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第四話 泣きじゃくる天使、協力する着ぐるみ

「ひっく……! ひっく……! ひどいです! カワエルちゃんは、ただ下界の皆さんに笑顔になってもらおうって思っただけなのに!!」

「天使さん、虐められたの?」

「うーん、ちょっと違うわね。なんていうか……普通に怒られた、かな」

「悪いことしたの?」

「違いますよ! 愛らしき幼子ちゃん! カワエルちゃんは、ただ天使として、それっぽい登場の仕方をしただけで、決して! 不法的に侵入したわけじゃないんです!!」

「いや、通行証なしに街に入ったら、それは侵入したってことになると思うけど」

「ぴええええええん!!! 最初から犯罪者になるなんて、お先真っ暗くらですー!!」


 カロティアにやってきた天使カワエル。

 空から街に侵入したとして、警備隊に連行。俺の付き添いの下、厳重注意を受け、釈放。そして現在、俺とミリネッタさんが泊っている宿で号泣している。

 他にお客さんが居るので、かなり視線が集まっている。

 

「泣かないで、天使さん。よしよし」

「ううぅ……幼子の優しさが傷ついた心に染みますぅ……!」


 この世界で、天使には初めて会ったけど、なんだか普通の子供にしか見えない。

 

「それで? カワエルは、これからどうしたいんだ?」

「もちろん、下界の人達をカワエルちゃんの力で笑顔にするんです!!」

「どうやって?」

「それは……考え中です。出鼻を挫かれたせいで、結構落ち込んでいます。なので、カワエルちゃんはしばらく療養します。あ、アイスクリームおかわりお願いします」


 やはり、相当まいっているようだな。

 ま、普通に食事しているからすぐ復活しそうだけど。


「あ、そうです! 湊くん!!」

「み、湊くん?」


 天使だから俺よりも年上、なんだろうけど。見た目が、小さな女の子なので凄く違和感がある。

 

「カワエルちゃんのお世話係になったからには、色々と協力してもらいます!」


 いや、お世話係じゃないんだが。


「どうやら湊くんは、このカロティアの人気者みたいですからね。君とカワエルちゃんが協力し合えば、無敵です!!」

「無敵かどうかはともかく、まあ俺もイーナさんに責任をもって世話をするって言ったから、協力はするけど……具体的に、どうするんだ?」

「ふっふっふ。カワエルちゃんに良い考えがあります」


 にやりと、口元にアイスクリームをつけながら笑みを浮かべるカワエル。

 なんだか失敗しそうな予感がする。


「大丈夫なの? あれ」


 ミリネッタさんも心配してか、俺に耳打ちをする。


「とりあえず、悪いことはしない、と思いますけど……」


 いったい俺に何をさせようと言うのか。



・・・・



(ふっふっふ! 我ながらナイスな作戦です!! 自分の才能が恐ろしいです!!)


 出鼻を挫かれ、かなり落ち込んだカワエルだったが、なんとか立ち直り再度街へ出ていた。

 

「ねえ、あれ」

「なんだ、あれ」


 人々を笑顔にする。

 カワエルは、そのために湊へ協力を要請した。カロティアの人気者である湊と協力し合えば、容易に笑顔が溢れるだろうと。

 

 カワエルの作戦はこうだ。


「なあ、カワエル」

「なんですかー? 湊くん」

「本当にこんなことでいいのか?」

「もちろんです! これほど完璧な作戦のどこに不満があるというのですか!? 見てください! 人々の視線はカワエルちゃん達に集中しています!」

「でもなぁ」


 今、カワエルは湊の頭に乗っている。

 湊の装備は【猫ソルジャー】なのだが、結構頭が大きく子供一人ぐらいなら簡単に乗れる大きさがある。カワエルも低身長で、結構軽い。

 そのうえ、頭上に抱き着くように乗っかっているため容易に落ちることはないだろう。

 更に更に、翼を広げることで目立ち度はアップ。

 

「見てください! 自然と笑顔が零れています!!」

「そうだけど……」


 確かに、人々は笑顔になっている。

 が、くすくすと声を抑えて笑っている者達が多い。中には微笑ましそうに見詰めている者達も。

 

(……ん? なんでしょう。完璧な作戦なはずなのに、この違和感は)


 湊が人々に手を振っている中、カワエルは思考する。

 笑顔になっている。

 作戦は間違ってはいない。

 だと言うのに、心の底から気持ちよくならない。


(湊くんは、慣れていますね。カワエルちゃんを頭に乗せながらも一人一人に手を振って。あ! そうか!)


 違和感の正体に気づいたカワエルは、湊と同じくすれ違う人々に笑顔で手を振った。


(ただ頭に乗っていてはだめですよね! 可愛いカワエルちゃんが手を振らないでどうするんですか! あー、これで心の底から気持ち……よくならない。なんで?)


 笑顔で手を振りつつ、カワエルは思考する。どうして、心の底から気持ちよくならないのか。

 

(むむ? よく見たら人々の視線の多くが湊くんに……はっ!? そういうことだったんですね!)


 ようやく心の底から気持ちよくならない理由がわかった。

 カワエルは、ばしばしと湊の頭を軽く叩き止まるように伝える。


「どうかしたのか?」

「とう!!」


 湊が立ち止まるとすぐに頭の上から飛び、右隣に着地する。そしておもむろに手を握ってきた。


「これで完璧です!!」

「……なにが?」


 よくわからない湊だったが、カワエルに急かされ再び歩き出す。


(おー! なんだかすーっとなりました! やはり人々と同じ視線じゃなかったから気持ちよくならなかったんですね! カワエルちゃんとしたことがなんたる失態! だから、湊くんは微妙な反応を……)

「お。カワエル。あそこの肉串かなり美味いんだけど、食べるか?」

「食べます!!」

 

 その後、カロティア中にこんな噂が広がった。

 大きな動物と手を繋ぐ可愛い天使。二人のやり取りを見ていると、自然と笑顔が零れてしまう、と。

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