いえーす
「完全にやられた…」
アプリの公式ページにアクセスすると“緊急メンテナンスのお知らせ”と緑色のポップな文字で書かれていた。しかし俺には眼から血が滲み出し漆黒に見えていた。
「大希、またしょうもないことで落ち込んでるのね」
「しょうもなくない!死活問題なんだっ!」
「メンテナンスって言ってもそのうちできんちゃん状態なんでしょ?」
できんちゃん状態:できるんじゃない?の状態を表す。行けるんじゃない?の状態を表す“いけんちゃん状態”の派生系である。
らみの言う通りメンテナスは一時的なもので時間が経てばログインも可能だ。更に緊急メンテナンスともなればその期間も短いはずだ。しかし、、、
「そうでもないみたい…」
「どうして?」
「緊急メンテって言ってるけど昨日の夜から告知してたらしくてメンテ期間が…」
俺は期間を見るや否や固唾を呑んだ。時間帯が12時から24時となっていたのだ。
「…まぁ、日頃の行いね」
「別に日頃行いは悪かなかったろ!逆に恵んでもらえる日頃の行いだわ!」
最近の行いを思い返してみると良し悪しつけづらいものなのだが決して悪いとは思わない。と言うよりは思いたくない。
だがしかし、こんなことを言ってもどうにもならない事は承知の上だが、ただただやるせない。
「これで推しとも会えないのか…」
「…」
これでもかとらみの前で落ち込む俺に呆れてもう返す言葉もなくなる。
一方その頃稚那たちは…
「その2本の棒なんだー?」
「ん?これのことです?」
未だにコンビニ弁当に手をつけていない稚那が天が持つ箸について尋ねる。
稚那はこの世界に来てから箸という存在を使った事がなく、この3日のご飯は手かフォーク、スプーン、爪楊枝で食事を取っていて、刺す、すくう、掴むという動作は難なく出来るようだ。
「大希もそんなのを使っていた気がするが、我はアズネンのようなものしか使ったことが無いぞ」
稚那は然の持つスプーンを指差し示す。
「アズネン?!然のことを言ってるですか?!」
「わーい。然アズネンだ〜」
「東 然だからアズネンなのだ。あっ、東 天だからアズテンだなっ」
「いつの間にそんな呼び方になったですか…まぁいいです。でも稚那は箸を使った事がないですか?」
「そうだな。2人まとめて呼ぶ時はアズアズだな」
「いや、そこは聞いてないです」
「わーい。然たちアズアズシスターズ」
話がズレるが何食わぬ表情で手を上げて喜ぶアズネンこと然。2人のマイペースっぷりにあきれ返るアズテンこと天。
しかしながら、天は箸の存在を知らない稚那に対して疑念を持つがさっきからあわあわとしている稚那に今になって気がついた事があった。
「稚那お箸がないのですか?」
「おはし?」
稚那はおぼつかない発音で聞こえた言葉を繰り返す。
「私が今持ってるこれです」
「おー、その名前はオヒシというのか」
「オハシです!」
「オハシ…覚えたぞ!」
「またの名はチョップスティック」
「ん?チョップ、、、なんだ?チョッスペペペ?」
なんとかお箸という単語と物を覚えた稚那だが然が畳み掛けるかのように教える英語で困惑状態に陥る。
「然っ!変なこと教えないです!」
「え〜かっこいいのに…」
「今のなんて言ったんだ?!チョッスペペペなんたらなんたら」
しかしながら稚那は横文字に興味を持つ。稚那には“長い名前=強い“みたいな幼稚的発想があるのだろう。
「チョップ、スティック」
「なるほどこれはお箸なのだな!」
「いえーす」
「「いぇーい」」
「なんかダサいです…」
何か共鳴したのか天を挟んで稚那と然は両手を合わせる。それはさて置きと天はカバンをゴソゴソと何かを探している。
「はい。私のスプーン貸してあげるです」
「ん?アズテンは使わないのか??」
「私は見ての通りこの…お箸を使っているから大丈夫なのです…」
稚那のためにスプーンを渡した天はとても顔を真っ赤にしている。実は言いたかったチョップスティックだが、言うのが恥ずかしかったのだろう。
「チョップスティック…なんかダサいな」
「うん。天ださーい」
「なんでですか?!」




