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さいしゅうちぇっく!


なんとなく想像は出来ていた。出来ていたんだよ。だけどここまで酷いものなのか。


「これは一夜漬けコースの予感だわ」


「それだけは勘弁だ…」


「いちやずけ??」


「お前はもうぬかの中でも漬かってろ」


「うぬ??」


標準語で言えと言われていたセリフをいつも通りの口調で自己紹介を言えてスッキリしたのか稚那のテンションが上がっているみたいだ。


「一旦自己紹介の事は忘れよう。とは言え鬼門は自己紹介だけなんだよなぁ。そこさえ乗り越えれば黙っておくか、最悪俺らがアシストが出来るだけど…」


「そうね、先ずは言葉遣いから直すのはどうかしら?」


「それしか無いな」


言葉遣いさえ何とかなれば稚那も少しはまともに見えるのだが、かなり年季の入った稚那の独特な言葉遣いはそう簡単に直せそうにない。まぁここでしっかり教えておけば今度の今って時に使えるし、いい機会なのかもな…


「我の言葉遣いがおかしいのか?人間の言葉の方が稚拙に聞こえるのだが」


「稚拙に聞こえても使ってもらわないと困るんだよ」


「ええ、私たちからすれば稚那っちの言葉遣いの方が稚拙っ…」


俺は口走ろうとしたらみの口を手で覆った。そして稚那に聞こえないようらみに警告する。


「今、稚那の刺激になるような事は言うなっ!俺も遺憾だが今は稚那を肯定しよう。案外あいつちょろいぞ」


なるほろ(なるほど)ひなっひは(稚那っちは)ひょろいんなのね(チョロインなのね)


らみは手で覆われこもった声で納得を示した。ちなみに知らない人への補填だが、チョロインとはちょろい(扱うのに苦労がない)+ヒロインという事である。

俺はらみから手を離し解放する。すると赤らめた顔でこう言ってきた。


「ぷはぁっ、、、大希ったら強引なのね」


「変な言い方をするな!」


その光景を稚那は頬を膨らませてじーっと見ていた。


「ほら、私ばかりにかまっていると稚那っちが拗ねちゃうわよ?」


「べ、別に思っておらんわ!」


「はい。。すみませんでした…」


って、何で俺が謝ってんだ。つい流れに乗せられたぜ…


「そう言えばだけど…これ読めるの??」


これとらみがとって見せたのは“よろしくお願いします”と書かれたどこから持ってきたか分からないスケッチブックだった。

ん?本当にどっから出してきたんだ?!


「よく気づいたのぉらーちゃん。その文字が我には読めないのだ」


「ま、マジか…」


ここにまだ大きな問題があったのか。日本語が読めない…まぁ異世界から来たから当然なんだろうけど、でもそこはなんでか読めちゃう的な設定であって欲しかった。


「じゃあこれは読める?」


らみは続いて“I was a gorilla”と書いたのを見せた。

確かに英語なら読めるとかそういう設定が無きにしも非ず…


「さっぱり分からぬ」


「ですよね〜」


「分かってはいたけれど、英語も無理なのねぇ…」


読めないのはなんとなく分かってたけれど、らみもどうせ稚那が読めないからって“I was a gorilla”私はゴリラでしたってなんだよ。


「じゃあ、文字はゆくゆくでいいよ。今稚那には自己紹介だけでも覚えてもらおう」


「そうね最低限これくらいは出来るようになってもらいましょう。Are you ready?」


「あーゆーれでぃー??」


「そこはYESって答えるだよ、稚那」


「いえーす!」


「言ったぞ?」


「ふぁ?!」


やや、誘導ではあるが稚那の承諾も得た。今から寝る間も惜しんで特訓をすることになるだろう。らみは気合を入れているのか黒いサングラスをかけ始めた。


「よし、やる事は決まった。早速ビシバシいくぞ!」


「ええ、ビシバシいくわよ。覚悟しなさい稚那っち」


「ちょっと待ってくれ大希、らーちゃん!」



ここから稚那にとって地獄の時間が始まった。講師は大希とらみ。


「先ずは言葉遣いからね」


「おう!」


「はい、そこの返事は“はい“にしましょうね?」


「ならぬ」


「それは“嫌です”ですね」


「もー!何故我が人間の言葉遣いを学ばなければならないのだ!!」


「それは“何故私がみんなと同じ言葉遣いを学ばなければならないのですか?”と言いましょう」


「んぐっ…」


稚那もなかなかにしつこいけれど、それを上回るしつこさのらみ。

あの稚那を折れさせるらみって最強すぎないか?はっ、もしかして俺、出る幕ない??


