某国、K市、少女と
歩く運び屋キープ・ウォーカー。
彼の仕事は歩いて荷物を届ける事。
最初にお見せする彼の仕事はこちら。
某国 K市 街中
『なんて奴だ、足が速いレベルじゃないぞ!車で追いつけないなんて』
『回り込んで囲め!路地裏には行かせるな』
『無茶な行動は控えろ。上空から追っている限り見失わない。それよりもターゲットの安全を優先しろ』
そんなやりとりが無線を通して行われている。が、彼らは別段警察ではない。いわゆるシークレッ
ト・サービスと呼ばれる警備会社の人間だ。黒のスーツにサングラスを揃え、皆ロボットの様に動き
が統一されている。その為か肌の色や身長を除き彼らを個人で特定する事は出来ない。そんな彼らが
車を12台、ヘリを1機投入して街中を追跡しているある人物がいた。
その人物、男はやや濃いめのソフトハットにカーキ色のトレンチコート、そしてその下にはビジネス
スーツを着ているだろう。一見ビジネスマンのように見えるが、彼が抱えているのは大事な契約書の
入ったバッグなどではない。
そう、年端も行かない少女であった。
3時間前。
男は少女を体の前から抱え込み歩き出した。いや、正確には男は既に歩き出していたのだ。歩いてい
る所をまるで、落としたハンカチをさっと拾い上げるかのように少女をだっこしたのだ。
この男の名はキープ・ウォーカー。職業はいわゆる運び屋だ。けっして誘拐犯などではない。
だがこの男。運び屋としてある1点を貫いている。
それは、
どんな物でも、どんな場所へも、歩いて、ただ歩きだけで運ぶ。
そしてその間どんな事があっても彼は歩みを止めない、という事もだ。
今回も彼は依頼通り、この少女をある場所へと運ぼうとしている。のだが、
現在。
「く、だめだ路地裏に逃げこまれた!車を降りるぞ」
『大丈夫だ。既にこのブロックは我々で封鎖してる。追跡は任せろ。幸い奴は路地に入ってから歩いている。そのまま後ろから追いかけろ』
ヘリからの無線に止まった車は6台。他6台は更に進み回り込むつもりだろう。彼らはヘリのサポー
トを受け、運び屋の入った路地裏に駆け込む。
運び屋はそれを知ってか知らずか変わらず歩き続けている。当然男たちは間もなく追いつくであろ
う。
男たちがその姿を確認し、すぐにでも取り押さえようと走り出す。すると運び屋は男たちの姿を一瞬
確認するように首を向けると足を出す向きを変えた。
そう、建物の壁に向かって、だ。
だが、彼は建物に設置されている裏口用の階段ではなく、壁そのものを歩き出した。スパイダーマン
ですら恐る恐る壁に手をついて登っていた壁を出社前に寄ろうとしていた店を思い出して行き先を変
えた、そんな気軽さで壁そのものを歩き出したのだ。流石の少女もこれには驚いたらしく驚きの声を
上げた。
反対に運び屋を追っていた彼らは何も言う事が出来ず、追う事すらせずただ立ち尽くしていた。
映画であれば「おいおい嘘だろ」等とセリフが飛び出るところだが、運び屋が壁を登り切っても開い
た口から言葉を発する者はいなかった。
そしてその様子は上空のヘリからも一部始終見えていた。
「信じられない。なんなんだあの男は」
「言ってる場合か指示を出せ。こうなったらヘリだけで追跡するぞ」
「あ、あぁ。『…回り込んでいたチームは車を止めるな。降りたチームは車に戻って追跡を再開しろ。男は現在建物の屋上にいる飛び移れそうなのは東の建物だけだそっちに向かって』ておい嘘だろ」
先程よりヘリの助手席から指示を出していた男が信じられないと悪態をつく。
といったのも運び屋は建物の間隔が狭い東ではなく、その真逆、大通りのある西側へと向かっていた
のだ。
隣の建物ですら6メートルは離れている。足に自慢のある男性が決死の大ジャンプを決めて届くか届
かないかの距離を運び屋は少女を抱え歩きながら建物の端へと近づいていく。
まさか飛び降りるのか―――いや、運び屋はそのまま一歩踏み出しその足を隣の建物へと降ろしたのだっ
た。
もし背景抜きで運び屋だけを見ていれば道の途中の水溜りを跳んで避けた紳士に見えたろう。
幅6メートル高さに至っては10メートルある建物の間を何のプレッシャーも感じていないのか、
次々と建物の屋上を同じペースで歩いている。大通りを挟んだ屋上ですらほんの一歩で超えてしまっ
た。
