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かこのけつい


目覚めたのは薄明るい光が差すところだった。しかしそれは日の光ではないのが分かった。こぼれ火か。


「目覚めたか?」


「…」


辺りを見渡して分かったことがある。我は鉄格子に囲われた牢屋にいると言うことである。そしてその外から聞こえる声の主は人間だ。


「なかなかな憎悪を持っている様だな」


「人間…」


「なにが起きているのか分からないよな」


「…殺してやる」


この人間の喋り方は実に腹立たしく思えた。すぐに焼き殺してやりたい。そう思っていたが、今のこの状況じゃ何もすることができない事はわかっている。


「勘違いしないでもらいたいが俺は人間みたいに楽な神の人形なんかじゃない。人形はいつかは捨てられるんだ。俺はもっとたちの悪い神の時計みたいなものだ」


この人間の言っていることは我には理解などできなかった。それは今になってもわかっておらぬのだが。唯一分かるのは他の人間とは違ったと言うことぐらいだ。よくよく考えればあんな白色の服を着た人間を見たこともないし、その人間の隣には見たこともない小さな魔族が宙に浮いていた。


「ま、分からないのは毎度の事だ。今の話は忘れてくれ。とりあえず俺はお前に無害だ。それだけは理解してくれ」


「我はそれを信じる事はできない」


当然服が違う事や小さな魔族を連れていたしたとしても見た目は人間。もう信じ切る事はできない。


「ならお前はお前が憎む人間の思うがままだな」


「我はそれを許す事はできない」


我から何もかもを奪った人間を許す事なんてあり得ない。


「なら人間を殺せ」


「…!?」


その男の言葉は我の心までを最短距離、最速で貫いた。


「お前の憎む人間を殺せ。この世界の人間は今こそは魔族と中立関係にはあるが、お前もあの襲撃とここに入れられている意味が分かっただろう。人間は今、この世を統べようと目論んでいる」


「人間がこの世を…」


確かに中立関係にはあったが人間と魔族の差別は絶えてはいなかった。


「ならお前がすべき事は人間を殺して魔族がこの世を統べるのだ。かつてのドラゴンのように」


「かつてのドラゴン…」


この男は我がドラゴンの血を引いていると言うことをまるで察しているかのような目つきだった。


「どうやら覚悟は決まってるみたいだな」


「少し待て。聞きたい事がいくつかある」


「お、なんでも聞いてくれ」


「我は襲撃の後何があった?」


「あの後お前は気を失っていた。しかも周りが消し去られている真ん中でな」


「周りが消し去られている?」


あの時、気が錯乱していた。我も我自身何が起こっていたのかはよく分かっていない。思い返すとどうやって発動させた魔法なのかわからない。


「そう、跡形もなく」


これがドラゴンの力…今まで魔法は母上に禁じられていた上、魔法の出し方すら教えてもらっていない。しかしながら周りを跡形もなく消し去ってしまったと言う事実はやはりドラゴンの血を引いているがゆえなのか。


「魔力の使い過ぎか何かでお前は気を失った。そしてお前は奴隷として人間に拾われ魔族に売りつけられているんだ」


「つまりは我は今、魔族の奴隷という事か…」


「そういう事だ。今魔族と人間は緊張状態である。いや、今と言うよりはその事件の前まではと言うべきか。まあともかく今の魔族は人間を滅ぼす動きが始まっている。お前ならそいつらをまとめられるだろうが?どうだ?」


我はまだ10歳になろうというところだ。そんなものが強力な魔族たちを統べれるとは我自身思ってはいない。それに…


「所詮我は奴隷であろう?誰が耳を貸す」


「その事なら問題ない。聞き耳がなければ聞かせればいい」


この男は何を言っているのか分からない。我のような子供で貧民街出身の奴隷の声を誰が聞くと。


「あなたは幸いにも素晴らしい血を引いているようだ。力で示せばいい。今魔族が欲しているのは全力だ」


「何故貴様が我の血の事を知っている!」


「…」


「答えろ!」


「…」


男は無言を貫く。さっきまでのペラペラと喋る威勢がどこに消えたのやら口を開きもしない。


「まぁいい。でも何故人間ごときの貴様がここまでする?」


「…」


「それも無視というわけか…まぁいい腹はくくった。我をここから出せ」


すると男は牢の前にヒールの音をコツコツさせて立つ。


「その選択で間違いはないな?」


「ああ、我が人間を滅ぼす。例え魔族が我に従わずとも…ただそれだけだ」


「よし分かった。その選択は我“時の番人”を前にした言葉。もう針は戻らん」


男は時の番人と名乗った。意味はわからない。だがこの誓いは嘘ではない。


「少し離れてろ」


男の隣に浮いていた魔族は紫の光を放ち長細い剣へと変化した。そして男はそれを手に取り鉄格子を思いっきり斬り掛かった。

するとふるった剣の勢いで壁や床の砂や埃があたり一帯を舞い、男のシルエットだけが残った。


「これはお前の親父さんの借りだ」


「今なんて!?」


すると晴れた牢屋には男の姿も剣の魔族ももういなかった。

読んでくださりありがとうございました!

次回もよろしくです(╹◡╹)

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