ミサキの人生を全て、書きます。
親を選ぶ事が出来ないから、不幸な人生を経験するそんな子供はたくさんいますよね!
ミサキは、1971年3月に長女として生まれた。
父親は、少年時代から元気者で少年刑務所に数回入っていた。
ある暴力団に関係し刑務所に出入りしながら、父親の兄が経営する建設会社で働いた。
母親は、トラックに乗り人一倍の働き者だった。
2人が働いている間は居候させている人に子守りを任せていた。
幸せそうに見えるが、母親は浮気をしていた。
隙を見て浮気相手と連絡を取り、家出をする。
でも父親と知人の必要以上な捜索で必ず探し出されて連れ戻される。
「何回逃げても無駄だ! 何処に隠れても必ず見つけ出す!!」
「私はあんたと別れたい!
この人と一緒になりたい!!」
そんな事を何回も繰り返し、そして浮気相手の子供かもしれない赤ちゃんを産み、ミサキに妹ができた。
「お願いだから、私と離婚して下さい!」
「絶対に離婚はしない!! また逃げたら次は相手がどうなっても知らんぞ!!」
離婚を求める母親に対し、父親は全く受け入れず、勝手に赤ちゃんの名前を命名し、戸籍に入れた。
思い通りにいかない母親は、ミサキに八つ当たりしていた。
ある日、ミサキを二階の窓から投げ落とした。
たまたま用事で家の前まで来ていた知人が気づき、間一髪でミサキを受け止めた。
ミサキに怪我はなかったが、服で見えない所にアザがあった。
「なんて事をしてんの!? こんな事しちゃいかんやろ!! オヤジさんにバレたら、あんた命、無いよ!」
知人はミサキが虐待を受けていると感じ、なるべく家の様子を見に行くようにした。
そして知人は母親がやっている事を父親には知らせなかった。
父親がある意味でこの辺りでは、名が通っていて、どういう人物かよく知っているから。
家を留守がちの父親はミサキが虐待を受けていることに全く気付いていない。
「オレの留守中にアイツを見張ってて欲しい。 また逃げ出すかもしれん!」
「いいですよ。 毎日誰か来るようにして見張りますよ。 安心して下さい!」
「頼んだぞ!最近また、コソコソしとるから、アイツは油断出来ん!」
母親が1人にならないように、父親が知人達に交代で見張らせていた。
しかし母親は隙を見て、子供2人を連れて浮気相手と逃げた。
そこは、前々から母親と浮気相手が連絡を取り合い、父親から逃げきるために九州から遠く離れた土地に準備していた一軒家。
突然、周りの環境が変わり、戸惑うミサキ。
見知らぬ男の人を
「お父さん」と呼ぶようにと言われ、まだ二歳にもならないミサキは、理解出来ない。
そんなミサキは、第一次反抗期なのか、近所の同年代の子供や妹をいじめるようになっていた。
「お宅のミサキちゃんにいじめられたって、泣いて帰って来たんですけど!?」
「スミマセン!
もう二度と、いじめないように、 しっかり叱ってもう二度と、しないようにさせます!ご迷惑をお掛けしました。」
母親のミサキに対する態度が変わったのも、この頃からだった。
必要以上の罰を与えるようになった。
ミサキと妹がオモチャで遊んでいたら、突然 妹が50センチ位の段差があるベランダに落ちた。
「お前!何した!?押しただろ!!」
「落としてない!何もしてない!!」
「嘘つくな!!正直に言いな!お前しかいないだろ!!」
この時、ミサキはオモチャに夢中で妹が落ちて、泣き出すまで気付かなかった。
母親はミサキが妹を突き落としたと思い込み、ミサキに殴る、蹴るの暴力を振るった。
ミサキが母親の気に障ることをしたのか時々、水風呂に無理やり押し込まれ、1時間位潜らされた。
他にも普段は物置部屋で出入りしない暗い部屋の押し入れに2・3日閉じ込められる事も。
「ごめんなさい!ごめんなさい! もう悪いことしないから!!」
「うるさい!! 騒ぐなよ!! 黙って入れ!」
「お母さん! お腹減った〜 お腹が、グウグウいってる!」
「・・・」
「お母さん! オシッコ行きたいもうガマン出来ないよ〜」
「・・・」
「お母さん! お母さん! オシッコ、漏れる漏れるよ!!」
「・・・」
食事も与えられず、トイレに行きたくてもなかなか行かせてもらえず漏らす事も。
漏らしてしまうとまた、怒鳴られて水風呂行き。
そんな生活がイヤになり、ミサキは家出をして公園のトンネルで一晩を過ごした。
2才位の子供が、1人で夜遅く公園にいるのは、誰が見てもおかしいと思うはず。
お巡りさんが来て話をしていたら母親が迎えに来た。
「お嬢ちゃん! こんな所で何してるの?
お家の人は?
お名前は?」
「スミマセン!
ご迷惑をお掛けしました。」
「ほら!
お母さんが迎えに来てくれたよ。」
「ミサキ、お巡りさんにごめんなさい。しなさい!」
「今日のところは見っかったから良かったけど…
これからは、手を繋ぐとかして目を離さないで下さいね!」
「ご迷惑をお掛けして、本当にスミマセンでした。 見つけてくださって、ありがとうございました。以後気をつけます。」
母親は買い物の途中で、ミサキが迷子になったと警察に届け出ていた。
手に負えないと、思ったのか母親はミサキを九州の自分の実家に預けた。
母親達は万が一を考え何処か遠くへ、引っ越した。
ミサキは約1年近く母方の祖父母の家で幸せに暮らした。
そこには、母親の弟も住んでいた。
「今日からミサキは、じいちゃんとばあちゃんと兄ちゃんと一緒に暮らすんだよ!」
「お母さん達は?ミサキだけ?」
「お母さん達は遠くに行くんだって。 ミサキは、お母さんの事困らせてばかりだから、ばあちゃんに見ててって、預けて行ったんだけど…。そんなに悪い子だったの?」
「違うよ! 良い子にしても、いっぱい!怒られた!! いっぱい!!叩かれた!」
「そうか! そうか! ミサキは、良い子にしてたんだね。」
祖父母達はミサキの痩せ細った体型を見て、母親が、ミサキにどんな扱いをしていたか、予想できた。
祖父母達はミサキを幼稚園に通わせた。
ミサキが今までまともに、友達と仲良く遊ぶ事を経験していないだろうから。
それに祖父母達は農家なので、忙しい時は相手をしてやれないから。
ミサキが休みの時は、兄ちゃんが遊んでくれた。
「ミサキ!大きいトラックに乗せてやるよ!」
「やったぁ〜!」
「兄ちゃんは、仕事だから、ここに良い子にして乗っといて! 勝手に降りたら、危ないからね!!」
「うん!! 良い子にしてる!」
兄ちゃんのトラックに乗っていたら兄ちゃんの仕事仲間から、ジュースやお菓子をもらって、ミサキはご機嫌だった。
家に帰ると大好きなコーラーや、ヤクルトを飲み、祖母の手料理を沢山食べた。
夕方、外がまだ明るい時は庭で三輪車で遊んだり、兄ちゃんと鬼ごっこしていた。
ミサキは毎日が楽しくて、母親から離れられた事が嬉しかった。
ずっと4人で暮らして行くと思ってた。
ミサキが祖父母の家の庭で遊んでいたら突然、後ろから声をかけられビックリして家の中の祖母に助けを求めた。
「ミサキ!」
「ミサキちゃんだよね!?」
「おばあちゃ〜ん! 知らないおじさん達が、いっぱい来たよ!!」
「ミサキは兄ちゃんの部屋でテレビ見ててね。」
自分の父親の顔を覚えていなかったからです。
父親はミサキを手放そうとしない祖父母達から無理やり引き離し、連れ帰った。
「今日からここでお父さんと2人だけど、仲良くしようね!!」
「う〜ん。」
「ミサキの好きな食べ物は? お父さんが頑張って作るよ!」
「カレーライス!と、オムレツ! あと、おばあちゃんの煮物!!」
「頑張って作るから! お手伝いしてくれる?」
「いいよ! お手伝いいっぱいしてあげる。」
父親は、知人の奥さんに料理を教えてもらいながら、ミサキの好きな食べ物を作っていた。
しばらくは、2人だけの生活が続きミサキの小学校の入学式には父親の知人の奥さんに頼んで、母親代わりに出てもらった。
ミサキは小学校に行くまで友達がいなかった。
ずっと父親と一緒に仕事場に行って、大人達を相手に遊んでいたからです。
ミサキは、学校に行くのが、凄く嬉しくて体調が悪くても、毎日登校し、帰ったら遊べる友達を探して門限ギリギリまで遊んでいた。
しかし、楽しかったのは数ヶ月だけだった。
父親が若い女の人を連れて来た。
「新しいお母さんだよ!
仲良くしろよ!」
その女の人は18才で、小学1年生のミサキから見ればお姉さんみたいだった。
この頃から父親は覚醒剤にハマり出し、今までミサキが見た事のない父親になっていった。
新しい義母も覚醒剤にハマっていった。
その頃、昼間から義母の高校生の弟が、頻繁に来るようになった。
弟は学校をサボりシンナーをやっていた。
ミサキが学校から帰って、自分の部屋に入ろうとした時にペンキの様な臭いがした。
ドアを開けて見ると、弟がシンナーを慌てて隠し、ミサキだと知って、またシンナーを出し吸いながら言った。
「お父さん達にチクったら、ぶん殴るからな!!
分かったか!?」
「分かった。」
ミサキは怖くなって、急いで外に出た。
義母と弟は、父親がいない時にミサキをいじめ始めた。
「遊びに行きたいなら、洗濯物畳んでタンスに片付けて後、米洗ってよ! 洗い物もやっといて!」
「宿題は?
ないなら、そっちの部屋片付けといて! 少しでもホコリがあったら、正座1時間だからね!!」
「お父さんに言ったら、正座だけじゃ済まないよ!」
遊び盛りのミサキは、早めに帰って、言いつけられた事を済まして、遊びに行きたいけど、次々と家事を押し付けられた。
それに、義母と弟はミサキをいじめる事が楽しいのか、やってもいない事をやった事にして、説教だと言って、ミサキを丸裸にし、正座をさせていた。
ミサキは、2人から、いじめられている事を父親に言えないでいた。
言った後の仕返しを恐れていたからだった。
ミサキは小学1年の夏に、あまりのいじめに耐えられず、家出をした。
学校から帰った、ミサキは義母が留守だったから、急いでランドセルを部屋に置いて、外に飛び出した。
久しぶりに友達と遊べた事が、嬉しかったミサキは、門限を過ぎている事に、気づかなかった。
友達の親に言われて、慌てて帰ろうとしていたが、帰ったら義母に怒られる。
怒られるだけで済まないと思ったから、このまま家出をして、今日は帰らないと決めた。
ミサキは、家の近くまで来ていたが、途中で全く違う方向に歩き出した。
ミサキがたどり着いた場所は、近所のお寺だった。
そこは、同級生の家でもあった。
家の中からは、家族団らんで楽しそうだった。
ミサキは、羨ましく思いながら、お寺の本堂の陰に、隠れて座り込んだ。
肌寒い夜を、一晩過ごしたミサキは朝、家の方向に歩き出した。
向こうから、父親と消防団の人達が走り寄って来た。
「ミサキちゃん!どこに行ってたの!? 誰かと一緒だったの!?
随分探したんだよ!!」
「1人でお寺にいた。」
「みんな、心配してたんだよ!」
「ミサキ!
お父さんと一緒に捜してくれてた人達に、謝りなさい!!」
「ごめんなさい」
「でも見つかって安心した〜!
もう、心配かけたらダメだよ!」
「はい」
ミサキは大人達に囲まれて、家に帰り着いた。
そして、学校を休み、1日中部屋に閉じこもった。
父親が家出の理由を聞いたが、ミサキは何も言わなかった。
言ったら又、義母に怒られるし、殴られると思ったからだ。
しかし父親は義母がミサキに何かしたからだと思い、義母を叱った。
その日から、しばらくは父親が早く帰って来ていたから、義母はミサキに手出しが出来なかった。
でも、父親の帰りが遅くなり出したら、義母は貯まっていた鬱憤を暴力に変えて、ミサキに晴らし始めた。
この頃からミサキは学校で、気にくわない事があると机を蹴ったり、モノにあたる様になっていた。
担任は、家庭に問題があると感じ、親に連絡してミサキの最近の状態を話して、家庭と学校でなんとかしましょうと言ってきた。
でも、義母は相変わらず、ミサキをいじめる事を止めなかった。
しばらくすると、父親と義母の子供が生まれた。
「ほら!あの赤ちゃんがミサキの妹だよ!」
「赤ちゃんってお顔が真っ赤だよね!? おサルさんみたい! 可愛い〜ね!」
しばらくすると、父親は、捕まってしまい、義母の生活やミサキに対する態度が、酷くなった。
「お父さんは?
何で帰って来ないの?」
「悪い事してたから、警察に捕まったんだよ!」
「いつ、帰って来る?」
「知らない。」
義母はパチンコ屋で男をアサって妹の育児、掃除、洗濯は気が向いた時だけで食事もほとんど作らなくなった。
「朝ごはん、何もないよ。」
「ある物で勝手に食べろ!」
「夜ご飯は?」
「その辺にラーメンがあるから、自分で作って食べろ!」
ミサキは自分でご飯を炊いて、おかずは塩かマヨネーズがあれば十分だった。
妹の子守りは、泣かさないようにと気をつけていた。
泣かせてしまったら、義母を怒らせて殴られるから。
義母は日常的に、覚醒剤や男遊びをしていてテンションの浮き沈みが激しくなっていた。
「今日は、遊びに行っていいよ。」
「でも家の片付けとかは?」
「たまには掃除、しなくていいよ」
「じゃ!行ってくる!!」
そのため機嫌が良い時は、遊びに行く事が出来たが帰ってみると、義母が留守で妹だけが寝かせてあって明け方にやっと帰って来るということも度々あった。
機嫌が悪い時は、ミサキに激しい暴力やいじめを仕掛けていました。
例えば丸裸にされホウキの棒の部分や掃除機のパイプ部分で、体じゅうがみみず腫だらけになって、次の日足腰が立たないほどだ。
他にも、ガラスの灰皿や電話の受話器などで頭を殴られ、たん瘤ならましだけど、時々二センチ位の傷口から出血し、しばらく止まらないこともあった。
「おばちゃん!
お母さんがいじめるから、助けて!!少しだけ泊めて!?家に帰りたくないから!!」
「うちは今、おっちゃんが留守してるから、勝手が出来ない!」
「お願いします!帰ったらまた、怒られて殴られる。助けて下さい!」
「無理、無理!