奇しくもこの様子を見ていたのはヘリの二人だけであったので大騒ぎにはならなかったろうが、もし
一般人が目撃し写真をネット上にでも挙げていればやれ合成だのやれエンダーマンだの話題になった
に違いない。
「くそ、まんまと封鎖ブロックを突破されたぞ」
「なんだ!あいつは!!ターミネーターの新しい新型か何かか!?とても人とは思えん!!!」
「冷静になれよおい。今あいつを追跡できるのは俺たちだけなんだぞ」
「ふざけんなよ!何が冷静にだよ!あんな映画でもみたことねえような奴相手にどうしろってんだ!」
「知るかバカ!いいか、とにかく追跡するんだ!見失わなければ奴は歩いているだけだ。例えやつがロボットだろうとエスパーだろうといずれ止まる。それにターゲットに何かあってみろ。俺たちだって」
会話の途中だが、突然ヘリの動きが追跡を止め、ホバリング状態になる。
「おい、何やってるんだ。追跡するんだろ」
「当たり前だ。くそ、なんだ急に?」
ヘリのパイロットが操縦桿を傾け操作するが、ヘリは依然ホバリング状態を維持している。
「違う俺は止めてない。お前が何か触ったろ」
「俺は何も触ってない!!おいおいおいおい!!!!高度が下がってるぞ!!!」
「なんだ、こいつ、操縦桿が?!」
パイロットが驚いたのは今まで自由に動かせていた操縦桿が手から離れガク!と勝手に動き出したか
らだ。
その動きは当然ヘリの動きと同期している為、
「落ちる!?」
「いや、いやいやいやこれは」
交差点の真ん中、見事に安全着陸したのだった。
そこからはクラクションの大合唱。何せ突如交差点の真ん中にヘリが降りてきたのだ。幸いにも事故
は起こらずに済んだが道路は封鎖状態になり、自動車によってたちまち渋滞の出来上がりだ。
本来であれば事態の収拾に駆け付けるはずの警察の出動もない。ヘリは再び飛び立とうとするが着陸
と同時にエンジンもモニターも反応がない。
この渋滞には追跡の車12台も捕まり、運び屋は彼らの追跡から逃れたのだ。
そう!
歩いて!
少し離れ。某所。ビル内。
「何ていう事だ。よりによって今日こんな事が起こるとは」
「市長ご安心を。我々が既に犯人とお嬢様を補足しております。トラブルはすぐに解決するでしょう」
「だといいのだが。大体君たちがついていながら誘拐されるなどどういう事だ。まさか人質、なんていうのではないだろうな」
「まさか。確かに今回は彼らの不手際でした。『今回の件が解決次第、即刻彼らをお嬢様の護衛から外しより優秀なチームを配属する』と、社長はおっしゃっております」
「そうしてくれ。そしてその解決の知らせが会食前になるといいのだがな」
市長、と呼ばれた男は秘書の風体をした女性とそのような会話をしていた。彼女はシークレットサー
ビスの人間だが市長の秘書も務めていた。誘拐、と危険なワードが出たが彼らの他に人はいない。市
長は今、ある人物との会食、その後の契約を控えていたのだった。
ヘリが生み出した渋滞。
それを携帯端末で撮影している群衆。
SNSサイトの動画投稿やTVのニュース映像として流すのには申し分ない状況が出来上がっていた。その
様子を少し離れた電柱の寄りかかって見ている若者がいた。中肉中背よりやや小太り、金持ちには見
えない軽装だが時計はロレックス、靴はオールデンのものと思われるものを履いている。そこそこ高
いものを身に着けているが全体的に統一感のない、いわば金があるからブランド品を身に着けている
といった風体だ。運び屋の紳士とは対照的な俗物っぽい男だ。そんな男の手に握られているのはこの
ネタになりそうな風景の撮影用のカメラなりスマホなりではない。持っていたのはラジコンのリモコ
ン、それもノートパソコン程もある物だった。リモコンと言ったがアンテナやレバーがあるのではな
く、SF映画の小道具かと思うくらい仰々しい操作盤であった。
「最新の機体ってのも一長一短だなあ。オール電化ならぬオールネット化しちゃうと俺みたいなのに乗っ取られちゃいますからねえ。ま、今回はそのおかげで相棒の俺にも出番もらえましたけど」
自称、運び屋の相棒を名乗る男はもう使わないのか背負っていたそれをリュックにしまい込んで、
ヒュ、と音にならない口笛を吹き、
「後は任せましたよ運び屋の旦那」
と、やり切ったようにその場を後にするのであった。
