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プロローグ

「いやぁ、またあの着ぐるみ士が活躍したんだって?」

「ええ。もう着ぐるみとは思えないほど俊敏な動きでね。マグロを振り回してたわよ」

「マグロで大地を砕いた時はゲームだとわかっててもマジか……って思ったぜ」


 着ぐるみ士。

 それは、着ぐるみの恰好で戦うジョブのことで、武器もスキルも全てがネタに走っている。しかし、その性能は上級ジョブに相応しく、見た目があれなだけで全然強い。

 

 確かに昔から着ぐるみのようなネタ装備はあった。

 しかし、それをジョブとして出すとは。

 当時の反応は、大丈夫か? よくこれが通ったな……などというものが多かった。ちなみに着ぐるみ士の設定から、防具を着ぐるみひとつ。

 そのためいつも以上に必要素材が多く、作るのが大変だ。まあ、運営の計らいで一着だけ熊の着ぐるみが配布される。


 一時期は、熊の着ぐるみがちらほらと居て結構シュールな光景だったのを覚えている。

 けど、実装されてから早数か月。

 今となっては、着ぐるみ士で居るプレイヤーは少なくなってしまった。主な理由としては、恥ずかしいとかやっぱりゲームなんだからかっこいい防具で固めたいなどが多かった。


 これがヴァーチャルじゃなく、普通のゲーム機でやるのならそこまででもなかったのだろう。まあ、それでもそんなこと気にせずに楽しんでいる勢はいる。

 その内の一人が俺こと、木田きだみなとだ。

 自慢になるが、今いる着ぐるみ士の中では極めに極めたプレイヤーだ。


「いやぁ、本当に自由度が高いよねー。【フリーダム・ファンタジー・オンライン】ってさぁ」

「伊達に自由を冠してはいないな。というか、この着ぐるみ士を開発した人は何を考えて作ったのか凄く気になる」


 俺は、現在熊の上級着ぐるみである【熊ヒーロー】を装備している。名前の通り、まるでヒーローのようなマント、ベルトを装着した熊の着ぐるみ。

 ちなみにデザインはツキノワグマである。


「ねえ、着ぐるみ士を極めんとする者よ。次はどんな着ぐるみが欲しい? あ、スキルでもいいよ」

 

 俺に話しかけているのはプレイヤー名かかみっちという女性プレイヤーだ。

 ジョブは魔法使いの上級ジョブである賢者。

 見た目は、どこにでもいる魔法使い風だが、戦いになればガッチガチに伝説級の装備で固めてくる。今はギルドの談話室に居るので、気軽な装備でいるようだ。

 いつまでもガッチガチに固めていたらゲームと言えど息が詰まるから、という理由らしい。


「そうだな……なんかこう神っぽい感じの着ぐるみとか? そんで、スキルは空から光の剣が落ちてくるみたいな派手な奴が良い!」

「おー、神っぽいやつねー。確かに、今のところそういう感じのやつは出てないね」


 かかみっちは、いつも俺とこういう話をしている。

 だというのに着ぐるみ士にはなっていない。

 ただ単純に、俺と話をしたいだけだと本人は言うが。


「っと、そろそろ時間だ」

「あ、用事があったんだったね」


 時間を確認したところそろそろ現実で昼の十二時になるところだった。実は、この後、入院している祖母の見舞いに行くことになっているのだ。

 父さんや母さんは仕事で行けないので、俺が一人で行くことになっている。

 

「ああ、じゃあまたな」

「はいはーいまたねー」


 ログアウトし現実に戻った俺はさっそく外に出るべく財布や携帯など必要なものを持って家から出る。そして、自転車に乗りいざ病院へ。

 

「ふー、今日はなんか曇ってるな。まあ、雨が降るのは夕方からって言ってたし大丈夫だよな」


 病院は自宅から自転車で十分程度で着く。

 途中で雨が降ってもまあ、濡れながらでも帰れるし。

 

「ん? なんだ……」


 そろそろ病院と言った時だった。

 なにやら揉めている男女を発見した。痴話喧嘩、か? しかも道路が近いところで……危ないなぁ。


「あの、何があったか知りませんけど。喧嘩するにしてももう少し安全なところで」


 素通りができず、自転車を止めて俺は喧嘩を止めに入る。

 このまま何かの拍子に道路に出て、車に轢かれでもしたら大事だ。


「うるさい! 部外者は引っ込んでてくれ!!」

「ちょっ!?」


 しかし、かなりヒートアップしていたようで、男の方が俺を跳ね飛ばす。

 そして、運悪く道路の方へとバランスを崩し。


「え?」


 走ってきた車に……激突した。


(うそ、だろ……これ、死―――)



・・・・



「―――あれ? 生き、てる?」


 目を覚ますと、俺の視界には青空が広がっていた。

 体を起こし、周囲を見渡す。

 

 草原。


 無限に続いているんじゃないかと思ってしまうほど広々とした草原に俺は寝ていた。

 おかしい……さっきまで道路近くの、コンクリートで固められた、街中に居たはず。あの後、運よく助かったとしたら普通に考えてベッドの上に居るはずだ。

 じゃあ、これは夢?