電話して怒らないように言ってやるから。」
ミサキは幼い頃を思い出し、家出を何度かして父親の一番の知人宅に助けを求めたが、全く話を聞いてくれず、すぐに義母に連絡して、連れ戻された。
父親が刑期を終えて戻って来たら、義母は何もなかったかように父親に尽くすフリをしていた。
2人は相変わらず覚醒剤にハマっていた。
ミサキに売人の所まで覚醒剤を買いに行かせていた。
「ミサキ!頼みがあるんだけど…
お使いして来て欲しいんだけど…」
「どこまで?」
「ミサキの友達の○○ちゃんの隣の家まで行ってお金やったら箱くれるから!」
ミサキは、箱の中身が良くない物だと気づいていた。
ミサキは何度も、お使いを頼まれるうちに、段々と行きたくなくなった。
「ミサキ、またお使いして来て欲しいんだけど…」
「もう、あの家には行きたくない!」
「ミサキが行ってくれないと困る。頼むから行って来て! 小遣い多めにあげるから!」
「何で、私なの!?」
「・・・」
「もう今日で最後だからね!! 次からは行かないからね!!」
ミサキは渋々、売人の家に行って、箱をもらって帰った。
ミサキはまた父親が捕まる気がした。
もし、そうなったら義母が捕まればいいのに!と思うようになっていた。
ある日、刑事達が数人でやって来た。
やっぱり、父親が捕まり義母は捕まらなかった。
父親が義母をかばって捕まらないように手をまわしていた。
これからまた、ミサキは辛い生活が始まってしまう。
案の定、義母は父親がかばってくれた事を何とも思っていないから、また覚醒剤と男遊びにハマっていった。
そして、家事も育児もほとんどしなくなった。
義母は自分が遊びに行く時、妹の子守りをミサキにさせるため、時々学校を休ませていた。
ミサキが学校に行くと、担任の先生が心配して休みが多くなった理由を聞いて来た。
「ミサキさん、最近休みが多くなってるけど、本当に体調が悪いの? 他に理由があるんじゃない!?」
「はい! 本当にお腹が痛くなったり、頭が痛くなったりしていて、辛いから休んでます。」
「ちゃんと病院に通ってる?」
「はい! 病院に行ったら、腹痛は慢性的な便秘だって言われて、薬をもらっています。頭痛は、原因がわからないって言われてます。」
「そうなの。 病院に通ってるならいいけど、あんまり休みが多いと授業について来れなくなるから、なるべく休まないようにしょうね!」
ミサキは、担任に嘘をついた。
もし担任に本当の話をしてしまうと、担任は間違いなく義母に話を聞きに行く。
義母の事だから、上手く誤魔化して担任には手出し出来ないだろうと、ミサキは、思っていた。
その後の義母の仕打ちが怖くて、担任には言えなかった。
ミサキは、担任には無理だと、諦めていた。
他に助けてくれそうな父親の知人を思い出していた。
ミサキは、義母の機嫌を伺いながら妹の子守りをして、家事もして、相変わらず学校も休みがちだった。
義母の日常的な暴力に耐えながら、過ごす毎日にうんざりしていた。
日に日にミサキの体はアザや生々しいキズ、煙草やロウソクで付けられたヤキ後で、夏でも長袖のシャツや長ズボンを着ていた。
近所の人達は義母がやっている事に気付いているはずなのに、誰も助けてくれない。
父親が戻って来るのは、まだまだ先の事。
小学6年になったミサキは、義母の身勝手な行動や暴力に耐えながら、まだこの生活から逃げ出す事を、諦めていなかった。
そして、今度こそは絶対に助けてくれそうな父親の知人を思い出して、この家から逃げ出す計画を立てていた。
その知人は、ミサキが幼い頃にとても良くしてくれたおばさんだ。
義母は、このおばさんの存在は知っているけど、家は知らない。
とうとう、その日が来た。
ミサキが朝ごはんを作って食べていると、大体義母が起きて用事を言いつけて来るが、今日は全く起きそうにない。
ミサキは食べ終わって 、学校の準備をしているフリをしながら、義母の様子を伺い、隠し持っていたわずかなお金を持って、義母と妹が起きないように、コソコソと家を出た。
なんとか、無事に家を出たミサキは、おばさんの家まで約3時間かけて歩いて、やっとたどり着いた。
おばさんの家に着いたミサキは、表札を確認して、呼び鈴を鳴らした。
「こんにちは! ミサキです!!」
「ミサキちゃん!?久しぶりね! でも、どうした? こんな時間に!?学校は?」
「あのね、おばちゃんに助けてもらいたくて、学校休んで来た!」
「どうした? 何があったの? とりあえず、家の中に入って!」
今にも泣き出しそうなミサキの肩に優しく手を回し、家の中に入って、奥のリビングに行き、ミサキを座らせた。
ミサキは、おばさんの優しさに涙が溢れだしたが、泣くのを我慢して、話始めた。
「あのね、今
お父さんが捕まってて、お母さんと妹と3人なんだけど、お母さんがね覚醒剤してて、知らない男の人達、連れて来たり、
その人達の家に行ったりしてるし、私に、学校も休まして、妹の子守りさせてる。 後ね、機嫌が悪い時に、殴ったり蹴ったりされる。」
「何でもっと早く逃げて来なかったの!? 叩かれた所、見せてごらん!」
「・・・」
「おばちゃん、助けてくれる?」
「何言ってるの!?ここまでされて、可哀想に…
お父さんが戻って来るまで、ここに居ていいからね!もう今日から、ミサキちゃんはここの娘だからね!!」
ミサキは、溢れる涙が止まらず、しばらく泣いていた。
おばさんも、ミサキの体のアザや生々しいキズを優しく手当てしながら、泣いていた。
夕方、おじさんと高校生の娘が帰って来て、おばさんが一部始終を話した。
2人は、ミサキに同情し、預かる事に賛成した。
そして、もう1人の看護師の娘が帰って来て、話しを聞くと、ミサキの体を見て必要な薬を買い揃えに出掛けた。
その間にミサキはお風呂に入れられた。
体をキレイにしたミサキの体の怪我を、看護師の娘が治療しながら泣いていた。
ミサキは、この家族の愛情に包まれて、深い眠りに就いた。
次の日、おばさん達はミサキがまだ義務教育中なので学校の事を話し合い、義母に見つかる可能性があるが、今までの学校に通わせる事にした。
その為、義母の留守中に学校に必要な荷物と着替えを取りに行った。
ミサキが学校に行く時は看護師の娘が、車で送ってくれる。
帰りは学校の前のバス停から、ミサキ1人でバスに乗って、おばさん家まで戻っていた。
ミサキは、学校帰り、バスが来るまで、物陰に隠れて用心していた。
いつかは、義母に見つかるだろうと思いながらも、少しでも長くあの家に戻りたくなかったから。
おばさん家から、学校に通う生活が約1ヶ月続いた頃、嫌な予感がして来た。
義母がミサキの友達に、ミサキが学校に来ている事を聞き、学校の近くに隠れて待ち伏せしていた。
ミサキがバスに乗ろうとした時、突然腕を掴まれた。
ミサキは、振り切って逃げようとしたが、義母の力には、かなわなかった。
無理矢理に妹を押し付けられたミサキは、仕方なく妹を抱っこして、家に戻った。
「今まで何処に隠れてた!?
コソコソと人に、隠れて、何やってんだ!?」
「・・・」
「何とか言え!!」
「ごめんなさい」
「ごめんなさいで済むか!!
人に恥かかせといて!!」
家に戻ったとたんに、義母の暴力に泣きながら、耐えたミサキは、足腰が立たないほど痛めつかれた。
ミサキのイヤな予感は当たった。
もう、おばさん達の所には戻れないと、諦めた。
ミサキは2・3日、身体中が痛くて、悔しくて、悲しかった。
義母のミサキに対する暴力は、一段とひどくなった。
せっかく看護師のお姉さんが治してくれたミサキの体は、また傷だらけになっていた。
いつになったら、この生活から逃げ出す事が出来るのだろう?
父親が戻っても、また同じ事の繰り返しだろう…
ミサキの運命は、両親に振り回され、このまま何の楽しみも無いのか?
ミサキは、諦めかけていた。
しかし、ミサキはここで諦めたら、ずっとこのままは、嫌だと思い直した。
他にまだ助けてくれる人が居るはずだと、考えた。
父親が世話になっていた、暴力団の総長さんを思い出した。
総長さんには、何度も会った事があるし、総長さんの家族も知っているから 。
それに、組には、父親の兄弟分の人達が居て、小さい頃、可愛がってくれていたから、今度こそ絶対、助けてくれると思った。
ミサキは、総長さんの自宅がある、事務所に行く事に決めた。
でも事務所は、玉名市の中心地に有るから、バスかタクシーで行くと、結構なお金がいる。
今のミサキにはそんなお金は無い。
前の家出から、お小遣いは貰っていないからだ。
ミサキは、歩いて行く事にした。
決意したミサキは、さっそく隙を見て家を脱け出し、事務所に向かって歩き出した。
半日掛かってやっと、隣の玉名市内に入った。
ミサキは事務所までもう少しだと、自分を励ましながら、歩き続けた。
やっと、事務所の近くまで来た時は、すっかり夕方になっていた。
近くまで来たミサキは考えていた。
このまま直接行っても、総長さんや兄弟分の人達が居なかったら、相手にされないかもしれない。
とりあえず、総長さん宛てに手紙を書いて、ポストに入れて様子を観ることにした。
近くにあるスーパーで、持っていた小銭でメモ帳と鉛筆を買った。
『総長さん
助けて下さい!』
と書いたメモ用紙を、事務所のポストに入れて、近くのスーパーの駐車場に隠れた。
数十分で周りが騒がしくなってきた。
「ミサキちゃん!ミサキちゃん!
○○のおじさんだよ〜。出ておいで!!」
「ミサキちゃん!●●のおじさんも居るから!
恐くないから出ておいで!!」
ミサキはソーッと出て行った。
そこには、総長さんと兄弟分のおじさん達と若い組員の人達が何人も居た。
事務所の入り口の防犯カメラで、メモ用紙をポストに入れて走って行ったミサキを、不思議に思った若い組員の人が、総長さんにメモ用紙を渡した。
総長さんが防犯カメラの映像で、ミサキだと確認した。
総長さんは、ミサキが恐がらないように、兄弟分のおじさん達を呼び出した。
人数を集めて近所を探し回って、スーパーの駐車場に来てミサキを見つけた。
ミサキの父親が今留守にしている事を知っている総長さんは、ミサキを心配していた。
ミサキを見つけた総長さん達は、その場では何も聞かずに、総長さんの自宅に連れて戻った。
自宅に着くと、総長さんの奥さんや子供達がミサキを待っていた。
総長さんの奥さんがミサキの分の食事を用意してくれていた。
総長さんは、ミサキに食事をさせて、落ち着くのを待って話を聞き始めた。
「ミサキちゃん!この助けてって、何があった?
話してくれたら、助けてあげられると思うから、話してごらん。」
「実は、お母さんが覚醒剤ヤってて家の事、ほとんどしなくなって、時々私を学校休ませて、妹の子守り押し付けられて、お母さんは、私に暴力振るうようになってきて、もう家には帰りたくないからここまで来ました。 助けてくれますか?」
「そうなんだ!? 困ったお母さんだね。 大丈夫!! おじさんに任せて、何とかするからもう安心していいよ!」
「ありがとうございます。
よろしくお願いします。」
「今日は、疲れただろう!?
お風呂に入って、一番上のお姉さんの部屋で早めに寝なさい!」
総長さん達は、ミサキの話を聞いて話し合い、義母の事は知り合いの刑事に話す事にした。
ミサキの事は、知り合いの弁護士に相談した。
次の日、総長さんの奥さんは、ミサキの身の回りの物を買い揃えてくれた。
自分の子供達と同様に、遊ぶ時は遊ぶ!勉強する時は一番上のお姉さんに
「勉強を手伝ってやるように」と言って、勉強もしっかりさせた。
総長さんの奥さんはミサキの学校に連絡して、
「休みが多かったから授業について来れていなかった。」
と聞いて、これからのミサキを心配してくれていた。
約1週間位経った頃、刑事さん達がミサキに話を聞きに来た。
ミサキは義母の事を一通り話した。
後日、警察署で事情聴取をする事になった。
そして、女の刑事さんが言った。
「ミサキちゃんはこの家の子供じゃないから、このままだと迷惑を掛ける事になるから、しばらく児童相談所に行ってもらうようになるけど、大丈夫かな?」
「はい、大丈夫です。」
「偉いね!!」
ミサキは、あの家から離れられればいいと思った。
そして事情聴取の日が来た。
ミサキは総長さん、総長さんの奥さん、お姉さん、他の子供達、兄弟分のおじさん達、遊んでくれた組員の人達にお礼を言って刑事さん達と警察署に行った。
事情聴取には、この前の女の刑事さんが来てくれた。
刑事さんは気を使って、ミサキの隣に座り、ジュースを置いて、ゆっくり話を聞いた。
ミサキは義母の事を全て話した。
覚醒剤の売人の家、隠し場所、義母が通っている男の家、義母がミサキにした事、知っている事全てを話した。
刑事さんはミサキの話をしっかりと調書に書き込んだ。
事情聴取が終わると、ミサキに刑事さんが、ジュースを勧めた。
「今日はありがとうね!
色々話してくれて助かった!」
「これでお母さん捕まりますか?」
「十分だよ!
ちゃんと捕まえるから、安心していいよ!」
「お願いします」
刑事さんと入れ替わりに児童相談所の人が来た。
「ミサキちゃん、今までよくガマン出来たね!?
お母さんは刑事さん達が絶対に捕まえるから大丈夫!後は、ミサキちゃんの住む所を見つけないといけないんだけど、ミサキちゃんはどうしたい?」
「お父さんも居ないし、親戚はおばさんが嫌いだから行きたくないし、あの町から出て行けるなら、どこでもいいです。」
「それじゃ、
しばらく児童相談所に来てもらうよ
ミサキちゃんに合う施設を探そうね!
探す間に、色んなテストとか検査が有るけど、やれるかな?」
「はい!大丈夫です。 お願いします。」
「それじゃ、
行こうか!?」
その日から、約2週間位、ミサキは熊本市の児童相談所に入り、色んなテストや検査を受けた。
そして、父親、実の母親、義母に対して、どう思っているか聞かれた。
その間にミサキが入る施設が決まった。
八代市の施設に行く日、兄弟分のおじさん達が2人、この前の女の刑事さん、児童相談所の先生が車で送ってくれた。
移動している間に義母が捕まった事、妹は義母の父親に預けられた事を知らされた。
まだ刑務所にいる父親にも今の状況を報告してある。
約2時間かかってミサキが入る施設に着いた。
ミサキは、この施設で上手くやって行けるか不安だった。
園長先生と事務の人、ミサキを連れて来た大人4人は、応接室でミサキの入所手続きをしていた。
ミサキは他の先生に施設の中を案内されて、応接室に戻った。
ミサキを送ってくれた4人は、ミサキに励ましの言葉をかけて、帰って行った。
兄弟分のおじさん達が、園長先生に総長さんと奥さんから預かって来た、ミサキの身の回りの物と、不自由させないようにとお金を預けて行った。
今日からミサキは、この施設で父親が迎えに来るまで過ごす事になった。
園長先生と数人の先生は、施設の隣にあるカトリック教の修道院のシスター達。
他の先生達、数人は一般人で、福祉の資格を持っていて、外から通っていた。
この施設にいる子供達は、色々な家庭の事情で来ている。
下は2才位から、上は高校生まで、50人以上もいる。
そして、規則正しい生活の中でも、カトリック教だから、食事の前後、登校前、消灯前にお祈りをする。
毎週日曜日の午前中は、教会に通って、買い物をしたい子供は先生と一緒に出かける。
ミサキは、お祈りをする事や教会に行く事が初めての経験だ。
それに他にも家族と離れて暮らす子供達が、沢山いる事に、驚きを隠せなかった。
ミサキが、施設に着いたのは昼過ぎだったので、小学生以上の子供達は学校に行ってて、小さい子供達は、お昼寝の時間だった。
ミサキは、誰も居ない部屋でその部屋の担当の先生とシスターが、ミサキが使う机と、服と布団を入れるタンスに、ミサキが持って来た荷物を片付けた。
その後、小学校の制服を合わせて、必要な物を買い揃えた。
ミサキは、緊張し始めた。
小学生達が帰って来たからだ。
「ねぇ〜!
お姉ちゃんの名前何て言うの?
何年生? 」
「ミサキっていうの!6年生だよ!よろしくね!!」
子供達は、新しく入って来たミサキに興味があるが、名前と学年を聞くだけで、来た理由は聞かない。
それは、理由を聞かない事が、ここでの暗黙のルールだった。
子供達も、それぞれ自己紹介をしていた。
そしてミサキと同学年の子達が3人帰って来た。
先生が3人を呼んで、ミサキを紹介した。
「リカ、ヨシコ、ミカ! ちょっと来てくれる?」
「何?」
「あっ!?
新しい子って、
もしかして、同じ年なんだ!」
「そう!
ミサキちゃんです。 仲良くしてあげてね!」
「ミサキです。
よろしくお願いします。」
「よろしく。」
「学校、明日から? 何組?」
「まだ転入手続きをしてないから、2・3日は行けないと思うよ。」
そう言って先生は自分の机に、集まっている低学年の子供達の宿題を、見始めた。
ミサキは、机に座り、何をしょうかと悩んでいた。
すると、同学年のミカが来て、今 学校でやっている勉強の内容を教えてくれた。
ミサキは、ミカのさりげない優しさが、凄く嬉しかった。
ミカは同学年の中でも、一番の苦労者だが、成績が良くて、いつも周りに気を使っていた。
リカとヨシコも、苦労していたけどここでは、自由人だった。
ミサキは、ここでの生活に早く慣れようと、一生懸命だった。
そしてミサキが、学校に行く日が来た。
リカと同じクラスになった。
リカは同じクラスになった事が、気にくわないらしく、ミサキに八つ当たりしてきた。
ヨシコも一緒に、ミサキにイタズラするようになった。
ミサキは仕方ない事だからと、我慢した。
しばらくすると、リカとヨシコのイタズラは、治まるだろうと思ったからだ。
そうこうしている間にミサキは、大分この生活と学校に慣れてきた頃、ミサキは中学生になった。
中学生になると、部屋が変わった。
今までと違って、少し大人に近付いた気分だった。
中学生になったミサキは、友達も増えて楽しく過ごしていた。
ところが父親から、もう少ししたら会いに来ると、連絡があった。
ミサキは、あまり会いたくなかった。
それは、父親がミサキに何も相談せずに勝手に再婚したからだ。
妹を引き取った事は、嬉しく思ったが、再婚は許せなかった。
ミサキは父親がまだ刑務所に居る時、手紙で
『もう母親は要らない!!』
と何度も書いていたから、まさか、再婚するとは思っていなかった。
ミサキの父親に対する恨む思いが、大きくなった。
そうとも知らず、父親が妹と再婚相手を連れて、ミサキに会いに来た。
「ミサキちゃん!お父さん達が来てくれたよ!」
「はい。今行きます。」
「ミサキ!
大きくなったな!ほら、この人が、新しいお母さんだぞ!」
「・・・」
「よろしくね!
ミサキちゃん!」
「・・・」
「どうした?
何か言えよ!?」
「先生、話す事無いから、部屋に戻っていい?」
そう言って、ミサキは部屋に戻った。
園長先生と担当の先生は、ミサキが父親に対して苛立っている事に、気が付いた。
しばらく、園長先生と父親達は、話しをしていた。
「今のミサキちゃんに何を言っても聞き入れないでしょう!?
