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第十話 絡まれる着ぐるみ、そして数日が経つ

「美味いな、この肉串」

「でしょ! お父さんもこれ大好きなんだー」

「私も時々食べますが、シンプルに塩だけで肉を焼くのはやっぱり美味しいですよね」


 オフなギルドの受付シレーヌさんと噴水公園で偶然遭遇した後、俺は【ワンダフルマジシャン】のまま行動を共にしていた。

 シレーヌさん本人も特にこれと言った用事もないということで、付き合ってくれたのだ。

 そして、現在イルちゃんが大好きな肉串の屋台に訪れ、それを味わっている。シンプルに塩だけでじゅわっと焼いた四つの肉。

 どうやら牛肉のようで、昼食前だというのにたくさん食べてしまいそうな欲が湧いてくる。

 一本百レムなり。お手頃値段でこの味……また買いに来るか。他にも、色々と食べ物の屋台が並んでおり、目移りしてしまう。


「犬だ……」

「犬が片手で肉串を食べてる……」


 今装備している【ワンダフルマジシャン】は、少し小さく百五十センチメートルなのだ。それでも大きいだろうが、前回の【猫ソルジャー】よりは三十センチほど低い。

 

「イルちゃん。そっちのわんちゃんはお友達かい?」


 と、肉串を焼いているおばちゃんが聞いてくる。


「うん! うちの宿に泊まってる冒険者のお兄ちゃんなの!」

「冒険者? そうなのかい? シレーヌちゃん」

「はい。昨日登録したばかりですが、期待の新人さんなんですよ。なにせ初めての依頼でホブゴブリンを倒しちゃったんですから」

「へえ、可愛い見た目なのに凄いんだね」

「あははは、その時はこれとは別の恰好だったんですけど」


 やはりまだカロティア全体には俺のことは伝わっていないようだ。冒険者達は、結構な噂好きであり、それを広めるのも早いと聞く。

 ここの警備隊長であるイーナさんも知ってるし、領主にも伝わっているはず。

 まあ、結構大きめの街だからまだまだ先になるかもな。


「はっ! なにが期待の新人だ。どうせ一緒に居たミリネッタに倒してもらったんだろ?」

「ん?」


 そろそろ次へ向かおうとしたところへ、二十代半ばぐらいの男が近づいてきた。

 腰には長剣を装備しており、肌にくっつく袖なしのシャツに長いズボン。結構使っているのか汚れたブーツ。つんつんした金色の髪の毛、右耳だけにグラットベアーの爪を使ったピアスがぶら下がってる。


「だれ?」

「誰だろ?」

「同じ冒険者様です。ランクはCで、名前は」

「レッジだ。お前が噂の新人だな? 色んな動物の姿になるとは聞いていたが、そんなんで戦えるのか?」


 俺もイルちゃんも現れた男のことを知らなかった。それをシレーヌさんが教えてくれている途中で、男が自分で名乗った。

 ランクCか……最低がFで最高がSだから、中間ぐらいの実力者ということになる。確か、ミリネッタさんがはDだったかな。


「一応戦えますけど」

「レッジ様。彼がホブゴブリンを倒したのは、ギルドが確認しました。嘘偽りはありません。それに、一緒にパーティーを組んでいたミリネッタ様もそう証言しております」


 なんだか俺に絡んできたようで、シレーヌさんの言葉を受けてなおこちらを睨んでくる。

 異世界ものだと新人冒険者に絡んでくる先輩冒険者というのはよく見る展開だが、なんだかレッジさんから感じるものは、実力を疑っているというのもそうだが、もっと別の何かがあるような……。


「どうだか……ともかく! 他の奴らが認めようとも俺は認めねぇからな!!」


 そう言い残し、レッジさんは去っていく。

 い、いったいなんだったんだ。

 呆然と小さくなっていく後ろ姿を見詰めていると、他の男性冒険者が近づいてきた。


「あんたどうしてレッジが絡んできたかわかんないって思ってるだろ」

「実力を認めていないから、とかじゃ」

「それもあるが、あんたミリネッタと仲がいいだろ?」

「そこまで仲がいいわけじゃないですが」

「あいつな。ミリネッタのことが好きなんだよ。何度も自分とパーティーを組まないかって誘ったり、色々アピールしてるみたいなんだがな」


 あー、そういうことか。つまり自分が誘っても全然靡いてくれなかったのに、ぽっと出の珍妙な恰好をした新人とパーティーを組んでいたり、一緒に食事をしているのを見て……。


