めでたしからのはじまり!
こうして魔族の王女としての生活が始まった。我の魔法修行自体は半年もかからず3ヶ月ほどで幕を閉じた。この我の覚えの早さには魔法を教えた者も驚いていた。
初陣は快勝だった。我の戦闘スタイルは我自身が先頭に立つ事だ。勿論他の者は我のスタイルに反対した。理由は勿論我が王女という立場にあるから。我は反抗してでもスタイルをやって見せた。
「我の力を使わずして死ぬ仲間がいる。これは度し難い事だ。その死人が例え奴隷のものであろうとも上流階級のものでもだ。なら我が前に立つ。さすればもう失う事はない」
この皆を平等に思う姿勢が味方の心を打ったのだろうか。士気も上がり犠牲も少なくなった。ただ我は身分差によって死を軽くみられるのが嫌であったわけで、それに強い我が前に立って戦う方が合理的だと考えただけなのだ。このまま行けば人間を滅ぼすなど容易い。
しかし気が変わってきたのは本格的に人間を滅ぼそうと人間らが住む街へ攻めに行った時だ。我はいつものように先頭に立ち参戦する。
「人間は全て滅ぼせ!」
今日でここを攻め落とす。我から大切なものを奪った人間、神の操り人形は滅すべきだ。生かす価値はない。
「生憎この街は手薄だ。お前らも個々で動いても良さそうだ。人間は見つけ次第殺せ」
「了解です!お嬢!」
我の事はお嬢と呼ばれている。初めはお嬢様と呼ばれていたが様と言うのが気に食わないと言った結果がお嬢だ。まぁ呼び方など今は気にしていない。
部下たちは指示を受け街の人間の殲滅のため散らばっていった。
「さて、我も早く片付けてしまおう…」
我は魔法の稽古で自由にコントロールが出来るようになった翼で街を駆け巡る。生き残りがいないかどうか。
すると泣き声が聞こえて来た。それは小さな女の子の泣き声だった。我は翼をしまい抹殺へとそこへ向かう。
「お母さん!死んじゃやだよ!!お母さん…!お母さん!!」
どうやらその人間の子の母親が血を流して倒れているようだ。まだ息はあるみたいだが時間の問題だろうか。
「あんたは、逃げなさい…」
その姿を見て我はこの間までの我を並べてしまった。この人間の子は…
ならん、我の目的は人間の全滅。
「ほら、早く逃げな、、さい…!」
「嫌だよ!お母さんと一緒にいるの!!」
我はだんだんと重くなってくる足取りをなんとか人間の元へ運ぶ。そしてそのたたずむ人間の子の前へとたどり着いた。
さぁ、殺す。
我はゆっくりと魔法を生成するため腕を上げる。
何故だか簡易魔法なのに腕に力が入って重い。
目を少し人間の子にやった。酷く怯えているはずだ。所詮は人間。神の導きのままにただ死だけを恐れる。そう思っていた。
しかしその子は我に目などもくれず母親だけを一心に見ていた。
これを我がやるのか?そう思う度に手が震えてしまう。何故だ?今まで殺すのに躊躇など無かった。なんなら人間を殺すことに喜びさえ感じつつあったのに…
いや、感情を押し殺せ。捨てろ。
…
よし、殺す!
最後に見えたのは我の母の顔だった。
「お前らなど殺すにも値せん」
我は癒しの魔法を人間の子の母親に与えていた。
そして我はこの街は滅ぼしたと嘘の情報を報告し軍を撤退させた。
魔人軍はお祭りムードだった。何故なら快勝であるからだ。だが我の心は浮かる事はできなかった。
何が正解なのか我には分からなかった。我の志からするとあの人間の親子など殺すのが本望であった。だが、、、そうか。
考えれば考えるたび我の行いへの是と否、我の未来の光と闇が我の心の中で問われ続ける。
しかし王女としてくよくよとはしていられない。けじめをつけなければならない。
確かこういった気持ちを詩にしてみるのが趣かつ心身を落ち着かせるのだと魔法師から聞いたことがある。
世の寶
奪い取る神
世の怒りの
息に錆びるは
他の黄金か
それからというもの、魔人軍の進撃は止まった。いや、止めたという方が適切だろうか。我が人間の領域に攻め入らない事を命令したのだ。
だが、戦争は終わったわけではない。魔族を滅ぼそうと攻めてくる人間たちがいる。我らはそういった神の操り人形から護るために戦う。もう誰の宝、黄金を奪われないように。これが我が悩み抜いた結果である。
ここからはご存知の通りである。
部下たちと一緒に戦の勝利祝いに酒を飲んで酔っ払ったところ気付けば異世界転移されていたという事だ。
転移先の世界は不思議なところだった。通りすがる人間の誰もが戦意を持っていなかった。そしてどうやら魔法が使えないらしい。前の世界の人間は魔力は戦闘に使えないくらい弱いものの誰もが魔法を使えるのだが。しかしながら魔法に似て似つかない“きかい“というものが存在している。
その“きかい“とは全く凄いものだ。時には熱を発し時には絵を写すことができ、さらには空間を縮めて会話する事もできていた。これに関しては魔法でも不可能だった。
そんな新たな世界での発見をしつつ平穏な暮らしを手に入れてしまった。まだこの世界に来て2日しか経っていないがそんな暮らしに安らぎを感じている。元の世界に帰るあてがないと言うのに…
我にはまた宝ができた。大希とらみという人間だ。彼らは魔族であり、かつ異世界から転移したと言うにわかに信じたい話を信じてもらえ、さらには阿呆鹿 稚那という名前までもらった。その上、我と対等に会話をしてくれている。こんな心地の良い会話を楽しめたのは母上以来か。
なら我のすべきはここにあるだろう。もう宝は奪わせない。
以上で我の昔話としよう。。。
むむっ?魔法修行の時の話や王女の頃の話をしろ!だと??
気が向けばな!
読んでくださりありがとうございます!
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