しばらく様子を見ませんか?」
「分かりました。そうします。」
父親達は、帰って行った。
部屋に戻ったミサキは、イラつく気持ちを物にぶつけていた。
ミサキは、父親が会いに来てから、少しずつ生活態度が変わった。
正月やお盆休みに家に帰る事が出来る子供は、帰って家族と過ごす事が出来る。
ミサキも父親が家庭を持ち落ち着いているから、帰る事が出来る。
でもミサキは帰っても3日間だけ。
その間に、父親や父親の知人達が、施設に戻っても不自由しない様にとくれるお小遣いが、欲しくて帰っていた。
父親達とは、ほとんど会話をしないミサキだった。
父親は、ミサキが全く変わってしまった事は、自分が悪い事を繰り返していたせいで、ミサキに不自由な想いをさせたからだと感じ、ミサキの好きな様にさせた。
ミサキは家に帰る度に10万近い小遣いを、貰って施設に帰って2万円だけ預け、幼稚室の子供用にオモチャを買って親からと言ってプレゼントしたり、残りは隠し持っていた。
そのお金の一部は施設の仲が良い子達の誕生日にプレゼントを買っていた。
施設にいる子供の中で、こんな事が出来るのはミサキだけだ。
他の子供は、帰る家が無いとか、片親で親が仕事と子育てが両立が出来ないとか、親が病気持ちで子育てが出来ないとか、色んな事情で預けられている。
ミサキは、自分はまだ恵まれている方だから、少しでも他の子供達の役に立てればなぁ…と思う気持ちもあった。
ミサキは毎月の様に、父親に施設に内緒で、お金を外の友達の家に、送る様にと要求していた。
父親は、ミサキの機嫌をとる為に、要求に応じていた。
施設から毎月、お小遣いは貰っていたけど、きちんと小遣い帳に書いて先生に見せないといけなかった。
施設の仲が良いコ達と買い物したり欲しい物を買っていた。
外の友達が持っている物が、欲しくなっても自由に買えないからだ。
送って来たお金は、仲が良いコ達と日曜日の教会の帰りに、先生達に黙って買い物に行って、洋服や小物を買っていた。
買ってきた物は、見つからない様に、人が来ない所に壁の外から投げ入れ、先生達が居ない時に取りに行って、分けて自分達のタンスに隠していた。
この頃、ミサキは父親から、帰って来て欲しいと電話があると機嫌が悪くなっていた。
ミサキが機嫌が悪い時に限ってリカとヨシコが、ちょっかいを出してきた。
初めは、相手にしていなかったが、ある日、あまりのひつこさに、苛立って来たミサキは、暴れて硝子ケースに入った人形を床に落としてしまった。
硝子が割れて飛び散った。
ミサキは部屋を飛び出して、リカとヨシコは怒っているミサキに驚いていた。
普段のミサキだったら、相手にせずに上手く逃げていたからだ。
硝子が割れる音を聞いて、先生や他の部屋にいた小学生達が集まって来た。
「何!?
どうしたの?
何があったの?」
「ミサキがキレて暴れて、人形を落として逃げて行った。」
「また、アンタ達が、怒らせる様な事したんでしょ!?何、したの?」
「ちょっと、
からかっただけだよ!」
「アンタ達は〜
最近のミサキが、機嫌良くない事に気づかなかった!?そんな時に、からかったりしたら、誰だって怒るでしょう!?」
「逆に気分変わるかなぁって、思って…」
「もう〜!
バカ言ってんじゃないの!!
早く、ミサキ探して謝りなさい!!」
「わかったよ。」
先生はリカとヨシコにミサキを捜しに行かせ、ホウキとチリ取りを持って来て、飛び散った硝子を集めた。
話を聞いていた小学生達も、ミサキを捜した。
ミサキは施設の中にいるはずだけど、誰も見つけきれなかった。
洗濯をしていたミカが、騒ぎを聞きつけて、あまり人が来ない、ボイラー室の所でミサキを見つけた。
「ミサキ!
みんなが探してるから、出ておいで!!」
「イヤだ!!
まだ、誰にも会いたくない!」
「リカとヨシコが謝りたいってよ!それでも、ダメ?出て行ってやりなよ!」
「・・・」
「ほら!!
一緒に行ってやるから!」
ミサキは、ミカに腕を掴まれて仕方なく出て部屋に戻った。
リカとヨシコがすぐに、謝りに来て頭まで下げたから、ミサキは許した。
ミサキは先生と部屋に居た上級生達にも、謝りに行った。
上級生達は、先生の話を聞いていたから、逆に励ましてくれた。
この日から、リカとヨシコとミサキは益々、仲良くなった。
3人は、一緒にいる事が多くなって学校でも、顔を合わせるとふざけあう様になった。
そしてミサキとリカは、タバコを隠れて吸う様にもなった。
学校では吸わないが、施設で夜みんながテレビを観たり、それぞれがやりたい事している時、先生達も自分達の仕事をしているから、その時に部屋を出て建物の外の物陰に隠れて、2・3本吸ってガムを噛んで口臭を消して、気付かれない様に部屋に戻っていた。
そして、夜11時に見回りをする先生が、自分達の部屋に戻った後、上級生の4人が施設を脱け出している事を、知った3人は真似して脱け出す様になった。
でも3人だと目立つから、交代で2人ずつ出る事に決めて、残った1人は2人が帰って来た時に、部屋に戻って来れる様に、カギを開けておく役割があった。
脱け出した2人は、ただフラついていた。
夜明け3時頃までフラついて、バレない様に部屋に戻り、カムフラージュした布団の中に入って寝ていた。
ある場所を歩いていると、必ず声をかけて来る車が居たが、相手にしていなかった。
でも、フラつくだけに飽きて来た2人は、話をして楽しそうな人達だったら、ドライブをする様になった。
時々、危ない人達が居たが、走って車が入れない所に隠れて、車が過ぎて行くのを見て、違う道を歩いて帰っていた。
そんな事を繰り返して過ごすうちにミサキは、中2になった。
学校ではクラス替えがあり、ミサキの友達には、真面目なコが多かった。
ミサキは、学校と施設の先生達の前では、真面目とまでは言わないが、聞き分けの良い素直なコだった。
普段の生活態度は、幼稚室の小さい子供達の世話をして小学生達も、なついていたし、勉強時間になるとちゃんと勉強して、テスト前には、徹夜で勉強していた。
施設に入ってから最初に仲良くなった、真面目で成績が良かったミカに、少しでも近付きたかったからだ。
中1からミサキの成績は、ずっと真ん中の少し上だった。
それでもどんなに頑張って勉強しても、ミカには追い付かないミサキは自分に苛立っていた。
最近のミサキは、学校や施設の先生達に隠れて、夜遊びをしたりタバコを吸ったり、金遣いが荒くなっていた。
2学期になって、ミサキのクラスに関西から転入生が来た。
転入生のキヨミは、かなり目立っていた。
はっきりとモノを言うし、学校の規則に不満を持っていたし、自分達でバンドを作ってボーカルとして頑張っていたから、学校も休みがちだった。
見かけが、ヤンキー系だったから、先生や先輩達にすぐ目をつけられたけど、先輩達の中には気に入ったと言う人もいた。
クラスの中でも、浮いた存在だったが、ミサキは普通に話していた。
ミサキは関西弁に興味を持ち、キヨミはここの方言が分からないから、お互いに教え合った。
キヨミが来てからミサキは、今まで話をした事がなかった先輩達とも、仲良くなった。
それにキヨミは、シンナーをやっていたが、ミサキは手を出さなかった。
ミサキはキヨミが来る前から、シンナーをやっている同級生が何人かいたけど、興味がなかった。
薬物がどんなモノかは、幼い頃から観て来たし、そのせいで、辛い想いをしたから、自分は絶対にしないと心に誓っていた。
キヨミもミサキに進めなかった。
時々、ミサキは部活をサボり、キヨミと、キヨミの彼氏の家や同級生の男の子の家に行く様になった。
行く先々でも、ほとんどの人達が、シンナーを吸っていたから、ミサキは施設に戻る前には、制服に臭いがしないか気になって、消臭スプレーを持ち歩いていた。
リカ達はミサキとキヨミがつるむ事を心配していた。
ミサキまでシンナーを、ヤり出すんじゃないかと思っていた。
ミサキは心配してくれるリカ達に自分は、薬物には絶対、手を出さないからと約束した。
週末になると、相変わらず抜け出していたミサキ達は、先生に見つかり怒られ、しばらくはおとなしくしていた。
ほとぼりが冷めた頃を見計らって、ミサキはキヨミと夜遊びの約束をして、また抜け出した。
キヨミと待ち合わせして、街をブラついていたら、車が来て声をかけて来た。
キヨミの知り合いだったから、ドライブする事にした。
その日は族の集会が、外港である日で車やバイクが多かった。
4人は外港に様子を見に行って、別の町の海までドライブした。
街中に戻った時はもう夜が明けていた。
ミサキはこの時、施設に戻らなかった。
施設に入って初めての外泊だった。
中学校の近くの駐車場に車を止めて、登校している友達を見ていた。
みんなが登校して誰も通らなくなって、ミサキとキヨミは車を降りた。
キヨミの家に行って、しばらく休んでいた。
昼頃、キヨミの母親が施設に連絡して、ミサキは施設に戻った。
「最近のミサキちゃんは、何を考えているのか、全く分からないんだけど!?」
「・・・」
「何かあったの?不満があるなら、話して!」
「別に、何もないです。
ただ、遊びたかっただけです。
心配かけて、
ごめんなさい。」
「もう二度と、
こんな事しないでくださいね!!」
「はい。
もうしません。
迷惑かけてすみませんでした。」
施設に戻ったミサキは、園長先生達から、怒られた。
その日は、学校を休んで、寝ていなかったから、部屋で寝ていた。
みんなが学校から帰って来る頃には、起きていた。
リカとヨシコが、何をしていたのか聞いてきた。
ミサキは、キヨミの知り合いと外港に行って、海に行って、朝みんなが登校しているのを見ていたと話した。
リカ達は羨ましく思いながら聞いていた。
リカ達は、ミサキにまた、抜け出そうと誘って来たがミサキはしばらくおとなしくするからと、断った。
先生達もミサキを監視していた。
学校では、キヨミは相変わらず休みがちで、ミサキは担任や真面目な友達から、キヨミとは関わらない様にと言われていた。
キヨミが学校に来ると、ミサキは話かけていたが、キヨミは気を使って、教室にあまりいなかった。
ミサキはキヨミの気遣いに、なんだか悪い気がした。
そして、ミサキは夜遊びを控え、部活と勉強を両立しながら、過ごした。
でも父親にお金を要求する事とタバコは止めていなかった。
夜遊びも止めてはいなかった。
回数を減らし、外にいる時間を短くしただけだ。
ミサキはリカと出掛ける方が多かった。
2人はお互いの家庭環境を話し、励まし合いながら、この先どうしたいか迷っていた。
中3になって、ミサキは進学するか、就職するか悩んでいた。
施設にいるほとんどのコは、就職して、進学するコは成績がトップクラスだったら、特待生で、この施設の隣の女子高に行っていた。
この女子高も同じ修道院のシスター達がいる学校だ。
キヨミは相変わらず休みがちで、たまに学校に来た時に、多分就職するだろうと言っていたし、リカも家に帰りたくないから就職すると話していた。
学校の他の友達はほとんどが進学する。
ミサキは今の自分が、どうしたいのかも分からず、不安を感じ、苛立つ毎日だった。
ミサキが悩み出した頃、また夜遊びの回数が多くなった。
リカもミサキと同じで、将来に不安を感じていた。
2人は、夜遊びで発散していた。
ナンパの車で、飛ばして走り、箱乗りしていると、少しは気分が晴れる気がしていた。
それにナンパで知り合った人達が、悩み事を聞いてくれる事もあった。
中には、仲良くなって、関係を持ち、また会おうと約束する人もいた。
ミサキは、男の人と関係を持つのは、初めてじゃなかったし、最近大人の男の人に興味を持ち始めた。
ミサキは今まで、先輩や同級生を好きになったり憧れる事も何度かあったけど、自分から告白する事はなかった。
その頃も同じ小学校出身の男子に片思いしていた。
その男子とは気軽に話せる仲でいたかったし、中学校に入ったらクラスが離れたけど、部活の練習時間が同じで、体育館の隣のコートでその男子が頑張っている姿を見ているだけで、満足だった。
それに告白されて彼女が出来ていたから諦めていた。
その彼女は、ミサキと同じ部活だった。
ミサキ達は学校に行くより、ナンパで知り合った人達と遊んでいた方が楽しかった。
それに施設を抜け出したり、こっそり戻る時のドキドキ感が、たまらなかった。
こんな事を繰り返し、ミサキ達は、週末を楽しんでいた。
そして、ミサキはリカと抜け出したまま、施設に戻らなかった。
知り合った男の人の家に泊まったからだ。
ミサキはこの人とならいいかなって、思って関係を持った。
ミサキが夜遊びをし出して関係を持ったのは、2人目だった。
でも、ミサキの初は、小4の時に好きでした訳じゃない、誰にも話せない体験だった。
相手は2番目の義母の父親だった。
時々、泊まりに行っていたから、その日も義理の祖父の隣で寝ていたが、その部屋には2人以外誰もいなかった。
ミサキがいつも通り寝ていた時、急に上に乗られ、身動きが出来ず口も塞がれ、助けを求められない状態で襲われた。
次の日、義母に話したが、ミサキの話を聞き入れてもらえなかった。
逆に面白がって、された事を、詳しく話すように言われて、バカにされ続けた。
この時から、自分は汚されたと思いながら、誰にも話せないまま過ごして来た。
それでナンパで知り合った男の人でこの人ならいいかなって思う人と関係を持つ様になっていた。
それにミサキにはミサキなりの持論があった。
生理が来れば、きれいな体に戻る!と勝手な考えをしていた。
この日、関係を持った人とは、また合うと約束して施設の近くまで、送ってもらった。
施設に戻ると、2人はいつもより、厳しく怒られ、リカが家に帰される事になったがミサキは今まで通り、施設に居ていい事になった。
リカと離れてしまうと寂しくなると思ったミサキは、リカと話し合い計画を経てた。
次の日リカの父親が迎えに来た。
リカの家は、施設から少し離れた街で、父親と妹が居てその日から3人で暮らして行く事になった。
ミサキは心から信じて、いつも一緒にいたリカがいない生活に、物足りなさを感じながら、計画の日を楽しみにして過ごした。
ミサキは男の人との約束を守れずに、計画の日まで、おとなしく過ごした。
計画の日までに、父親にお金を要求し、交通費を準備して楽しみにしていた。
そしてその日が来た。
明け方に施設を抜け出し、駅に着くとリカがいる街までの切符を買い、電車に乗った。
電車を降りると、リカが迎えに来ていた。
リカが父親に、先輩が遊びに来ると言って、車で迎えに来ていた。
ミサキはリカの父親に挨拶して、久しぶりに会ったリカと、一晩中話し込んでいた。
「親には、1つ上の先輩って言ってあるから、話し合わせてね。」
「分かった!
予定どうりだね。後は、施設から連絡が来ないといいけど…」
「そうだよね!
ミサキがここまで来てるって、バレないといいけど…多分、大丈夫!」
2人はバレない事を祈りながら、ずっと、色んな話をしていた。
リカは家の事を手伝いながら、合間を見てミサキとこれからの事を、話した。
「学校卒業したら紡績に行こうって思ってるんだ!
寮があるから、家から出て行けるし、働いて給料が入れば、欲しい物も買えるからね!」
「私もそうしょうかって思ってた!もう施設にはおいて貰えないだろうから、高校に行けないし、家に帰ったら多分、色んな意味で我慢出来なくなるから、家から早く出たくなるだろうから!」
「それじゃ〜
先輩が行った紡績に行こうよ!!」
「あそこだったらいいよ!
決まったね!!」
「待ち遠しいよ!早く家から出たい!!」
「卒業まで、
あと約3ヶ月!
もう少しの我慢だよ!」
2人は中卒で就職して家を出る事にした。
ミサキ達が話し込んでいた間に、施設から連絡が来ていた。
リカの父親が2人に、騙された事に怒り、怒鳴って来た。
2人はやっぱりバレたかと、残念がって、施設の先生が迎えに来るのを待っていた。
「ミサキちゃん、最近どうしたの?何かあったの?」
「別に無いけど、ただリカちゃんに会いたいって思って、出て来ただけです。」
「仲が良かったから、会いたいって思うのも分かるけど、こういうのはいけない事だって分かるよね!?」
「はい、分かってます。
ごめんなさい!」
「とりあえず、施設に戻りましょうか!? 話しはそれからよ。」
ミサキは先生達とリカの父親に、頭を下げて施設に戻った。
施設にはミサキの父親が迎えに来ていた。
先生が家に戻ったかもと思って、連絡していたから、父親はミサキが度々、施設を抜け出していた事を知って家に連れ戻すつもりで来ていた。
園長先生と父親の間で、ミサキがどうしたいのか話を聞いて、結果を出す事にしていた。
「ミサキ!
何、やってるんだ!! もう何回も、抜け出していたそうだな!?」
「まあまあ、
お父さん!落ち着いて、話しまょう!! ミサキちゃん今回は何で出て行ったかは、理解出来ますよ。
リカちゃんと仲が良かったから寂しくなって会いに行ったんでしょ?」
「はい、そうです! 迷惑かけて、ごめんなさい」
「黙って居なくなったら、みんなが心配するでしょう!? 先生に相談してくれたら、どうにかしたのに…」
「ミサキちゃん
もう二度としないって、約束出来るよね!?」
「はい、出来ます。」
「ミサキちゃん、お父さんは連れて帰るつもりで、来ていらしてるけどミサキちゃんは、どうしたい?
先生達は、ここから高校に通って、卒業するまで居て良いって、話していたんだけど!?」
「もう、連れて帰りますよ!!
ここに居ても、また先生方に迷惑をかけると思いますから!」
「ミサキちゃんの意見を聞かせてくれないと、お父さんの言う通りにしないといけなくなるよ!?」
「帰ります。」
ミサキは家に帰る方を選んだ。
先生達はミサキが帰る方を選んだ事に、ビックリした。
「ミサキ、本当に家に帰りたいの?あんなに嫌がってたのに!?」
「先生達に沢山、迷惑かけたから、もう居られないから、帰る。」
「何言ってるの!無理して帰るより、もう1回謝ってここに居させてもらいなさい!」
「もう、いいよ」
ミサキは部屋に戻り荷物をまとめ出した。
先生達も、疑問に思いながら、仕方なく手伝った。
ミサキは部屋の荷物を持って、先生達に別れを言って、父親が乗って来た車に荷物を乗せて、園長先生にお詫びと別れを言って車に乗った。
ミサキは家に帰って、帰って来た事を後悔していたが、あと3ヶ月我慢したら卒業して家を出れると思い、居たくもない家族と過ごした。
家に帰ると、3番目の義母が鬱陶しかった。
ミサキに気を使っているのが、みえみえだったから、父親が義母に、気を使わないで自分の子供として、扱う様に言ってた。
それに妹は小学校低学年で、すでに問題をお越し続けて、義母は小学校に呼び出しされていた。
ミサキがキヨミやリカに電話していると、横から邪魔をして来る父親と妹に苛立ちを感じていた。
中学校の転入手続きを済ませて、新しい学校に行って観ると、小学校の時の同級生達がいた。
仲が良かったコに話しかけたが、前みたいに、親しく話してくれなかった。
その代わり、別の小学校出身のコが話しかけて来た。
「ねぇ!?
