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第十一話 領主から認められる着ぐるみ、盗賊の捜索

「これが、正式な通行証だ。受け取れ」

「ということは、領主さんに認められたってことですか?」

「ああ。私の予想通り、君に興味津々のようだ。もしかしたら近いうちに呼ばれるかもしれない」


 カロティアに来て一週間が経った昼下がり。

 久しぶりにイーナさんと出会い、その際に正式な通行証が手渡された。


「呼び出される……変なことされませんよね?」


 珍しいものが大好きだとは聞いていたので、そんな人に呼び出されるとなれば何をされるか。

 不安を覚え、イーナさんに問いかける。


「それに関しては、私の方からなんとも言えない。ただ悪いようにはならないだろう。珍しいものが大好きなだけで、領民想いだからな」


 今更だが、俺が今いる大陸の名前はグラドニア。この世界でも二番目に大きな大陸だ。

 自然豊かで、資源も豊富。

 他のところと比べてバランスのいい大陸と言える。他にも雪の大陸とか、砂の大陸とかがあるようだ。


「君のことは聞いている。随分と人気のようだな」


 一週間も経てば、俺のことも大分広まった。

 冒険者として依頼をこなすことで、自然と街の人達とも関わることができたのが大きな要因だろう。

 やはり、Fランクということもありお手伝い的な依頼が少なくはなかった。

 というか、ここ数日はほとんど街で依頼をこなしていたような気がする。

 シレーヌさんが言うには、この調子だとランクアップもすぐだろうと。


「見た目が大きな要因だと思います」

「それもそうだが、君の人助け精神も要因のひとつだろう。この前は、孤児院で子供達と遊んでいたようじゃないか」

「よく知ってますね」

「これでもこの街を護る警備の隊長だ。巡回をしている兵士達が、子供達と遊ぶ君を見かけたと報告があったんだよ。そもそもここ一週間はずっと君の動向を伺っていた」


 なるほど。そういうことなら、うん。

 街を護る者としては、俺のような怪しい者を放っておくわけにはいかないだろうからな。確かに、誰かに見られている視線はあったが、明確な敵意はなかった。

 あれは兵士達のものだったということなんだな。


「悪く思わないでくれ」

「いえ、気にしてません。でも、これで俺は街から正式に認められたってことですよね?」

「ああ。もちろんだ。とはいえ、何か問題を起こした時は覚悟しておいてくれ」

「肝に銘じておきます」


 俺の言葉を聞いたイーナさんは踵を返し、去っていく。

 なんだか我慢していた様子だったが……触りたかったのかな、肉球。


「終わった?」

「はい。お待たせしました、ミリネッタさん」

「大丈夫よ。そこまで待ってないから。よかったわね、正式に認められて」


 と、俺の手にある通行証を見る。

 

「それじゃ、行きましょうか」

「今回の依頼は捜索なんですよね」

「ええ。最近、カロティア近辺で怪しい動きをしている輩が居るらしいの」

「そして、その中に……」

「―――冒険者が混ざっていた」



・・・・



 今回俺とミリネッタさんがやる依頼は捜索。

 ランクに問わず、カロティアとその近辺を捜索する。理由は、怪しい動きをしている連中が居るらしいのだ。

 しかも、その中に冒険者らしき人物も居たと言う報告があった。

 

 普通に考えれば、魔物討伐や素材採取をしているのかもしれない。

 だが、目撃した者の話では、明らかに冒険者とは思えない風貌の男達と街で見かけた冒険者がこそこそと何かを話していたそうなのだ。

 目撃者は、すぐ隠れてしまい、距離もあったので顔は良く見えなかったようだ。

 しかし、真実をそのまま書いて依頼として出したわけじゃない。

 あくまで、依頼内容はカロティア近辺に出没しているであろう盗賊の捜索ってことになっている。冒険者のことは伏せているんだ

 ギルド側は、信頼のおける一部にだけ、冒険者のことを話しているそうなのだ。

 

「それにしても、まだ冒険者になりたての俺に真実を話すなんて」

「それだけ信頼されているってことでしょ? よかったじゃない」


 嬉しいことだが、逆にその信頼に応えなくてはという重圧が凄い。

 

「ギルドも、この依頼が達成出来たらランクアップは確定だって言っていたし、頑張りなさいよ?」

「くう……更なる重圧が!」

 

 元々こういう誰かに期待されるっていうのは慣れていないんだ。地球では、リアルでもゲームでも自由気ままにやっていたからな……。

 プレッシャーに弱いってことはない。ただ本当に慣れていないだけ。

 

「さて、そろそろね」

「……匂いますね。ここから西の方角です」


 実は、その目撃者が男達が去った後に、その場で落とし物を拾ったのだ。薄汚れた布だったのだが、俺はその匂いを覚え、目撃情報があった場所から、その匂いを辿ろうとしているんだ。

 

「西って言うと、小さな洞窟があったわね」

「いかにもって感じですね」


 俺達は、匂いを辿り、慎重に移動する。

 それから数十分。


「どうやらあの洞窟に匂いは続いていますね」

「ということは、あそこが隠れ家ってところかしら」


 予想通り、小さな洞窟に匂いは続いていた。

 

「誰か出てきた」


 物陰に隠れ、様子を伺っていると二人ほど洞窟から出てきた。風貌からまっとうな仕事をしているようには見えない。

 一人は、スキンヘッドの強面な大男。もう一人は、バンダナを巻いた小柄な男。二人とも、周囲を気にしているようで、キョロキョロと見渡している。


「なにか、話してるみたいだけど……聞こえないわね」

「……どうやら二人は盗賊で、これから荷馬車を襲うようです」

「え? 聞こえるの? 凄いわね」


 俺の装備は確かに着ぐるみだが、肉球と同じく変に再現されているのだ。ただ再現されているだけじゃない。より強化されている。

 今着ている【ワンダフルマジシャン】は、匂いによる捜索に加え音の聞き分けなどだ。

 

「それで? ちゃんとあいつは誘導できるんだろうな?」

「ああ、心配するな。今から一時間後に、荷馬車がカロティアから出てくる。奴は護衛の一人として参加していて、タイミングを見計らって合図を送る算段だ」

「よし。だったら、所定の場所に行くぞ」

「ああ。すでに他の連中も到着しているはずだからな」


 そして、男達は去っていく。

 

「ミリネッタさん」


 俺は男達の会話の内容を教えた。

 

「なるほど。会話にあった奴っていうのは、噂にあった冒険者ってところね」

「おそらく。カロティアから出てくる荷馬車を、その冒険者が護衛の一人として参加し、予め決めていた場所に到着したら……」

「何も知らない仲間を襲撃。それを合図に盗賊達が荷馬車から荷物を強奪」


 そんなことはさせない。俺達は、男達の後を追い、襲撃の場所へと向かった。

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