こうして濃く、熱い稚那のレッスンは続いた。案の定、俺はらみから講師の資格を剥奪されお茶などの配給をしている。これが俺に出来る精一杯だったようです。


「らみ先生?進捗はどのくらいですか??」


「そーね、少しぎこちないけど自己紹介はある程度できるようになったわ。。稚那っち、さっきまでの練習の成果を見せてあげて」


「任せておk…任せてください。」


「おぉー」


俺は丁寧語を少しだが使えるようになった稚那に思わず声を出してしまう。

そして稚那は一呼吸置いた。


「私は阿呆鹿 稚那(あほか ちな)だ、、です。親のてんきんでいとこの大希の学校に転校する事になっ、りました。よろしく…お願いだ!!」


「ところどころ惜しいけど、感動だぁ!」


俺はまともな言葉を話す稚那に涙さえ浮かべてしまった。

人が(あ、正確には人ではないけど…)ちゃんとした言葉を話すってこんなに気持ちよかったんだな。俺もこれからの言葉遣いには気をつけようかな…


「まぁこれだけ出来れば大丈夫だろ!多少間違ってもみんな緊張してるからって思ってくれると思うし」


「そうね、今日のところはそろそろお開きにしましょう。もうこんな時間だわ」


時計の針は午後10時をさしていた。


「悪いならみ、こんな時間まで付き合わせちゃって」


「いいのよ、押し掛けたのは私だしね」


本当だ。そもそもこいつ俺は呼んでないもんな。でも、いなきゃ稚那をここまで仕上げることはできなかったもんな。


らみは支度を済ませ靴を履いた。


「じゃあまた明日学校で…稚那っちも」


「またな」


「おう!明日会おう、です」


「稚那っち、私の前では普通に喋っていいのよ」


「分かった!普通に話す!!」


こうしてまた濃い1日が終わろうとしている。らみも帰り俺はたこ焼きパーティーの片付けをしていた。

その間、稚那にはお風呂に入ってもらった。ラッキーな事(ま、展開的にはちょっとアンラッキーな事)に風呂に入る文化は向こうの世界にもあったらしい。風呂場からは標準語の練習する声が聞こえた。


「あいつもあいつなりに頑張ってんだな」


俺の片付けが一通り終わりお預けにしていた冷めたたこ焼きを冷蔵庫に入れようとした時、ちゃんと用意した服に着替えてしまった稚那が出てきた。

おーこの服も意外と似合ってるなぁ〜…


「あっ!貴様!そのたこ焼きを返せ!!」


「もう夕飯は終わったんだ、また近いうちな」


「んーーー!!」


稚那(こいつ)にむやみやたらに食べ物を見せるのはよそう。



こうして俺は風呂も入り寝床に着いた。勿論稚那も目の届く範囲にいる。年ごろの男女が一つ屋根の下で寝るだなんて、と思った人は悔い改めて。こいつは性別は女でも別カテゴリーだ。言わばいつ爆発するか分からない不発弾と寝ているのと変わらないのだ。



なんだかんだで明日からいきなり稚那の学校生活がスタート。出会ってから2日なのにとても長く感じた。その2日でたくさんの事は分かったけれど、まだまだ稚那について何も知らない。それに、稚那にも心配する家族くらいいるだろうし俺が元世界に帰れるよう考えないと…

ま、これからなんとかなるでしょ…


俺は1日の黙った疲労の大きさのせいかすぐに寝ついてしまった。

それは稚那もまた、一緒だった。




こうして長い長い2日が終わり遂に稚那の学校生活を迎える事となった。

だが、俺はそれがどんなに大変で過酷なものか、そして案外楽しいということも知る由もなかった。

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