ミサキさんって、前はこっちに居たんだよね?」
「そうだけど!?」
「スゴい噂が流れてるよ!
戻って来た理由が妊娠して、前の学校に居られなくなったからって!?」
「はぁ〜!?
そんなんじゃないよ!! そんな噂、誰が流してんの!?知ってるなら教えてくれない?」
「広がりすぎて、誰が流したかは、もう分からないよ!」
「もし、分かったら教えてよ!」
「いいよ!
私、みかって呼んでいいから、ミサキさんも、呼び捨てしていい?」
「別にいいよ、
前の学校でも呼び捨てだったし」
偶然にも、みかって名前のコが、話しかけて来て、戸惑ったけど、とりあえず、みかと仲良くしてたら、ミサキに対する周りの情報が、分かると思った。
廊下を歩いていたら、年下の女の子が話しかけて来た。
そのコは、小学校の時によく遊んでいたコだった。
そのコ達にも、噂が流れていた。
噂はデタラメだから、信じらないで欲しいと伝えた。
ミサキは保健室が唯一の憩いの場所になった。
先生に変な噂を流されている事と、昔の友達がよそよそしい事を相談したら、笑いながら気にするなの一言だった。
具合が悪くなって保健室に行くと、先生は、いつもニコニコしていて、サボりじゃないよねと冗談混じりにミサキの熱を計ったり、お腹を張ってないか調べたりしてくれた。
ミサキはこの先生には、何でも話していた。
父親の事、義母の事、妹の事、施設での事、将来の事体調が悪い事、他にも色々と打ち明けていた。
昼休みに前の学校の担任から電話がかかってきた。
突然、転校して行ったから、仲が良かった友達が話したいと、担任に頼んだらしい。
ミサキは少し嬉しかったけど、その中にはキヨミが、入っていなかった事が残念だった。
キヨミはまだクラスで浮いた存在のままだったから。
でも家に帰ってすぐ、キヨミには連絡を取っていたからいなくて当たり前だ。
キヨミは前からバンドをやっていたから、休んでるんだと思った。
新しい学校の担任が、羨ましい話だと感動していた。
「ミサキは良い友達が居たんだね!こうやって電話して来る担任も、今まで、数十年教師やっているけど、いなかったよ!」
「私、あの担任
嫌いでした。
一番仲良い友達を厄介者扱いしてたから!」
「そうなの!?
でもその友達が手に負えなかったんじゃない?
ミサキの従姉達みたいに!
そう言えば!
ミサキは進学はする気がないの?」
「ないです!!
はやく、家から出たいから!」
「もったいないんだけどね!
ミサキは公立に行ける学力が十分あるのに…
従姉達とは違って目立つ事もしてないからね!
あの2人は、ひどかったから、ミサキも同じように思われてるみたいだね…」
この担任はミサキの従姉2人の担任もしていたらしく、従姉2人が中学、高校とかなり悪かったせいで、ミサキも同じように思われている事を話した。
ミサキはその話を聞いて、周りの反応に納得できた。
ミサキに何かと、ツッカかて来る女子がいた。
「ミサキさん!
何でカバンが違うの!? 私も転入して来たんだけど、揃えなさいって言われたよ!!」
「私はもう残り少ないから、それで良いって言われたから、先生に聞いてみれば!?」
「○○君は私の
彼氏だから!!
手を出さないで」
「はぁ〜!?
誰も手なんか出してないんだけど!!っていうか、ガキには興味ナイから!!」
「ミサキさん!
その制服って違反し過ぎてるよね!?それも先生は良いって言ってた?」
「直す暇がないんだから、仕方ないでしょう!?
私も好きで着てるんじゃないよ!」
ミサキはこの学校の女子が鬱陶しかった。
早く卒業したい!と思っていた。
ミサキが待ち望んだ、就職先の面倒と説明会が始まった。
そして、就職が決まり、準備金を貰い寮で必要な物を買い揃えた。
こんな住みにくい家から、早く出たいと思いながら、やっと卒業式の朝が来た。
式の最中、周りの女子達は泣いていたがミサキは、前の学校で卒業式を迎えたかった。
好きだった男子を思い出したり、キヨミや仲が良かった友達を思い出していた。
式も終わり、後は寮に入る日が来るのを待つだけ。
寮に行く前の夜は、嬉しくてなかなか寝れなかった。
熊本市の郊外にある寮に行くと、リカがいた。
久しぶりに会って話をしていたら、班が分かれていた事に気がついた。
ミサキは同じ施設出身の先輩が誰もいない班になっていた。
でも同じ斑に父親の知人の1つ上の娘がいたし、友達もすぐに出来た。
ミサキが入った班には、1部屋に5人の新人と4つ上の部屋長の6人部屋で、30人位新人がいた。
それにミサキは、定時制に通う事にしていた。
一応入試試験があり、ミサキは学力は十分あったから、トップだった。
廊下や食堂でバッタリ、施設出身の先輩達やリカに会うと、やったなぁ〜ミサキ!と、誉めてくれた。
ミサキはこの工場に就職して良かったと、思っていたけど仕事はキツかった。
仕事は2交代制の早番・遅番とミサキがいる斑とリカ達がいる斑で1週間交代だった。
ミサキは早番の時に、朝4時半に起きるのが、つらかった。
新しい生活に慣れるまで2ヶ月は、かかった。
でも朝早く起きるのは、いつまでも苦手だった。
仕事は4工場あるうちの2工場を、行ったり来たりして、何種類もの仕事を覚えた。
定時制の勉強も、順調だった。
部活にも入り、学生らしい生活を送っていた。
5月の連休にリカとミサキは、施設の近くまで行って幼児達のオモチャを買い、店から送ってもらった。
ミサキとリカは、園長先生達に会いに行きたかったけど、行きづらかった。
施設での生活が、懐かしくて先生達への感謝の気持ちで、一杯だった。
ミサキとリカは、自分達がもう少し大人になってから、会いに行く事にした。
ミサキは施設から戻っても、寮に入ってからも、タバコは止めていなかった。
ミサキは時々リカと、寮の中であまり人が来ない部屋に行き、タバコを吸ってお互いに、仕事の事や部屋長を愚痴を言い合っていた。
外出する時間が少しでもあれば、1番に仲良くなったキイと、寮の近くの喫茶店に行き、ゲームをしながらタバコを吸っていた。
その頃、1つ上の姉さん、ユキエとミツエの2人が、キイと仲良くなっていた。
その姉さん2人も喫茶店に着いて来て、一緒にタバコを吸っていた。
喫茶店に通っていたら、5つ年上の姉さんと部屋長と同級生の姉さんに、タバコを吸っているのがバレたが、姉さん達もタバコ仲間だと言って、寮長や部屋長には内緒にしてくれた。
他にも、寮で1番年上の姉さんが、ミサキを気に入って、話しかけてくる様になった。
その姉さんと付き合っていたら、他の姉さん達に目を付けられるからと、部屋長が忠告してきた。
ミサキはなんとか上手く言い訳をして、逃げていた。
ただでさえ、新人の中で1番目立っているのに、タバコを吸っているのが、バレたら即、クビになるから、それだけは避けたい。
ミサキとキイは、クビにならない様に、なるべく目立つ事を避けた。
唯一の楽しみは、2週間に1回の2泊3日の外泊だった。
キイの家に荷物を置き、街に出てショッピングして、1度帰って着替え化粧をして、ディスコ通いをしていた。
20才以上しか入れないはずの、ディスコに、上手く入り込んで、カクテルを飲みながら、明け方まで踊っていた。
踊っていると、声をかけてくる男の人達がいたけど、カクテルをおごってもらうだけで、付いて行く事はなかった。
誘って来る、理由が分かっていたから、上手く交わしていた。
この頃のミサキは、仕事と学生の両立、息抜きのディスコ通いで、男の人には興味がなかった。
でも、周りではテレクラが流行り出した。
寮の一部の姉さん達は、テレクラにハマって会いに行く人がいた。
ミサキ、キイ、ユキエ、ミツエは、遊び心で休みの日に、テレクラにかけて、偽名を使って待ち合わせしていた。
待ち合わせしていたが、会う気はなくて、離れた所からどんな男の人が来るのかを、眺めていただけ。
そんな遊びを繰り返していたが、キイに、テレクラで彼氏が出来た。
キイは、しばらく付き合っていたが彼氏と、連絡が取れなくなった。
落ち込んだキイを励ますため、ディスコ通いし、テレクラ遊びをして、男の人達をからかっていた。
キイを励ます事と別に、ミサキはそうやって、鬱憤を晴らさないと、苛つく自分を抑えられなかった。
最近リカに会わないなぁと、思ってリカがいた部屋に行ってみたら、リカは辞めていた。
何も聞いていなかったから、ショックだった。
それに父親がまた、ミサキが世話になった暴力団に入り、事務所のすぐ側に組まで作っているからだった。
ミサキが寮に入り1ヶ月後、初給料を持って家に帰った時に、父親から組事務所を作ると話して来た。
ミサキは寮に入り自立しようと、しているから関係無いだろ!と自分勝手な父親に苛つく反面、また刑務所に入るんじゃないかと、心配する気持ちがあった。
そんなミサキの気持ちが解らない、父親に腹が立って仕方ない。
ミサキには他にも苛つく理由があった。
仕事の持ち場が、毎日の様に変わって、1ヵ所に定まらない事が、必要とされていない様で不安だった。
他の同じ工場の仲間は、1ヵ所で1種類の仕事をしているのに、理由も聞けず、自分だけ振り回されている事に、ムカついていた。
ミサキは辞めようかと悩んでいたが、周りの友達や姉さん達が励ましてくれるから、何とか辞めずにいた。
しかし、父親がいる暴力団が他の暴力団と抗争が始まってしまった。
事務所と父親がいる自宅兼事務所が、警官隊に囲まれ24時間見張られる様になった。
心配したミサキはキイや友達を連れて、外泊して自宅に帰ったら、自宅の手前で警官隊に止められ荷物検査されて、やっと自宅に入った。
父親に大丈夫なのかと、聞いてみたが今は何も言えないと答え、自宅と事務所を行ったり来たりしていた。
ミサキが仕事が終わって、学校も終わって友達と、くつろいで居たら、ニュースで事務所が映り、父親が連行されている場面が映った。
ミサキの父親と会った事がある、キイと数人の友達が、一斉にミサキを見た。
ミサキもその場面を見ていたから、慌てて自宅に電話した。
父親は、やっぱり刑務所に入る事になった。
残された義母と妹は、とりあえず今の家にいて、父親を待つらしい。
ミサキは父親が捕まると、予測していたから、仕事も自分は必要とされていないんだと、考えた。
就職してもうすぐで、1年になる。
ミサキは誰にも相談せず、寮を脱け出し、自宅に戻った。
門限を過ぎても、戻らないミサキを部屋長、キイ、他の友達が心配していた。
次の日、ミサキの上司が自宅に電話してきた。
「仕事に不満を持っていたなら、謝るから戻って来い! それに仲間が心配しているから戻って来い!」
「何を言われても、戻る気ありませんから、ほっといて下さい!」
「ミサキ〜!
どうしたの!?
何で急に、帰ったの? 戻っておいでよ!!」
「ごめんね!
1回、辞めるって決めたら、もう本当に辞めるから、私の学校の制服や作業着は、みんなで分けて使っていいよ。」
「本当に辞めるんだな!
辞めるなら、退職の手続きするからな!!
いいんだな!?」
「はい、退職手続きして下さい。」
ミサキはアッサリと、退職した。
義母は何も口出ししなかった。
ミサキ達一家は、ミサキが工場を辞めて2ヶ月位経った頃、前に住んでいた家の近くに引っ越した。
ミサキと義母の間には、隙間があったが、何とかやっていた。
キイが休みの時にユキエやミツエを連れて、遊びに来たり、キイの家にミサキが泊まりに行っていた。
ミサキは半年位、仕事もせず、わずかな退職金と貯金で、フラフラしていた。
ミサキが仕事をしていない事を知った叔父が、アルバイト先を紹介してきた。
焼き鳥の店頭販売のバイトだった。
ミサキは叔父の顔を立て、バイトを始めた。
仕事の内容は、串に肉が刺してあるから、焼くだけだし、ポテトとソフトクリームも売るだけの簡単な仕事だった。
店長は話しやすく、他のバイトの女の子も仲良くなったが、1人の男の人は、なんとなく嫌いだった。
ミサキはバイトをしながら、休みになるとキイ達と遊んでいた。
ユキエにかなり年上の彼氏、じぃーが出来ていて、ミサキ達はアッシーにしていた。
じぃーはキイ達を寮に送った後、ミサキを家まで送っていた。
こういう事を、繰り返していたら、ユキエのじぃーがミサキを口説いてきた。
ユキエとは別れるからといって、何度も口説いてきたから、ミサキはある事を考えて、キイに話して実行した。
彼女がいるのに、その彼女の友達を口説いてきたじぃーが、許せなかったミサキは、ユキエの代わりに、自分を犠牲にして、じぃーに仕返しをする事だった。
ミサキはじぃーがまた口説いてきた時に、OKした。
ユキエはフラれたが、キイがミサキが話した事を、伝えたから協力してくれた。
16才のミサキはユキエの代わりに、14才も年上のじぃーを、モテ遊び、相手がすっかり、のめり込んだ時にフル計画を立てていた。
じぃーは3ヶ月の間で完全に、ミサキにのめり込んでいた。
ミサキはじぃーと付き合いながら、夜遊びは続けていた。
相変わらず、ディスコ通いも、ナンパ遊びもしてた。
そして、正月にミサキはじぃーと会っていたが、別の店で待たせて、キイやユキエや他の姉さん達とディスコに行って、踊っていた。
ミサキ達がディスコから出ると、じぃーが待っていた。
ミサキはみんながいる前で、じぃーに何もかも合わないから、別れると言って、じぃーに赤恥を欠かせた。
じぃーは何が起きたのか理解出来ない様子だった。
ユキエがじぃーにミサキからユキエの代わりに、仕返しされた事を伝えたから、諦めがついたのか、おとなしく帰って行った。
それを見届けて、ミサキ達は別のディスコに行って、スッキリした気分で、明け方まで遊んだ。
ミサキは、焼き鳥のバイトは続けてみようかなと、思ったけど嫌いな奴が、話す事、やってる事がどうしてもムカついて、一緒に働くのがイヤになって辞めた。
ミサキは人の好き・嫌いがはっきりしていた。
ミサキはバイトを辞めた事が、叔父に悪い事をした気がしていた。
キイが正月の出来事の後に工場を辞めて、熊本市の自宅に戻っていたから、ミサキはキイの家に居候する事にした。
ミサキはまだ、17才だから、自分で部屋を借りる事が出来ないからだ。
キイの家族は、父親、キイ、妹の3人で、ミサキが居候する事に賛成してくれた。
ミサキとキイは職探しをしながら、夜遊びをしていた。
すぐに縫製の仕事が見つかり、2人は働き始めた。
ミシンで与えられた、洋服の一部のパーツ50〜100枚の色違いを縫っていき、次の人に渡す。
覚えが早い2人は、次々と仕事をこなして、主任や社長に気に入られ、他のパートのオバサン達からも可愛がられた。
みんなが昼休みに工場の2階でご飯を食べている時に、ミサキとキイは、外に出てご飯も食べず、隠れてタバコを吸っていた。
ご飯を食べていない2人が気になっていたオバサン達の1人が、後をつけてタバコを吸っていた2人に、気にしないで、2階に来て吸っていいと、言ってくれた。
2人はオバサン達公認で、堂々とタバコを吸っていたが、社長にバレたらヤバいから、と内緒にしてくれていた。
2人は朝から夕方まで働いて、家に帰って夕食を食べて、お風呂に入ると、遊びに行っていた。
明け方近くまで、遊んで、寝ずに仕事に行く事もあった。
この頃の2人の遊びは、相変わらず、ディスコ通いとナンパ遊びだった。
ミサキはそんな毎日に、飽きてきた時に、街でバッタリ、中学の時の同級生、キヨミに会った。
会うのは、2年半ぶりだった。
お互いにポケベルの番号を、教え合いまた、会う約束をした。
ミサキはキヨミと食事をするため、待ち合わせした。
食事をしながら、中学時代の話で盛り上がり、ナンパ遊びに行く事にした。
すぐにイイ感じの人達が来て、話が面白く、楽しそうだったから、車に乗った。
しばらくドライブしていたが、キヨミが隣の福岡県の北九州に行きたいと言い出した。
男の人達はキヨミあっさりと、送ってくれた。
北九州に着いたのは、明け方だった。
黒崎駅前で降ろしてもらって、男の人達にお礼を言って、別れた。
キヨミは知り合いに電話して、迎えに来てもらった。
その知り合いは、トクさんと言ってミサキより8才年上だった。
そのままトクさんの家に行った。
ミサキは初めて会うから、挨拶した。
キヨミは他にも、会いたい人がいると言って、出て行った。
残されたミサキはトクさんと話しているうちに、雰囲気の流れで関係を持った。
トクさんは、一目惚れしたからと、言ってミサキを2日間、帰さずに、トクさんの部屋に閉じ込めていた。
ミサキが地元に戻る話をしたら、トクさんはミサキに、地元の荷物を持って来る様にと、同棲したい気持ちを打ち明けてきた。
ミサキは迷いながら、キイの家に帰って行った。
キイはミサキが3日も帰って来なかったから心配していた。
ミサキがトクさんの話をしたら、キイは反対した。
ミサキが悩んでいたら、トクさんから催促の連絡がきた。
ミサキはとりあえず行く事にした。
キイも着いていくと言って、電車で黒崎駅まで行った。
駅には、トクさんが待っていた。
トクさんはキイに帰る様に、言ってミサキに肩組みしキイがミサキに近寄って来れない様にした。
ミサキはトクさんに、親友に意地悪しないでと、言ってキイと話をした。
「ごめんね!
