むかしむかし
我の名は阿呆鹿 稚那、もとい本来はデイラール・ティナ・ドラゴニオンである。阿呆鹿 稚那はこの日本と呼ばれる世界に転移した時に出会った人間、上野 大希に付けてもらった名前だ。名前の理由はいまいちわかってはいないが気に入っている。これがこちらの世界での我だ。
しかし今回はデイラール・ティナの我について話をしていこう。まだ我がドラゴニオン、ドラゴンの血がある事を教えられる前の話である。
我は今まで、この世界に転移するまでは王女ではあるが、元は貧民街で生まれ育った魔人族だった。そこには身分が低いもの、金がないもの、権力のないものが彷徨っていた。
「ティナ?この野菜切ってくれる??」
「はーい母上!」
母上には我とはまた違うツノが生えている。頭の横から出たツノは直角に天に曲がっている。しかし、その屈強そうな見た目とは裏腹にとても優しい。
「ずいぶん上手になったわね」
「母上がちゃんと教えてくれるからです!」
「まぁ嬉しいわ」
我の父は我が産まれた後に姿を消した。理由はいつも決まって母上には、長い旅に出た。と答えられる。でも噂で聞いていた。
「父上は逃げ出したの??、、はっ」
遂に我はその時不意に言葉にしてしまった。その時の母上の顔は予想外にも冷静であった。すると母上はこう返してくれた。
「ティナ?そろそろ本当の事を話すわ」
我は母上に手招きで呼ばれて母上の膝の上に深く座る。ここは我のベストポジションだ。いつもお話を聞く時、昼寝をする時はいつもここだ。ここが落ち着く。だがこの時の座り心地は違った。少し硬く感じた。そして少し震えた手で我を母上は優しく撫でる。
「どうしたの母上?」
「ティナ、この私たちだけに生えているツノは何かわかるかしら?」
「んーん、分からない。何なの?」
「これはドラゴンの名残なの」
「ドラゴン??」
この時我は想像することがあまりできなかった。ドラゴンとはお話でしか聞いたことのない架空の魔族だと思っていたからだ。
「それってお話で聞いたやつでしょ?確かこの世を統べるなんたらって」
「よく憶えてるわね。あのお話は、、、本当の話なのよ」
その時、寝る時にいつも母上から聞かせてくれていた竜の物語を思い出した。
昔々、この世を統べる竜がいた。人も魔人もそれをドラゴンと呼んだ。
ドラゴンはとても強かった。その強さは誰も敵うことがなかった。それ故に長らくこの世は魔族たちが治めていた。とは言え徐々に代が変わるにつれてドラゴンが独裁していた。
しかし、そのドラゴンによる独裁支配は終わろうとしていた。自分勝手なドラゴンを打ち倒そうと人と魔族が共闘をし始めたからである。
戦いは長く続いた。
結果、ドラゴンは討ち滅ぼされた。こうして長らく続いたドラゴンの血は途絶え、人と魔族はそれからも協力し合い暮らした。
この頃、我の世界は人間、魔族共に中立の関係にあった。しかしながら歪み始めたのは近くもない未来の話。だがこれが本当の話となると今まであった人間と魔族の日常の裏にはそう言った話があったのだと気付かされた。
「ドラゴンは本当にいたんだ〜。でも、それが父上とどう関係があるの?」
「でも、そのお話は全部が本当じゃないの」
「ならドラゴンはいないの?」
「そーじゃないの。なんならその逆と言うのかしら」
「その逆??」
「ドラゴンの血は途絶えてないの」
「それって…」
我はそれを察した瞬間頭に生えたツノを見えないが見る。そして全ての意味を理解する。
「そう。ティナも私もティナのお父さんもドラゴンの血を引く“ドラゴニオン“なの」
「“ドラゴニオン“…」
ドラゴニオン。聞いた事のない単語だった。この時の我はなんとなくでドラゴンに関係していることは分かっていた。そしてこの世に居てはいけない気がした。
「ドラゴニオンは文字通りドラゴンの遺伝子を持っているの。だから私達はドラゴンにほぼ等しい力を持っているの」
「この世を統べたドラゴンの力…」
この時我は実感する。事の大きさを…
「ドラゴンの力はお話しようにとても強大なの。だからこの力は隠さないといけない」
「我に力が??」
「そうティナはお父さんの血が濃いから力があるはずだわ」
「父上の血…父上は力が強いの??」
「もちろんよ。。。」
その時の母上の我を撫でる手は頭にポンと置いたまま動かなくなった。そして震えているのが背中越しに伝わってくる。
「でもお父さんはその力を抑えきれなかったの…!」
「?!」
母上は泣いていた。
「母上?」
「お父さんは魔力が暴走して通りかかった旅人に…殺されたのよ」
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