「わたし知ってる! それって嫉妬って言うんだよね!」

「い、イルちゃん。どこでそんな言葉を?」

「おばあちゃんが教えてくれたの! 嫉妬は怖いって!」


 イルのおばあさん……いったいあなたは孫に何を教えているんですか。


「レッジ様のことは冒険者の間では有名なんです。ですから、その今後ミリネッタ様と一緒に居る際はお気を付けください」

「わかり、ました」


 昨日は特に騒動が起きそうな気配はなく安心していたが、これは波乱の予感……!



・・・・



「へえ、便利ね。その防具」

「嗅覚が格段に上がりますし、危機察知能力にも長けていますからね。今回のように探すものの匂いを予め覚えていれば、より早く見つけることもできます」


 俺がカロティアに訪れてから数日。

 冒険者稼業も順調で、今は探し物の依頼をしている。最低ランクということもあり、こういう依頼も結構あるのだ。

 ランクを上げるには、実力もそうだが、どれだけ貢献できているかが評価されないといけない。

 なので、こういう地道な依頼も俺は積極的にやっている。


 今は、とある老夫婦の奥さんが、夫からプレゼントされたピアスの片方を無くしたとのことで、それを探している。夫と一緒に散歩をしている途中で無くしたようで、俺は老夫婦の散歩コースをミリネッタさんと歩きながら匂いを辿っている。


「というか、これぐらいならミリネッタさんが手伝ってくれなくても良かったんですよ?」


 この前のこともあることだし。


「なによ。私が一緒だとまずい理由でもあるの?」


 そうなんです! とは言えない。

 彼女は、あくまで善意で俺を手伝ってくれているのだから。


「いや、だってミリネッタさんって男嫌いだって聞いていますし……」


 ここは別の話でなんとか。


「確かに嫌い。男は女のことを性の相手としか見てないから。全てがそうじゃないっていうのは理解しているんだけどね」


 ミリネッタさんは、昔からこうではなかったようなのだ。

 最初、カロティアで冒険者となった頃は普通に男でも女でも関係なくパーティーを組んで依頼をしていた。けど、ある時期から男を嫌いになり、依頼はソロでやることが多くなった。

 時々パーティーを組むとしても、女性だけ。

 この数日間、彼女の様子を見ていたが、完全に男が嫌いというわけではない。だって、そうだとしたら泊っている宿の店主であるマークさんと話すことだってできないだろうから。若干距離はあるものの普通に会話はしていた。


「じゃあ、俺とはなんで」

「だって、あなた。男って感じがしないもの」

「……」


 それは……なんというか、ちょっと複雑なんですが。


「あ、勘違いしないでね。別にあなたが男らしくないとかそういうのじゃないの。ほら、わかるでしょ? その恰好で」

「まあ、はい。わかると言えばわかるような」


 つまり、ミリネッタさんは俺が男だとわかっているが、見た目から性別がわからないので気にならない、ということなんだろう。

 確かに、この恰好から男だ! 女だ! ってはならない。

 いやでも、一応ゲームの設定では雄ってことにはなってるし……。


「それに」

「それに?」

「なんだかあなたと居れば楽しいことが起きそうな気がするの」


 つまり俺が何かを呼び込む体質なんじゃないかと。

 

「まあでも、あなたの方が迷惑なら私も引き下がるけど」

「そんなことないですよ。俺としても、一緒に何をする人が居るのは喜ばしいことですから」

「なら、いいわ。……それにしても」


 一通りの会話を終えると、ミリネッタさんは顔の毛を触ってくる。


「触り心地のいい毛ね。見たことない犬だけど、なんて言うの?」

「柴犬って言います」

「へえ、防具でこれなら本物はどんな感じなのかしら」


 地球産の犬だから、こっちでは会えないだろうな……正直、俺も本物には触ったことないし。

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