やっぱり、トクさんって、束縛タイプでしょ!? 」
「うん!!
ミサキ! この人やめた方がいいよ! ミサキが苦労するよ!!」
「かもね!
でも、しばらくはトクさんと、付き合ってみるよ!
長続きはしないと思うけどね!!」
「本当に?
ミサキがいいなら仕方ないね!
私、帰るけど…
何かあったら連絡してよ!?」
「帰りたくなったら、連絡するよ!気をつけて帰ってね!」
キイは自分の家に帰って行った。
トクさんはミサキが来るまでに、部屋を見つけて、少しだけ荷物を運び込んでいた。
トクさんの実家から少し離れたアパートで、2人の同棲生活が始まった。
トクさんは鳶職をしていたけど、ミサキにも働く様に言った。
ミサキは慣れない土地で、職探しをした。
たまたま、縫製の仕事を見つけて、働く事にした。
ミサキは朝から苦手な料理をして、トクさんの朝ごはんを用意して、仕事に行って夕方にアパートに戻り、夕食を用意して、トクさんの帰りを待っていた。
トクさんは帰って来ると、食事して部屋に居る時はミサキに抱きつき、朝まで離さない。
毎晩、お風呂も一緒に入り、テレビを観ていても、ミサキの後ろから抱きつき離れない。
そして、毎晩ミサキの体を求めて、ミサキが嫌がっても、無理やりにしていた。
それも1回で済めばいいけど、3回は当たり前だったから、うんざりしていた。
ミサキは体力的に疲れて来た。
外に飲みに行く時は、ミサキを連れて行く事もあったが、行き先は元カノが働いている店だった。
仕事の仲間が遊びに来ると、ミサキを奥の部屋から出さずにいた。
仕事が休みの時、たまに買い物に出て、ミサキが欲しがる物を買っていた。
ミサキが買って貰った物で、1番嬉しかったのは、大きなクマのぬいぐるみだった。
同棲を始めて、1ヶ月近く経った頃、ミサキはキイに連絡をしていた。
キイとヨシミが遊びに来た。
トクさんはキイ達が、ミサキを連れ戻しに来たと、思い3人を見張っていた。
キイ達が来たのは、日曜日だったから、3人は近所を散歩しながら、どうやって逃げるか話し合っていた。
「来てくれて、
助かったよ!!
ありがとうね♪」
「やっぱり、ヤバい人だったね!! 私が言った通りだったでしょう!?」
「うん、騙された気分だよ。
はやく、帰りたいよ!!」
「もう大丈夫!!
疑われてるみたいだから、作戦立てないとね!!」
「そうだね!
上手く、騙して
早く帰ろうよ!! あのヤバい奴から、早く逃げたいよ!!」
夜もトクさんが寝静まるのを待って、3人は話し合っていた。
3人は一睡もせずに、作戦を練っていた。
ミサキは時間になると、トクさんの朝ご飯を用意して、キイ達を送って来たフリをして、仕事に行く準備をしていた。
トクさんはミサキが本当に仕事に行くのか、心配してバス停までついて来た。
ミサキはバスに乗り2つ先で降りて、キイ達が隠れている所に行った。
そこからアパートが見えていて、トクさんが仕事に行くのを、待った。
トクさんはなかなか仕事に行かず、3人は、ミサキの荷物を諦めかけていた。
やっとトクさんの仕事仲間が迎えに来て、出て行った。
3人はしばらく様子を見て、トクさんが戻って来ない事を、確認してからアパートに行った。
急いでミサキの荷物をまとめて、宅配でキイの家に送った。
ミサキはお気に入りのぬいぐるみを持って帰りたかったが、思い出になるからやめた。
置き手紙を置いて、3人は急いで駅に行った。
電車に乗り、一安心した3人は、最近の身の上話していた。
ミサキはまともに食事をしていなかったので、体調を崩していたから、体調を整える事にした。
ミサキがトクさんと暮らしている間に、キイに彼氏が出来ていた。
キイとユキエで、ナンパ遊びしていたら、声をかけて来たのがユウジ君達だった。
キイとユウジ君は、すぐに意気投合し付き合い始めた。
キイの家に戻った3人は、ミサキの体調が戻るのを待っていた。
1週間位でミサキの体調が戻って、遊びに行ける様になった。
ミサキとキイは、久しぶりに街に出て、遊んでいた。
「ウワッ!!
メチャクチャ好みなんだけど!?
話し相手になって欲しい〜!」
「誰に言ってるんだろ?
私達じゃないよね!?」
「多分、私達だよ! こっち見てるし、近づいて来てるよ!」
「ねぇ!?
今から何か用あるの?
なかったら、ご飯食べに行こうよ!!おごるから!!」
「暇してるから、付き合ってやってもいいよ!」
「やったぁ!!
ありがとうね!!
俺カズ、こっちはヨシムラ! 何処に食べに行きたい?」
「居酒屋がいいかな!? 飲みたい気分だし!」
4人は近くの居酒屋に入った。
カズはミサキが、元カノに似ているし、一目惚れしたから、付き合って欲しいと言ってきた。
ミサキは悪い気はしなかった。
よくよく話を聞いてみると、2人は暴力団の見習いをしていて、事務所に寝泊まりしていた。
ミサキは暴力団がらみかぁ…と、悩んだが、カズが積極的に誘って来るし、トクさんみたいじゃないし、少し好みに近いから、付き合う事にした。
カズから外に出れないから、事務所に来て欲しいと、連絡があった。
カズが居る事務所は、キイの家から案外近くで歩いて行けた。
ミサキは事務所の近くで、カズと待ち合わせして、一緒に事務所に行った。
事務所に入って、すぐの部屋に入り、座ろうとしたら他の組員の人達が、カズの彼女を見に来た。
ミサキは軽く挨拶した。
その人達は、邪魔しないからと、奥の部屋に行った。
ミサキはカズと2人になって、話していたら、カズは話している最中に、いきなりキスをしてきて、また話し出す、を繰り返していた。
カズはキス魔だった。
ミサキはキスは、嫌いではないから、トクさんよりはマシだと思った。
ミサキは事務所に通う様になって、時々、泊まる事もあった。
事務所の組員の人達も、楽しい人ばかりだった。
組長さんも、優しい人だと、思っていた。
2ヶ月位して、カズが事務所を脱け出したいと、言ってきた。
脱け出して、ほとぼりがさめたら、会いに来ると、言って居なくなった。
組長さんと組員の人達が、ミサキの所に来て、居場所を聞いてきた。
ミサキはカズの居場所を聞いていないから、何処に居るか分からない。
組長さん達にも、知らないと答えたけど、しばらく見張りがついていた。
ミサキはカズが、会いに来ると言ったから、ずっと待っていた。
そんなミサキを気にして、キイは彼氏を呼び出し、遊びに行く事にした。
キイの彼氏ユウジ君は3つ年上の地元の自衛隊に、勤務していた。
ユウジ君は自衛隊の後輩のアワタ君を連れて来て、4人で海までドライブして、ラブホに入った。
ミサキはヤケになっていたから、アワタ君と寝た。
それからも、ユウジ君が連れて来た、自衛隊の先輩のサイトウさん、友達のタカミ君とも寝た。
約束して居なくなった、カズが恋しいけど、いくら待っても、会いに来ない事に、ミサキは裏切られたと、思いやけっぱちになっていた。
仕事にも、やる気がなくなっていたから、休みがちだった。
キイがユウジ君とデートする度に、ミサキに気を使ってユウジ君が友達を連れて来る。
ユウジ君の友達の、メンタンは、彼女とケンカ中だったらしく、ヤケになっていたから、ミサキに迫って来た。
ミサキは拒んでいたが結局、ヤッた。
キイの父親が、2人の夜遊びが毎日の様に、なっていた事から、知り合いのスナックのママに相談したら、店で雇うと言ってくれた。
2人は18才になっていたから、店で働く事にした。
その店はママ1人で、やっていたが満席になると、1人はキツイから、2人が入る事で少し、楽になるからと、歓迎してくれた。
2人は初めての経験だから、接客する事に手間取ったけど、アルコールには、強かった。
お客さんは、常連客ばかりだったから、名前を覚えるのに時間はかからなかった。
3ヶ月位経った頃には、2人だけでも、お客さんの相手が出来る様になっていた。
ママも出勤時間が遅くなったり、来ない日もあった。
ミサキとキイは、店で働き初めても、店が終わってから、夜遊びしていた。
ミサキの気分が、晴れないからだ。
体調もダルいし、スッキリせず、疲れ易かった。
時々、店を休む事もあった。
病院に行ってみると、慢性の便秘が益々悪くなって、腸の働きが、悪いと、言われた。
規則正しい生活をと、言われたけど夜の仕事をしているから、無理だ!と思った。
だけどミサキなりに、野菜中心の食事を食べて、漢方薬を飲んだり、便秘薬を飲んだりした。
店で働き出して、4ヶ月頃にミサキとキイは、部屋を借りてキイの実家を出た。
見かけはアパートだが、一応マンションだ。
やっと自立した気がした。
引っ越して、荷物を片付けたら、キイの中学校時代の友達のカズヨが、来て、特製カレーを作り、ミツエも来た。
ユウジ君も友達を連れて来た。
みんなでカズヨが作ったカレーを食べて、ビールで乾杯した。
その日から、2人の部屋は、溜まり場の様になった。
街中にあるその部屋から、朝から近くのパチンコ屋にパチスロしに行ったり、夕方には店に歩いて出勤して、自由な生活をしていた。
休みには、キイの友達やユウジ君と他の友達が来て、溜まり場の様になり、飲んだり食べたりして、騒いでいた。
そんな生活をしていたある日、ミサキが寝ていたら、ユウジ君の友達のバタコが、上に乗って来た。
その時家には誰も居なかったから、助けを求めても無駄だった。
ミサキは体調が悪かったから、力が入らず逃げ切れなかった。
ヤり終わったバタコは、ミサキに謝って、彼女になって欲しいと言ってきたが、ミサキは断った。
ミサキはユウジ君の友達は、みんな自分の事を、させ子と思っているのかと、ショックを受けた。
確かに、今までユウジ君の友達と関係していたから、そう思われても仕方がない。
でもショックは、隠せなかった。
ミサキは店でも、ビールをバカ飲みして、家でも飲みまくった。
吐くまで飲んで、また吐いてと、繰り返すミサキを、ママは心配した。
ミサキは、何でもないからと、飲み続けた。
しばらくして、自衛隊を辞めたユウジ君が友達4人を連れて飲みに来た。
みんなで飲んで、歌って、騒いでいた。
店を閉める時間が来て、別の店で飲む事にして、ミサキとキイは、後片付けを済ませて、ユウジ君達と飲みに行った。
7人は、次の店でも、飲んで歌って騒いでいた。
その中でミサキはナイトウさんに目をつけた。
話の流れでミサキから、ナイトウさんに付き合おうと、言い出した。
みんながビックリしていた。
ナイトウさんもビックリしていたけど、OKした。
2人が付き合う事になって、一斉に盛り上がった。
今まで1度も自分から、告白した事がないミサキが、告白した。
ヤケになっていたせいもあるが、ユウジ君が連れて来た友達の中に、ミサキと関係した人が2人いた事に、ミサキはまた利用される気がした。
その前に、自分から1番付き合っていけそうな、ナイトウさんを選んだ。
ナイトウさんは、ミサキから告白されてから、隣に座りミサキの無茶飲みを止めさせようとしていた。
そしてナイトウさんは、ミサキに確認してきた。
「本当にオレと
付き合うんだよね!? 酔った勢いで言ったんじゃないよね!?」
「本気だよ!!
だって、大事にしてくれそうじゃん! してくれないの?」
「大事にする!!
絶対に!!やったぁ! マジだよ!」
ナイトウさんは、喜んだ。
ミサキも嬉しかった。
ナイトウさんなら、本当に大事にしてくれそうし、本気で好きになってくれそうだから、ミサキは本気で心から好きになりたいと思った。
2人はお互いのポケベルの番号を、教え合って暗号を決めたり、店の番号を交換した。
ナイトウさんは、タカミ君とアパートに住んでいて、電話を置いていなかったから、働いている居酒屋の番号を教えた。
ミサキも電話を置いていないから、店の番号を教えた。
2人は話が盛り上がり、周りに冷やかされた。
7人はかなり酔っていた。
ミサキとナイトウさんが、店を出ると、先にはしゃぎながら出たキイが、階段から転げ落ちていた。
凄い音が聞こえて、慌てて降りてみると、キイが左腕を押さえていた。
みんなが心配してキイの左腕を動かしてみたが、キイが大丈夫だと言ったから、それぞれバラバラに帰って行った。
キイとユウジ君、ミサキとナイトウさんは、近くのラブホに入った。
1つの部屋に4人で入り、ユウジ君とナイトウさんがお風呂に入ってはしゃいでいた。
「ミサキ、本気でナイトウさんと付き合うの?」
「本気だよ!
ナイトウさんなら安心して付き合えそうでしょ!?」
「そうだね!
ミサキが今まで付き合った人の中で1番良い感じ!!」
「今度は失敗しないと思う!!」
「頑張ってね!!」
「うん!
ナイトウさんとなら、長く付き合えそうな気がする」
キイはミサキが今まで男運が無かった事を知っているから、余計に応援した。
男2人がお風呂から上がって来たから、今度はミサキとキイがお風呂に入った。
2人が入っていると、男2人が覗いて来たから、お湯をかけて追い払った。
ミサキとキイがお風呂から上がって、一息ついてジュースを飲んだ。
4人は1つのベッドで寝た。
次の日、ユウジ君とナイトウさんと分かれて、家に戻った、キイとミサキはキイの左腕にシップを貼って様子を観た。
その日から、ミサキとナイトウさんは、連絡を取り合い出した。
キイが左腕を痛めて2週間位経った頃、痛みが治まらないから病院に行った。
レントゲンでも分かりにくい肘を、複雑骨折していたからギブスを着ける事になった。
キイはギブスを着けたまま、店に出ていた。
ギブスには、みんなから落書きされていた。
店のお客さんも落書きしていた。
ミサキとナイトウさんは、お互いの部屋に泊まりあって、順調に付き合っていた。
ミサキが体調を崩し、熱を出した時ナイトウさんが看病してくれた。
ミサキはナイトウさんが隣に居てくれるだけで、幸せだった。
でもそれも、長く続かなかった。
突然、ユウジ君、ナイトウさん、タカミ君の3人が居なくなった。
キイとミサキが連絡を取ろうと、お互いの彼氏のポケベルを鳴らしたり、店に電話するが辞めたと言われた。
アパートに行ったけど、誰も居なくて、何が起きたのか、理解できない2人だった。
キイとミサキが落ち込んだまま店に出たら、連絡がきた。
3人は期間工の面接を受け、県外の工場に就職していた。
キイとミサキは、何も聞いていなかったから、お互いの彼氏の行動が、理解出来なかった。
ナイトウさんは毎日、電話するからとミサキに約束した。
約束通りにナイトウさんは毎日、電話をかけていたが、ミサキは不安だらけだった。
キイとミサキは不安な気持ちを、ナンパ遊びで紛らわしていた。
この時、遠距離恋愛しているからと、相手に話していた。
ナンパで知り合ったヨウちゃんと後輩のキムラ君は、その事を理解して、ドライブに連れていってくれた。
でも、キムラ君が毎日の様に、ミサキに会いに来る様になった。
休みの日は朝から来て、夜遅くまで居る事もあった。
そしてキムラ君が、彼氏がいても構わないから、付き合って欲しいと言ってきた。
ミサキはすぐに断ったが、気になっていた。
ミサキは毎日、ナイトウさんからの電話を楽しみに、店に行っていたが、キムラ君の積極的な行動に引かれ始めた。
ミサキは段々と、キムラ君が好きになりだした。
キイはあまり、気に入らないようだった。
ミサキは悩んだ。
ミサキはいつも、そばに居てくれる彼氏が欲しかったから、遠距離のナイトウさんより、近くのキムラ君を選んだ。
そして、ナイトウさんに別れ話をした。
理由を話して、謝って、別れた。
そして、キムラ君と付き合う事にした。
ミサキはナイトウさんに悪い事をした気分だったけど、毎日仕事帰りに会いに来て、休みには朝から夜遅くまで居る、キムラ君に引かれていった。
ミサキは寂しがり屋だった。
誰かが、いつもそばに居てくれるだけで安心出来た。
ミサキとキイは、店を辞めて別々の店で働き始めた。
キイが行った店は、ママとキイだけの10人位しか入らない、小さな店。
ミサキが行った店は、ママとママの親戚のキョウコさん、ヒロ子さん、バイトのジュンさん、カオリさんとミサキで、30人位は入る広さの店。
ミサキは今までとは、違ってお客さんも多く、カウンターとボックスの仕事を覚えるのに必死だった。
新しい店で1からやり直す気分で、ちゃんとした接客業を覚えるミサキは、キムラ君が出勤前の短い時間に、会いに来てくれるのを、励みに頑張った。
キイも新しい店でママと2人、頑張っていた。
そしてキイが家に、電話を着けた。
キイの店のママがいつでも連絡が、取れるようにと言ったからだった。
ミサキとキイは、どっちかの店が、先に終わると、まだ終わっていない方の店に行って、一緒に帰っていた。
キイの店に行くと、楽しいお客さんが度々いて、ミサキも一緒に飲む事があった。
前にこの店で働いて、マナミ姉と仲良くなって、ホストクラブに連れていってもらった。
そのホストクラブの客は、ほとんどがホスト経営者が経営しているソープのお嬢達ばかりだった。
ミサキとキイは、ホストは初めての経験だった。
店に入ると、ホストの1人がボックスに案内してくれた。
3人が座ると、2人のホストが来た。
キョウヘイとヒデちゃんと言って、マナミ姉の知り合いだった。
2人は初めてのミサキとキイの隣に座り、挨拶をして乾杯した。
しばらくすると、この店の会長が来て、挨拶して座った。
他のホストの人達も挨拶しに来て、他のお客さんのボックスに戻って行った。
マナミ姉はミサキとキイに、キョウヘイとヒデちゃんが、癒してくれるから、いつでも気軽に通っていいよと言ってくれた。
ミサキとキイは、楽しんで、帰って行った。
ミサキとキイは、店が終わるとナンパ遊びに行くか、ホストクラブに行く様になった。
この頃から、キイがキョウヘイに、口説かれ始めたけど、キイはユウジ君がいるからと、断っていた。
真っ直ぐ部屋に戻っても、何かが足りない気がした。
休みになると、キムラ君が朝から、来ていたが、その日はヨウちゃんがキムラ君を捜しに来た。
ヨウちゃんがキムラ君を外に呼び出し、ミサキ達に着いてくるなと言って、出て行った。
外に出たヨウちゃんとキムラ君は、何かを話していたが、ヨウちゃんは怒っていた。
ミサキとキイは、その様子を隠れて見ていた。
ヨウちゃんが、怒鳴りながらキムラ君を、ボコボコに殴り出した。
ミサキは止めに行こうとしたが、キイが引き止めた。
「何でキムラ君が殴られてんの!?」
「普段は、優しいヨウちゃんがあれだけ、怒ってるんだからキムラ君が何かヤラかしたんじゃないの!」
「でも、あそこまでしなくても、
結構、ケガしてるよ!?」
「相当、怒らせる事したんじゃ!?」
「何したんだろ?後で、話してくれるかな?
