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すぺしゃるまほう?


「いやー大変だったのぉ」


「俺たちも大変だったわ!」


「どっちも大変なのは同じよ。初日なんだし」


完全に我が物顔で帰路を歩く稚那。それに対して完全に疲れ切っているのは保護者の俺とらみである。

どんなに俺たちが心配して学校生活を過ごしたことか…

通常授業の稚那の初日は手を焼かされた。黒板に爪を立てて脳をくすぐってしまったり、先生にタメ口吐いて庇ったら代わりに俺が怒られたり、俺が貸したシャーペン握り潰したりと散々なのであったのだ。


「でも、思ってた以上に疑われなかったわね」


「ああ、稚那のことをみんな厨二病だと勘違いしてくれているお陰だな」


周りから厨二病と認知されているお陰で稚那が話すことは“そういう設定”として受け止めてくれるのだ。

それにしても、稚那の危ない発言は多いものの阿呆鹿 稚那(あほか ちな)という名前だけは間違えなかったよな。ま、最初の自己紹介では散々だったけど…


「そうだ。稚那は向こうの世界ではなんで呼ばれてたんだ?やっぱり王女様とかなのか?」


稚那は以前魔人軍を指揮する王女、デイラール・ティナ・ドラゴニオンとして日々を異なる世界を過ごしていた。当然部下たちからは慕われており、高い位に座る者にはそれ相応の呼ばれ方がある。


「どうした藪から棒に。まぁ我は王女であるからして王女様だのお嬢様だのと呼ばれていたが、堅苦しいのは嫌いだから短くお嬢と呼ばせておる。呼ばれ方など気にしてはおらぬがなっ!」


「お嬢って呼ばせてるあたりで結構気にしてる気がするけどな」


「お嬢ね…私もみんなからそう呼ばれてみたいわ」


妙に目を輝かせながらそう呟くらみに俺と稚那は珍しさを覚えるがお嬢と言うワードをらみに当てはめてみると予想以上に似合っていると思った。


「しかしながら稚那っちが王女っていうのはいつ聞いても可笑しいわね」


「どこが可笑しいのだ?」


「幼稚な稚那に王女が務まるところって言いたいんだよ」


「なんだと?!」


「いいえ。私はそんなつもりで言ってないわ。ひどいわね大希」


「らーちゃんはそんな事を言わないのは知ってるぞ大希!」


らみはまんまとはめてやったと言わんばかりの顔で稚那に気づかれないように俺を見る。


「はめられた…でも、本当のことだろ?」


「我の世界はここの強かろうが弱かろうが皆が仲良しこよしの世界とは違って力にものを言わせるとこだからのぉ」


「稚那っちは向こうでも強かったって訳ね」


「当たり前だっ!我は強きドラゴンの血が通いしドラゴニオンの末裔(まつえい)だからなっ!!」


稚那は鼻を高くして満足気だ。今見えないはずの尻尾さえも激しく振っているようにも感じるほどに…


「そのドラゴニオンの血筋って事は両親も強かったのかしら」


「…」


らみの当たり前の質問に稚那の尻尾の動きは止まり色の無い顔に変わる。


「あっ、さっきのは独り言だから気にしないでいいわ」


らみは応答のない稚那の表情を見て慌てて取り繕う。だが不覚にも俺はその表情に気づくことができなかった。


「そう言われてみれば親も魔王とかなんだよな?」


「…」


「ちょっと大希?」


「あ、、、ごめん」


俺はらみの喚起の意味と稚那の顔に気がつき言葉を止める。気まずい空気が波に乗って漂おうとしているのが分かる。


「いや、別に良い。両親はもういない」


空気の波をせき止めるかのように言った。その言葉に驚きはしたものの、言葉の本質には別に驚きもしなかった。ある程度は察していたからである。


「我は幼き時に両親を亡くした。どちらも別れを看取ることはできていないのだがな」


「戦争で亡くした、てことか?」


「母上はおそらくそうだが父上は詳しいことは聞いていない…なにせ我も幼かったからのぉ!」


重い空気にさせまいと稚那は空元気で振る舞う。

らしくねぇなぁ…


「なぁ、今日全部話してくれねぇか?」


俺はいつのまにかそれた帰路を進んで着いた人のいないボロボロの公園で話の再開を頼んだ。


「お前たち人間には関係ないぞ!?」


どうしても触れて欲しくないのか声が震えながらも強がる。

なんで俺の周りには組み手では俺で負けるくせにやたらと偉そうな奴らが集まるんだ…


「人間も魔人も変わらないだろ?そもそも魔法が使えるか使えない差なのに今稚那は充分な魔法も使えない」


「まだ本気を出していないだけだっ!それに魔法が使えるのには変わりはないだろ!?」


稚那はついに声の震えに耐えきれず涙が溢れ出してきた。

ほんと馬鹿だよな。俺もコイツもそこの女も…

さっきからただ黙って、泣いている稚那を誰かに重ね合わせ何かを思い返しているらみ。その姿が俺の脳内をよぎる。


「それなら俺も魔法を使える」


「そんな訳がないっ!貴様らに魔法は使えるわけがないっ!!それに…!」


「うっせぇ!こうすると…」


俺は目が充血し牙剥き出しの稚那にそっと顔を近づける。


「んなぁっ!?なにをっ!?」


「ほら泣き止んだ」


触れ合う額と額。熱い額の熱が自分の冷えた額に侵食してくるのが分かる。そしてその熱量は更に増してくる。


「これが大希の魔法…」

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