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第十三話 帰還した着ぐるみ 暗躍せし闇

「―――というわけなんです」

「なるほど。偶然とはいえよく止めてくれた。この男の身柄はこちらが引き取る。先ほどの情報もジルバ様に報告しよう」

「よろしくお願いします。これが、さっき言った杖です」

「……確かに、見るからに禍々しい杖だ」


 暗くなる前にカロティアへ帰還した俺は、丁度よくイーナさんが居たので、村であったことを知らせた。

 俺は、拘束した男と杖を警備隊に預け、街の中へと入る。

 

「おや、湊くんじゃないか。帰って来たんだね、どうだい? 一本」


 肉串屋のおっちゃんが話しかけてくれるが、また後でと軽く言い走り去る。

 そこから、街の人達は何度も俺に話しかけてくれるが、急いでいた俺は謝罪をしつつ目的地である冒険者ギルドへ直行した。


「到着!」


 さっそく依頼達成のサインが書かれた依頼書を受付へ出し、報酬を受け取る。

 そして、そのままギルドマスターへ報告したいことがあると受付嬢へ伝えようとした瞬間だった。


「湊くーん!!!」

「わっととと……ど、どうしたんだ? カワエル」


 横からまるで弾丸かのような勢いでカワエルが抱き着いてくる。

 若干バランスを崩しつつも、なんとか踏ん張りカワエルを見る。

 なにやら涙目になっているが……そんなに俺がいなくて寂しかったのだろうか。

 ははは、可愛い奴だなぁと思っていると。


「聞いてくださいよ! 湊くん! 男冒険者達がカワエルちゃんのことをガキガキって言って虐めてくるんですよー!!」

「……なにが遭ったんだ?」

「カワエルちゃんの胸は小さくないんですー!!」


 ま、ますますわからない。いや、まさか俺が居ない間にセクハラを!?

 泣きじゃくるカワエルを宥めていると、どこかすっきりしたような表情のミリネッタさんが近づいてきた。


「色々遭ったのよ、あなたがいない間に。それより、お帰り。無事依頼は達成したみたいね」

「ええ、まあ」

「それにしても、なんだかあなたにしては慌ててたようだけど。どうかしたの?」

「……はい、実は」


 泣きじゃくるカワエルは腹に抱き着いたまま、まず受付嬢にギルドマスターに重大な話があると伝えた。内容は、最近問題になっている魔物の出現についてと。

 そう伝えると受付嬢は静かに頷き、その場から離れていく。俺は、その後一旦受付から離れ、ミリネッタさんに村で遭ったことを伝える。


「そんなことが遭ったの……本当、あなたってトラブルに巻き込まれやすいみたいね」

「今回は、その体質が役に立ちましたけどね。もう少し遅かったら、もっと大量の魔物が生み出されていたかもしれませんでしたから」

「そうね。未然に防げて何よりだったわ。それに、これで大きく進展するかもしれないしね。お手柄じゃない、湊」


 と、笑顔で俺の背中を軽く叩くミリネッタさん。

 ……やっぱりどこか憑き物が取れたかのようだ。


「湊様! お待たせいたしました! ギルドマスターがお呼びです!!」


 ミリネッタさんの話も聞きたいところだが、それはまた後になりそうだ。ギルドマスターへ話を通してくれるように伝えた受付嬢が戻ってきた。

 その叫び声に、周りに居た冒険者達はなにが遭ったんだとざわつく。

 

「それじゃ、行ってきます」

「はいはい。ほら、カワエルもそろそろ離れなさい」

「ぐす……早く帰ってきてくださいね、湊くん」


 ずっと抱き着いていたカワエルをミリネッタさんに預け、俺はギルドマスターの下へ向かう。

 階段を上り、いかにも大物が居るぞと言わんばかりのドアを受付嬢が開ける。

 

「失礼します」


 カロティアで冒険者になって一か月以上は経つが、いまだにギルドマスターに会えていない。

 いったいどんな人なんだ? ギルドの長たる人物だ。

 普通の人ではないことは確実。

 