ヨウちゃんは、帰り際に、ケジメつけろよと言って、帰って行った。
キムラ君は、しばらくして、部屋に戻って来た。
ミサキはキムラ君のケガを、手当てしながら理由を聞いたけど、キムラ君は話してくれなかった。
キイは前から、キムラ君をあまり、良くは思っていなかったから、この時も不信感を抱いていた。
ミサキはキムラ君をホストクラブに連れて行った。
少しでも、昼間の出来事を忘れられるならと、気を使った。
でも、キムラ君はミサキの気遣いを仇にして返した。
盛り上がって来た時、他にも客が居るのに急に裸になったキムラ君は、店内を走り回った。
ミサキは、頭に来て、キムラ君を呼びビンタをかまして、店を出た。
キムラ君が服を着て追いかけて来て謝ったが、ミサキは許さなかった。
ミサキが怒った理由は、他の客はみんなソープ嬢だったからだ。
仕事で散々、好きな人じゃない男の裸を見てきて、うんざりしてストレス解消に来ているのに、あんな事されたら気分悪くなるはず。と思ったからだった。
ミサキは何日かキムラ君と話しを、しなかった。
それから、しばらくして、ユウジ君が県外から、1人戻って来た。
キイはユウジ君が戻って来たから、すっかり機嫌が良くなった。
でも、ユウジ君とキムラ君は、気が合わず会話がなかった。
もう少しで、喧嘩しそうになった。
ミサキはキムラ君に、ユウジ君と仲良くなって欲しいと言ってみたが、駄目だった。
みんなで仲良くしたいと、思っていたミサキは、妊娠している事に気づいた。
すぐにキイに相談した。
キイは、
「相手がキムラ君じゃなかったら、産んでも良いと、思うけどね!」
と、言った。
ミサキは自分は、まだ親になれないと思っていたが、産んで欲しいと言ってくれる事を期待していた。
キムラ君に妊娠した事を話すと、
「今はまだ無理だから、中絶して欲しい」
って言った。
ミサキは誰も産んでも良いって、言ってくれなかったから、ちょっと残念に思いながら、中絶する事にした。
ミサキは店に行って、ママに妊娠した事を話して、中絶するために、しばらく休みをもらった。
中絶する日、朝からキイが病院に付いて来てくれた。
ミサキは、初めての中絶手術だったから、緊張していたし、戸惑っていた。
麻酔して手術が終わると、病室に寝かされていた。
目が覚めたミサキは、涙が溢れて止まらなかった。
しばらくすると看護師さんが来て、
「点滴が終わったら帰っていいですよ。」
と言ってキイを呼びに行った。
キイが病室に入って来ると、泣いているミサキの頭を何も言わず、優しく撫でた。
点滴が終わると、看護師さんを呼んで、点滴を外してもらって、家に戻った。
ミサキは自分の部屋で横になって、また泣き出した。
中絶する事が、こんなに辛い思いをするとは、思っていなかった。
ミサキは、二度とこんな思いは、したくないと思っていた。
夕方、ミサキの所に、キムラ君が仕事帰りに、直行して来た。
横になっているミサキの隣に座り、
「ゴメンね!!」
と言って、ミサキの手を握り、頭を撫でていた。
ミサキはしばらく泣いていたが、泣き疲れて眠った。
キイがキムラ君に
「ミサキにまた同じような思いをさせないって約束して欲しい」
と言った。
キムラ君は静かに頷いた。
3日間、仕事を休んだミサキは、何事もなかった様子で、店に出た。
キョウ子さんとヒロ子さんは、キムラ君に、説教した。
「妹の様に可愛がっているミサキに、辛い思いをさせるな!」
「約束出来ないなら、すぐに別れろ!!」
「すみませんでした。 約束します!」
ミサキはお姉さんと慕っていた2人が、心配してくれていた事が嬉しかった。
ミサキは仕事を前より、頑張った。
スケベなお客さんが居ても、軽くあしらう様になっていたし、話しづらいお客さんでも、なんとか、話す様になった。
落ち着いた時に、ミサキの前から、キムラ君が居なくなった。
毎日来ていたのに、突然来なくなったキムラ君に、何かあったかも、と心配してキムラ君の家に行った。
ナイトウさんの時みたいに、また誰もいなかった。
ミサキはショックで、元気がなくなった。
仕事も手につかなくなった。
ミサキはこれで3人目だ。
いつもいい感じで付き合っていると、突然相手が居なくなる。
それぞれ理由があるが、立て続けに3人も居なくなると、さすがにキツイ。
「何で私ばかり、こんな思い、しなきゃいけないのか!?」
ミサキはユウジ君の友達が持っていた、マリファナをもらって吸った。
キイは落ち込むミサキに、何をしても、元気が出ないから、ミサキの好きな様にさせて、見守っていた。
キムラ君が居なくなって1ヶ月後、ミサキとキイは店が休みで、家で寛いでいた。
毎日の様に二日酔いになっているミサキは、横になっていた。
キイが寝ているミサキの横で、テレビを見ていると、電話が鳴った。
キイが電話に出ると、相手はキムラ君だった。
「もしもし、キムラだけど…」
「ちょっと、あんた! 何処にいるの!? 急に居なくなって!
何やってんの!?」
「ちょっと理由があって、会いに行けないんだ。
ミサキちゃんいる?」
「あんたのせいで毎日飲み過ぎて、二日酔いで寝てるよ!!」
「悪い事したって反省してる!
お願い!! ミサキちゃんに代わって!!」
「嫌だ! あんたが居なくなって、ミサキがどんだけ辛い思いしたか、あんたと付き合うのに、前の彼氏に泣きながら謝ってたんだよ!!
中絶だって、本当はしたくなかったんだからね!!
どんだけ泣かすような事してんの!?どんなに謝っても、私が許さないから!!」
「本当に悪いって思ってる!
謝っても許してもらえなくても、いいから!!
ミサキちゃんに代わって!!」
「嫌だよ!!
居なくなった理由、聞くまで代わらないから!!」
「分かった!
話すから、代わってくれる?」
「話し次第だよ!早く、話して!」
「実は俺、妻子持ちなんだよ!」
「はぁ〜マジで!?騙してたの?」
「いや、騙すつもりは、なかった。話すつもりだったよ! 前に、ヨウ先輩に殴られてた事、あったでしょう!?
あん時に、本当の事言えよ!って、言われてたんだけど、言えなくて…騙すつもりじゃなかったけど、結局騙した様な事になって反省してる!今、離婚する話ししてるから、離婚したら、戻ってミサキちゃんとやり直したいって思って、電話してみたんだけど…」
「何!? 離婚するから、ミサキとやり直したいって!?バカにすんなよ!!あんたみたいな男、ミサキとは付き合わせないよ!!
冗談じゃないよ!!二度とその顔見せるな!!」
「そんなに言わなくても…
本当に反省してるし、もうミサキちゃんには、悲しい思いさせない!!
約束するよ!!」
「あんたの約束するは、信じられない!!」
「信じてもらえなくても、いいから、とりあえず離婚してから会いに行くからって、ミサキちゃんに伝えて!!」
キムラ君はキイに伝言して欲しいと言って、電話を切った。
ミサキはキイが怒鳴っていたから、起きて話を聞いていた。
落ち込むミサキに飲みに行こうと、キイが誘ってホストクラブに、飲みに行った。
キイがキョウヘイとヒデちゃんに、電話の話しをして、ミサキの気分を盛り上げて欲しいと頼んだ。
2人はミサキの事は、前に聞いていたから、新しく入って来たホストから、ベテランのホストをつけて、なんとかミサキに笑顔が出る様に、気を使った。
朝まで飲んだミサキとキイは、すっかり酔っ払っていた。
キョウヘイが2人を、家まで送ってくれた。
ミサキは、その日店を休んだ。
キイは、ミサキが心配だったけど、休めないから早く帰る、と言って店に出た。
ミサキは1人になって、悲しくて、悔しくて、やりきれない気持ちで、一杯になり、前に貰ったマリファナを吸いながら泣いていた。
キイが店が終わって、帰ってみるとミサキは泣きながら、寝ていた。
キイはミサキの横で添い寝して、ミサキの頭を撫でていた。
ミサキは次の日から、また店に出た。
最近、常連客の板前さんが、若い男の子を3人連れて来ていた。
3人はミサキより1つ年下で、その中の1人ミヤタ君がミサキに好意を持っていた。
常連の板前さんはその事に気付いていたから、3人を連れて来る様になった。
ミサキは板前さん達の席で、男の子達と、飲んで歌って騒いでいた。
ミサキの誕生日とミヤタ君の誕生日が、2日違いだった事もあって、ミヤタ君が寮まで、来て欲しいと誘ってきた。
ミサキは店が終わって、ミヤタ君達の寮に行った。
ミサキとミヤタ君はお互いにプレゼント交換して、朝まで話し込んでいた。
明け方、ミヤタ君達の出勤時間の少し前に、他の住人にバレない様に、ミサキは静かに寮を出た。
他のお客さんに付いても、飲んでは騒いでいた。
店が終わっても、飲み足りなかったら、ホストクラブに行って飲んでいた。
ミサキは飲み過ぎて、気分が悪くなっても、記憶がなくなるまで、飲み続けた。
そこまでしないと、思い出して泣き出しそうになるからだった。
ミサキの周りの人達は、ミサキの体を心配していたけど、今のミサキには飲んで忘れさせるしかなかった。
そんな生活を続けているミサキの前に、キムラ君が現れた。
「何しに来た?」
「離婚して、今は親権の事で話し合いをしている。
それが済んだら
ミサキちゃんと、もう一度やり直したい!!」
「勝手だよね!?
好きな人が出来たから、離婚して欲しい!?
離婚するから、
やり直したい!?
奥さんも子供も、可哀想だよね!!」
「分かってる!
自分勝手だって事は。 でもミサキちゃんとやり直したい気持ちは、本気だから!!」
ミサキは自分の気持ちが、分からなくなった。
久しぶりに会うキムラ君に、抱きつきたい思いがあるし、殴りたい思いもある。
その時はそのまま玄関のドアを閉めた。
ミサキは迷った。
妊娠したのは、キムラ君だけで、ミサキが今まで何人もの人と関係を持ったけど、妊娠した事はなかった。
ミサキは妊娠した事で、キムラ君に運命を感じていた。
中絶した時は、ショックだったけど、それでも好きな気持ちは変わらなかった。
でも、結婚して子供がいたのに、ナンパして遊んでたから、ミサキと知り合い、付き合い出した。
それは、これから先、キムラ君とヨリを戻したとしても、キムラ君は同じ事を繰り返す可能性があるという事でもある。
キイはもちろん、反対した。
でも店のヒロ子さんは、まだ好きって気持ちがあるなら、やり直してもいいんじゃないかと、言われた。
ミサキは余計に、悩んだ。
キムラ君はまた、毎日ミサキに会いに来る様になった。
キイはキムラ君に呆れていた。
ミサキはしばらく、様子を見る事にした。
キイはキムラ君が毎日来る様になったから、別にアパートを借りて出て行った。
ミサキはキイから何も聞いていなかったから、置いてきぼりを食らった気がした。
寂しくなったミサキには、キムラ君だけになった。
キムラ君は、ミサキの寂しさを、紛らそうとなるべく一緒に居れる様にと、夜の仕事を探した。
スーツがいるけど、お金が無いキムラ君は、ミサキに立て替えて欲しいと言ってきた。
ミサキはキムラ君が、仕事を探して給料が入ったら返すから、と言ったから立て替えた。
他にも必要な物を買うためのお金も立て替えた。
キムラ君は、バーの仕事を見つけてきた。
ミサキが店の帰りにキムラ君が働いている店に行き、終わるまで待って、一緒に帰っていた。
完全にヨリを戻してしまったミサキは、2度目の妊娠をした。
「生理が来ないから、調べてみたんだけど、妊娠したみたい!」
「ごめん!!
今は、親権で揉めてるし、子供を育てる余裕が無いから、今回もおろして!!」
「そうだよね…
やっぱり、産めないよね…。」
「本当にごめん!!ミサキちゃんに、辛い思いばかりさせて…」
ミサキはまた中絶した。
今回は1人で病院に行き、手術を受けて、1人で帰って来て、店を休み誰も居ない部屋で泣いた。
ミサキは不安になってきたが、自分で選んだから、仕方がないと、思った。
キムラが働き出して、慣れてきた頃、終わるのが遅くなるからとか、店長達とミーティングがあるからと言って、ミサキを先に帰す様に、なった。
ミサキはキムラに利用されている気がしてきた。
その時、キムラが働いている店で、ミサキと同い年のタノウエ君と仲良くなっていた。
タノウエ君はなぜか、ミサキの言う事を聞く、パシリみたいな存在だった。
ミサキは、タノウエ君に店が終わった後のキムラの行動を、見張る様に言った。
タノウエ君は、ミサキの言う通りに見張っていた。
しばらく様子をみていたら、まだ1才にもならない子供を連れて来た。
キムラが引き取る事になって、連れて来た。
ミサキは妹の世話をしていたから、育児は出来るけど、やりきれない気持ちだった。
まだ乳離れしていない子供を、母親から引き離して、妊娠しても産めずにいた自分に、母親代わりをして欲しいと、言われた事。
でもミサキは、親の勝手で、母親から引き離された、子供を可哀想だと思い、一生懸命に育児をした。
いつも朝はまだ、寝ているけど、子供を引き取ってからは、起きて育児をしていた。
子供中心の生活をしていたから、ミサキは寝不足だった。
ミサキは店に出る前に、子供を託児所に預けて、アルコールを控えめにし、寄り道しないで、子供を迎えに行き、帰って子供を寝かせていた。
キムラは帰って来ない日が、続く様になったし、家賃や光熱費が払えずにいた。
ミサキの嫌な予想が当たった。
タノウエ君が、ミサキに報告して来た。
キムラはやっぱり浮気していた。
浮気がバレたキムラが、取った行動は、子供を連れて出て行ったまま戻らなかった。
ミサキは1人になった。
また置いてきぼりを食らった。
悲しくて、寂しくて、辛くて、どうしようもない思いが、ミサキを襲った。
ミサキはまだ持っていたマリファナを吸って、前に看護師に貰った睡眠薬を飲み、家にあったビールを飲み、手首にカミソリをあてた。
ミサキは、自殺する気でいた。
でも手が震えて、上手く手首を切れなかった。
カット出来ない自分が、悔しくて、涙が溢れ出してきた。
ミサキは、ビールと睡眠薬を飲んでいたから、眠くなった。
ミサキに連絡出来ない、キョウ子さんとヒロ子さんが、ミサキを訪ねて来た。
部屋に居るのは確かなのに、いくら呼んでも、返事が無い。
2人はキイから預かった鍵で中に入ると、奥の部屋で横になっているミサキに、声をかけた。
よく見ると、ミサキの手首に切り傷があるのを見つけて、2人は慌ててミサキを叩き起こした。
ミサキは目を覚ました。
「ミサキちゃん!!何、考えてるの!?こんな事して!」
「私、死んでないんだね…」
「バカな事言ってんじゃないの!!
死んでなんになるの!!」
「私なんか、死んでもいいよ!
誰も必要としてくれないから!」
「いい加減にしなさい!!
キムラ君は、どうしたの!?
