第十二話 盗賊達の襲撃を阻止、狙われる着ぐるみ
「どうやら間に合ったようね」
ある程度、盗賊達の後を追い、途中で別の道を移動した。
冒険者の一人が盗賊達と組んで荷馬車を襲う。
そんなことはさせない。
必ず阻止して見せる。
「それにしても、もし戦闘になったら対処ってあったけど。大丈夫かしらね、これ」
「今からギルドに報告に戻っても遅い。その間に、荷馬車は確実に襲撃されます。事後報告になりますが、やらなくちゃ一般人と同じ冒険者の命が失われる可能性がありますから」
「ふふ。ギルドには捜索していたらたまたま現場に居合わせて戦闘になったってことにしておきましょう」
と、ミリネッタさんが悪戯っぽく笑みを浮かべる。
会話をしていると、カロティア方面から移動してくる荷馬車を目視した。護衛の人数は、三人。一人目は剣士風の青年で、二人目は魔法使い風の少女、三人目は槍使いの男か。
さて、いったい誰が協力者なんだ?
「それで、作戦は?」
「合図となるであろう協力者の襲撃。それを俺が阻止します。ただ襲撃が失敗したら、盗賊がどう出るかわかりません。もしかしたら、作戦が失敗してそのまま撤退する可能性もあります」
「じゃあ、どうするの?」
「―――襲撃が成功したように見せるんです」
いったいどうやって? と言うミリネッタさんに俺はあるアイテムを見せる。それを見たミリネッタさんは、心配そうに眉を潜めた。
そうこうしている内に、荷馬車の距離が近くなった。
さあ、いったい協力者は誰なんだ……。
「動いた」
協力者は、槍使いの男だった。
完全に油断しきった剣士の男の背後から槍で襲撃しようと迫る。なんとかその気配に気づいた剣士だったが、タイミング的に防ぐことも回避することもできない。
「ぐあっ!?」
剣士は、短い悲鳴を上げ、赤い血飛沫をまき散らしながら吹き飛ぶ。
「うわあ!? あ、あんたなにを!?」
「え? え? ちょっと、どういうこと、なの?」
荷馬車に乗っていた男も、魔法使いの少女も何が起こったのか理解できず混乱している。
……だが、それは槍使いの男も同じだった。
槍を構えたまま、眉を潜めている。
「よし、成功だ!」
剣士の男は、槍使いの男にはやられていない。少しの衝撃はあっただろうが、命に別状はなし。ならどうして血飛沫をまき散らし吹き飛んだのか。
それは、俺がタイミングよく投げたアイテムにある。
俺が投げたのは【血飛沫トマト】と呼ばれるもので、少しの衝撃と血飛沫ように弾ける効果があり、これを使って【フリーダム・ファンタジー・オンライン】では、色んな遊びをしていた。
例えば、突然の裏切り。
き、貴様裏切ったのか!? 的なことをしていたっけなぁ……懐かしい。とまあ、そんな感じでゲーム時代に取っておいたものが、役立ったということだ。ピリスには感謝だな。
剣士の男には悪いことをしたが、これでおそらく。
「おっしゃあ! 今だぁ!!」
「ははは! よくやったな! これでスムーズに奪えるぜ!!」
「ちょ、ちょっと待て!」
盗賊達は、剣士がやられたと勘違いし意気揚々と出てくる。
「まずは、魔法使いの女からだ!」
「やあやあ、お嬢ちゃん。抵抗しないほうがいいぞ? 大人しくしていたら、おじさん達がやさーしく可愛がってあげるからねぇ」
「くっ!」
盗賊の数は、軽く数えただけで二十人。
そのうちの四人が魔法使いの少女へと向かった。まだ混乱している中、応戦しようと杖を構える。
「魔法を使わせるな!」
「ひゃっはー!!」
しかし、数が違う。
前の四人に気を取られている隙に、背後から一人が襲撃。
不意を突かれた。
このままでは攻撃を食らう。しかし……。
「まず一人!!」
「ぐああ!?」
「な、なに!?」
「どっから出てきたてめぇ!!」
ミリネッタさんがそれを阻止。そのまま素早い動きで、距離を詰め、四人の内二人を一蹴。
「この!」
「よくも!!」
「遅い!」
なんとか反撃しようと残りの二人が剣を振りかざすも、背後に回り込まれ意識を奪われる。
「大丈夫?」
「は、はい。って、あなたはミリネッタさん? どうしてここに」
「話は後よ。今は、こいつらを無力化するのが先決」
「わ、わかりました! 魔法で援護します!」
「お願い!」
よし、俺もやるか。
「ど、どうなっているんだ? どうして他の奴が!」
「まあいい! おい! お前も手伝え!」
「いや、だから」
「さて」
俺は【猫ソルジャー】に切り替え、混乱している槍使いの男と盗賊の背後に降り立ち、肩に手を置く。