追っ手から逃げ延びた運び屋は少女を降ろすことなく歩き続けていた。屋上を渡り歩くのを止め、一
般道を歩いているが、彼とすれ違う人は皆彼を怪しんだりはしない。少女―パトリシアも最初からなの
か慣れてきたのか特に辛い顔もせず運び屋に運ばれている。
「さっきはあぶなかったあ。運び屋すごいなあ!」
「・・・・・・・・・」
少女が興奮気味に声を上げた。それに対し運び屋は無言でそれに答える。今度は運び屋が少女に問い
かける様に目線を向ける。少女はその意味がわからず首を傾げたが、急にピンと来たのか自分の服を
握り自信満々に答える。
「もちろん!ちゃあんともってる!」
なら問題ない、言わんばかりに視線を前へ戻す。
沈黙。
会話は必要ないのか、運び屋は少女に話しかけることはない。
「なあ運び屋。間に合うのかなあ。だいじょうぶかなあ」
少女は不安になったのか運び屋にそう尋ねた。依頼した際に歩きだろうとどんな場所だろうと必ず目
的地に間に合わせる、そうは聞いたが先ほどの妨害もあり少女は気になったのだろう。実は少女、目
的地は告げたが具体的な場所も時間も指定していなかったのだ。というのも少女自身も把握していな
いのだ。ただ、今日中に行かなければ、今日でなければだめなのだと。依頼としてはかなり特殊だが
それでも運び屋は迷いも感じさせぬ歩きでまるで目的地が分かってるかのように歩いていた。
運び屋は少女の問いとも独り言ともとれる言葉に答えず、何もアクションを起こさなかったが、彼は
立ち止まらず、歩き続ける。それが少女にとって答えになったのかその後少女は何も言わず、運ばれ
るのだった。
「『わかった。それに関してはブロックの封鎖を解除しろ。市の警察にも協力要請をする。あぁそうだ。こちらには必要ない。事後処理も市の警察にやらせろわかったな。』…いや市長失礼致しました部下達がとんだ失態を」
「さすがにこれ以上は看過できませんねミスター。この状態では契約を結ぶのも躊躇われる」
「ふふ、市長。お気持ちはわかりますが感情的になってもらっては困る。それで困るのはあなたですよ」
「なんだと」
「今、市長の警護を含むこの市の警備業、およびセキュリティのシェアの8割は我が社が占めております。
これは信頼の証でもありますなあ。もちろん市民のホームセキュリティも含めてです。『市と市民の安全を第一に』。それを公約として掲げこの治安の悪かったK市を立て直し今の市長となっているのはあなただ。今回の契約をなさらない、というのであれば市民への不安、不信感を煽ることにもなりかねません」
「それは、」
「いえ失敬。わかっておりますとも。我が社への不信感はもっとも。今回の娘さんの件でなく、ネット上の根拠のないウワサをご覧になったのでしょう。よくある話です。ライバル企業のネガティブキャンペーンという、ね。市長も政界の人間だ。頂点に立つ人間の足を引っ張る輩はどこにでもいますからな」
市長とある男。この恰幅の良い男は市と契約している警備会社の社長である。
二人はチャイニーズレストランで会食を終え、無駄に長いテーブルと契約書を挟み向かい座ってい
た。
この会話は無論、他に誰一人きいておらず、部屋に入る者もいない。
「ま、仰々しく言いはしましたがあくまで契約の更新、ですからな。事前に承諾いただいている変更点を確認いただいてサインしていただくだけですから」
そう、契約とは言ったが、市長は既にシークレットサービス然り彼らと契約していたのだった。
市長はこのK市で生まれ、育ち、結婚した。国立大学へ通うために市を離れた時期もあったが、彼はま
た生まれ故郷であるK市に戻ってきたのだ。それはこの愛する生まれ故郷の為に役に立ちたい、その純
粋な想いの為だ。結婚した彼は美しい妻と娘に支えられ政治家を目指した。特に娘、パトリシアを溺
愛し、娘の事もまた故郷であるK市と同じ位に愛していた。そんな娘の将来を守る為に『市と市民の安
全を第一に』を掲げ市長を目指した。そして警察だけではなく、民間の警備会社と契約し、市の治安
システムを確保したのだ。
現在K市の至る所に警備会社の監視カメラがついており、常時AIによって監視している。
犯罪行為が発生すれば警備会社の人間が駆け付け警察にも通報されるシステムが出来ている。しかも