どこに居るの?」
「出て行ったまま戻って来ない。」
キョウ子さんとヒロ子さんは、ミサキから詳しく話しを聞いた。
3日間、連絡をしないで、店を休んだミサキを心配して、ママも来た。
3人はミサキに、キムラ君の事は忘れなさい!と言うしかなかった。
それから、今の状態でミサキを1人部屋に戻すと、心配だからキイを呼んだ。
キイは店に居たけど、話しを聞いてママに連絡して、急いでミサキの所に来た。
3人はミサキをキイに任せて、店に戻って行った。
キイはミサキを自分のアパートに連れて行った。
アパートには、ユウジ君と友達が居たから、キイはミサキを置いて、店に戻った。
ミサキはまだ薬が効いてて、横になったとたん、眠った。
ユウジ君達は、ミサキを静かに寝かせてやろうと、外に出て行った。
ミサキは2日間、キイのアパートに居たが、店に出る事にしたから、自分の部屋に戻った。
ミサキは店に出る様になったけど、大家から家賃の催促が、頻繁になった。
今のミサキには、家賃を払う余裕が無かった。
キムラにかなりのお金を、立て替えてやったし、子供の託児所代も、ミサキが払っていたからだった。
ミサキは身の回りの物だけ持って、キイのアパートに、転がり込んだ。
そして、迷惑をかけてばかりだった店も辞めた。
ミサキは、新しい店を見つけて、キイのアパートから、出勤し始めた。
次の店は、本店が別のビルにある姉妹店で、雇われママのヒロミさん、ミサキと同じ年のユカ、妹のチヅルの他は、本店からの応援で忙しくなったら、何人か来る。
この店は、お客さんが、帰る前にお味噌汁を出していた。
ミサキは今までの出来事を忘れ様として、一生懸命働いた。
それに、キイのアパートに居ると、キイの友達やユウジ君達が、集まって来るから、楽しい。
みんながキムラの事を、口に出さない様にしていたけど、ミサキは
タノウエ君にキムラの居場所を調べさせていた。
ミサキは前の家の滞納金を、親に払わせた。
ミサキの親は、たまにしか連絡して来ない娘に、部屋の後始末を押し付けられて、困っていたが、ミサキには言い返さなかった。
毎日、真面目に店に出て、休みの日には仲間が集まって、飲んで騒いで楽しく過ごす様になったミサキは、もうすぐ20才になる。
店にも慣れてきた頃お客さんの中に、いかにもヤクザって感じの人達が、ミサキを気に入って来る度に席に着くように、言ってきていた。
ミサキはその人達に、キムラの事を話し、立て替えたお金を取り戻して欲しいと、頼んだ。
そのお客さん達は、居場所が分かれば、すぐに取り戻してやると言ってくれた。
ヤクザ風の人達は、ムラタさん、ムラタさんの息子、ムラタさんの甥っ子のアキ、ムラタさんの息子と板前修行中のヒラヤマ君の4人
キムラの居場所は、タノウエ君が捜し出していたから、ミサキはムラタさんに教え、アキがすぐにキムラに連絡して、
「ミサキに借りた金を戻せ!!
戻さないなら、そっちの職場に取りに行くぞ!!」
と言って、キムラにお金を持って来させる様にしてくれた。
県外にいたキムラ君は、ミサキにお金を返しに、キムラが働いていた店で、待ち合わせした。
ムラタさんとアキに店を案内して、ミサキは仕事に戻った。
でもすぐに呼び出されて、待ち合わせ場所に行き、会いたくなかったキムラと会う事になった。
ムラタさんがミサキに、
「スッキリするまで、言いたい事を言え!」
と言ってきた。
ミサキは、
「お金さえ返して貰えれば、もう
顔も見たくないし、話すことは無いから!!」
と言って、返して貰ったお金を持って、店に戻った。
しばらくして、ムラタさん達も店に来た。
ミサキは貰ったお金の半分を、ムラタさんにお礼を言って渡した。
その日から、ムラタさんは、甥っ子のアキとミサキをくっ付け様と、店に通う様になった。
2人はお互いに、好意を持っていたから、付き合う事になった。
アキは、ミサキより3才年下だけど、ミサキより年上みたいな態度をしていたが、酒に弱かったから、介抱するのはいつもミサキだった。
アキの家族は、横浜に住んでいて、母親と6人兄弟で、末っ子がアキで、上の3人と下の3人は、父親が違っていて3人目の父親になった人は、ヤクザで幹部クラスだったけど、病気で亡くなったらしい。
父親がいた時は、何不自由なく暮らしていたけど、亡くなってからは、母親が朝も夜も働いて、6人の兄弟を育て上げた。
1番上の姉は美容師で早くに家を出て、母親の留守中は2番目の姉が、見ていた。
残りの4人は男ばかりで、それぞれ個性があった。
長男は大人しく、次男は暴走族に入っていた位、暴れん坊、3男はあまり手がかからないオシャレさん、そして4男のアキは、次男の後を追い、暴れん坊だが、母親思いで甘えん坊。
アキの家庭も結構複雑だった。
2人はお互いに、複雑な家庭に育ち、近いものを感じていた。
ミサキはアキとカズを重ねて見ていたけど、付き合いが深まっていくと、アキだけを見る様になっていた。
まだ組員にはなっていなかったアキだけど、ムラタさんの付き人みたいな事をしていた。
それに1週間の半分は、県外にあるムラタさんの内縁の奥さんの所に行き、後はこっちの愛人がいる家に通っていた。
ミサキはアキがいる時は、ラブホに泊まり、いない時は、キイのアパートに戻っていた。
キイはあまり良く思っていなかったが、ミサキのする事に口出ししなくなった。
そして、もうすぐ成人式!
本来なら、キイ達と一緒に成人式に出ていたけど、ミサキの住民票は、前の家になっていて、通知が届かなかったから、式に出れない。
式に出れないミサキに、ムラタさんが買い物に連れて行き、お祝いにと洋服を買ってくれた。
アキはピアスをプレゼントしてくれた。
ミサキは式に出れない事は残念だけど、祝ってもらった事が嬉しかった。
その時から、ミサキにムラタさんの愛人の家に、住む様に言ってきた。
ミサキは、ムラタさんの愛人のアイ子さんと、ポメラニアンの2匹と一緒に住む事になった。
アイ子さんは妊娠している事が、分かったばかりで、ミサキを近くに居させれば、何かあった時に少しは、役に立つだろうと、思ったからだった。
ミサキは、ポメラニアンの散歩をしたり、アイ子さんと一緒に買い物に行ったりして、夜は店に出ていた。
アイ子さんはムラタさんが、奥さんの所に行っている事は、知らなかった。
籍を入れないのは、ムラタさんが万が一捕まった時、アイ子さんに迷惑をかけないためだと、信じていた。
ミサキはアキから、口止めされていたから、アイ子さんには事務所に行っている事になっていた。
ミサキは、アイ子さんが哀れに感じた。
しばらくして、アイ子さんの具合が悪くなって、入院した。
アイ子さんの留守中、ポメラニアン2匹は近くに住んでいたアイ子さんの母親に預けた。
ミサキが夜は仕事で、家に居ないから世話をしてやれないから。
ムラタさんは、少しでもアイ子さんの傍に居る様にした。
ミサキは毎日、アイ子さんのお見舞いに行って、店に出勤していた。
でもアイ子さんの留守中、ムラタさんの行動がおかしくなった。
奥さんの家に戻っていた時、飲み屋の若い女の子を誘い出し、ホテルに連れ込み、薬を飲ませて、無理やり襲っていた。
他にも、何人かの女の子が薬を飲まされたけど、なんとか逃げたらしい。
アキは周りの知り合いの女の子に、注意する様にと言い回った。
ミサキにも、2人きりにならない様にと、注意した。
ミサキはアイ子さんの荷物を取りに戻った時、誰も居ないはずの家にムラタさんが居て、ビックリした。
アキが言っていた事を思い出して、急いで荷物をバッグに詰めて、出掛けようとしたが、ムラタさんに呼び止められた。
ミサキはおそるおそる、ムラタさんの居る部屋に行った。
「ミサキ、いつも悪いな!
毎日、アイ子の見舞いに行ってくれて、助かるよ!
今からまた、病気に行くのか?」
「はい、着替えを持って来て欲しいって頼まれたんで急がないと、仕事に間に合わなくなるから、すぐに行かないと!」
「そうか!
でもジュース1杯くらいは、飲んで行けるだろ!?」
ムラタさんはミサキを座らせて、用意してあったジュースを飲ませ様としたが、ミサキは飲むフリをして、立ち上がり、
「ごちそうさまでした。
本当にもう行かないといけないんで、失礼します。」
と言って急いで家を出た。
ミサキはアイ子さんの所に、荷物を持って行って、店に行った。
アキが店の帰りに迎えに来たから、ムラタさんの話しをした。
アキは苛立ったが、ミサキが上手く逃げ切った事を、褒めた。
アキは最近、叔父のムラタさんに、不信感を抱いていた。
ヤクザになる事にも、嫌気がしていた。
ムラタさんの息子も、自分の父親に呆れていた。
早くから父親とは、間を置いていたけど、板前修行している店に会いに来られると、無視は出来ない。
アイ子さんに対しても、好意を持っていなかった。
しばらくして、アイ子さんが退院して、ムラタさんのおかしな行動は、なくなった。
1週間位して、ミサキが店に行った後に、アキはムラタさんにヤクザには、ならないと話し指をつめた。
正式に組に入っていなかったから、指をつめなくても良かったけど、アキの性格で、ケジメをつけた。
ムラタさんの息子と、板前修行を辞めヤクザになると決めて、アキと行動していたヒラヤマ君が、アキを病院に連れて行き、すぐに治療してもらった。
ミサキが居る店にアキから連絡があり、待ち合わせした。
ミサキはアキの手に包帯が巻いてある事が、気になって話しを聞いた。
ミサキの父親も、ケジメだからといって、事を起こす事に、両手の薬指と小指を根元まで、つめてしまい人前に出る時は、ポケットに隠していたから、指をつめるという行為が、嫌いだった。
指が無い事は、これから先の就職に、支障が出るだろうと、アキは後悔した。
ムラタさんは、自分の姉に、預かった息子が指をつめてしまった事を、報告して謝ったが、手放すつもりはないと話した。
アキは指が完治したら、地元に戻る事を話し、ミサキを一緒に連れて行くと、言った。
アキはミサキに、アイ子さんにバレない様に、荷物をまとめて置く事と窓のカギは開けて出掛ける様にしろと指示した。
隙を見ていつでも、逃げられる様にしておくためだった。
しばらくして、ミサキの仕事が終わって、アイ子さんの家に行ってみると、部屋の電気が消えて2人が寝ていた。
チャンスだ!と思って、荷物を取ろうと窓を開けようとしたが、カギを掛けられていた。
仕方なくアキとミサキは、息子と息子の彼女とヒラヤマ君に、駅まで送ってもらった。
そして3人に別れを言って、朝一番の電車に乗って、東京に行った。
ミサキは初めて、富士山を見た。
2人は、ほとぼりがさめるまで、アキの母親の所には戻らず、東京にいる、アキの友達の家に行った。
アキはミサキに、観光案内をした。
東京タワー、浅草雷門、ベイブリッジ、横浜のみなとみらい、山下公園、中華街、他にもいろんな所に連れて行った。
ミサキは、アキの気遣いが嬉しかった。
新しい土地に、慣れるのは、簡単じゃない事は、ミサキ自身分かっている。
でも、ここまで来てしまったら、やるしかないと、決心した。
アキは仕事を探し回ったが、まだ17才だから、簡単には見つからない。
ミサキは苦手な料理を、頑張って覚える事にした。
東京に来て3ヶ月くらいして、2人はアキの母親の所に行った。
母親は、駐車場の料金所で働いていた。
ミサキはアキの母親に会うのは、2回目だった。
初めて会ったのは、ミサキがまだ店で働いていた時、出身が九州で兄弟に会いに来た母親とアキの1つ上の兄が、アキの彼女を一目見ようと店に来た時だった。
アキの母親は、ミサキの親に連絡しているかと、心配していた。
ミサキは父親に連絡していたが、詳しい話しはしていない。
父親は、3人目の妻に、逃げられていたから、妹と2人暮らしだった。
しかも、かなり前から、覚醒剤の後遺症で幻覚を見たり、幻聴が聞こえていたから、精神科に通っていた。
でも、相変わらず女好きで、ミサキと同い年の彼女を作っていた。
ミサキは、父親に呆れていた。
ミサキはアキの母親に、その事を話していた。
アキの母親は、ミサキが苦労してきた事を,感じ取っていた。
2人にお金を渡し、ミサキの身の回りの物を、買って来る様に言った。
2人は買い物した後、母親と2人の兄が住んでいるアパートに行った。
その日から、部屋を借りるまで、母親達とクロという猫と、同居する事になった。
玄関を入ると台所、お風呂、トイレがあり奥に2部屋の荷物がびっしり詰まったアパートに5人が住むにはかなり厳しい。
なんとか、5人が寝れる様に、荷物を片付けた。
そして、アキが18才になって、結婚できる年になったから、ミサキを籍に入れると言い出した。
ミサキは少しだけ悩んだが、アキとだったら上手く、やって行けるかもしれないと思い、承諾した。
アキとミサキは、結婚式を挙げずに入籍して、夫婦になった。
アキの母親と、兄弟達も賛成して、優しく見守ってくれた。
夫婦になって、仕事を見つけて、働いても、長続きしないアキに、母親の知人がパチンコ屋で働いてみないかと、言って来た。
知人のマッちゃんが働いているパチンコ屋で、求人しているからと、聞いて2人は、寮付きのパチンコ屋で働く事にして、アパートを出た。
2人はパチンコ屋から歩いて5分の寮に住み、2交代制で、働き始めた。
パチンコ屋には、韓国の留学生が7人と、年配の夫婦、独身のマッちゃん、他にも何人かいた。
2人は、仕事に慣れるのが早かったし、職場の人達と仲良くなるのも早かった。
常連客とも、顔見知りになり、冗談を言い合うほどだった。
韓国人の留学生も、仲良くなって韓国語を教えてもらって、本場のキムチを貰ったりしたから、お礼に日本語を教えていた。
楽しい職場で働いている2人は、寮に戻ると夫婦らしく、ミサキが食事の用意をしている間、アキはテレビを見たり、ゲームをして待った。
食事を済ませて、しばらく寛いで、お風呂に入っていた。
2人は付き合い始めた時から、一緒にお風呂に入っていたから、今では日常的になっていた。
お互いに体を流し合って、上がってミサキがアキの髪と自分の髪を乾かしていた。
その後は、眠くなるまで、テレビを見たり、ゲームをしていた。
アキは、休みの度にミサキを置いて、中学校時代の友達に会いに、行き出した。
その時、元カノに偶然会っていた。
ミサキは1人で、留守番をしてアキの帰りを待っていたけど、段々と帰りが遅くなってきたアキを疑い始めた。
今まで一緒にお風呂に入っていた、アキが1人で入る様になっていたし、着替える時に体を隠す事があった。
でも、ミサキは何も言わなかった。
妊娠していたから、ケンカになる様な事は避けたかった。
アキに妊娠した事を話したら、一緒に病院まで付いて来て、3ヶ月だと分かると、アキの母親に報告した。
「おかん!ミサキが妊娠3ヶ月目に入ってるって!!」
「えっ!? 病院に行って聞いて来たの?」
「ああ、病院の帰りだよ!」
「そうなの!!
おめでとう!
アキ、父親になるんだから、しっかりしないとね!!」
「分かってるよ!出産費用貯めないといけないし!」
「お祝いしなきゃね! ミサキちゃん、安定期に入るまで、無理しないようにね!」
「はい、病院でも言われました。」
母親は喜んでくれた。
アキはミサキの体を心配して、パチンコ屋は空気が汚ないからと、辞める事にした。
寮を出て、また母親達のアパートに戻った。
母親は今のアパートでは、子育ては出来ないからと、一軒家を探し始めた。
アキは、仕事を探し、ファックス付きの電話のセールスを始めた。
母親とミサキは、不動産に連れられて、一軒家の家を見に行った。
4DKの築20年のちょっと古い一軒家だったけど、庭付き・車庫付きで十分な広さの家を借りる事にした。
ミサキはアパートの階段の登り下りが負担になって、切迫流産しかかって、2週間の入院をした。
長男はアパートに残り、母親とアキと三男の兄が、ミサキが入院している間に、一軒家に引っ越していた。
退院したミサキと母親は、ベビー用品を貸し出す業者から、ベッドや柵を借りる契約をした。
母親は仕事の合間にミサキと、ベビー服やオムツ、赤ちゃんに必要な物を買い揃えて、いつ産まれても良い様に準備した。
そして、正月の挨拶がてら、長女と結婚して2人の子供がいる次女家族が、ミサキの妊娠を祝いに来て、初めてミサキと会った。
次女も3人目を妊娠していて、お互いのお腹の大きさや形を見て、女の子だと良いね!と、意気投合した。
真面目で厳しい長女と話すミサキは、緊張していた。
アキから、長女は言葉使いに厳しいから、気をつけて話す様にと、言われていた。
元暴走族の次男も結婚して、2人の子供がいて、ミサキと同い年で、奥さんも同い年だった。
次男家族も挨拶がてら、祝いに来てくれた。
母親の妹で、アキの叔母夫婦も来てくれた。
ミサキは緊張してばかりの、正月を迎えた。
アキの母親も、6人兄弟で九州に2人居て、他の兄弟は上京して、それぞれに家庭を持ち、正月やお盆には九州の長男の家や、先祖のお墓がある松合という所に集まっているらしい。
ミサキの父親も6人兄弟だったけど、父親と父親の4才上の兄以外は、戦死や病死で亡くなっていたから、親戚は少ないうえに、父親と兄嫁の仲が悪くて顔を合わせる度に、もめていた。
この家族は、親戚や家族が多いし、みんな仲が良いからミサキは、その家族の一員になれて、嬉しかった。
でも、アキに対し
『本当にアキと結婚して良かったのかな?