「……」


 中に入ると、だだっ広い部屋にこれでもかと本が詰まった棚が並べられていた。そして、これまたこれでもかと言うほど積み上げられた本の山が置かれた机。

 おそらくギルドマスターが居ると思われるのだが……本の山で見えない。

 それに、俺が入ったと言うのになんの反応もない。

 あれ? もしかして聞こえていなかった? でもあの受付嬢は、ちゃんと伝えて、ギルドマスター本人が話をしてもいいってことになった、んだよな。


「……」


 静かに、俺は奥へと進んでいく。

 一歩、また一歩と近づいていくが、まだ反応がない。


「あの、ギルドマスター、さん?」


 本の山は結構高いが、今の俺の身長なら上から覗ける。

 そーっと、そこに居るであろうギルドマスターの姿を確認すると。


「あ」


 丸めがねをかけた小柄な少年? 少女? とにかく明らかに子供っぽい人物が本で顔を隠していた。



・・・・



「くそ! くそ!!」


 とある森の中で、グドウは怒りに任せ魔物を狩っていた。

 しかし、それだけでは怒りは収まらず、周囲の木々にまで大剣を振るう。そんな様子を、パーティーメンバー達は眉を潜めながら見ていた。


「ぐ、グドウ。悔しいのはわかるけど」

「てめらに何がわかるってんだ! 戦いも挑まずに逃げた腰抜け共によぉ!!」

「いや、あれは」

「だって、相手はレッジだし」

「な、なあ?」


 レッジの名前を聞き、グドウは大剣を握る手に力が更にこもる。

 

「ちっ! レッジの野郎が……! いつの間に、ミリネッタと仲良くなりやがったんだ!」

「噂じゃ、あの湊って奴に負けたとか」

「はあ? あんな奴にか?」

「ああ。明朝に戦技場に下りていく姿を見たって連中が話してたんだ。本当かどうかわからねぇんだと。そいつらもただ下りていく姿を見ただけだって言うし」


 仲間の話を聞いたグドウは、大剣を背負い空を見上げる。


「湊……そうだよ、あいつだ。あいつが来てから、何もかもおかしくなった」


 湊がカロティアに来てから色々変わった。

 ミリネッタも徐々に物腰が柔らかくなり。レッジは新人冒険者によくアドバイスをしたり。街を歩けば、湊の名前を聞く日などないほどに広まっている。

 

「色んな意味で影響力凄いよな、あいつ」

「まず恰好から凄いしな」

「あんな装備どこで手に入れたんだろ」

「あー!! イライラするぜ!! おら! てめぇら! いつまで話してんだ! 次の魔物を探しに行くぞ!!」


 考えるより体を動かす。その方が怒りも収まるだろうと、足を進めるグドウ。

 しかし、どこからともなく不気味な空気を感じ、足が止まった。


「やあやあ、随分とお怒りですな」

「誰だ、てめぇ」


 暗闇の中から現れたのは、全身をローブで隠した者。

 声からして男だが、まるで女かと思うほど肌は白く、指が細い。そして、極めつけには口を紫色に染めている。


「私ですか? そうですねぇ……闇の使者、とでも呼んでください。あ、気軽にやーくんとかやっちと読んでも良いんですよ?」

「ふざけてんのか、てめぇ!」

「グドウ。あんま関わんねぇほうがいいぜ」

「ああ、なんか不気味な雰囲気だしよ」


 真面目なのか不真面目なのかわからないローブの男に食い掛ろうとするグドウを仲間達は必死に止める。あまり関わらないほうがいいと。

 

「私はいたって真面目ですぞ? それに、私はあなたに力を与えに来たんですよ」

「力?」


 にっと笑みを浮かべ、何もない空間から禍々しい宝石をはめ込んだ杖を一本取り出し、グドウへと投げる。


「んだ、これ。俺は魔法使いじゃねぇぞ」

「大丈夫ですよ。それは、魔法の才能がなくとも扱える代物ですからして。ちなみに効果は」


 すーっと、音もなくグドウへと近づき耳元で囁く。

 それを聞いたグドウは、信じられないとばかりに目を見開く。ローブの男は、そのままグドウの隣に止まり語り続ける。


「使うか、使わないかはあなた次第。まあ、私の見立てでは使うと思っていますが」

「……」

「うまく使えば、欲しいものが手に入る、かもですよ」


 その言葉を最後に、ローブの男は闇へと溶けていく。

 

「お、おいグドウ」

「いくぞ」

「ちょ、おい!!」

「待てって!!」


 仲間が心配する中、グドウは杖を握り締めたまま歩き出す。

 その瞳に、闇を宿らせながら。

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