顔認証を導入している為、K市にいる限り犯罪者の顔がカメラに映れば即位置を特定し警察と警備が駆
け付ける。
問題なのは契約変更点でこれを市街だけではなく、個人の自宅にもカメラとシステムを導入、そして
それを市長権限で義務化するというものだ。無論、既に個人で契約し、自宅に警備会社のカメラを取
り付けている家庭もある為、市民としては市の金で導入できるのなら喜ぶ市民も多いだろう。だがこ
こで更に問題になっているのがネット上に流れているウワサであった。
市長発案による民間警備会社を導入した治安システムによって犯罪率が下がり、治安が良くなったの
は確かだった。だが、それでもゼロになったわけではない。
きっかけはある動画サイトの配信だった。内容はK市の犯罪件数とその時の犯罪映像を公開したもの
だったが、投稿者はこう語っていた。
『今まで動画で紹介したのは先月K市で起きた事件、事故として処理された映像だ。これは(ピー音)警備会社のカメラの映像だ。市民なら最近こいつとよく目があうだろう。だが俺が言いたいのはこんなハプニング映像の紹介でもましてやこのカメラの紹介じゃあない。K市警察に直接確認したんだが、先月の事件事故発生件数は82件。その内80件がこのカメラに映像として残っている。オーケー。いつも俺の動画を観ている視聴者であれば俺の言いたい事がわかるだろう。
そう、こいつはやらせ、だってことだ。確かに街中にカメラが設置されているから映っているのは当たり前だと思うかもしれない。だが、このカメラでカバー出来ているのは市の面積の10パーセントにも満たない。なのにほとんどの犯罪がカメラの中で起きている。
つまりだ。わざとカメラの前で犯罪を起こし、それを捕まえることで手柄としているんじゃないのか?本来の警官の仕事を奪い、自らの利益にしか目にない市長とその仲間たちよ?皆、俺の意見に賛同してくれるのを待っている』
この動画は様々な反応を呼び、投稿者に賛同するコメントや逆に投稿者を批判するコメントが集まった。だけでなく、ネット上でこの動画の内容に関して議論が至る所で行われていた。
果たして、市長と警備会社がグルになって犯罪を起こしマッチポンプとしていたのか。
このウワサを聞き、市長はこの契約変更を今まで渋っていたのだ。今までの自分の行いは本当に市の
安全を担っていたのか。
「やはり気になりますかな」
「個人で利用する分には私は何も言わない。それは自由だ。だが私が決定することはこの街の未来を決める事にもなる。すまないがもう一度確認させてもらって構わないか」
「もちろんですとも。我々は既に確認してありますのでいくらでもご確認を。市長」
男が余裕をみせていると突如部屋の扉が開かれた。
「なんだ!」「何事だ?!」
部屋にいた二人はそれぞれの反応を示す。扉を開けたのはビジネスマン風の紳士。その紳士、もとい
運び屋は止まることなく、部屋の奥側にいた市長の元に近づき、少女を降ろす。
「パトリシア!」
「パパ!」
降ろされた少女は途端に市長である父に飛びつく。誘拐されていたはずの娘とその父との感動の再会
だが、その様子すら見届けず運び屋は何食わぬ顔で部屋を去ろうとする。
「おい、お前!ちょっとまてぃ!?」
それを逃さぬよう掴みかかった社長だが、運び屋は意に介さずそのまま部屋を去る為、男は引きずら
れしまい、床を埃を引きずりながら部屋を去る。
社長はたまらず手を放し、廊下で無様に転がる。かと思いきや、その立場と見た目からは想像できな
い程の軽やかな動きで立ち上がり、慣れた手つきで懐から銃を取り出し構える。
「誘拐犯止まれ!!!撃つぞ!!!」
ドスのきいた声が廊下に響く。が、運び屋は歩き続ける。
社長は足を狙いトリガーを引く。20メートルと離れていない距離。慣れている者であれば必中の距
離。弾丸は寸分狂いなく跳び、廊下へとその跡を残した。
「ん」
社長は目測を誤ったかと今度は遠慮せず運び屋の胴体を狙う。が、これも外す。弾丸が触れる直前で
運び屋の体がズレるのだ。
おかしい、避けられてるのか、疑問を頭に浮かべながらも連射した。
が、いずれもあたることなく、銃声を止んだ時には運び屋は廊下の角を曲がって姿を消した。
「良かったよ誘拐されたなんて聞いてどんなに心配したか。怪我はないか。そもそもなぜこんな所に?」
「ごめんなさいパパ。けどどうしても会いたかったの」