ちゃんと家族として、やって行けるのか!?』
と、疑心暗鬼していた。
アキはセールスの仕事が続かず、次の仕事を探していたけど、事故にあって入院した。
ミサキは無理しない程度に、面会に行っていた。
アキは、日が経つにつれてミサキに
「面会に来ないでいいから」
と、言い出した。
ミサキは始めは、何の疑いもしなかったが、アキが病院を外泊し、入院仲間と飲みに行く様になった。
アキは酒に弱いから、ミサキは何かおかしいと思い、様子を見ていた。
アキは病院の看護師と仲良くなり、外泊して会っていた。
ミサキや母親に嘘をつき、入院を長引かせて、頻繁に病院の外で看護師と浮気していた。
アキが退院した後は、ミサキの出産が近づいて来たから、看護師と会うのをやめた。
ミサキは浮気の現場を見た訳ではないけど、昔から勘が良いから、少しの事だけで分かる様になっていた。
アキは出産費用を準備するために、左官の仕事に就いた。
一度会社に出勤して、それから現場に行くから、朝が早いアキにお弁当を作っていた、ミサキは予定日が近づいていた。
アキは仕事仲間でハーフのバービーと、バービーの友達と遊ぶ様になって、時々ミサキを連れて、飲みに行っていた。
ミサキは妊娠中だから、大好きなビールは飲まないで、烏龍茶を飲んで色んな国籍のバービーの友達と、話していた。
アキは仕事帰りにバービー達と遊んで、帰って来ない日が増えてきた。
ミサキはアキの遊び癖には、呆れて何も言わないでいた。
言ったところで、話しを聞くようなアキではないからだ。
ミサキが21才の5月の下旬、明け方陣痛が来た。
「痛い!お腹と腰が痛い!!
陣痛が来たかもしれない!!」
「えっ!?
マジかよ!?
おかん! おかん起きてよ!!
ミサキが陣痛かもしれないって!!」
「ミサキちゃん、陣痛の感覚は計ってる!?」
「はい、計ってます。 今、痛みが治まってるし、まだ陣痛の感覚は長いから、大丈夫だと思うけど」
「感覚が短くなったら、知らせてね! 入院の準備はしてあるよね!?」
「えっ!? まだ病院行かないの?」
「まだだよ!
陣痛の感覚が短くなってからだよ!今、病院に行っても病室にほったらかしだよ!」
「そうなんだ!?
じゃあ、オレ仕事休めないから、病院には、おかんが連れて行ってくれる? 荷物は玄関に置いてくから」
「ああ、いいよ!おかんは連絡すれば、代わってもらえるから!」
「じゃあ、オレ仕事行って来るから! ミサキ!頑張れよ!!」
「うん! 頑張るけど、なるべく早く、病院に来てよね!!」
アキは母親が準備してくれた朝ごはんを食べて、仕事に行った。
ミサキは陣痛の痛みを我慢し、昼過ぎに母親と病院に行った。
母親はまだ出産には時間がかかると聞いて、一度家に戻って、職場に行って、夕方病院に来るからと言って、出ていった。
ミサキはしばらく病室で、陣痛の痛みに耐えていたが助産婦さんが様子を見に来て、分娩室に入った。
ミサキは激しい痛みに、苦しみながら母親になる事を実感していた。
15時26分、男の子が生まれた。
手や足が凄く小さくて、顔が真っ赤で、元気良く泣いている赤ちゃんを、助産婦さんがキレイに洗って連れて来た。
ミサキは3度目の妊娠で、やっと母親になった。
嬉しくて、赤ちゃんをギュッと抱きしめた。
ミサキは産後の処理をした後、病室に戻され、赤ちゃんは乳児室に寝かされた。
病院から母親に連絡が行った。
母親は、仕事が休みで家にいるアキの1つ上の兄に連絡して、仕事から帰って来るアキに無事に生まれた事を伝言した。
ミサキは出産で、疲れてしまい眠っていた。
夕方、母親が赤ちゃんの顔を見に来た。
アキも兄と一緒に赤ちゃんを見に来た。
「ミサキちゃん、頑張ったね!!
おめでとう!」
「赤ちゃん、見ました? 出てきた時、ヘソの緒が巻き付いてて、頭の形おかしくなかったですか?」
「いいや!
おかしくなかったよ! 赤ちゃん、寝てたよ! 顔立ちがしっかりして、可愛いね!」
「オレに似てるんだよ!」
「ああ、確かにお前に似てるな!
泣き虫な所がな」
「ふざけんな!
泣くのは、赤ん坊の仕事だろ!
ミサキ、こいつに何か言ってやれよ!」
「えっ!? だって本当の事でしょう!? 言い返せないんだけど!」
「お前まで!
おかんは、オレの見方だよな!」
「アキの泣き虫が、似ないといいけどね〜!
さぁ! ミサキちゃんは疲れてるんだよ! お前達が居たら、ゆっくり出来ないよ!」
「じゃあ、また明日、仕事から帰ったら来るから!」
3人は、疲れているミサキに気を使って、帰って行った。
ミサキは3人が帰るのを見送って、また寝た。
出産して1週間、退院の日はアキが仕事を休み、ミサキと赤ちゃんを迎えに来た。
男の子の名前は、アキが好きな漫画の主人公から1文字取って、ヨシヤとつけた。
母親はミサキが、1ヶ月は無理しないように、家事を済ませて仕事に行き、アキはヨシヤがいる部屋では、タバコを吸わない様に気をつけた。
ミサキはヨシヤの育児に専念して、病院で教えてもらった通りに、沐浴したり、昼間は誰も居ないから、一泣きさせてから母乳を飲ませていた。
夜泣きさせない様に、昼間にヨシヤの手足を動かし運動をさせて、寝る前は母乳とミルクをお腹一杯に飲ませていた。
それでも、夜泣きしてしまう事がある。
そんな時は、ミサキは寝不足になっていたが、他の家族を起こさない様に気をつけた。
アキは、始めのうちは、泣き止ますのを手伝っていたが、次第にうるさいと、言い出して相手にしなくなった。
ミサキは誰も居ないリビングで、泣き止ます様になった。
ヨシヤは段々と、夜泣きしない様になった。
ミサキも夜、母乳をやる時間以外は、良く寝れる様になった。
ヨシヤが生まれて1ヶ月、アキも母親も仕事が休めないから、母親がお宮参りを近所の神社で済ませて来る様にと、ミサキに言って、夕方にヨシヤに食べさせる食事を用意してくれた。
まだ離乳食を始めていないけど、口につけるだけでいいと、母親から指示されて、食べさせるフリをして、1つ目の行事を済ませた。
ヨシヤは定期検診で、毎回順調に成長していた。
ミサキとヨシヤが外に遊びに出れる様になって、アキが休みの時に、連れ出す事が何度かあった。
次女の家やバービー達の家に行く様になって、ミサキはヨシヤを抱っこして、ミルクやオムツを用意して、バッグ一杯の荷物を持ち歩いて、出掛けた。
アキはヨシヤを、親戚や友達に見せたいから、連れ回していた。
ヨシヤが生まれて半年過ぎた頃、ミサキはまた妊娠していた。
気づいた時は、もう6ヶ月だった。
ミサキはヨシヤを生んで、育児と家事で一杯だったから、自分の体の変化に気づいていなかった。
アキも母親も、驚いたが結局、喜んでくれた。
2人目は女の子だといいねと、親戚や兄弟達は期待していた。
ヨシヤの1才の誕生日が来て、家族でお祝いして、2日後にミサキは陣痛がきた。
この日は家に誰も居ないから、ミサキは母親の職場に連絡して、病院に行った。
ミサキが入院している間、ヨシヤの面倒を母親が職場に連れて行きながら、ミサキが用意していた離乳食を食べさせる様にと、前もって話し合っていた。
母親はヨシヤを連れて、家に戻ってアキの帰りを待っていた。
夕方になると、ミサキの陣痛が激しくなってきて、分娩室に入った。
二度目の出産だから、少しは楽だろうと、甘くみていたミサキは、自分が甘かったと思いながら、陣痛の痛みに苦しんでいた。
19時06分、女の子が生まれた。
ヨシヤと比べると小さい気がしたけど、身長が小さいだけで、あまり変わらなかった。
ミサキは病室で休んでいた。
病室から家に連絡が行き、アキと母親が来た。
生まれた赤ちゃんが、女の子だと知ると2人は大喜びしていた。
母親からしたら、女の子の孫は初めてだったからだ。
アキは女の子だと、思っていなかったから、必死に名前を考えていたが、ミサキにアドバイスを聞いて、ユイナとつけた。
「ミサキちゃん、おめでとう!
それに、女の子が生まれて良かったね! 私も、凄く嬉しいよ!」
「私も、女の子が生まれて良かったって、感激してます!!」
「おかん、良かったな! 初の女の子の孫が出来て!ミサキ、他の奴らに、羨ましく思われるぞ!」
「みんな、喜んでくれるよね!?」
「もちろん!!
孫8人目で、やっと女の子だもん!そりゃ!みんな、喜ぶよ!!」
「ヨシヤ!
お前の妹だぞ!!」
ヨシヤはミサキの膝の上に座り、何があったのか分かっていなかった。
アキと母親はミサキを休ませ様と、ヨシヤを連れて帰ろうとしたが、ヨシヤはミサキから離れ様としない。
ミサキにやっと抱っこしてもらえて、嬉しかったから泣き出してしまい、母親がなんとか泣き止まして、連れて帰った。
母親は毎日、ヨシヤを連れてミサキとユイナを見に来た。
退院の日、母親がヨシヤを連れて、迎えに来た。
ヨシヤはユイナにヤキモチをやき、ミサキに抱っこして欲しそうに、おねだりした。
ミサキはユイナを母親に任せて、ヨシヤを抱っこして寂しかったね!と言ってギュッと抱き締めた。
家に戻ると、ヨシヤはミサキから離れ様としない。
ミサキはヨシヤと、ユイナを平等に扱う様に、気をつけた。
ユイナはあまり夜泣きしないから、夜は楽だった。
ヨシヤもユイナを妹と認めたようで、ミサキと一緒にユイナの世話をしていた。
ユイナが泣き出すと、ヨシヤが自分のオモチャを、ユイナに渡そうとしたり、涙を拭いてやったりしていた。
ミサキはそんなヨシヤを、おもいっきり誉めて、抱き締めていた。
ユイナのお宮参りも、近所の神社で済ませて、母親が用意してくれた、料理をヨシヤの時みたいに、食べさせるフリをして、行事を済ませた。
アキはユイナを自慢するため、親戚や兄弟達に見せびらかしに行く様になった。
ミサキは2人分のオムツとミルク、着替えをバッグ一杯に詰めて、持ち歩いていた。
アキは歩く様になったヨシヤと手を繋ぐけど、ヨシヤが疲れて抱っこして欲しそうにすると、荷物を持ちヨシヤをミサキに抱かせていた。
アキは汚れる事や疲れる育児はしなかった。
家でもオムツを替える事もなく、気が向いた時にただ遊ぶだけだった。
しかも、仕事帰りに遊びに行ったまま、帰って来ない日が、増えて家に居る事が減ってきていた。
その頃、次男のマコトさんが夫婦喧嘩し、駐車場の2階に住ませて欲しいと、母親に頼ってきていた。
次男のマコトさんを、まだ遊び癖が治っていなかったから、仕事が休みがちだった。
奥さんのエツちゃんは2人の子供を連れ、実家に帰っていた。
マコトさんが住み着いて、しばらくした時に問題が起きた。
アキとマコトさんが、遊びに行ってなかなか帰って来ない。
ミサキは嫌な予感がしていたけど、明日もアキは仕事だから帰って来るだろうと思い、先に寝た。
朝、起きてアキが部屋に居ないから、マコトさんの部屋に居るだろうと思って、ミサキはアキのお弁当を作って、マコトさんが居る部屋を見に行った。
部屋を見に行ったら、見知らぬ女の子の両脇にアキとマコトさんが座り、布団に男の子が寝ていた。
ミサキはその様子を見て、怒りが込み上げてきた。
「あんた達、何やってんの!!」
「何も…」
ミサキは部屋を出て、せっかく作ったお弁当を外に放り投げた。
そして、エツちゃんの実家に電話して、エツちゃんを呼び出した。
母親もミサキが電話をしながら怒鳴っていたから、起きてきた。
「どうしたの!?」
「マコトさんの部屋に知らない女の子を連れ込んでいるんです!!」
「何かの間違いじゃない?
私が話して来るから、ミサキちゃんは、とりあえず落ち着いてね!」
母親がマコトさんの部屋に行き、しばらくして、母親とアキが戻ってきた。
ミサキは部屋に閉じこもり、母親が呼んでも出て行かず、アキの仕事着をドアから、放り投げた。
母親はアキに仕事を休ませ話し合う様に言って、仕事に行った。
エツちゃんが来て、マコトさんに話しを聞いて、ミサキの誤解だと、言って帰って行った。
ミサキは納得出来ず、アキとは話さなかった。
母親が仲直りさせようと、Jリーグのチケットを手に入れて、アキとミサキに行って来いと言ってチケットを渡した。
アキは大喜びして母親にお礼を言って、ミサキを連れて、試合に行く時に着る服を買いに出た。
ミサキはJリーグの試合を見るのは初めてだったから、嬉しくて待ち遠しかった。
試合の日、アキが仕事が終わって帰って来て、着替えて、子供2人は母親が見てくれて、一緒に出掛ける段取りだった。
でも、アキは帰って来ないし、連絡もないまま試合は始まった。
出掛ける準備をして、アキの帰りを待っていたミサキは、また裏切られたと思い、普段着に着替えて、部屋に閉じこもった。
母親はミサキに、何も言えず、アキの帰りを待っていた。
アキは夜遅くに帰って来て、チケットを仕事仲間に譲って、自分は試合には行っていないと言った。
でもその嘘はすぐにバレた。
エツちゃんが、アキがミサキを連れて、横浜に戻ってから、何度も
『浮気がバレない様にするには、どうしたら良いか?教えてくれ!』
と相談に来ていたと教えてくれた。
試合の日は、この前の女の子と見に行った事も、話してくれた。
ミサキの予感は、全部当たっていた。
ミサキはアキと別れる事を考え出していた。
横浜に来てから、年に1度は熊本に戻っていたミサキは、父親の家に1泊して、その後はキイの家に泊まりアキの浮気の相談をしていた。
この時も、キイに電話して愚痴を聞いてもらっていた。
キイはミサキが、別れる事になったら、協力すると言ってくれた。
ミサキはアキ達に内緒で、銀行の通帳を作って、お金を貯める事にした。
ミサキは自分で、自由に使えるお金は無かったけど、食費や時々貰う子供のオムツやミルク代のお釣りを貯めていた。
それから、アキに子供のために積み立てしたいからと、言って月に1度お金をもらっていた。
ミサキはアキに対して、愛情が無くなっていた。
どうしてもアキが許せなかった。
ただ1つ、引っ掛かる事がアキの母親の体調だった。
糖尿病になっている母親に、自分の親以上に心配して、今までの事に感謝していた。
アキと別れる事は、母親とも離れてしまうという事。
ミサキは悩んだ。
でも、アキの浮気癖と遊び癖が無くなってくれないと、子供2人に影響が出てくると思い決心した。
ミサキが23才の平成6年5月の連休に、ミサキは先に里帰りする事にして、誰も居ない時に自分と子供の荷物を宅配便でキイの家に送り、一足先に2人の子供を連れて飛行機で熊本に戻った。
ミサキは自分の父親に、離婚するかもしれないからと話した。
父親は、好きにすればいいと、言って何も意見しなかった。
1泊したミサキは、キイの家に行った。
キイは前に付き合っていたユウジ君と別れ、店の客だったグッちゃんと同棲していた。
ミサキはグッちゃんとは、2件目に働いていた店で、知り合っていたから、ミサキがしばらく世話になる事にグッちゃんは賛成していた。
ミサキはアキに連絡して離婚して欲しいと話した。
「もう一緒にやって行く自信が無いから、別れたいんだけど!」
「はぁ〜?
いきなり、何言ってんの?」
「いきなりじゃないよ!
かなり前から、考えてた結果だよ!もう、うんざりなんだよ!!」
「オレが何かしたか? 何もやってねぇじゃん!」
「よく言うよ!
私が何も知らないって思ってるんだろうけど、全部
バレてるから!!」
「何の事?」
「浮気だよ!!
言い訳しても、無理だから!!
付き合う時に言ったよね!?
浮気するなら絶対私にバレない様にしないと、バレた時は即、別れるって!」
「浮気なんかしてないよ!
お前の言ってる事、わかんないんだけど!!」
「してないって言って嘘ついても、もうバレてるから何言っても無駄だよ! 離婚届けを書いて送るから、後はそっちで書いて、役所に出してね!!」
「ミサキちゃん、考え直せない?
アキも浮気してないって言ってるし、ちゃんと話し合おうよ!」
「お母さん、ごめんなさい!
アキさんが浮気していたのは、間違いない事だし、もう一緒にやって行く自信無いから、どうしても別れたいんです!」
「そんな事言わないで、戻って来てくれない?
アキが悪いなら、私から注意するし、ヨシヤとユイナのためにと思って!」
「ごめんなさい!何言われても、もう決めた事だから、絶対に離婚してもらいます!」
「どうしても別れたいなら、子供のどっちかを渡せ!!じゃないと、別れない!」
「何言ってんの?アキさんに子育て出来る訳ないじゃん!! 絶対!渡さないから!!
慰謝料も養育費も要らないから、離婚届けに判を捺して、役所に出せばいいじゃん!!」
「勝手な事言うなよ! 子供渡すまで離婚しないからな!! ユイナはまだ母親の手がいるから、ヨシヤを渡してくれたら、別れてやるよ!! 」
「渡さないって言ってんじゃん!!」
「渡すまで別れないから!!」
アキとミサキは、1週間近く、子供の取り合いでもめた。
その結果、アキにヨシヤを渡す事になってしまった。
ミサキは渋々、ヨシヤを手放した。
空港までアキとヨシヤを見送った後、ミサキはユイナを抱きしめて泣いた。
そして6月の上旬、ミサキとアキは正式に離婚した。
ミサキはもう2度と、結婚しないと誓った。
男は浮気する生き物だから、ミサキが求めている愛情を与えてくれる男はいない。
付き合うにしても、ミサキが心から愛する事は、無いだろう。
ミサキはヨシヤを取られてしまったが、ユイナがいるから、2人で頑張って生きて行こうと決心した。
この続きも書きます。良かったら読んで下さい!!