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第二話 男嫌いのエルフ、熊だけど着ぐるみだよ

「おい! ミリネッタ! 今から依頼か? なんだったら手伝ってやるぜ! なあ、おめぇら!」

「おうとも!」

「心配すんな。礼は、ちょーっと俺達と遊んでくれればいいからよ!!」


 厳つい顔立ちの荒くれ達が下品に笑う。

 それを見たエルフの少女―――ミリネッタ・ヘルンはゴミを見るような視線を向ける。


「結構よ。あなた達の手伝いなんていらない。昼間から酒を飲んでるような奴らなんかに何ができるって言うのよ」

「ひでぇ! 言われてるぞ、おめぇら!」

「おめぇもだよ!」

「つーか、依頼なんかより俺達と一緒に食事でもしねぇか!」


 完全に酔っぱらっている荒くれ達をミリネッタは完全に無視する。

 

(これだから男って言うのは……!)


 ずかずかと怒りを露わにしながらギルドを去っていくミリネッタ。

 彼女は、男が嫌いだ。

 特に下品で、女を性の対象としか見ていない男が。昔はそれほどではなかった。純粋に冒険をすることに憧れていたミリネッタは、故郷を出て冒険者となった。


 滅多森を出ることがないエルフは、人間達にとっては珍しい対象であったためよく話しかけられ、色々と教えてもらった。

 だが、ある日を境にミリネッタは男嫌いに。

 一緒にパーティーを組んで、依頼を達成し、その祝杯として飲みなれない酒を進められる。心を許していたミリネッタは、どんどん進められた酒を飲み、気分の良いまま酔い潰れた。


 そして、次に目が覚めると……男達が何やらこそこそと相談しているのを耳にする。

 その内容は、ミリネッタを誰が先に犯すかというものだった。

 ゾッと恐怖を覚えたミリネッタは一気に良いが覚め、そのまま逃げるように酒場を去っていった。

 

(男なんて……男なんて……!!)


 全員が全員そうじゃないということはもちろん理解している。

 それでも、今のミリネッタにはどうにも男という存在が汚く見えてしまっているのだ。

 人の好さそうな顔で近づいてきても拒否。

 女性冒険者からパーティーの誘いを受けても、男が居ると拒否。


「―――ふう、やっぱり森に居ると落ち着く……」


 さっさと街から去り、目的地である森へとやってきたミリネッタ。

 その心地よさに怒りが静まっていくのを感じていた。

 今回ミリネッタが受注した依頼は、薬の調合に使う薬草の採取。ミリネッタは、故郷に居た頃から様々な植物の名前、見分け方、採取法などを叩きこまれた。

 

「よし、これでいいかな」


 森に癒されながら必要な薬草を採取したミリネッタは、薬草を入れた鞄をしっかり蓋し、森を去ろうと立ち上がる。

 

「……なにか来る」


 しかし、自分に近寄ってくる気配に腰に装備していた二本の短剣を抜く。


「くっ!?」


 茂みから飛び出してきた影を避け、空中で一回転。

 着地し、すぐさま切りかかる。


「硬い!?」


 がきん! と硬いものに阻まれる。

 やばいと下がり、敵を観察する。


(よりにもよってグラットベアーに遭遇するなんて……!)


 全長は二メートルを超え、腕には鋼鉄をも弾くと言われる硬い皮膚に覆われ、その一撃は岩をも容易に砕く。

 今のミリネッタの実力では到底敵わない相手だ。いや、そもそもソロで戦うような相手でもない。

 パーティーを組んで、連携し、ようやく倒せるかどうか。

 冒険者のほとんどが、良い調子で実力をつけていたところをグラットベアーと戦い、その自信を打ち砕かれている。


「危なっ……!」


 逃げようにも、グラットベアーの方が早い。

 このままだと確実に殺されてしまう。

 

(落ち着け……落ち着くんだ……森はエルフにとって遊び場も当然)


 じりじりと間合いを図りながら、ミリネッタは周囲を見渡す。

 そして。


「今っ!」


 茂みへと飛び込み、そのまま逃げる。当然グラットベアーも追いかけてくる。だが、障害物が多いところを狙ったため、図体の大きいグラットベアーにとっては移動が遅くなる。

 対して、ミリネッタはするりするりと進んでいく。


「よし、このまま……!」


 このままうまく逃げ切り、森を抜ける。

 その後は。


「グオオオッ!!」

「え?」


 どれくらい離したのかと振り向いた刹那。

 障害物となっていた木を打ち砕き、吹き飛ばしてきた。


「きゃっ!」


 運よく致命傷は避けたが、小さな傷をいくつか負い、そのまま拓けた場所で転んでしまう。


「いつっ!」


 このままではやばい。早く立ち上がって走らなければ。


「あっ」


 だが、もう遅かった。障害物など意味がなかったかのように、追いついたグラットベアー。もう逃がさないという意思が伝わってくる。

 一歩、また一歩と近寄ってくるグラットベアーにミリネッタは短剣を構え応戦しようとする。


 そこへ。


「グアアアッ!?」


 突如としてグラットベアーの腕は切り裂かれる。

 悲痛の叫びをあげ、バランスを崩す。

 なにが起こったのかわからず、驚いているミリネッタのところへ……違う熊が現れた。


「大丈夫か?」

「―――熊?」


 新手? と一瞬思ったが、なにかが違う。

 なにか丸い。

 全体的に丸い。グラットベアーと比べれば一目瞭然。その手にはなぜか魚があり、可愛い見た目に反して青年のような声。

 窮地からなにかふんわりとした空気になり、ミリネッタは困惑した。

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