めざめ
「お父さんは魔力が暴走して通りかかった旅人に…殺されたのよ」
殺された。この言葉は耳が受け付けなかった。父上はずっと旅に出ている。殺されただなんて嘘だ。顔こそは知らないが父上は父上だ。
ずっと憧れていた。貧民街に暮らしてはいるが隣のケモ耳が特徴的な狐族の家は我の理想とする家族だった。我も、母上と父上で過ごす日を。
「嘘だ。父上は死んでいない。母上…嘘でしょ?」
「…」
我も泣いてしまった。今まで感じる事のなかった感情だ。悲しいような、腹立たしいような希望をもみ消されたような、妬ましいような、、、
この気持ちが分からずただ泣くことしかできなかった。
「ティナは悪くないのよ…!私が悪かったのっ!」
「母上…!」
我は母上の腹に顔をうずめ泣き喚く。この時の泣き声は壁の薄い貧民街全体には響いた事だろう。
それから泣き疲れて寝てしまっていた。時は日が下がり眩しい時間帯。
「あら、起きたのね」
「母上?」
起きると我の耳に残っていた優しい温もりは寂しく冷たい荒い毛布へと変わっていた。母上は夕飯の支度の続きをしていた。
「ん?」
「ううん、なんでもない」
ほっと息をついた。
「あら、卵が無いわ」
「なら我が買ってくる!」
「じゃあ頼んじゃおうかしら。これ、お金ね?いい??寄り道はしない事。暗くなるから早く済ませるのよ?」
我は母上からもらったお金を強く握りしめ、卵を少し離れた所まで買いに薄っぺらな布でできた玄関から飛び出す。
寝る前話してもらったことを思い返した。父上が死んだのは理解した。確かに悲しかった。悔しかった。欲を言い出せばきりがないだろう。だがそれと同時に今ある幸せを大切にしようと思った。
そんなこんなで目的地の店に着く。
「おばさん、卵ください!」
「はいちょっと待っててね、いつもお手伝い偉いわね〜」
ここのおばさんは優しい人間だ。大抵貧民街に住む我たちは嫌われて当然の存在だ。だがこのおばさんだけは人間、魔族、身分、性別関係なくお客として平等に扱ってくれる。みんながこんな人だったらと思うこともあった。
「はい、卵ね、、、あら?」
卵を渡した時のおばさんの視線は我にはむいていなかった。より遠くを見る目だった。そして我もそれを目にした。
「…え?」
背筋に寒気が頭に向かって走り出した。
「火事、、、かしら?それも貧民街のあたりね〜」
火事。そんなレベルには思えなかった。確かに火事だが貧民街ほぼ一帯が燃えている。それに我にはわかった。血の匂いが絶えない。
その時迫りくる恐怖に我は買った卵をいつの間にか落としていた。
「どうしたんだいじょうちゃん!」
「母上っ!!」
頭の中に母上の顔が浮かぶ。あそこには母上がいる。帰らないと…!そんな衝動が我を襲った。
「どこ行くのじょうちゃん!そっちは危ないわよ!!」
おばさんの呼ぶ声が聞こえる。だがすぐにその声は頭から消えていく。母上は無事なのか?我の家は?そんな焦燥感に勝てる声など聞こえないのだ。
「じょうちゃん!…」
やがておばさんの警告は届かなくなった。我は何も考えずに走った。一刻も早く家に戻らなければ…夢中で走っていると何故だか飛べる気がしてきた。気がしたと言うよりは遺伝子が飛べると告げている。
我は遺伝子の言われるがまま本能に従った。すると背中から重みを感じた。それが翼であることは分からなかったものの身体を前に倒していく。
「本能の翼」
我は全てを本能に委ねる。さすれば我の背には漆黒で禍々しい翼が生え、風を切るかのように飛んでいるのが分かった。魔法の詠唱もいつのまにか口にしていた。
そして実感した。我がドラゴンの血を引くものであると。
かくして貧民街に着いた。そこには暗くなった周りを照らす太陽の様に簡易な家が燃え盛っていた。
「嘘だ…母上っ!!」
茫然と見ている場合ではない。自分の家に向かって崩れゆく家々を横目に走った。いつの間にか背中に生えた翼は消えていた。
「母上!母上!」
他の人を助けている暇なんかない。泣き喚く子供を何故か微笑を浮かべる人間がいた。この事件の真相がわかってきた気がした。だが憎悪よりも母上の安否が何よりもだ。
「母、、上…??」
家は燃えていた。
そこには瓦礫と一緒に槍の刺さった女の人が倒れているのが炎の隙間から見えた。
「誰だ我の母上を殺したのは…」
もう助けようとは思わなかった。助けようとしても火が我を阻むのだろう。
「誰だ我の宝を奪うのは…」
誰かは分かっている。人間だ。
「誰だ我の幸せを奪うのは…」
一般の人からすると貧民の幸せなど羨ましくもないだろうが。
「誰だ…」
あいわかった。全ては神がそうしたのであろう。全て神が我の幸せを奪っていく。人間はただの神に操られし人形。なら滅ぼすまでだ…
「この世界を壊せ。破滅の波」
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Lalapai’s 謁見タイム
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