 にしては、なんだか現実感があるっていうか。


「……てか」


 意識がはっきりし、ようやく自分の体の異変に気付く。

 

「これ、まさか着ぐるみ?」


 見覚えのある毛の生えた体。

 肉球がある獣の手。

 

『やあ、目が覚めたかい? 我が盟友!』

「この声は……かかみっち!?」


 聞き間違えるはずがない。サービス開始から共に戦ってきた盟友かかみっちの声が脳内に響いた。

 

『君は、今困惑しているだろ。自分は車に轢かれたはずだって』


 なんでそのことを。


『まず、酷かもしれないけど。現実を教えるね』

「現実……」

『君は……車に轢かれて命を落としたの』


 やっぱり、そうだよな。


『でも、神である私の権限で君の魂を転生させたの。私が管理する世界にね』

「そう、なのか……は?」


 待て待て。今、なんかものすごいことをさらっと言わなかったか?


『えへへ、びっくりだよねー。そう! 実は私、本物の神様だったのさ! さらに言えば着ぐるみ士の開発者でもあるのだ!!』

「えぇ……」


 もう、情報量が凄すぎて……。


『本来なら個人のために神が何かをするのはダメなんだけど。盟友のためとあらばーってね。ま、本当だったら君が死ぬ運命を変えられればよかったんだけど……』

「……いや、良いんだ。俺、あそこで死ぬ運命だったんだろ?」

『うん』


 正直、もっとゲームをして楽しく過ごしたかったんだけど。

 

「それで? 俺は、かかみっちが管理する世界に転生したってことでいいのか?」

『その通り! ただ転生しただけじゃないよ。君がよく知る着ぐるみ士として転生したのだ!』

「おお、やっぱりそうだったのか」


 俺の今の恰好は、着ぐるみ士が最初に装備する初期装備。

 見た目は本当にただの茶毛の熊。

 

「てことは、武器とかスキルも?」

『今まで君が使ってきたものを丸々再現したよ。だから、装備を変更したり、スキルを使ったりはゲーム感覚で大丈夫。でも、そこはゲームと違って現実。だから』

「……死ぬ時は死ぬ、か」

『まあ、今の君ならそう簡単に死ぬなんてことはないだろうけど』


 今は初期装備だが、今まで俺が【フリーダム・ファンタジー・オンライン】で集めた装備、スキルが使えるとなれば……うん、なんとかなるかな。

 とはいえ、よくあるゲームキャラで異世界召喚。

 まさか、自分が体験することになるとは。自分はゲームキャラだけど、ここでは本当に死ぬ。現実なんだとちゃんと覚えておかないとな。


「本当に自由に過ごしていいのか? なんかこう、世界を脅かす存在を倒せーとか」

『それは、勇者がどうにかするよ』


 あ、居るんだ勇者。


『今のところは君の自由に過ごしていいよ。まあでも、君の性分だと厄介ごとに首を突っ込んでいくんだろうけど』

「ははは……」


 それで、命を落としてしまったんだけど。たぶん、こっちでも厄介ごとに首を突っ込みそうだな。


『そこが君の良いところなんだけどね。ともかく! 盟友よ! 君は異世界で第二の人生を謳歌したまへ! あ、ちなみに今後はアドバイスなどはできないのであしからず!』

「うん。ありがとう、かかみっち。……って、それはプレイヤー名だったか。最後だから、本名を教えてくれないか?」

『ピリスだよ』

「ピリス。いい名前だ」

『それじゃあね、盟友……』


 それを最後に、声は聞こえなくなった。

 

「んー!! ……よしっ」


 これから始まる第二の人生。

 慣れたジョブ、装備で異世界生活。

 

「あ、ところでこれ装備は外せるのか?」


 試しに外そうとするも……だめ。どうやら魂が着ぐるみを着ているみたいな感じらしい。盟友……そこは人にもなれるようにしておいてくれよ。

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