「――-は?」
「お仕置きだ!!」
「ぐああ!?」
「ごぼはっ!?」
そのまま頭と頭をぶつけ合わせる。そのまま荷馬車を襲おうとしていた盗賊達へと【かつお節ブレード】の固有スキル《削り節の乱》を放つ。
「うお!? な、なんだこれは!?」
「ま、前が見えねぇ……!」
「どりゃあ!!」
困惑しているところを一気にフルスイング。もちろん刃の部分ではないほうで。
「な、なんなんだよ。いったいどうなって……え?」
計画はうまく行き、自分達は荷馬車をまんまと強奪していたはず、と思っていたんだろう。
しかし、それは失敗に終わり、唖然としている盗賊の一人。俺達が見かけたうちの一人であるスキンヘッドの背後に剣士の青年が立っていた。
トマトがべっちゃり付着しまるで血塗れかのように見える。
「お、お前やられたはずじゃ」
「俺にもなにがなんだかさっぱりだよ!!」
と、困惑したままスキンヘッドの頭に鞘に収まったままの剣を振り下ろす。
「あら? もしかしてもう終わり?」
「そうみたいですね。お疲れさまでした、ミリネッタさん」
「あなたもね」
捜索の依頼だったが、思わぬ事態になった。けど、これで一安心だ。後は、この盗賊達を拘束して警備隊に差し出すか。
・・・・
「ちっ! イライラするぜ!」
カロティアから東に向かうとある鉱山地帯。
そこで、大量発生した小型の魔物を殲滅したレッジは、刃に付着した血液を払い鞘に納める。
「おいおい、なにイライラしてんだ? って、決まってるか。例の新人冒険者だろ? もうランクアップしたんだってな」
その近くで、弓の弦の調子を確かめながら、レッジの仲間であるマルカスが苦笑する。
「ああ。そうだよ。こんなに早くランクアップするなんてありえねぇ。それにまた」
「またミリネッタちゃんとパーティーを組んでた、だろ? お前も本当好きだねぇ、彼女のこと」
レッジがイラついている原因は、湊にある。
つい最近冒険者になったばかりだと言うのに、もうランクアップしたのだ。奇妙な恰好で最初から注目を集めていたが、更に実力が認められ、注目度は上がった。
加えて、毎回のようにミリネッタとパーティーを組んでいることもレッジがイラついている原因のひとつでもある。
「どうせ、またミリネッタに手伝ってもらったんだろうぜ」
「そんなことはねぇと思うがな。例のホブゴブリン討伐だって、安心と信頼の魔道具さんで実証されてんだろ?」
「不具合だよ、不具合」
「不具合ねぇ……けど、ミリネッタちゃんの協力があったからってこうも早くランクアップはできねぇと思うぜ? そもそもパーティーを組むなんて冒険者にとっては当たり前のことだってのはお前もわかってるだろ?」
冒険者のランクは、仮令ソロで強い魔物を倒せる実力を持っていたとしてもそう簡単には上がらない。
実力、実績、信頼。この三つが合わさってこそ、はじめてランクが上がる。
マルカスの言葉を聞き、レッジは近くに腰を下ろし空を見上げる。
「んなこと俺だってわかってる」
「お?」
「あいつは嫌でも目立つからな。あいつが積極的に報酬なんて関係なしに依頼を受注していたり、街の連中とも交流を深めたりしているのも知ってる」
「ガサツなお前には難しいことだな」
「うるせぇ……」
マルカスは憎まれ口にレッジは軽く反論しつつ、手渡された水筒を受け取り喉を潤す。
「ふう……けどな。俺はあいつをそう簡単には認めねぇ」
「それはどうして?」
「俺自身があいつの実力を肌で感じてねぇからだ」
「なんだそういうことか。てっきりミリネッタちゃんを取られたからー、とかだと思ってたぜ」
「だ、誰がそんな!」
「お? まさかそっちの方が強かったか?」
「てめぇ! ぶった斬られてぇのか!!」
「おー、怖い怖い。……で? どうすんだよ」
急に真面目な顔になったマルカスにレッジは、静かに剣の柄に手を添える。
「決まってんだろ。こいつであいつの実力を測るんだよ」
「おいおい。冒険者同士の殺し合いはご法度だぜ? それじゃなくても、つい最近冒険者が盗賊と組んで犯罪を犯したんだからな」
冒険者の裏切りにより、ギルド側からも厳重注意を受けている。カロティアでも警備が強固となり、怪しい動き、争いごとがあればすぐ兵士達が駆けつけるだろう。
それはレッジもわかっている。
「誰も殺し合いなんてしねぇよ。正式に決闘を申し込むんだ」
「相手が受け入れてくれるかねぇ」
「なんとかしてみせるさ……」




