというのにあの杖はそれを可能とする代物だ」
「そんな物を持っていたあの男は……いったい」
「最初から持っていた、というのは可能性としては低いだろうな。もっとも高いのはやっぱり誰かに渡されたってのが妥当だろうな」
そうだよな……やっぱり転移はこっちの世界ではかなり貴重みたいだからな。
【フリーダム・ファンタジー・オンライン】では、街から街、ダンジョンから街とか普通に転移できていたからな。まあ、転移クリスタルにちゃんと記録をしないといけないんだが。
「近々大規模な捜索が行われるだろう。その時は、当然君にも声がかかるはずだ」
「頑張ります」
「頼んだ」
さて、こうして真面目な会話をしている中……一人、興奮した様子の人が居ることにそろそろ触れよう。
その人物は、ジルバさんの奥さんであるミルフィさんだ。
どこから聞きつけたのか、出会って早々に羊さんになって頂けないでしょうか!? と目をキラキラさせて頼んできたので【スリープ羊】を装備したままジルバさんと会話をしていた。
「ほわー……ふわふわですねぇ」
「ははは。よかったな、ミルフィ」
「ええ! このまま抱き枕にして毎日眠りたいぐらいです!!」
この世界に抱き枕あるんだ。
「そうだ、湊くん。この前見ることができなかった珍しい武器はまだあるか?」
「あります、けど」
「おお! 是非、見せてくれ!」
ジルバさんはジルバさんで俺が持っている珍しい形をした武器を見たがっている。会話も一通り終わったことだし、出し惜しむこともない。
そう思った俺は【ワンダフルフリスビー】を取り出し、渡す。
「これは……皿か?」
「いえ、フリスビーっていう名前で、普通は投げて遊ぶものなんです」
「ほう? 玩具ってことか。それを君は武器として使っていると。ん? これは肉球のマークか」
「普通に人同士で投げ合う以外にも、犬と遊ぶ時にも使われるもので」
・・・・
「ふう……今回も揉みくちゃにされてしまった」
「私も止めるのが大変だったわ。本当、ミルフィ様は遠慮がないのね」
今回は、領主邸へ行く時にミリネッタさんやカワエルも付いてきた。また帰るまでメイドさん達と一緒に揉みくちゃにされていたが、ミリネッタさんがなんとか阻止。
ちなみに、カワエルはその時、他のメイドさん達の手伝いをしていた。
「それにしても、あなたって本当変わった武器を使うのね」
そう言って【ワンダフルフリスビー】を眺める。
「これ、本当に魔物倒せるの?」
「一応は。と言ってもこれまでの武器と違ってそこまで殺傷力はないですよ。スキルを使えば別ですが」
「それで、犬型の着ぐるみで使えば手元に戻ってくるのよね」
「はい」
「これ、他の人が投げてもあなたのところへ戻ってくるの?」
「それは……」
そういえば試していなかったな。ゲームでは、他のプレイヤーが使っても戻っては来なかったけど。
「試してみましょうか」
「ど、どうぞ」
周囲に人が居ないことを確認した後、俺は【ワンダフルマジシャン】に変える。そして、そのままミリネッタさんは軽く投げる。
シュルシュル、としばらく空中で回転しながら遠退いていくのを眺めていると。
「お?」
「っと」
くるっと方向転換し、俺の手元に戻ってきた。
なるほど。ここはゲームと違うみたいだな。ここがゲームと異世界でのズレというか違いみたいだな。
「戻ってきましたね」
その後、違う着ぐるみで再度投げたが俺の手元には戻ってこなかった。
「ほいっと」
「キャッチ! せいや!」
なんだかんだあって、ミリネッタさんとカワエルはフリスビーで遊ぶことになった。
「ここだ!」
「あっ!」
しばらく眺めていたが、ちょっとした悪戯心で【ワンダフルマジシャン】に変え、無理矢理軌道を変え、俺のところへ導く。
「こらー、変な悪戯しないの」
「そうですよー! 遊びたいなら遊びたいって言ってください!」
「あははは、ごめんごめん」
こういう日常って、やっぱり良いものだな。
だから、それを壊そうとしている者が居るのなら……絶対止める。守ってみせるんだ。




