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第三話 困惑する天使ちゃん、助けて着ぐるみさん

(お、落ちつくのですカワエル! 多少? 大きくて二足歩行ですが、あれはどう見てもわんちゃん! 魔法使いの恰好をしているから目立っているますが、一目こちらを見ればカワエルちゃんの独り占め!!)


 自分ではなく、犬の方が人気なわけがない。

 カワエルは、乱れる心を落ち着かせ、自ら歩み寄っていく。


「初めましてー! ちょーっといいですかー?」


 天使な笑顔で媚びた声音で挨拶をするカワエル。

 すると、挨拶をする前に気づいていた湊が最初に声を出す。


「やっぱり、天使だ……」

(むむ? よく聞くと可愛い見た目に反して、なかなかのいい声……じゃない! よーし、掴みはばっちり! このままカワエルちゃんのペースに持っていきますよー!)


 湊を皮切りに、周囲に居た女性達もカワエルのことを見始める。

 最初はびっくりしていたが、カワエルの人懐っこい笑顔を見て落ち着いていく。

 そこへ畳みかけるように、右目でウィンク、右手で敬礼、少し前かがみになり。


「天界から舞い降りし天使! カワエルちゃんです!! 下界の人達に笑顔をお届けに来ちゃいました!!」

「……」

(ふっふっふっふ。どうです、わんちゃん! カワエルちゃんの可愛さに声も出ないようですね!!)


 内心で勝った! と確信するカワエル。

 このまま虜にして、幸せの時間を! そう思った刹那。


「そこの天使」

「はーい! カワエルちゃんになにか御用ですかぁ?」


 背後からかけられた声に反射的に振り替える。

 

「―――はえ?」


 そこにはカワエルの想像とは違う光景が広がっていた。カロティアを護る警備隊。隊長のイーナを筆頭に多くの兵士達が集まっていた。

 本来なら、自分の可愛さに集まってきたのだ! と思うところだが、表情と漂う空気に違うと直感。

 

「えっと、なんでしょうか?」

「私は、このカロティアを護る警備隊の隊長イーナ。君の名前は?」

「か、カワエルです」

「では、カワエル殿。ひとつ聞きたいことがあります」

「な、なーに?」

「通行証は、お持ちですか?」

「……」


 そう。イーナ達は、カロティアに不法侵入したカワエルのことを聞き集まってきていたのだ。相手が相手なだけに、一般市民はすでに退去済み。

 カワエルの背後では、湊を囲っていた女性達を兵士が避難させている。


「あ、いやその……」

「多くの人々が、空からあなたが舞い降りたと言っています。どうやら何か使命があり天界から参られたようですが」

「そ、そうなんです! カワエルちゃんは、下界の人達に笑顔を!」

「それはわかりました。ですが、いくら天使様と言えど、下界に来たのなら下界のルールを守って頂けなければなりません」


 街などに入るには、出入り口で通行証を発行しなければならない。

 しかし、カワエルはそれを持っていない。

 つまり下界で言う不法的に街へ入ったことになる。


「た、確かに通行証は持っていませんけど。ほら? そこは今発行すれば」

「確かにそうですが……その前に、あなたを一度連行しなければなりません」

「ええええ!?」



・・・・



 なんだかすごいことになったな。

 いつも通り人々と触れ合っていたところに、まさかの天使襲来。

 どうやら友好的な天使のようだが、イーナさんが言うには不法侵入をしたようだ。

 

「天使とか初めて見たけど、イメージと違うわね」

「俺もそう思います。なんかこう……悪いことをして叱られている子供みたいに見えますね」


 さっきまではアイドルみたいなノリだったが、今ではそんなものはなく、あわあわと困惑している。

 あ、こっち向いた。

 うわ、涙目だ。

 これは……助けを求められてる? 


「ちょっと、あの天使。あなたのこと見てない?」

「見て、ますね」

「あれ、絶対助けを求めてるわよ」

「です、よね」


 ……ほんと、助けを求められると弱いんだよなぁ、俺って。


「あのー、イーナさんちょっと良いですか?」


 と、俺は天使―――カワエルの前に立つ。


「む? 湊か。まさかとは思うが、庇うつもりか?」

「えっと、それは」

「うるうるうる」


 俺だって、理解している。イーナさんの言っていることは間違っていないことを。そして、イーナさんはただ警備隊として仕事をしているだけだと。

 なので。


「この子のこと、俺に任せてくれませんか?」

「なんだと?」

「ぴいっ!?」


 まるでひよこかのように悲鳴を上げるカワエル。それほどイーナさんの睨みが怖かったのだろう。


「あ、もちろん一度連行してからの話です」

「ちょっ!?」

「ふむ。つまり、カロティアに居る間は、湊が責任をもって世話をするということか」

「はい。この子、悪い子ではなさそうですし。その、あまり怒らないであげてください」

「こ、子供扱いしないでくださーい!!」


 と、俺の後ろに隠れながら抗議の声を上げるカワエルだったが、イーナさんの睨みにまた短く悲鳴を上げ身を隠す。


「……ふう。まあ、お前はジルバ様にも、住民達からも認められているからな。こちらとしても、ただ厳重注意をするだけで、そこまで重い罪にするつもりはない」

「じゃあ」

「ただ、このことはジルバ様には報告する。そして、言ったからにはちゃんと責任を持つように」

「はい、わかりました」

「あ、あのカワエルちゃんの意見は」

「さ、とりあえず一緒にごめんなさいをしよう」

「だーかーらー!! カワエルちゃんを子供扱いしないでくださいー!!」


 突然、空から舞い降りたお騒がせ天使ことカワエル。なんだか、波乱の予感……というか、何も起こらない、なんてことはありえないだろう。

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