運び屋が去り、男が引きずられいったので奇しくも親子だけの空間となった部屋で親子の会話が続い
た。
「あぁパトリシア。お前がそんなわがままを言う娘だなんてママに説明できないじゃないか。言ったよな?パパはこの街の市長なんだ。だからこの街も、仕事もママも、もちろんパトリシアも同じくらい大事だって思ってる。だからおうちに帰るまでは甘えるのは我慢しようなって約束したよな?」
「けどパパ今日は帰らないって」
「今日はどうしてもお仕事で帰れないって言ったじゃないか。今までもあったじゃないか」
「けど今日は誕生日なんだよ!!」
市長はハッとした。仕事と家族。市長になってからもその二つは必ず平等に扱おうと常に気を付けて
いた彼だが、ここ何ヶ月も娘との時間を取っていなかったのだ。
「そうか、今日は誕生日だったか。ごめんよ忘れるつもりはなかったんだ。…いや待てよ、先々月誕生
日パーティしてなかったか?」
「うん、だって今日はパパの誕生日だもん。はい」
と、少女が取り出したのは紙で作られたバースディケーキ。首にかけられるヒモがついていてメダル
の授与式の様に首へとかける。
「誕生日おめでとパパ」
「パトリシア」
「あのね、いつもはね、誕生日はパーティしてたけどね。パパとママの誕生日にはケーキもパーティ
もなかったの。だからケーキあげる!」
確かに、市長自身の誕生日やその妻の誕生日ではバースデーケーキは食べていなかった。決して祝っ
ていなかったわけではない。毎年、互いにささやかなプレゼントを送りあうだけでましてやパーティ
など開いていなかった。娘であるパトリシアにはそれがパパとママの誕生日は祝っていない、と思わ
れたのだろう。
「そうか。お前も大きくなったな」
「市長!娘さんはご無事ですかな?」
「あぁ。先程の男は君の部下ではないのか?」
「まさか。奴こそが娘さんを誘拐した犯人ですぞ!!ですが安心を市長。奴の顔はこの建物にも設置されていた監視カメラにしかと映っていましたからな。今K市中のカメラで誘拐犯の動向を追い、必ずや捕まえてみせましょう」
そう言い放ち自慢げにカメラに視線を送ったのだ。すると、
「警察だ!両手を挙げ人質を解放しろ!!」
市長と娘、そして社長のいる部屋に大量の警察官がなだれ込んできた。警官全員の顔には緊張が走り、全員が銃を抜いている。
「あぁ警察諸君。ご苦労ご苦労。と言っても来るのが少しばかり遅いな相変わらず。犯人なら既に逃走した。我が社と協力し速やかにいぃ!?」
なんと、警官達は語る社長に次々と飛び掛かっていったのだ。市長と娘には別の警官が近づき、これ
に巻き込まれないよう遠ざける。
「何をやってるふざけるな!!私を誰だと思っている!!おい!」
「ああ。お前が誰かはわかっているこの指名手配犯!!先ほどAIカメラから全国で指名手配されてい
る男がいると通報があってな。貴様の事だよ」
「な、馬鹿な!!システムから私の情報は消してあるはずなのに!?あ」
「…どうやら今回の契約は無かったことになるようだなミスター?」
ビルのエントランス。警官達の突入を見送った中肉中背の男、自称相棒はエントランス待合所で広げ
ていたパソコンをリュックにしまう。
「ちょっと余計な事をしたかな?まぁ市長には恩を売ったという事で報酬に上乗せしとこう」
相棒が警官達とすれ違いで降りてきた運び屋を見つけて近づく。
「旦那旦那、仕事終わりました?じゃあ俺はちょっくら行ってきますね。報酬の話をっとっとっと?!」
男は運び屋に服の襟を掴まれ片足飛びでビルから共に出ていく。
「旦那嘘でしょ?!今回結構苦労したんだから頂かないと。相手は市長ですよ?金には余裕があるしもらえる時にもらっとかないと。…え、依頼したのは少女であって市長じゃないって。勘弁してくださいよぉ。旦那の相棒として取り分は確保しないとー。…あーいや、それは………わかりましたよ。今回は市長へのコネ、という投資という事でいいですよもぅ」
運び屋は無言なので実質、相棒を名乗る男の独り言なのだが、そんなやりとりもいつもの事なのか運び屋は歩き続ける。
次回、「運び屋の旦那、次の仕事は日本で決定ンゴwww」
キープ・ウォーカー ~歩く運び屋~
(1話完結じゃ)ないです。
(続きは書か)ないです。多分。
(今回はバトルも)ないです。