第六話 冒険者達の語らい、就寝する着ぐるみ
「―――それにしても、すっかりカロティアで有名になったらお前ら」
「ふふん! カワエルちゃんの可愛さと実力があれば当然のことです!」
「いや、お前らって言ってるだろ?」
「目立つからねぇ、あんたら」
それはとある昼時。
濃い雨雲が漂う空の下。俺達は、ギルド内で昼食を食べていた。ミリネッタさん、俺、カワエルの順番で一列に並び、正面の席にはレッジさん、マルカスさんの二人が座っている。
採取依頼の帰りだったので、今の俺の着ぐるみは【ワンダフルマジシャン】だ。
注文したステーキ肉へナイフを入れ、綺麗に切り、フォークで口に運ぶ。
「まあ、そうよねぇ。目立たない方がおかしいわよね。特に、そこの二人は」
「え?」
「ほえ?」
と、様々な野菜を混ぜた飲み物が入ったジョッキを持ちながら見てくるミリネッタさん。
「エルフに、天使に、よくわからない生き物。普通の人がいねぇって、すげぇよな」
「はあ……エルフだからって目立っていたあの頃が懐かしいわね」
「あの時のミリネッタとは比にならねぇからな。主にそこで器用に肉を切っている不思議生物のせいだが」
「やだなぁ、レッジさん。俺はこれでも人間ですって何度も言ってるじゃないですか」
「だったら、その自称防具を脱いで素顔を見せろって」
「あ、あはは……すみません」
自分では人間と言っているのだが、やはり何時まで経っても素顔を見せようとしないので、不思議生物で通っている。
俺だってできるなら人間の姿を見せたい。
しかし、俺の肉体はすでに死んでおり、魂だけの存在。この着ぐるみはいわば魂の入れ物ってところ。
もし着ぐるみを脱ぐことができたとしても、魂だけ、なんだろうな。
「で? ランク上げは順調なのか?」
「まあ順調ですね。シレーヌさんが言うには、もうそろそろDランクになれるだろうって」
「そうか。だったら、覚悟しておけよ? これは先輩からのアドバイスだ」
「だな。ランクはDランクから本番だ。お前なら普通に頑張っていればCに上がるだろうがな」
冒険者ランクは、Dランクから上がりにくくなる。今まで以上に依頼をこなし、実績を積み、信頼を得なくちゃならない。
「私もDまでは結構順調に上がったけど、Cにはまだまだなれそうにないわ」
「Cもそうだが、Bに上がるのも簡単じゃない。中には、中々上がれなくて冒険者をやめたって連中も居るぐらいだからな」
「じゃあ、Aは?」
「なれたら自慢していい。誇っていい。実質Aが最高ランクって言われているぐらいだからな」
「あれ? でも、その上にSランクがあるんじゃないんですか?」
と、カワエルは俺の肉球をぷにぷに触りながら聞いてくる。
そう、ギルドが定めたランクの最高はSだ。
なのに実質Aランクが最高ってことは……。
「実質最高ランクと言われるAランクですら世界で数十人。Bランクは数百人。それより下はもっと居るだろうな。けど……Sランクはたった四人」
「よ、四人」
なんとなくわかっていたが、そこまでとは。
しかもそれが世界規模で。
「更に、たった四人のSランク冒険者は、全員が亜人や獣人だ」
「つまり、純粋な人はいないってことですか?」
「ああ。ちなみに俺達が居るこの大陸に四人の内の一人が居る」
「まあ、Sランクは最強の領域だね。人でそこに行けるっていったら……まあ勇者とかかね?」
「勇者……」
そういえば、ピリスはこの世界に勇者が居るって言っていたな。それって、俺みたいに別世界から召喚された異世界人だったり?
「勇者って今も居るんですか?」
「ん? いや、そういう話は聞かないなぁ」
「前の勇者は、魔王と相打ちになったって話だが」
勇者って言うのは、世界が危機に陥った時に現れる存在。
てことは、今は平和そのものってことなのかな……それはそれで喜ばしいことなのだが、どうにももやもやするような。
なんでだ?
・・・・
「凄い雨、それに雷だな」
レッジさん達と一緒に昼食を楽しんだ日の夜。
夕方から大雨となり、今では激しく雷が降っている。
この調子だと明日も大雨かもな……。
イルちゃん、雷を怖がっていたけど大丈夫かな? まあ、マークさんもネアさんも居ることだし心配はないか。
「ん?」
俺もそろそろ寝ようかと思った時だった。
部屋に近づいてくる気配に気づく。
誰だ? ミリネッタさん? いや、なんだか違う。
「……」
部屋の前に来たものの何もせず。
こっちから出向こうと、ベッドから起き上がると。
こんこん。
ちょっと控えめにノックをしてきた。
そのままドアを開けると……そこには枕を抱いたカワエルが立っていた。ぷるぷると体を震わせており、目に見えてわかるほど怖がっている。
「あ、あのですね。別に雷が怖いとかそういうのじゃないんです」
「まだ何も言ってないんだけど」
とりあえず部屋に入れる。
そして、ベッドに並んで座る。
「えっと、その恰好は?」
「ん? これか。これは寝る時用で【スリープ羊】っていうんだ」
見た目は、子供ぐらい小さな羊で、頭にナイトキャップを被っている。こいつを装備していると寝る時の回復速度が格段に上がる。
ゲームだった頃の話だが、こっちではこういううるさい日でも常に快眠。大きさも丁度良くベッドからはみ出ることない。固有スキルもあり、意外と戦闘でも役立つ着ぐるみだ。
食欲もそうだが、肉体を失い魂だけの存在となった俺は普通の生物とは違うんだろうと思っていたが、なんら変わりはなかった。
「……ふわふわぁ」
おもむろに抱き着いてきたカワエルは、先ほどまでの不安な表情から一変。
そのふわふわ感に、至福の表情を浮かべていた。
しかし。
「ぴいっ!?」
大きな落雷に、悲鳴を上げ、またがたがたと震える。
「……今日は一緒に寝るか?」
「し、仕方ないですね! 湊くんがどーしても! って言うのであれば可愛いカワエルちゃんが一緒に寝てあげます! 本当に仕方ないですねー!! 雷が怖いだなんて湊くんは子供ですねー!!」
「はいはい」
その後、意外とすぐカワエルは深い眠りについた。
もしかして、こっちでは【スリープ羊】の効果が他の者にも適用されるのか?
今までは一人で眠っていたから、わからなかったけど……そうだとしたら、他の着ぐるみも少し効果が違うかもしれない。
後で、調べておかないとな。




